5156.イスラム国の強さと今後



中東のイスラム国が強い。欧米の空爆でも、その力は衰えを見せな
い。トルコ国境のクルド人の街コバニも陥落寸前である。同時にバ
クダット周辺でも攻撃を強化している。このイスラム国の強さと今
後の動向を検討しよう。   津田より

0.今までの経緯
イスラム国は、2014年6月10日モースルを陥落させたことで、一躍注
目された。6月17日にはバグダッド北東約60キロのバアクーバまで進
撃した。

2014年6月29日、イスラム国トップのアブー・バクル・アル=バグダ
ーディーが「カリフ」であり、あらゆる場所のイスラム教徒の指導
者であるとし、イスラーム国家であるカリフ統治領をシリア・イラ
ク両国の制圧地域に樹立すると宣言した。

これに対して、2014年8月8日、米空軍がイスラーム国の武装勢力に
対して、限定的な空爆及びヤズィーディーなどに対して支援物資の
供給を開始。2014年9月22日、米空軍はシリア北部のラッカにてイス
ラム国に対する空爆を実施した。

しかし、米軍はイスラム国への空爆を継続して実施しているが、イ
スラム国の攻撃が収まらない。10月に入ると、トルコ国境のクルド
人の街コバニに進撃して、その進撃に対しても空爆するが、効果が
ないように見える。

米軍が周辺への空爆を重ねているクルド人居住地の拠点都市コバニ
が陥落寸前となっているためだ。シリア反体制派の地上部隊は戦闘
能力に欠けており、「地上との連携なき空爆作戦」の限界が露呈し
ている。米国防総省のカービー報道官も、「空爆だけでこの都市を
救援することはできない。シリアでは共に戦える十分な地上部隊が
いないのは事実だ」と語り、作戦遂行の上での限界を認めた。

このため、米アレン米大統領特使は9日、アンカラでダウトオール
首相ら政府高官と会談し、「イスラム国」への対応をめぐり、両国
の軍高官が来週前半にアンカラで軍事作戦計画について話し合うこ
とで一致した。米国は、コバニ救援のためにトルコ地上部隊の投入
を依頼したいのである。

11日現在、イスラム国とクルド人勢力との間で10日も激しい戦
闘が続き、イスラム国側は行政庁舎がある地域を含め市の4割ほど
を制圧した模様だという。

しかし、トルコのチャブシオール外相は、「イスラム国」によるシ
リア北部のトルコ国境地域への侵攻をめぐり、「トルコだけで地上
作戦を率いると期待するのは現実的ではない」と述べ、トルコ単独
でシリアへ軍を越境派遣し、「イスラム国」と交戦することを否定
した。

逆に、トルコは米国やNATOに対し、「イスラム国」の勢力拡大
を防ぎ、市民を保護するために、トルコ国境に接するシリア北部に
飛行禁止区域と緩衝地帯を設置するよう提案しているが、米国は消
極的である。米国はシリアやその裏にいるイランやロシアなどの反
発を警戒している。

このため、米政府も冷めた見方も表明している。ケリー国務長官は
「一歩身を引き、戦略的目的を理解することが重要だ」と述べ、コ
バニ救済だけに目を奪われてはならないと指摘した。

また、国防総省のカービー報道官も、空爆では町を救えないと語り
、地上でイスラム国と対決するシリア反体制派の育成が終わるまで
、各地で戦況は一進一退を繰り返すと予測した。

トルコと米国は、「イスラム国」壊滅に向け、シリアの穏健な反体
制派武装勢力への軍事訓練や武器供与を支援することで両方で合意
した。トルコ国内でクルド人部隊の訓練を行うことになる。

しかし、トルコはまだ米軍に対して、イスラム国空爆のためにシリ
アとの国境に近い空軍基地の使用を認めていない。イスラム国の強
さを知っているので、あまりイスラム国との戦闘をしたくないよう
である。

1.欧米諸国はテロに警戒
欧米諸国は、イスラム教徒の移民を認めてきたが、その移民の子弟
がイスラム国戦闘員に参加している。英仏でそれぞれ500人程度
であり、イスラム国の最高指導部にも、フランス出身者がいるとい
う。

欧米で疎外されているイスラム教徒だけではなく、アフリカ系の人
なども改宗して、イスラム国に参加しているようである。日本から
も参加しようとして阻止される例も出てきた。

このため、ジョンソン・ロンドン市長は、イスラム過激派によるテ
ロに警戒感が高まる中、ロンドンで数千人が治安当局の監視対象に
なっていると明らかにした。英国は8月、テロ警戒レベルを5段階
で上から2番目の「重大」に引き上げた。情報機関は、主に「イス
ラム国」や国際テロ組織アルカイダからの脅威だとしている。

同様に、米国務省も「イスラム国」が欧米やアラブ友好国の権益に
対して「報復攻撃」を仕掛ける可能性が高まっていると警告した。
特に中東、北アフリカ、欧州、アジアでテロが起きる危険が増して
いるという。

また、「イスラム国」野戦司令官タルハン・バチラシヴィリ氏が、
ロシア侵略を宣言し、チェチェンおよびカフカスを解放し、そこに
イスラムのカリフ制国家を建設する意図を述べたという。ロシアに
対するテロ宣言である。

イスラム国は、中国の東トルキスタンの解放も宣言しているので、
中国に対してもテロ宣言をしている。このように、世界の殆どの国
と敵対関係にある。

2.イスラム国の強さの秘密
中東専門家の畑中氏やイスラム学者の中田氏などが述べていること
でわかるが、日本の戦国時代に宗教国家を作った一向一揆のような
強さを持っているようである。動機も同じである。イスラム原理主
義の国家を作ることという。

畑中氏によると、一般のマスメディアでは、アルカイダと同様、イ
スラム原理主義の過激な国際テロ組織ととらえられているが、実態
はそうではなく、本当に「国」をつくろうとしている人たちの集ま
りである。イラク戦争で米国に敗れたサダム・フセイン政権下の旧
軍人や、当時イラクの与党であったバース党の党員らが中核として
イスラム国を支えている。

6月に(イラク北部の都市)モスルを制圧した時などの軍事作戦を見
ていると、どう考えても素人による作戦ではない。モスル制圧の後
、首都バグダッドに進軍するが、落とせないとなると今度は北部の
クルド人地域を攻撃。その過程で油田や製油所、ダムといった、国
家にとってのライフライン、収入源になる施設をしっかり押さえて
いる。
こうした組織的、計画的な動きは、単なるテロリスト、過激派集団
が行っているのではなく、軍事的経験のある旧軍人や政権を担って
きたバース党員たちがバックにいることを示している。という。

そして、イスラム国が主張しているのは、今のイラクやシリアの国
境線は20世紀初頭に当時の大国が勝手に引いたものであり、そうし
た外国勢力の庇護下にある政権を倒し、すべてをイスラム国にすべ
きだというものだ。そうした主張に共鳴する人たちの間では、空爆
開始を機に、イラクやシリアに入ってイスラム国に加わろうという
動きが強まるかもしれない。という。

イスラム学者の中田考氏は、9月上旬に「イスラム国」に招かれ、
シリア国内の彼らが支配する地域へ行ってきた。そこで見たものは
、イスラム国は金銭的な余裕がなく武装面では非常に弱い組織、と
いう印象を受けた。中東各国の富裕層などが彼らを資金面で支えて
いる、という報道もあるが、基本的には彼らは自分たちのお金で組
織を回しており、貧しい。「政府軍を追いやるぐらいなので、お金
があり強いはずだ」という意見もあるが、政府軍が極端に弱いだけ
の話。弱い組織ともっと弱い組織の戦い。現地にいってそれを目の
当たりにしてきた。という。

彼らは死ぬことをまったく恐れていない。喜んで死ぬ。一方の政府
軍は死を嫌がって逃げる。だから弱い。攻撃すると、すぐに逃げる
ようである。そして、世界各地から「イスラム国」へ集まっている
人の多くは中東出身者のイスラム教徒。この戦闘員には給与が出て
いる。月50ドル。また、ガソリンをいくらもらえるとかあるらしい
と。

この戦闘員の給与は、プロジェクト・シンジケート誌の「Qatar’s
Jihad」によるとカタールから出ているようである。

というように、日本の一向一揆のような事態が中東で起きているの
である。そして、織田信長が出てくるまで、この浄土真宗の宗徒集
団に勝つ者はいなかった。このため、各地に宗徒の国ができたので
ある。

3.イスラム国の対応策
織田信長は、皆殺しして平定するような極端な殺戮をしてやっと、
押さえつけたのである。これと同じ状況になっている。

しかし、欧米諸国は、織田信長のような対応ができない。そのよう
に対応してきたイラクのフセイン政権やシリアのアサド政権を民主
的でないと切り捨てている。このため、欧米諸国が支援する軍隊は
弱いのである。

織田信長のような人を欧米は排除したことで、そのような人が出て
こないために、相当にイスラム国は大きくなる可能性があるように
思う。

このため、クルド人たちを期待することになる。クルド人たちにと
っては、自分を守ることであり、死を掛けた戦いをするしかないの
で、イスラム国の戦闘員と同等な意識があるからだ。

しかし、隷属民族であり、戦闘をしていないために戦略的な思考は
できない。相当、欧米の軍事顧問団がサポートしないとクルド人だ
けでの戦いも難しい。それが出たのが、トルコ国境のコバニの攻防
戦であろう。

さあ、どうなりますか?


参考資料:
Qatar’s Jihad
http://www.project-syndicate.org/commentary/qatar-funding-jihad-isis-by-brahma-chellaney-2014-10

Is ISIS Islamic?
http://www.theglobalist.com/is-isis-islamic/

Why Syria’s disaster threatens a war in Turkey
http://www.theguardian.com/commentisfree/2014/oct/10/syria-disaster-war-turkey-isis-pkk?CMP=twt_gu

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首都周辺で連続テロ、45人死亡=イラク
 【エルサレム時事】イラクの首都バグダッドと近郊で11日、爆
弾テロが相次ぎ、少なくとも45人が死亡した。ロイター通信が伝
えた。
 バグダッドのイスラム教シーア派居住区2地区で11日夜、自動
車爆弾が連続して爆発し、34人が死亡。バグダッドでは、スンニ
派の過激組織「イスラム国」がシーア派を狙ったテロを繰り返して
いる。
 また、首都北方28キロにある農地でも自爆テロが発生し、11
人が死亡した。この地域は、イラク治安部隊やシーア派民兵とイス
ラム国が交戦している場所だという。(2014/10/12-06:37)
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トルコが反体制派の軍事訓練支援 対イスラム国で米と合意
 【ワシントン共同】米国務省のハーフ副報道官は10日の記者会
見で、過激派「イスラム国」壊滅に向けた軍事作戦の一環として、
トルコ政府が同日、シリアの穏健な反体制派武装勢力への軍事訓練
や武器供与を支援することで米側と合意したと明らかにした。
 ハーフ氏は「トルコがやれることは、ほかにもある」と指摘。イ
スラム国空爆のために、シリアとの国境に近い空軍基地の使用を認
めるよう求めていく考えを表明した。
 オバマ米政権は穏健反体制派をイスラム国への対抗勢力として強
化するとしており、これまでにサウジアラビアが訓練場所の提供に
同意している。
2014/10/11 08:04   【共同通信】
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国境の町、陥落の危機=クルド拠点にイスラム国攻勢−シリア北部
 【ワシントン時事】過激組織「イスラム国」がシリア北部のトル
コ国境沿いの町アインアルアラブへの攻勢を強め、国際社会に懸念
が広がっている。米軍の空爆は目立った効果を上げておらず、国境
の町が陥落すれば、シリアで始まった長い戦いの厳しさを印象付け
ることになる。
 アインアルアラブは、イスラム国の勢力圏に取り残されたクルド
人勢力の拠点。イスラム国は町を手に入れることで、国境を越えて
来るヒト、モノの流れを確実に掌握できるようになるとされる。国
連は、中心部に取り残された高齢者や郊外の市民ら計約1万2700
人がイスラム国に虐殺される恐れがあると警告している。
 危機の高まりを受け、米軍は6日以降、アインアルアラブ周辺で
の空爆を強化。イスラム国の拠点ラッカ周辺などでの爆撃は減り、
アインアルアラブに迫るイスラム国部隊への攻撃が急増した。
 ただ、こうした動きとは裏腹に、米政府は冷めた見方も表明して
いる。ケリー国務長官は「一歩身を引き、戦略的目的を理解するこ
とが重要だ」と述べ、アインアルアラブ救済だけに目を奪われては
ならないと指摘した。
 国防総省のカービー報道官も、空爆では町を救えないと語り、地
上でイスラム国と対決するシリア反体制派の育成が終わるまで、各
地で戦況は一進一退を繰り返すと予測。虐殺の懸念に関しては、住
民の大半がトルコ領内に逃げ込んでおり、危険は少ないと米政府は
説明する。
 空爆以外の軍事的手段を欠く米国が重視しているのは、長期戦に
備えた有志連合の連携と基盤の強化だ。米政府はこれまで参加に後
ろ向きだったトルコからシリア反体制派への軍事支援の約束を取り
付け、トルコ国内の基地使用についても協議を本格化させる。デン
プシー統合参謀本部議長は14日、20カ国以上の軍制服組トップ
を招き、軍事戦略を擦り合わせる方針だ。(2014/10/11-15:09)
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対イスラム国への単独軍事作戦「非現実的」 トルコ外相
ガジアンテップ〈トルコ南部〉=春日芳晃2014年10月11日03時51分
 トルコのチャブシオール外相は9日、過激派組織「イスラム国」
によるシリア北部のトルコ国境地域への侵攻をめぐり、「トルコだ
けで地上作戦を率いると期待するのは現実的ではない」と述べ、ト
ルコ単独でシリアへ軍を越境派遣し、「イスラム国」と交戦するこ
とを否定した。アンカラで北大西洋条約機構(NATO)のストル
テンベルグ事務総長と「イスラム国」対応をめぐり会談した後、共
同記者会見で発言した。
 トルコは米国やNATOに対し、「イスラム国」の勢力拡大を防
ぎ、市民を保護するために、トルコ国境に接するシリア北部に飛行
禁止区域と緩衝地帯を設置するよう提案している。だが、米国は消
極的で、ストルテンベルグ氏もこの日の会見で「NATOの議論の
対象にはなっていない」と説明。「イスラム国」への対応をめぐり
、欧米とトルコの足並みの乱れが浮き彫りになった。
 欧米側は、自らは地上軍を派遣せず、空爆で「イスラム国」の勢
力拡大を阻止したい。トルコはシリア領内に飛行禁止区域と緩衝地
帯を設置することで、敵対するアサド政権打倒の「足がかり」づく
りを「イスラム国」打倒より優先したい。そんな思惑の違いが背景
にあるとみられる。
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トルコ、NATOに協力要請=対「イスラム国」、単独地上作戦慎
重に
 【カイロ時事】トルコのチャブシオール外相は9日、首都アンカ
ラで北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長と
会談し、過激組織「イスラム国」に対するシリアでの地上作戦に関
し、NATOとして検討するよう要請した。地元メディアが伝えた。
 シリア北部のトルコ国境沿いの町アインアルアラブではイスラム
国の勢力拡大が続き、在英のシリア人権監視団によれば、既に町の
3分の1以上が制圧された。現地から大挙してトルコ側に逃れたク
ルド人住民の間で軍事介入を求める声が高まっている。
 しかし、AFP通信によると、チャブシオール外相は共同記者会
見で「トルコに地上作戦を率いる役割を期待するのは現実的でない
」と述べた。
 トルコはこれまで、単独での軍事介入を辞さない姿勢を示してき
た。しかし、クルド人の間では、現地でイスラム国と戦うクルド人
民兵組織、人民防衛部隊(YPG)を歴史的な経緯から敵視するト
ルコ軍が単独介入すれば「事態を複雑化させる」(クルド人ジャー
ナリスト)と警戒する声も強い。
 トルコでは最近、国内のクルド人住民による反政府デモが激化。
「イスラム国問題」が長年の課題である「クルド人問題」を深刻化
させる事態を防ぐ必要もあり、トルコ政府内で単独介入への慎重論
が高まっているもようだ。(2014/10/09-19:57)
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トルコと軍事作戦協議へ=対「イスラム国」で−米
 【ワシントン時事】トルコを訪問中のアレン米大統領特使は9日
、アンカラでダウトオール首相ら政府高官と会談し、過激組織「イ
スラム国」への対応をめぐり、両国の軍高官が来週前半にアンカラ
で軍事作戦計画について話し合うことで一致した。サキ米国務省報
道官が発表した。
 サキ氏によると、米トルコ双方は、軍事支援や外国人戦闘員の阻
止などについて意思疎通を深めていくことを確認。また、シリア反
体制派を強化する重要性も強調した。(2014/10/10-11:24)
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イスラム国 米空爆も支配区域を拡大
10月11日 5時16分NHK
シリア北部ではトルコとの国境に近い拠点都市でイスラム過激派組
織「イスラム国」が支配区域をさらに広げていて、アメリカ軍など
が空爆を行っているにもかかわらず、攻勢を止めることができない
状況が続いています。
イスラム過激派組織「イスラム国」と対立するシリアの反政府系の
人権団体によりますと、トルコとの国境に近い拠点都市アイン・ア
ルアラブでは、イスラム国とクルド人勢力との間で10日も激しい
戦闘が続き、イスラム国側は行政庁舎がある地域を含め市の4割ほ
どを制圧した模様だということです。
地元のクルド人勢力の当局者はNHKの電話取材に対し、アイン・
アルアラブの周辺ではアメリカ軍などが10日も空爆を行ったもの
の、イスラム国の攻勢を止めることができない状況が続いていると
明らかにしました。イスラム国側は市の周囲を包囲しているため、
戦闘に巻き込まれてけがをした住民が避難できず、死亡する人も相
次いでいるということです。
一方、国連でシリア問題を担当するデミストラ特使は10日、スイ
スのジュネーブで記者会見し、「アイン・アルアラブの中心部に高
齢者など市民500人から700人が取り残されている」としたう
えで、アイン・アルアラブが陥落すれば多くの住民が虐殺されかね
ないと強い懸念を示しました。
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米「イスラム国」空爆に限界…地上部隊がいない
2014年10月10日 08時54分Yomiuri Shimbun
 【ワシントン=今井隆】米軍がイスラム過激派組織「イスラム国
」に対してシリア領内で実施している空爆の実効性に、懐疑的な見
方が広がっている。
 米軍が周辺への空爆を重ねているクルド人居住地の拠点都市アイ
ン・アラブが陥落寸前となっているためだ。シリア反体制派の地上
部隊は戦闘能力に欠けており、「地上との連携なき空爆作戦」の限
界が露呈している。
 オバマ大統領は8日、ワシントン近郊の国防総省を訪れ、ヘーゲ
ル国防長官やデンプシー統合参謀本部議長らから、イスラム国への
空爆作戦などについて説明を受けた。米大統領が国防総省をわざわ
ざ訪れ、作戦の進展状況を聴取するのは異例のことで、士気を高め
る狙いがあるようだ。オバマ氏は「困難な任務だ。一晩で解決でき
る問題ではない」と語り、作戦の長期化に改めて言及した。
 中東地域を管轄する米中央軍は8日、トルコ国境付近のシリア領
内にあるアイン・アラブ周辺で、ヨルダン軍とともに8回空爆を実
施したと発表した。クルド人民兵を支援するためで、イスラム国の
車両5台や補給処、指揮統制施設などを破壊した。7日にもアラブ
首長国連邦(UAE)と合同でこの付近の空爆を繰り返しているが
、クルド人民兵は戦闘能力が不足しており、イスラム国の攻勢を防
ぎきれずにいる。
 国防総省のカービー報道官は8日の記者会見で、「空爆だけでこ
の都市を救援することはできない。シリアでは共に戦える十分な地
上部隊がいないのは事実だ」と語り、作戦遂行の上での限界を認め
た。
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イスラム国、シリア北部国境の町へ攻勢 クルド人と市街戦
2014年 10月 7日 23:12 JST
[MURSITPINAR(トルコ)/ベイルート 7日 ロイター] - シリ
ア人権監視団(英国)が7日明らかにしたところでは、過激派組織
「イスラム国」は前夜にシリア北部のトルコ国境沿いにあるクルド
人地域の町コバニの南西部に進撃し、複数のビルを掌握した。町の
両側から攻撃が可能な態勢となった。
イスラム国はこれまで3週間にわたりコバニを包囲しており、実際
に制圧する可能性が高まったことで、同組織に対抗する有志国連合
に参加するよう隣国トルコへの圧力が強まっている。
アラビア語でアインアルアラブと呼ばれるコバニの東部にはイスラ
ム国の旗が2カ所に掲げられているのが、トルコ側から見えた。同
地域では2回にわたり空爆も実施された。
クルド人自治区の高官はロイターに対し、イスラム国の戦闘員らは
重火器や砲弾を使ってコバニを攻撃し、前夜にクルド人勢力との激
しい市街戦があったと明らかにした。
シリア人権監視団を率いるラミ・アブドゥルラーマン氏もまた、前
夜に衝突があったとし、イスラム国はコバニの南西部から進軍して
いると述べた。
イスラム国の進軍によってこれまで、コバニから推定18万人の避
難民が越境してトルコに押し寄せている。クルド人組織民主統一党
(PYD)のメンバーが6日明らかにしたところでは、前夜の戦闘
後に2000人以上のクルド人がコバニから避難した。
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トルコ防衛は「責任」=「イスラム国」が攻撃なら−NATO総長
 【ワルシャワAFP=時事】北太平洋条約機構(NATO)のス
トルテンベルグ事務総長は6日、「加盟国であるトルコの国境を守
ることは、われわれの大きな責任だ」と述べ、トルコが過激組織「
イスラム国」の攻撃を受けた場合、防衛する姿勢を表明した。訪問
先のポーランドで記者団に語った。
 事務総長は、トルコの対空防衛力を高めるためにパトリオット・
ミサイルを配備していると説明。「シリアでの戦闘が飛び火すれば
、NATOがそばについている」と強調した。(2014/10/07-06:25)
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イスラム国の使用兵器、中国がロシアに次ぐ最大供給源に=3位は米
国製―米紙
Record China 10月10日(金)16時39分配信
2014年10月6日、米紙スター・アンド・ストライプスによると、イス
ラム国(IS)が保持する膨大な兵器の供給源は少なくとも21カ国で
、ロシア、中国、米国がその多くを占めている。8日付で環球時報(
電子版)が伝えた。
ロンドンを本拠地にしている紛争兵器研究所(Conflict Armament 
Research)の調査報告によると、イスラム国の戦闘員が使用してい
る兵器の多くは戦闘で敵から奪い取ったもので、武器商人や武器メ
ーカーから直接買い付けたもの。イラク軍やシリア軍との戦いで得
たものがほとんどだ。イスラム国から回収した薬きょうのうち445発
が中国製で、323発が米国製だった。
米国は過去10年間で300億ドル(約3兆円)近い資金をイラク治安部
隊に提供しているが、使途の詳細は不明のままだ。03年から08年ま
でイラクで任務を遂行していた元海兵隊員は、「当時は米国の武器
輸出に関するデータベースも存在していなかった」と話している。
(翻訳・編集/本郷)
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数千人が監視対象=「イスラム国」関連のテロ警戒−ロンドン市長
 【ロンドンAFP=時事】ジョンソン・ロンドン市長は、11日
付の英紙デーリー・テレグラフのインタビューで、イスラム過激派
によるテロに警戒感が高まる中、ロンドンで数千人が治安当局の監
視対象になっていると明らかにした。
 英国は8月、テロ警戒レベルを5段階で上から2番目の「重大」
に引き上げた。情報機関は、主に過激組織「イスラム国」や国際テ
ロ組織アルカイダからの脅威だとしている。
 英政府は、約500人の英国人がイラクやシリアで戦闘に加わっ
ているとみている。ジョンソン市長は「彼らが帰国すれば、われわ
れは彼らへの対処を真剣に行わなければならない」と指摘した。
(2014/10/11-23:01)
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イスラム国の「報復攻撃」警告=米
 【ワシントン時事】米国務省は10日、過激組織「イスラム国」
が欧米やアラブ友好国の権益に対して「報復攻撃」を仕掛ける可能
性が高まっていると警告した。特に中東、北アフリカ、欧州、アジ
アでテロが起きる危険が増しているという。(2014/10/11-08:30)
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「イスラム国」野戦司令官、ロシア侵略を宣言
2014_10_11 00:07VOR
「イスラム国」野戦司令官タルハン・バチラシヴィリ氏、通り名オ
マル・アル=シシャニ氏が、ロシア侵略を宣言した。その父親の言葉
をブルームバーグが伝えた。
父バチラシヴィリが記者らに語ったところでは、息子が先日電話し
てきて言うことには「心配するな、父。私は家に帰りロシア人に目
にもの見せてやる」。アル=シシャニ氏はイスラム主義者1000人を引
き連れて「モスクワに復讐する」と宣言している。
「イスラム国」は既にイラク軍を敗走せしめており、次の目標はロ
シアであるという。
「イスラム国」は先にネット上に動画を公開し、戦争を始めると宣
言した。映像ではテロリストらが旧式のソビエト製戦闘機の傍に立
っている。シリアのラッカ空軍基地で接収したものだという。テロ
リストの一人がロシア大統領に対し、チェチェンおよびカフカスを
解放し、そこにイスラムのカリフ制国家を建設する意図を述べた。
これに応えてラムザン・カディロフ氏は、もし彼らがロシアに侵略
をしかけてきたら、テロリストらを殲滅する、と宣言した。
Lenta.ru
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バイデン米副大統領:火消し躍起 「中東友好国は過激派の武器・資
金源」と発言
毎日新聞 2014年10月08日 東京朝刊
 【ワシントン和田浩明】バイデン米副大統領は先週末、中東の友
好国であるトルコとアラブ首長国連邦(UAE)の指導者に相次い
で電話し謝罪や釈明をする事態に追い込まれた。講演でこうした国
々がシリア内の過激派組織に資金や武器を供給したと発言したため
だ。一方、米国メディアは「事実を述べただけではないのか」と謝
罪に疑問を示しており、アーネスト大統領報道官は6日の定例会見
で火消しに追われた。
 トルコとUAEはいずれも、イラクとシリアで活動するイスラム
教スンニ派過激派組織「イスラム国」に対抗する米主導の有志国連
合メンバーで、UAEはイスラム国部隊の空爆にも参加している。
 バイデン副大統領は2日、ボストンでの講演で、シリア情勢に関
し「我々の最大の問題は友好国だ」と発言し、問題となった。また
、トルコとUAEなどを名指しし「(シリアの)アサド(政権)と
戦う者なら誰にでも大量の資金と武器を与えた」と述べ、供与先に
は国際テロ組織アルカイダ系などの過激派組織が含まれていたと述
べた。
 この発言に対し、トルコのエルドアン大統領は事実を否定。バイ
デン氏は4日にエルドアン氏に電話で謝罪。5日にはUAEのムハ
ンマド・アブダビ首長国皇太子に電話し、釈明した。
 だが、6日のホワイトハウスの定例会見では、記者から「バイデ
ン氏の発言は、これまで政権幹部が言ってきたことではないか」な
どとの質問が相次いだ。アーネスト報道官は直接的には答えず「ト
ルコなど地域諸国と米国は、イスラム国への要員や武器の流入を防
ぐため取り組んでいる」などと連携を強調した。
==============================
「イスラム国」空爆、影響わずか 混乱の兆しも支配地は維持
By NOUR MALAS, DION NISSENBAUM AND MARIA ABI-HABIB
2014 年 10 月 6 日 16:39 JST  WSJ
 米国が主導する空爆はイラクとシリアのイスラム過激派組織「イ
スラム国」に警告を発する狙いがあるが、米政府と同盟国にも痛烈
なメッセージを送っている。つまり、懸念していた通りイスラム国
掃討はあらゆる面で難しい、というメッセージだ。
 米国が、支援するシリアとイラクの部隊による地上戦開始に向け
て準備するなか、空爆でイスラム国が混乱している兆しが見られる
。イスラム国と敵対する現地の人や米当局者によれば、戦闘員らは
拠点から逃げ、夜間に少人数で移動し、探知を避けるため携帯電話
や無線通信機器の電源を切っている。
 だが、これまでのところイスラム国はおおむね空爆に耐えており
、現場で圧力はほとんど受けていないようだ。空爆開始前に掌握し
た土地はほとんど放棄していない。シリア東部でアサド政権と戦う
活動家は「空爆はこれまでのところ無益だ」とし、「訓練場や基地
の大半は、空爆時には空だった」と述べた。
 イスラム国支配地域の住民らによると、同組織の戦闘員は過去数
週、空爆の脅威を機敏にすり抜け、シリアで空爆対象となった基地
や政府庁舎を離れ、武器や人質を移動させ、訓練場を放棄した。シ
リアでもイラクでもシンボルの黒い旗の多くを下ろし、武装小型ト
ラックをカムフラージュした。市民に紛れることもあった。
 シリアの反体制派らによると、イスラム国は資金調達源や人員採
用能力の多くも維持しており、地元民の抑圧を続けている。その一
方で欧米人の人質を殺害する場面を公開している。また、トルコ国
境に近いシリアのアインアルアラブ(コバニ)に猛攻を仕掛けた。
 アナリストらは、米国の情報収集が難航しており、そのため爆撃
に至った攻撃は少ないとの見方を示した。だが、米当局者らはこれ
に反論。空爆の「対象は不足していない」と述べた。
 こうした兆候はいずれも、来る地上戦での任務が複雑になること
を示している。米国はイラク軍とクルド人自治区の両方の部隊に武
装を施しアドバイスしなくてはならないが、両者は互いを信用して
いない。米国側はイスラム国が支配するイラクの一部地域のスンニ
派とも協力する必要がある。
 シリアでは、対イスラム国戦闘員予備軍の反体制派数千人に訓練
と武装を施さなくてはならない。また、イラクとシリアの集団を見
極めて支援する必要があるが、それらの集団には米国やトルコから
テロリストと見なされている組織に関連したメンバーもいる。
 こうした課題はある意味、米国がかつてイラクやアフガニスタン
で直面したものより難しい。今回は、米軍を利用して優位に立とう
ともくろんでいる可能性のある、往々にして互いに対立する非公式
な軍の寄せ集め部隊と協力しなくてはならない。
 米国防筋やアラブの当局者らは2週間前にシリアでの空爆が始まっ
て以来、イスラム国の戦法が変わったと指摘している。米国は無人
機や偵察機で同組織の動きを追跡しているが、戦闘員らは空爆前よ
り小さな集団で動くようになったという。
 米当局者らはイスラム国の反応が地域によって異なると注意を促
すとともに、地元の戦闘員たちはイスラム国の中枢から直接指令を
受けているのではなさそうだと述べた。米国の攻撃で指令方法の変
更を余儀なくされたと同国はみている。
 イスラム国はいずれ、より効率的に自らの動きを隠す方法を見つ
けると米国は予想しているが、当局者らによると空爆を避けようと
する当初の試みは失敗した。その理由として、米国が大昔に夜間用
の技術を完成させた点を指摘した。
 中東を担当する米軍の中央司令部によると、米国と同盟国による
イスラム国への空爆は3日時点で、イラクで250回、シリアで80回に
及んだ。攻撃は車両や戦車300台超、迫撃砲・戦闘拠点60カ所超、検
問所・建物・監視所75カ所超などに及んでいる。
 シリアの反アサド活動家や西側が支援する自由シリア軍のメンバ
ーらによると、米国は自らがイスラム国に及ぼした影響を過大評価
している。シリアのイスラム国支配地域の一部住民は、空爆の影響
はほとんどないと主張している。
 活動家や反政府メンバーによると、米軍がシリアでも空爆を実施
すると9月に発表した直後、イスラム国戦闘員らは兵器や幹部を拠点
から移した。イスラム国の事実上の首都であるシリア北東部ラッカ
からは、9月半ばには同組織幹部がいなくなっていたと住民らは述べ
た。
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「イスラム国」との戦いは第3次イラク戦争だ
畑中美樹・インスペックス特別顧問に聞く(上)
中村 稔 :東洋経済 編集局記者 2014年10月12日toyokeizai
シリアとイラクで活動する過激派「イスラム国」への米国主導の空
爆拡大によって中東情勢は混迷の度を増している。戦闘は長期化が
必至とされ、イスラム国による報復テロ多発も危惧される。今後の
中東情勢の行方と原油価格やビジネスへの影響、テロから身を守る
対処法などについて、中東情勢を長年ウォッチし、中東全域に豊富
な人脈を持つ畑中美樹・インスペックス特別顧問に聞いた。インス
ペックスは中東・北アフリカ治安情勢の助言や情報提供を行う情報
・コンサルティング会社。
フセイン時代の共和国防衛隊やバース党員が共闘
――「イスラム国」とはどのような組織か。
イスラム国の全容はまだはっきりとはわかっていないが、イスラム
国の元メンバーのインタビューなどが先進国の専門機関を通じて行
われており、多少輪郭がわかってきている。
一般のマスメディアでは、アルカイダと同様、イスラム原理主義の
過激な国際テロ組織ととらえられているが、実態はそうではなく、
本当に「国」をつくろうとしている人たちの集まりである。イラク
戦争で米国に敗れたサダム・フセイン政権下の旧軍人や、当時イラ
クの与党であったバース党の党員らが中核としてイスラム国を支え
ている。
6月に(イラク北部の都市)モスルを制圧した時などの軍事作戦を見
ていると、どう考えても素人による作戦ではない。モスル制圧の後
、首都バグダッドに進軍するが、落とせないとなると今度は北部の
クルド人地域を攻撃。その過程で油田や製油所、ダムといった、国
家にとってのライフライン、収入源になる施設をしっかり押さえて
いる。
こうした組織的、計画的な動きは、単なるテロリスト、過激派集団
が行っているのではなく、軍事的経験のある旧軍人や政権を担って
きたバース党員たちがバックにいることを示している。
そのため、私は今のイスラム国の動きを「第3次イラク戦争」と呼ん
でいる。
第1次が1991年1〜3月の湾岸戦争。米国はこれでサダム・フセイン政
権を叩いたが、大量破壊兵器を持ったまま生き残ったという疑いを
理由に2003年3〜5月にイラク戦争を行った。これが第2次。結果とし
てサダム・フセイン政権は崩壊し、フセイン大統領も処刑された。
しかし、米軍がバグダッドに進攻した時に、フセイン大統領を守る
強力な軍隊と言われていた共和国防衛隊の大半が忽然と消えてしま
った。一方、バース党員はイラク民主化の過程で追放された。彼ら
が、台頭してきたイスラム国の指導者と嫌米、反米で一致し、戦術
的な共闘を組んだ。したがって強力になったと考えられる。
米国のヘーゲル国防長官の議会証言などを聞いていても、イスラム
国は単なるテロ組織ではなく、準国家組織のような言い方をしてい
る。米国はその辺をよくわかっているのだと思う。空爆だけでは解
決できず、数年以上かかると言っているのは、最終的には地上での
戦闘で駆逐しない限り勝てないと考えているからだ。
問題はシリア、自由シリア軍はあてにできない
――米国中心の有志国連合が、イラクからシリアへとイスラム国に
対する空爆を拡大しているが。
空爆だけでは終わらないことはわかっている。したがって、イラク
については、イラクの正規軍を米国の軍事顧問団によって訓練し、
新たな軍備も供与して、イスラム国と地上で戦闘させている。
問題はシリアだ。米国はシリアのアサド政権とも敵対しており、同
政権を支援するわけにはいかない。となると、サウジアラビアをは
じめとする湾岸諸国や米欧が支援してきた反アサド政権組織の自由
シリア軍を中心に、やはり武器を与えて、戦術・戦略も教えて支援
していくことになろう。ただ、イラク正規軍とは違い、自由シリア
軍は過激派組織で、人数も少数なので、イスラム国と対等に渡り合
える戦力になるかははなはだ疑問だ。
――最終的に米国自身が地上軍を派遣する可能性は。
オバマ政権が続く2016年までは米兵の地上軍派遣はないだろう。た
だ、イラクにはすでに1600人の軍事顧問団が入っており、イラク正
規軍が最前線で戦っている時にその一部が後方で指示を出したり作
戦を供与したりすることはあるだろう。それでもイスラム国は駆逐
されないと見られ、次の大統領が就任する17年以降に米国の世論が
どうなっているかによって、場合によっては地上軍派遣がありうる
かもしれない。
オバマ大統領は、本心としては中東にあまり手を染めたくないと考
えているようだ。それよりも、国内の経済問題を中心に政策努力を
集中し、米国経済を再生することに最大の関心がある。ただ、今年
の中間選挙を控え、中東問題でこのまま何もしないと選挙に大敗し
かねない。それを食い止めるためにも、空爆の決断をしたというこ
とだろう。11月の中間選挙後にオバマ政権がどう動くかはよく見て
いく必要がある。
日本人はテロに巻き込まれないよう警戒を
――米国などの世論を動かしたイスラム国による欧米人の公開処刑
や無差別テロ、諸外国からイスラム国への大量参加といった動きが
さらにエスカレートする恐れは。
空爆が始まったことにより、イスラム国は逆に自分たちは被害者だ
と広報宣伝活動を強めるだろう。彼らが主張しているのは、今のイ
ラクやシリアの国境線は20世紀初頭に当時の大国が勝手に引いたも
のであり、そうした外国勢力の庇護下にある政権を倒し、すべてを
イスラム国にすべきだというものだ。
そうした主張に共鳴する人たちの間では、空爆開始を機に、イラク
やシリアに入ってイスラム国に加わろうという動きが強まるかもし
れない。また、欧米で、あるいはアジアも含めて、欧米系の経済権
益や人々に対するテロ攻撃が起きる可能性がある。
――日本人がターゲットになる可能性も高まっているといえるか。
彼らの考える費用対効果から言えば、日本人を直接ターゲットにす
る可能性は低いだろう。彼らのいちばんのターゲットは、空爆を始
めた米国や、イラクで空爆に加わったフランス、武器供与や人道支
援をしている英国やドイツ、軍事作戦参加を表明した豪州やカナダ
、オランダなどの人たちだろう。
欧米以外では、今回の空爆に参加したサウジアラビアやアラブ首長
国連邦(UAE)、カタール、バーレーン、ヨルダンの人たちや石油を
中心とした経済施設、さらには欧米の外交施設、欧米系のホテル、
ショッピングモールなどでテロの警戒を要する。
日本人はおそらく直接の対象というより、昨年9月にケニアのショッ
ピングモールで起きたように、テロに巻き込まれる二次被害のほう
が可能性として高いのではないか。
――中東に展開する日本企業のビジネスマンたちへのアドバイスは?
これまで比較的安全と思われていた湾岸の産油国もこれからは報復
の対象になるため、これまで以上にテロの発生を意識した警戒的行
動をとる必要がある。特に気をつけなければならないのは、米国、
英国、フランス、ドイツなどの外交施設やそれらの国の公共施設に
行くときには細心の注意が必要だ。
また、欧米系のホテルやショッピングセンターに行くときも気をつ
けなければならない。さらに、産油国なので油田施設などへの出入
りも注意を要する。
現地のホテルでチェックすべきこと
――畑中さんご自身が中東にいるとき、心がけていることは?
なるべく欧米系のホテルは避けるようにしている。特にユダヤ系の
資本が入っていないホテルを選ぶ。ホテルに泊まる時も、なるべく
3階から7階ぐらいの部屋にしている。なぜなら、自動車爆弾が地下
の駐車場や1階で爆発したときに、大きな影響を避けられるからだ。
7階ぐらいまでというのは、消防車のはしご車が届く範囲を考えての
ものだ。
また、部屋では二重にロックをするのに加え、窓のカーテンは二重
に閉めておく。爆破されても、ガラスの破片が飛んでこないように
するためだ。寝るときにも、枕元にパスポートや現金などを入れた
ビニール袋を置いておき、緊急時にさっと持って逃げられるように
している。また、部屋に入ったら必ずホテル内の案内図を見て、自
分の部屋の位置や逃げる経路を頭に入れておくよう心がけている。
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北大生支援の元教授インタビュー 
公安の事情聴取を受けた
中田考氏が語る「イスラム国」
中田 考(なかた・こう)氏
カリフメディアミクス代表取締役社長、同志社大学高等研究教育機
構客員教授、イスラム学者(c)Takashi Suga
2014年10月09日(Thu)  Wedge編集部
「イスラム国」に戦闘員として渡航計画を企てていたとして、10月
6日に北海道大学の男子学生が警視庁公安部から事情聴取を受け、
東京都杉並区の宿泊先などの家宅捜索を受けた。小誌は、この学生
の渡航支援を行ったとして、同じく事情聴取と家宅捜索を受けた中
田考氏に9月24日の段階で接触していた。9月に現地を訪れたばかり
の中田氏が語る「イスラム国」とは――。
Wedge編集部(以下、――)なぜ「イスラム国」へ行ったのか。
中田考氏(以下、中田)9月上旬に「イスラム国」に招かれ、シリ
ア国内の彼らが支配する地域へ行ってきた。「(編集部注:8月にシ
リアでイスラム国に拘束されたとみられる)湯川遥菜氏の裁判をし
たい。公正に裁きたいと思うのだが、英語も通じず、話にならない
ので、通訳にきてくれ」という幹部の依頼を受けてのものだ。アラビ
ア語と日本語の通訳ができ、かつイスラム学の知識がある人間とし
て私に白羽の矢が立った。この時点でほとんど人は限られる。結局
、折悪しく空爆が激しくなり、幹部たちが散り散りに身を隠してし
まったため、湯川さんとは会えず、虚しく帰ってきた。
――渡航費は出してもらったのか。
中田 全額自分で支払った。大変だった。
――危険な目には遭わなかったのか。
中田 私は招かれて行っている立場なので、捕まることはない。
――印象に残ったことは。
中田 彼らは金銭的な余裕がなく武装面では非常に弱い組織、とい
う印象を受けた。中東各国の富裕層などが彼らを資金面で支えてい
る、という報道もあるが、基本的には彼らは自分たちのお金で組織
を回しており、貧しい。「政府軍を追いやるぐらいなので、お金が
あり強いはずだ」という意見もあるが、政府軍が極端に弱いだけの
話。弱い組織ともっと弱い組織の戦い。現地にいってそれを目の当
たりにしてきた。そもそも停電が常態で電気もろくに通じていない
ような世界。
――であればアメリカが地上軍を投入すれば簡単に倒せるのか。
中田 それは無理だ。アメリカ軍は強いイメージがあるが、本当に
弱い。その理由の1つとして法の縛りが挙げられる。彼らは随分ひ
どいことをしているが、それでもシリアのアサドやイラクのフセイ
ンの軍隊に比べれば、一応軍規がある。軍規があるとやはり弱い。
――実際の戦闘を目にしたか。
中田 「今からシリア政府が管轄する軍用空港を攻撃しに行くから
来い」と言われてついて行った。上から明確な命令があったわけで
はなく、「ちょっと行くか」という感じだった。指揮命令系統はし
っかりしていない。彼らは死ぬことをまったく恐れていない。喜ん
で死ぬ。一方の政府軍は死を嫌がって逃げる。だから弱い。
――「イスラム国」へはどんな人が集まっているのか。
中田 世界各地から「イスラム国」へ集まっている人の多くは中東
出身者のイスラム教徒。稀に白人を見掛けたが。
――彼らが「イスラム国」の活動に参加する理由は。
中田 実際に話したわけではないが、普通にイスラム圏でイスラム
の世界なので、「イスラム国」にいたほうが気持ちよいのだと思う
。そこへ集まる人たちはムスリムなので。
――給料は出ているのか。
中田 月50ドル出ている。もちろんムジャヒディン(ジハードを行
う人)になると、たとえばガソリンをいくらもらえるとかあるらし
いが。現地で50ドル札を見せてもらったが「大変なんだよ、これを
一枚もらうのが」と話していた。
――現地に日本人はいたか。
中田 いなかった。これから増えると思うが。
――なぜ。
中田 増えるに違いない。日本にいて何かいいことがあるだろうか
。毎年3万人も死んでいくような国。自殺するよりまし。「イスラ
ム国」へ行けば、本当に貧しいが食べてはいける。
――「イスラム国」指導者のバグダディ氏がカリフ(預言者ムハン
マドの後継者の意で、イスラム国家最高権威者の称)を名乗った。
中田 彼らは建国宣言で、「イスラム国は『イスラムのカリフ制』
であり、アブー・バクル・バグダディ氏は全ムスリムのカリフであ
る」と宣言した。ただ、カリフについては「恐るおそる言ってみた
」という感じであった。やはりあれは「イスラム国」であり、カリ
フではないと言ってもいい。
――彼ら自身もカリフであるということを強く主張はしていないと
いうことか。
中田 大して強く主張していない。一応カリフと言ってみたという
ところ。イスラム法上の正当性があったとしても、認められるかど
うかは別なので。彼らは「多分これは認められないだろうな」と思
っている。ただし、私は一応カリフの依頼を受けたということで、
今回の渡航費も全額自分で支払った。空爆の関係で現地到着後、3
日間放置されて、やっと伝令が来るという状況だった。携帯電話を
使うとGPSで把握されて爆撃されるので、伝令が来るのだが、「今か
ら(湯川氏のところへ)連れていくけど、1週間いてくれ」と言わ
れた。事前に帰国する日が決まっており、「カリフ制を名乗ってい
るなら約束を守れ!」と言って断って帰ってきた。本当にカリフだ
ったらカリフにそんなことは言えない。「1週間いろ」と言われた
ら、1週間いないといけない。
――カリフはどう決めたのか。
中田 彼ら自身が決めた。ボードメンバーが「よし、そろそろカリ
フ制にしよう」と言ってカリフ制にした。それはそれで合法性はあ
るが、合法性があることと、他の人間が認めることは別の話。じゃ
あそれだけしかないのかといったらそうとも言い切れない。他にい
ない、というのは非常に強く、基本的にはバクダディ氏がカリフで
あろうという話。
――彼らは何がしたいのか。
中田 非常に大雑把にいうと、「コーランの教えをしっかり守る国
をつくる」ということ。礼拝を行い、酒は飲まず、泥棒など法に背
く行いをした人間には罰を与えると。そのため、コーランの教えに
公然と反対し背教したイスラム教徒には非常に厳しい対応をし、見
せしめのために公開処刑も行う。ちなみに公開処刑を行っているの
は「イスラム国」だけではない。シリアは首切りでなく、首吊りを
公開で行っている。基本的には見せることによって、刑罰に対する
恐怖心を掻き立てて犯罪を防止するということ。これに効果がある
かというのは学説で分かれるところだが。先日現地へ行ったときも
、アサド側のスパイが見付かったらしく、司令官が銃殺をしたが、
市民から「なぜちゃんと首を切らないのだ」という抗議を受けて、
結局司令官が謝罪させられたという一幕があった。
――スパイは多いのか。
中田 イラクもシリアもスパイ国家のため、「イスラム国」には多
くのスパイが入り込んでいる。殺害されたジャーナリストの一部は
どうも本当にスパイだったようだ。イスラム法では成人男子の戦闘
員の捕虜の処刑は合法なので、ある意味では殺されて当然ともいえ
る。ただ、私は個人的にはジャーナリストを殺害するのは反対だ。
彼らには国に戻って「イスラム国」の実態を伝えさせるべきだと考
えるからだ。
――支配地域で暮らす一般の民衆は、彼らを支持しているのか。
中田 一般の民衆は何を考えているかというと、日本と同じように
、政治やイデオロギーに興味をもっている人は非常に少ない。99%
の人は何の興味もない。たとえばアサドが戻ってくるなら「アサド
万歳」と言うはず。
――なぜこのタイミングでこうしたことが起こったのか。
中田 非常に簡単に言ってしまえば、世界がおかしいから。イスラ
ムの世界もおかしいし、世界全体がおかしい。イラクとシリアはイ
スラムの世界においても、世界レベルでみても、ほぼ最悪の残虐な
政権。イラクは単に野蛮で、シリアはもっと計算された冷酷な野蛮
さ。人を殺すことも、嘘をつくことも平気な人たち。そういうとこ
ろを倒すには、それに対抗できるような、ある意味での強さみたい
なものがなければならない。
――今後の展開は。
中田 ともかくアメリカが空爆を始めてしまったので、さっき言っ
た99%のあまり意識のない民衆がかわいそう。意識のある人間は死
んでも平気なのでよいが、一般の民衆がかわいそう。アメリカが彼
らを根絶やしにすることは非常に困難であるし、「イスラム国」の
活動には、今後日本人を含めて多くの人が参加するものと考えてい
る。彼らの勢いはまだまだ衰えることはないだろう。
(聞き手・構成/Wedge編集部)



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