5152.イスラム国、トルコ、クルド人の三つ巴



シリアとトルコの国境のクルド人の都市であるコバニがイスラム国
の攻勢を受け、陥落しそうである。

イスラム国はこれまで3週間にわたりコバニを包囲しており、実際
に制圧する可能性が高まった。アラビア語でアインアルアラブと呼
ばれるコバニの東部にはイスラム国の旗が2カ所に掲げられている。

クルド人自治区の高官はロイターに対し、イスラム国の戦闘員らは
重火器や砲弾を使ってコバニを攻撃し、前夜にクルド人勢力との激
しい市街戦があったと。また、イスラム国はコバニの南西部から進
軍している。

現地にいるクルド人勢力のメンバーは、「水や電気はなく、水道施
設はイスラム国に抑えられ、事態は悪化している。このままの状況
が続けば、いずれ陥落する」と述べ、国際社会からの軍事支援を訴
えた。

トルコ政府に対しては今月、トルコのクルド労働党(PKK)指導
者のオジャラン受刑者が獄中からの声明で、イスラム国によるシリ
ア北部のクルド人への虐殺を阻止できなければ和平交渉を打ち切る
と警告するなど、主にクルド勢力からアイン・アラブ救援で積極的
な役割を果たすよう求める声が強まっている。

というように、クルド人は隣国トルコの支援を要請している。しか
し、トルコのエルドアン大統領は「われわれが地上作戦に協力しな
い限り、テロは終わらない」と述べたが、トルコはシリア領内での
「安全地帯」設置を目指している。

「安全地帯」構想を実現するための手段としての軍事行動を議会が
承認した。「安全地帯」構想は、シリアの領土の実質上の分割と、
北部がトルコの実質的な勢力圏に入ることを意味し、もう1つ、ク
ルド人をトルコに入れないことを意味する。

トルコに来たクルド人が独立運動をすることに警戒している。それ
より、クルド人とイスラム国が潰し合いをして欲しいのがトルコで
あり、軍事行動もその兼ね合いを見ているようである。

トルコが米国の介入要請をも固辞している理由は、クルド人の独立
運動の方が、イスラム国より脅威であるからである。

しかし、NATOは、イスラム国がトルコを攻めて欲しいようで、
NATOのストルテンベルグ事務総長は6日、「加盟国であるトル
コの国境を守ることは、われわれの大きな責任だ」と述べ、トルコ
が過激組織「イスラム国」の攻撃を受けた場合、防衛する姿勢を表
明した。

トルコ、イスラム国、クルド人の三つ巴に欧米が絡んで、この地域
の複雑さが増しているように感じる。

さあ、どうなりますか?

==============================
イスラム国、シリア北部国境の町へ攻勢 クルド人と市街戦
2014年 10月 7日 23:12 JST
[MURSITPINAR(トルコ)/ベイルート 7日 ロイター] - シリ
ア人権監視団(英国)が7日明らかにしたところでは、過激派組織
「イスラム国」は前夜にシリア北部のトルコ国境沿いにあるクルド
人地域の町コバニの南西部に進撃し、複数のビルを掌握した。町の
両側から攻撃が可能な態勢となった。
イスラム国はこれまで3週間にわたりコバニを包囲しており、実際
に制圧する可能性が高まったことで、同組織に対抗する有志国連合
に参加するよう隣国トルコへの圧力が強まっている。
アラビア語でアインアルアラブと呼ばれるコバニの東部にはイスラ
ム国の旗が2カ所に掲げられているのが、トルコ側から見えた。同
地域では2回にわたり空爆も実施された。
クルド人自治区の高官はロイターに対し、イスラム国の戦闘員らは
重火器や砲弾を使ってコバニを攻撃し、前夜にクルド人勢力との激
しい市街戦があったと明らかにした。
シリア人権監視団を率いるラミ・アブドゥルラーマン氏もまた、前
夜に衝突があったとし、イスラム国はコバニの南西部から進軍して
いると述べた。
イスラム国の進軍によってこれまで、コバニから推定18万人の避
難民が越境してトルコに押し寄せている。クルド人組織民主統一党
(PYD)のメンバーが6日明らかにしたところでは、前夜の戦闘
後に2000人以上のクルド人がコバニから避難した。
==============================
イスラム国、トルコ国境コバニ侵攻−米国と有志国は空爆拡大
  10月7日(ブルームバーグ):過激派「イスラム国」がシリア
のトルコとの国境に近いクルド人の町コバニに攻め入り、クルド人
勢力と市街戦を繰り広げている。米国主導によるイスラム国を標的
とした域内の空爆は激しさを増した。
トルコ国営のアナドル通信は、コバニ郊外での数日間の戦闘後、イ
スラム国の兵士約2000人が6日遅くにコバニに入ったと伝えた。ク
ルド人向けメディアのフィラが報道したところによると、東部と南
部の地区では激しい衝突があった。コバニ地域の外務責任者、イブ
ラヒム・クルド氏は7日に電話で、前日夜とこの日のイスラム国へ
の空爆は「効果を上げ、イスラム国の進撃が減速した」と述べ、ク
ルド人側の状況は「2日前に比べて良くなっている」と話した。
米中央軍の発表によると、米国とアラブの有志国は前日とこの日に
5度にわたってコバニで空爆を実施し、イスラム国の部隊や武装車
両を破壊した。  
コバニが陥落した場合、イスラム国の勢力地域が北大西洋条約機構
(NATO)加盟国であるトルコとの国境沿いにまで拡大すること
になる。  
トルコのエルドアン大統領は国境付近の難民に対し、コバニは「陥
落しているか、陥落寸前だ」と述べ、イスラム国を打倒するために
は飛行禁止区域で守られた地上軍が必要だとのトルコの立場をあら
ためて表明した。
更新日時: 2014/10/08 03:05 JST
==============================
対イスラム国 トルコが抱える深刻なジレンマ
2014.10.8 05:30sankei
 【カイロ=大内清】トルコのエルドアン大統領は7日、イスラム
国からシリア北部アイン・アラブを防衛するには地上軍派遣が必要
だとの認識を示した。ただトルコは、軍事行動に踏み切ってイスラ
ム国と完全に敵対すれば自国がテロの標的となる恐れがある。その
半面、クルド人の町であるアイン・アラブを見殺しにすればPKK
など自国のクルド勢力を刺激しかねない。トルコは深刻なジレンマ
の中にある。
 トルコ南部ガジアンテップで演説したエルドアン氏は、アイン・
アラブが陥落寸前だとした上で、「われわれが地上作戦に協力しな
い限り、テロは終わらない」と述べた。だが、その「協力」の内容
は不明瞭だ。
 トルコ政府に対しては今月、PKK指導者のオジャラン受刑者が
獄中からの声明で、イスラム国によるシリア北部のクルド人への虐
殺を阻止できなければ和平交渉を打ち切ると警告するなど、主にク
ルド勢力からアイン・アラブ救援で積極的な役割を果たすよう求め
る声が強まっている。
 こうした中、トルコはシリア国境に戦車部隊などを配備したほか
、2日には議会がシリア、イラクでのイスラム国への軍事行動を承
認した。
 しかしトルコ国内では、米国主導の軍事作戦に参加すれば、イス
ラム国による報復の対象になるとの見方も根強い。
 またトルコは、対イスラム国包囲網をシリアのアサド政権打倒に
結びつけたいとの思惑から、軍事作戦参加の条件にシリア上空での
飛行禁止区域設定などを求めているが、現時点で国際社会の合意を
得るのは難しい状況にある。
 一方でアイン・アラブ南方には、トルコの飛び地としてオスマン
帝国開祖の祖父スレイマン・シャーの廟(びょう)があり、そこが
イスラム国の攻撃を受ければ、トルコは軍事行動に出ざるを得なく
なる可能性もある。
==============================
「イスラム国」 防戦のクルド人が支援訴え
10月8日 6時17分NHK
シリアなどで勢力を拡大するイスラム過激派組織「イスラム国」は
、トルコと国境を接するシリアの都市に攻勢をかけており、防戦を
強いられている現地のクルド人勢力はNHKに「水や電気がなく、
このままではいずれ陥落する」と述べ、支援を訴えました。
シリアとイラクで勢力を拡大するイスラム過激派組織「イスラム国
」は、トルコと国境を接するシリア北部の都市アイン・アルアラブ
に攻勢をかけており、一部の戦闘員が市街地に侵攻してクルド人勢
力と激しい銃撃戦を繰り広げています。
イギリスに拠点を置くシリアの反政府勢力系の団体「シリア人権監
視団」は、アイン・アルアラブとその周辺の戦闘によってこの3週
間で400人以上が死亡したとしています。
現地にいるクルド人勢力のメンバーは、NHKの電話取材に対して
「水や電気はなく、水道施設はイスラム国に抑えられ、事態は悪化
している。このままの状況が続けば、いずれ陥落する」と述べ、国
際社会からの軍事支援を訴えました。
戦闘が激化するなか、迫撃砲がトルコ側に着弾して住民にけが人が
出たことなどから、トルコは新たに住民の一部を国境地帯から退去
させる措置を取っていて、今後、アイン・アルアラブが陥落するよ
うなら、トルコは地上軍の派遣も含めてより踏み込んだ対応を検討
することになりそうです。
==============================
トルコ防衛は「責任」=「イスラム国」が攻撃なら−NATO総長
 【ワルシャワAFP=時事】北太平洋条約機構(NATO)のス
トルテンベルグ事務総長は6日、「加盟国であるトルコの国境を守
ることは、われわれの大きな責任だ」と述べ、トルコが過激組織「
イスラム国」の攻撃を受けた場合、防衛する姿勢を表明した。訪問
先のポーランドで記者団に語った。
 事務総長は、トルコの対空防衛力を高めるためにパトリオット・
ミサイルを配備していると説明。「シリアでの戦闘が飛び火すれば
、NATOがそばについている」と強調した。(2014/10/07-06:25)
==============================
トルコのシリア北部に対する政策は1991年のイラク北部に対するも
のとそっくり
Satoshi Ikeuchi2014年10月06日 11:30
トルコ国会は10月2日(木)にシリアとイラクへ軍の越境攻撃を認め
る決議を採択した。
これによってエルドアン大統領・ダウトウル首相の現政権はシリア
・イラク情勢に軍事的に対処するためのフリーハンドを得たことに
なる。
米主導のイラクとシリアでの「対イスラーム国」への空爆にトルコ
が参加を渋ってきたことはすでに書いた。空爆に参加しないだけで
なく、NATOに提供してきたインジルリク空軍基地の使用をこの
件に関しては拒否した。
それではこの決議で、トルコの立場は変わったのだろうか?
おそらくそうではない。その後の閣僚の発言や軍の実際の動きを見
ても、トルコの立場は変わっていない。
シリアとイラクへの軍事介入を一つの選択肢として承認したことは
、自動的に米主導の軍事行動に参加することを意味しない。軍事行
動はとるかもしれないが、手段も目標も米が湾岸産油国とヨルダン
を従えて行なっている軍事行動とは異なるものとなるだろう。なぜ
ならば、トルコが考える介入の目的と、アメリカの介入の目的が食
い違っているからだ。
そのことはシリアのアサド政権も当然分かっていて、米が実際にシ
リアを空爆してもなんら阻止する手立てを講じておらず、事実上受
け入れている(シリアの親分イランのローハーニー大統領がこれに
苦言を呈していたりする)のに対して、トルコ国会が武力行使を承
認しただけで強く反発している。
先日書いたように、トルコはシリア領内での「安全地帯」設置を掲
げている。今回の決議も、「安全地帯」構想を実現するための手段
としての軍事行動を承認したものと考えていいだろう。「安全地帯
」構想は、シリアの領土の実質上の分割と、北部がトルコの実質的
な勢力圏に入ることを意味し、アサド政権の長期的な排除を意味す
る。
米国のシリアでの軍事行動の目的は「イスラーム国」の抑制と破壊
のみである。それに対してトルコは国境を接し、国境を超えた住民
のつながりや経済圏を有するがゆえに、シリアをめぐる国益はもっ
と複雑であり、単に「テロリストを空爆する」というだけの政策で
は受け入れられない。「イスラーム国」が手が付けられないほどに
伸長するのは困るが、イスラーム国だけを攻撃しても問題は解決し
ないとする立場だ。
トルコとしては、アサド政権が統治できなくなったシリア北部でク
ルド人武装勢力が伸長し、トルコ領内のクルド人の反政府武装勢力
PKKと一体化することを恐れている。押し寄せてくる難民は経済
的・社会的負担を招くだけでなく、武装勢力・不安分子の侵入をも
たらしかねない。クルド人難民がシリアに戻って「イスラーム国」
やアサド政権と戦うならともかく、トルコのクルド武装勢力に合流
してトルコ政府と戦いかねないのである。「イスラーム国」に対抗
する地上部隊勢力を育成するという形で、欧米やイランがシリアの
クルド人武装勢力に武器を提供する動きに、トルコは神経をとがら
せている。シリア北部のクルド人勢力の中で台頭している武装勢力
YPG(人民保護部隊)はPKKとの関係がささやかれる。「イス
ラーム国」対策に供給した武器は、その武器はやがてトルコに向け
られかねない。
また、YPGはアサド政権と決別したわけではない。アサド政権が
存続すれば、政権の手先としてトルコ側にクルド独立闘争を仕掛け
てきかねない。イランの属国となったシリア・アサド政権がクルド
人勢力を手先にして国境越しに攪乱工作を仕掛けてくる、というの
はトルコにとって耐えがたい。
こういった複雑な事情を抱えているトルコにとって、「テロの脅威
がある」といって「イスラーム国」だけ破壊して米国が去れば、極
端な話、トルコ・シリア国境がアフガニスタン・パキスタン国境の
ようになりかねない。
トルコにとっては、欧米が主導してシリア北部に安全地帯を設定し
、実際に空軍力でそれを実施するのであれば、トルコも重要な役割
を担い、それによって勢力拡大という利益を得たい、というのが原
則的な立場だと思われる。
もちろん「同盟国ではないのか」「イスラーム国の伸長を黙認して
きたのではないか」という米側からの批判の声が高まるのは避けた
いので、若干米の意に沿う形での介入を行うかのような印象を醸し
出している様子がないわけではない。決議に際しては、対「イスラ
ーム国」であることを協調しているものの、実態は異なるだろう。
野党のCHP(共和人民党)は、武力行使承認決議は対「イスラー
ム国」ではなく、対アサド政権だ、と批判しているが、実態として
はそのような側面を含むだろう。
エルドアン政権は軍事行動の選択肢にフリーハンドを得たうえで、
「安全地帯」構想を受け入れるよう米に求めて、交渉が続いている
模様だ。
"Turkey to sit down at negotiation table with US after mandate
 vote," Hurriyet Daily News, Oct. 3, 2014.
アメリカはこれをすぐには受け入れないだろうが、欧米諸国による
空爆だけでは「イスラーム国」の攻勢を止められないことが分かっ
てくれば、選択肢の一つに浮上してくるだろう。
これには前例がある。1991年の湾岸戦争の際にも、イラク北部で、
現在のシリア北部のように、クルド人難民がトルコ国境に大量に押
し寄せる事態が生じた。それに対して当時のオザル大統領は、国境
を封鎖し、軍事力でイラク軍もクルド部隊の双方のトルコ側への伸
長を阻止したうえで、欧米と協調して、「飛行禁止空域」をイラク
北部に設けさせ、現在のクルド自治区(クルド地域政府)の成立の
発端を作った。空軍基地の提供などで湾岸戦争の遂行に不可欠の役
割を果たす見返りに、国内へのクルド問題の飛び火を阻止するスキ
ームを欧米に受け入れさせ、トルコの勢力圏をイラク内に延伸した
と言えよう。トルコの軍事力と地の利を提供して欧米の力と正統性
を引き込んで、イラク側にクルド問題を封じ込め、トルコの経済圏
として影響下に置いたのである。
上にリンクで示した二つの記事を読んでいると、1991年の話が今の
話とほとんど変わりなく感じられる。クルド難民が大量に押し寄せ
、トルコが国境地帯に封じ込めようと躍起になっているところとか
、状況もそっくり。
おそらく当時のオザル大統領がイラク北部に関してやったことと同
様のことを、エルドアン政権はシリア北部について試みようとして
いるのではないかと思われる。
アサド政権の排除か、それが実現しない間は「安全地帯」のシリア
北部への設定が必要、という解決案を示すトルコと、シリア問題へ
の解決案は出さずに、「イスラーム国」のみを対象にした「外科手
術」的な介入を行ないたい欧米諸国との立場の隔たりは大きい。
そのため、トルコは当面は「安全地帯」構想を掲げて交渉しつつ、
「イスラーム国」とYPGらクルド人武装勢力の「相討ち」による
双方の消耗を図る期間が長く続きかねない。必要に応じて、今回の
決議で得た越境しての軍事介入の選択肢を限定的に行使しつつ、長
期戦で臨むだろう。
これに対してはトルコのクルド武装勢力PKKが反発している。
PKKの指導者でトルコの獄中にあるアブドッラー・オジャラン氏
は10月1日、シリア北部の国境地帯コバーニーで「イスラーム国」と
激しい戦闘を繰り広げているYPGが殲滅させられるようなことが
あれば、PKKとトルコ政府との間で進んできた和平プロセスを打
ち切ると宣言している。
トルコ(エルドアン政権)・シリア(アサド政権)・クルド武装勢
力(PKK/YPG)の3者がトルコ・シリア国境でせめぎ合う中に
「イスラーム国」が泳がされている状態だ。



コラム目次に戻る
トップページに戻る