51560.石油価格下落で変わる世界経済



石油下落は、日本など非産油国にとっては非常にありがたいことで
ある。特に円安になり、石油価格が上昇して経常収支も赤字が続き
、円が益々、弱くなるのではないかと心配した。しかし、この石油
価格下落は、世界経済にとって良いことなのであろうか?それを検
討する。  津田より

0.経緯
2008年のリーマン・ショックと2009年10月から始まった欧州経済危
機があり、この危機を救ったのが中国の経済成長である。そして、
今、その中国経済が危機的な状況にある。石炭が主なるエネルギー
であるが、この石炭産業が潰れるほど、中国のエネルギー需要は減
退している。

この中国経済の代わりに米国経済の復活が始まり、この復活を確実
にしたのが、シェール・ガスである。このシェール・ガス価格が低
いので、石油化学工場が米国に立地して、その波及効果が広がり、
米国はやっと、復活の目処をつけたのである。

シェールオイルやガスは、しかし、複雑な仕組みが必要であり、そ
の分、コストが高い。採算ラインは、1バーレル当たり70ドルで
あり、条件の悪い井戸は、80ドル以上になる。このため、住友商
事は、このシェール・ガス投資で3000億円もの損失を出したの
である。

しかし、このシェール・オイルがあったことで、中国の旺盛なエネ
ルギー需要を吸収して、石油は110ドル程度の価格上昇でとどま
ったのである。しかし、中国経済の減退で石油需要は大きく減少し
てきた。

サウジアラビアは、今までは石油価格が下落すると、石油価格の維
持のために生産調整をして、価格の下落を抑えていたが、米国のシ
ェール・ガス生産が、石油価格が下落しても増産して、サウジなど
のOPEC諸国が生産調整しても生産を拡大したことで、危機感を感じ
ていた。このことは、ゴールドマン・サックスの報告書でも報告さ
れていると、ビジネス・インサイダー誌の「These 6 Countries 
Will Be Screwed If Oil Prices Keep Falling」で述べられている。
(リンクは参考資料)。

その他にブラジルの深海石油やカスピ海の海底油田などの新しい石
油資源が出てきて、その供給量が急速に増えている。

このような状態で、とうとう、石油価格を、シェールガスや深海石
油の採算ライン付近にして、減産を強制的に行う方向に戦略を変更
した。OPEC諸国は石油でのシェアが50%程度まで下がり、生産調
整しても効果がなくなっていた。

深海石油の採算ラインは50ドル、オイルサンドは60ドルであり、
石油価格が落ちると、徐々に採算性が悪くなる。よって、石油1バ
ーレル=70ドルにすると、シェール・オイルは赤字になり、生産
を止めることになる。現時点、76ドルまで石油価格が下落してい
る。

1.今後の石油事情
石油は、主に自動車と家の暖房として使われ、ガスは火力発電所の
燃料として使われ、その他にプラスティックや化学繊維、化学薬品
の原料になっている。しかし、近年、先進諸国を中心に、自動車の
燃費向上や電気自動車の発展で、今後も燃料としての石油は使われ
なくなる。この減少分以上を新興国の生活水準が上がり、自動車が
買えるようになり、石油消費量が劇的に上昇させたことで石油増産
が成り立っていた。

しかし、地球温暖化が叫ばれて、世界は化石燃料から再生エネルギ
ーや原子力にシフトすることが正義と言う方向になり、中国を見て
も火力発電所は、300以上の原子力発電所と再生可能エネルギー
に置き換わることが計画されている。

このように、将来を見据えると、石油消費量が減少する可能性があ
り、サウジなどOPEC諸国は、危機感を感じていた。その危機感のた
めに、中国経済成長の減少で石油消費量が減ったことで、石油から
他のエネルギーへの変換が問題視されることになる。

いろいろな石油間の需要移行と共に、他エネルギーへの転換をここ
で阻止することになったようである。この時、サウジなど中東諸国
の優位な点は、そのコストが安く採算ラインが低いので、価格を下
げても赤字になることはなく、利益が減るだけである。

このため、サウジは率先して、価格引き下げに動いたのである。

2.石油下落で、世界はどうなる
米国経済の復活は、シェールガスの生産拡大とそれを原料にする石
油化学関連の工場が増えたことと、金融量的緩和で投資資金を新興
国やシェールガスに投入して、その拡大を支えてきた。

まず、金融量的緩和政策は10月で終わり、来年の中頃には金利上
昇も予測されている。このため、投資資金の巻き戻しが起きて、新
興国への投資資金を徐々に、回収している。この回収で新興国経済
の成長が止まり、マイナスになる国も出てきた。中国も、この回収
時期に、別の理由で経済成長が止まってしまった。

この投資資金巻き戻しが石油の消費量を減少させ、サウジが危機感
を感じ、石油価格を下げる決断をして、その石油価格が下がったこ
とで、シェールガス・オイルの採算性がなくなり、その投資資金を
回収する必要が出て、また、化学工場も市場価格が下がり、米国で
操業する必要がなくなり、工場建設を止めたり、操業中止したりと
なる可能性が出てきた。

米国の量的緩和の終了が、世界経済を冷やして、その冷えたことで
石油価格が低下し、その影響で米国の経済を冷やすというサイクル
を生み出されてしまったようである。経済の進行は遅行的に波及し
てくるので時間的なズレがあるので、現時点はまだ経済発展が続い
ているのに見えるだけである。

しかし、経済的な苦境になるのは米国だけではなく、石油価格が上
昇して、国家経済を石油に依存していた国家は、苦境に陥ることに
なる。ナイジェリア、ロシア、ベネズエラなどである。特にロシア
は、欧米の経済制裁で経済的な打撃が現在もあり、その上に石油収
入が減ることになるので打撃が大きい。

石油の利益の半分が国家収入になり、その資金でロシア軍の軍備拡
大をしてきたので、この影響は特に大きいことになる。その他、影
響の大きな国は、フォーリン・ポリシー誌の「When the Petrodollars 
Run Out」で見ることができる。

3.日本はどうか
日本は、世界にグローバル企業が進出して、その利益を日本に還元
して成り立つ国家になってきた。このため、世界経済がおかしくな
ると、日本企業の利益が減少してしまい、その還元ができなくなる。
このため、石油価格の下落は喜ばしいが、反対にグローバル企業の
利益がなくなることで、影響を受けることになる。

もう1つが、海外投資家の投げ売りで日本の株価が下がり、また、
デフレ経済に逆戻りする心配である。現在、不動産価格の上昇や株
価の上昇で、資産家などの消費で、日本の消費拡大を支えているが
、それも無くなる心配である。

日本の構造的な変革が必要なのに、安倍首相はその変革の方向性が
分からなく、右往左往しているだけのような気がする。

早く、長期的なビジョンを示して、それに向かった政策を構築する
必要があるのに、地方創世でも全然、その方向性が見えない。

その内、国債の累積から信用を失い、国債市場の暴落で長期金利の
上昇が起きないかと心配する事態である。もし、そうなったら、年
金などの社会保障費の大幅な減額などを行う必要が出て、日本沈没
になる。

早く、日本の長期的な方向性を出して、国民に希望を与え、かつ実
行することが必要である。

さあ、どうなりますか?


参考資料:
These 6 Countries Will Be Screwed If Oil Prices Keep Falling
http://www.businessinsider.com/these-6-countries-will-be-screwed-if-oil-prices-keep-falling-2014-10

When the Petrodollars Run Out
http://www.foreignpolicy.com/articles/2014/10/17/when_the_petrodollars_run_out_russia_venezuela_qatar_oil_petroleum?utm_content=buffer97a80&utm_medium=social&utm_source=twitter.com&utm_campaign=buffer

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原油下落、鮮明に=「シェール革命」波及で
 【ニューヨーク時事】原油価格の下落傾向が鮮明となってきた。
米国の原油先物価格は一時、2年4カ月ぶりの安値を付けた。同国
で進展する「シェール革命」に伴う原油増産が一因。ガソリンが値
下がりするなど、一般消費者にも革命の恩恵が実感されつつある。
 17日の米国産標準油種WTIの先物相場は1バレル=82.75
ドルで終了。今年の高値から約23%安くなった。全米自動車協会
(AAA)によると、ガソリン価格はこの時期としては4年ぶりの
低い水準。スタンドで給油する人々の顔もほころびがちだ。円安の
影響を引きずる日本のガソリンでさえ13週連続で値下がりした。
 今回の原油安の背景には、世界的な景気減速を受けて需要が伸び
悩む一方で、米国のシェール開発で供給が増えていることがある。
国際エネルギー機関(IEA)は14日、今年と来年の需要見通し
を下方修正した。(2014/10/18-15:47)
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原油価格急落、ガソリン・電気代の値下がり続く 世界経済減速
2014.10.18 06:58 sankeibiz  
 原油価格が急落している。16日のニューヨーク・マーカンタイ
ル取引所の原油先物相場は指標となる米国産標準油種(WTI)11
月渡しが一時、1バレル=79.78ドルと、約2年4カ月ぶりの
安値水準となった。世界経済の減速で需要が冷え込んでいるからだ。
原油市場に流れ込んでいた投機マネーが、米国の利上げ観測でドル
資産に回帰していることも相場を押し下げる。原油安に伴い、ガソ
リンや電気代も値下がりが続く。
 「この1カ月の価格下落は予想外だ」
 石油連盟の木村康会長(JX日鉱日石エネルギー会長)は、17
日の会見で驚きを隠さなかった。アジア市場で指標となるドバイ原
油が16日、1バレル=82.60ドルとなり、一カ月前と比べ
12ドル以上も下落したからだ。
 原油安の大きな要因が、世界経済の減速に伴う需要の減退だ。と
くに欧州や中国市場で需要が低迷。国際エネルギー機関(IEA)
が14日、2014年の石油需要の伸びについて、従来予想から日
量20万バレルも下方修正したほどだ。
 一方で供給量は下がっていない。米国が新型天然ガス「シェール
ガス」を増産。米国市場に流れ込んでいたアフリカ産や中南米産の
原油が余剰となり、アジア市場に流入している。
 また、「複数の産油国の首脳が、価格下落を容認する発言をして
いる」(石油元売り大手)ため、石油輸出国機構(OPEC)の減
産観測が後退した。
 米国の量的緩和政策であふれたマネーが原油市場に流入していた
が、米連邦準備制度理事会(FRB)は同政策の10月終了を発表
。原油高を演出した投機マネーの逆流も、相場を押し下げる。
 原油価格の下落は、家計の負担を減らす要因になる。経済産業省
資源エネルギー庁によると、14日時点のレギュラーガソリン1リ
ットル当たりの全国平均小売価格は、6日の前回調査と比べ70銭
安い165円30銭で、13週続けての値下がりした。
 火力発電や都市ガス製造に使う液化天然ガス(LNG)は原油価
格に多くが連動するため、11月は大手電力7社と、都市ガス4社
が値下げする。
 ただ、今後は原油価格の反発を予想する声が多い。財政を原油収
入に頼る中東産油国が減産に踏み切るとの見方や、中東情勢が再び
緊迫化する可能性があるからだ。石連の木村会長は「(ドバイ原油
は)今が底値で、今後は1バレル=85〜90ドルで推移するだろ
う」と分析する。
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コラム:市場はなぜ米国の好材料を無視するのか=カレツキー氏
2014年 10月 17日 14:41 JST
アナトール・カレツキー
[16日 ロイター] - われわれが断言できることの1つは、15
日午前のニューヨーク株急落を引き起こしたのは予想よりやや低調
だった9月の米小売売上高ではなかったという点だ。米国の大半の
指標はニューヨーク株が最高値をつけた9月19日以降、実際のと
ころはかなりしっかりしている。
だから2011年以来の大幅な株安をもたらした経済的な理由を見
つけ出すために、われわれは他の2つの要素について考える必要が
ある。
1つ目は原油価格の急落。サウジアラビアが米国のシェールオイル
の採算性を損なおうと決めているのは明らかで、これに反応する形
で原油は6月終盤以降で約30%値下がりした。
原油安は一般的には世界経済にとって、そして石油会社以外のほと
んどの企業にとって有益だ。しかし現在資源株から逃避している投
資家が資金を航空や小売、自動車製造といった他の産業に戻すには
時間がかかる。このローテーションが起きるまで、主要株価指数は
原油急落に足を引っ張られ、そうした動きは過去2週間でほぼ毎日
、特に引け間際の1時間に目にすることができている。
原油安が株価急落の主な理由ならば、大した問題ではない。だがよ
り大きな不安の種がある。そう、欧州だ。欧州経済が明らかに弱い
というだけにとどまらず、欧州連合(EU)の政策担当者が妥当な
対策の実行で合意しようとする意思、ないしは能力を欠いている。
欧州経済の低迷は、ウクライナ危機の最中から既に分かっており、
欧米による対ロシア制裁が、欧州の見通しを語る上で数少ない明る
い部分だったドイツ製造業の成長腰折れにつながった。
ただ投資家や企業経営者は、制裁に絡むドイツ経済の減速をそれほ
ど懸念してはいなかった。というのも欧州の政治家や中央銀行当局
者は、米国を過去5年間で見舞われたいくつかの「軟調局面」から
脱出させたとの同じような景気刺激策を打ち出すと想定していたか
らだ。こうした政策期待を背景に、世界全体と米国の株価はこの夏
、欧州から悪いニュースが出てきても最高値更新を続けた。
2008年以降のほとんどの期間では、米国経済が問題なく推移し
ている限りにおいては、欧州のみじめな経済状況が投資家を悩ませ
たと思い当たる節は見受けられなかった。ユーロ危機が最も深刻化
していた時点でさえ、世界の株式市場の値動きに対する影響力とし
ては米経済指標の変動や米連邦準備理事会(FRB)の政策の方が
、ギリシャやイタリアにで起きつつあった事態や欧州中央銀行(E
CB)の姿勢よりも大きかった。
ところがここ数週間は、欧州発の悪いニュースが突然、米国からの
総じて良いニュースよりもずっと強い影響力を持ちつつあるようだ。
米国では経済成長が加速しつつある半面、利上げの予想時期は来春
から来年9月もしくはそれ以降に後ずれしている。
どうしてこうなってしまったのか。
以前の当コラムで、わたしは米経済と世界の株価の連動した動きは
、米金融・財政政策のデモンストレーション効果だと説明してきた。
08年の経済危機に米国が量的緩和、事実上のゼロ金利、未曾有の
財政赤字という形で先駆的に対応してきたので、投資家は米国にお
けるこれらの政策の成否が最終的に他の世界に波及するとみなした。
米経済が持続的な拡大基調をたどっているように見える場合は、他
の世界も1年か2年遅れて同じ道のりを進むと考えるのが合理的に
思われた。一方で昨年冬、あるいは2011年や12年の夏のよう
に米経済成長が予想外に不振となれば、投資家や企業は世界の先行
きについて悲観に転じた。
結局のところ、もし米国が3兆5000億ドル規模の量的緩和や5
年に及ぶゼロ金利、国内総生産(GDP)の10%にもなる財政赤
字を駆使しても景気後退から抜け出せなかったとしたら、同じたぐ
いの刺激策とはいえ米国に比べると中途半端なものしか実施してい
ない他国にとって、何の希望も持てなかっただろう。
実際には米国の成長をめぐる懸念が一時的な要因によると判明する
たびに、強気心理が復活。それはウォール街だけでなく、欧州や新
興国にも及び、根底には金融・財政面の刺激策が米経済に有効であ
ると証明されたなら、他の政府や中銀もいずれ同様の政策を行って
米国のような好結果を生み出すとの考えがある。
もっとも今や、こうした関係性は壊れてしまったようだ。投資家は
ECBが2日のドラギ総裁の会見で、FRBの事例を踏襲した大胆
な金融緩和を発表し、同時に欧州の銀行システムに対する信頼性に
足る資本増強策も打ち出されると期待していたのに、ECBはこう
した期待をひどく裏切ってしまった。
世界的な株安はその翌日に始まった。それでもドイツ政府は自らの
外交政策と欧州で財政緊縮を進めることが経済的にはマイナスであ
るにもかかわらず、そして国内製造業は対ロシア制裁に足を引っ張
られているにもかかわらず、なおもフランスやイタリアに目先の歳
出削減を要求している。
欧州は米国の景気回復に向けた行程表を受け入れるのを頑なに拒絶
しているのではないかとまで見えるようになった。そうなれば、米
経済の持ち直しはもはや欧州の景気回復の先行指標と考えられなく
なってしまう。
これにより、世界経済の見通しはずっと弱々しくなり、ユーロ圏に
おける金融危機再燃の可能性は大幅に高まった。
多くの投資家が想定し始めているのは、たとえ米経済が自律的で持
続可能な拡大局面に入ったとしても、欧州はずっと停滞したままか
、景気後退に陥るという事態だ。そこで世界経済と世界的に事業展
開する企業の先行きは、欧州が米国の政策にならうとみなされてい
た数カ月前の想定よりもはるかに暗くなっていく。とはいえ、欧州
は本当にそれほど愚かなのだろうか。
その答えは間もなくはっきりする。欧州委員会は29日、フランス
とイタリアの予算案に対する評価を公表し、26日のウクライナ議
会選(訂正)は自己破壊的な制裁をやめる機会を提供するだろうし
、11月6日にはECBが次回理事会を開催する。
それゆえにわれわれは今後1カ月以内に、欧州が自らを救い出すか
、あるいは米国の政策がもたらした教訓を無視して世界経済に害を
与えるのかを知るはずだ。上記した欧州のベントにおけるそれぞれ
の決断が恐らくは現在の株安が買い場になるか、1987年のよう
な大暴落になってしまうかを左右するだろう。
*アナトール・カレツキー氏は受賞歴のあるジャーナリスト兼金融
エコノミスト。1976年から英エコノミスト誌、英フィナンシャ
ル・タイムズ紙、英タイムズ紙などで執筆した後、ロイターに所属
した。
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9月米鉱工業生産、約2年ぶりの大きな伸び
2014年 10月 17日 01:48 JST
[ワシントン 16日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)
が16日発表した9月の鉱工業生産は、前月比1.0%増加し、
2012年11月以来約2年ぶりの大幅な伸びを記録した。製造業
や電力・ガスで生産が伸び、全体を押し上げた。
市場予想は0.4%増だった。8月は0.2%減に改定された。
9月の製造業生産は前月比0.5%増と、エコノミスト予想の0.3
%増を上回った。電力・ガスは3.9%増。FRBは同月の気温が
平均以下から平均以上に変動したため、エアコンの利用が増えたと
分析している。
鉱業は1.8%増。
設備稼働率は79.3%と、2008年6月以来の高水準となった
。ただ、長期平均は0.8%ポイント下回っている。
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[FT]原油価格下落を静観するサウジの深遠な思惑 
2014/10/17 14:00 日経
 サウジアラビアが新たに原油価格戦争を仕掛け、関係がぎくしゃ
くしている米国に対して周到に計算された賭けに打って出ている。
米シェール業界に打撃を与えつつも、同国政府に地政学的恩恵や経
済的利益をもたらすことで埋め合わせできると踏んでいる。
 米国とサウジがイラクとシリアでの戦いで手を携えるなか、サウ
ジは原油市場での自らの重要な役割を主張し、立ち上がったばかり
の米シェール業界の資金調達を巧妙に絞るという大胆な手段をとっ
ている。それでも、原油価格の下落は米消費者にとって事実上の減
税となり、低価格が続けば米政府が圧力をかけるロシアとイランへ
打撃が及ぶ。
 米カーネギー財団エネルギー・気候部門のデボラ・ゴードン氏は
、サウジの原油価格への圧力は慎重に計算された動きで、ロシアや
イランなどのライバル国や敵国にとって問題になると指摘する。「
サウジはこれが事態を一変させると結論づけたようだ。望まない相
手に打撃を与えずに恩恵を得るからだ」と話す。
■米国との緊張の高まりが背景に
 世界の原油需要は急激に落ち込んでいるのに米国の産油量は急増
しているため、サウジアラビアは選択を余儀なくされた。相場安定
のために減産に踏み切り、負担をかぶることもできた。しかし、原
油価格の下落を静観し、これまで支持してきた1バレル100ドルでは
なく80ドル前後でもよしとする姿勢を示すことにしたようだ。米国
などでの新たな原油産出が石油輸出国機構(OPEC)の将来に影
を落としているなか、サウジは石油市場に対し、価格決定における
自らの主要な役割を改めて強調している。価格低迷が続けば、サウ
ジは財政赤字に陥り、政治的安定に新たな問題が持ち上がるかもし
れない。だが、サウジは巨額の外貨準備を抱えるため、歳入が減っ
ても耐えられると多くのアナリストはみている。
 サウジのこうした判断の背景には、米国との緊張の高まりがある
。両国はこの1年間、オバマ政権がイランと核開発問題で合意を目
指していることを巡り対立してきた。それはサウジにとって宿敵と
のナイーブな和解にみえる。一方で、サウジはイラクとシリアのイ
スラム過激派に対抗する米主導の有志連合の中核を担っている。同
国は原油価格の低下を促すことで、米政府が望む地政学的状況の実
現を支えている。ウクライナ介入に伴う負担や米欧の経済制裁に苦
しむロシア経済にとって、原油価格の下落はさらなる問題となる。
■シェール生産業者に影響
 イラン経済も影響を免れないだろうが、これが核問題の協議にも
たらす影響は判断しにくい。サウジは交渉決裂を望んでいるが、石
油収入が減る見通しになればイラン政府が米国に譲歩する可能性が
ある。イランは制裁解除を勝ち取ることをさらに強く求めるように
なるからだ。世界経済が減速しているため、原油価格の下落は景気
悪化に苦しむ欧州と中国にとって朗報となり、米消費者に直接の恩
恵ももたらす。シェールブームにもかかわらず、米国はなお世界屈
指の石油の純輸入国だからだ。
 シティグループのエド・モース氏の試算では、北海ブレントが80
ドルに下がれば、米国の1世帯あたり平均600ドル弱の減税に相当す
るという。
 もっとも、原油価格の下落にはこの10年で激増したシェールオイ
ルの生産量にブレーキをかける思惑もあるようだ。国際エネルギー
機関(IEA)は最近、この夏に米国の原油と液化天然ガス(LN
G)の生産量はサウジの生産量に追いついたことを明らかにした。
価格がいまの水準を維持するかさらに下がれば、米国のシェール生
産業者の資金繰りは苦しくなり、設備投資の削減を検討する企業も
出てくるだろう。そうなれば15年の米国の産油量は伸び悩む。価格
がもっと下がれば、生産は減少に転じる可能性もある。
By Geoff Dyer and Ed Crooks
(2014年10月17日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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石油価格下落はアジア諸国にもろ刃の剣
Larger
By TOM WRIGHT AND MARK MAGNIER
2014 年 10 月 16 日 10:19 JST  WSJ
 原油価格の下落は、企業や消費者の負担を軽減し、世界経済が減
速する中で当局が金利を引き下げる余地を生み出すことで、アジア
に恩恵を与える。
 しかし、世界最大の石油輸入地域であるアジアは、今週米国で2年
ぶりの安値をつけた原油価格がさらに下がれば、打撃を被る恐れが
ある。値下がりは輸入代金を減らすものの、中国と欧州の需要減退
をうかがわせるものでもあり、アジアの輸出に悪影響を与える可能
性がある。
 HSBCのエコノミスト、フレデリック・ノイマン氏(香港)は「原
油価格下落はアジアにとってもろ刃の剣だ」とし、「心配なのは、
これが世界の需要減退を反映していることだ。しかし、多くのアジ
ア諸国にとってはその衝撃を和らげるものも提供している」と語っ
た。



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