5142.世界と違う日本経済の変化



アベノミックスが、うまく回らなくなってきた。この原因と今後の
戦略を検討している。そこから見える姿は、世界経済とは違う日本
経済の変化の兆しである。これを見よう。  津田より

0.世界経済の姿
ローラ・タイソン女史が、プロジェクト・シンジケート誌に「Paying
 for Productivity」で、米国企業の生産性は向上しているのに、労
働者の給与が伸びていない。このため、米国ビジネスが、今後は繁
栄できなくなると見ている。1960年代には、企業の利益を分配する
ストック・オプションなどの方法で労働者にも分配していたが、近
頃は企業の利益を経営者が独り占めして、労働者に分配していない
。という。

この問題に対して、ジョセフ・スティグリッツを筆頭にジェフリー
・サックスやロバート・ライシュなどとも協同して、米国議会へ2014
年度までに現行の時給7.25ドルから9.80ドルへの最低賃金引き上げ
を求める手紙を送っている。この最低賃金の上昇で労働者の待遇・
福利を改善させ、労働者の給与を上げるように求めているのだ。

しかし、水野さんの「資本主義の終焉と歴史の危機」によると、投
資家が得る利潤率が低下して、金利もゼロになっているという。こ
の原因が、地理的な拡大はできずに、周辺がなくなってきたことに
よると見ている。

このため、米国は金融・投資分野をクローバル化するという周辺を
作ったが、この分野はバブルを作り、そのバブル崩壊で実体経済も
破壊し、その破壊を修復するために、より大きなバブルが必要にな
る。そして、現在、周辺を先進国内部に作り、労働者たちから奪う
ことで利潤を確保することになる。これが先進国で格差が拡大する
理由という。

ローラ・タイソン氏が見る姿は、米国企業経営者が、企業利益を独
り占めしていると見ている。この部分では水野さんと同じである。

どちらにしても、労働者の賃金は下がり、経営者が利益を独り占め
することでは同じであり、世界的な資本主義の問題点に浮上してき
た。

なぜ、そうなるのかは、画期的なイノベーションがなくなり、限界
効用逓減の法則が成り立ち、新興国企業でも製品が製造できるよう
になり、いくら生産性を上げても、それに見合う価格が維持できな
いことによる。デフレ経済になったことによるのだ。特に工業製品
の多くが、この罠にハマっている。

日本も2013年までは、その罠の中にいて、労働者の賃上げがで
きずに、貧富の差が拡大してきた。

1.日本経済の変化
しかし、現状の日本経済を見ると、様相が違うことになってきた。
団塊の世代が退職して、それに比べて若者の数が少ないことで、労
働者の奪い合いが起き始めている。このため、労働賃金が上昇して
いる。

日本でも世界と同じように、貧富の格差が広がるはずが、広がらな
いことになる。しかし、このことは中途半端なグローバル企業にと
っては、大きな問題になる。

グローバル展開しているトヨタやコマツ、キッコーマンなどの完全
なグローバル企業は、工場を世界展開しているので、円安であろう
と円高であろうと関係がない。円安でも輸出が伸びない。

マツダや富士重工やグリコなど中途半端なグローバル企業は、円安
で輸出が伸びて、世界的な競争力が確保できるが、労働者の賃金が
上がると、世界での競争上では不利になる。

しかし、増産しようとすると、人手が足りなくなる。このため、賃
金を上昇させ、正規社員化して労働者の囲い込みを行う必要がある。

このため、若者を安くこき使い、利益を確保してきたブラック企業
には、職がたくさんあることで、寄り付かなくなる。正社員化した
企業に入る事になる。ユニクロはアルバイトの半数を正社員化した
のは、柳井社長の感覚が優れているためである。

今までのような使い捨てができなくなるので安いサービス業がなく
なる。松屋は、牛丼を値上げして380円にしたのは、このためで
あろうが、夕食時に行っても昔は一杯いた客がいない。ガラガラで
あり客数が大幅に落ちている。新業態のとんかつ松乃家に移行する
つもりであろう。今後、すき家がどうなるかであろう。

どちらにしても、日本では世界的な貧富の格差が大きくなることが
起きない。しかし、日本全体の地盤沈下が起きようとしている。

2.日本の地盤沈下か
価格を上げるしかないサービス業以外の製造業などでは、労働生産
性が上がらずに賃金上昇はできない。この製造業は世界的な戦いの
中にいるので、製品価格が上がらないことで、労働者の賃金を上げ
ようとすると、機械の導入などで生産性を上げるしかない。

出来ないなら、海外へ移転して労働賃金が低いところで作ることに
なる。

このように、製造業が日本から離れることになるか、海外製品に淘
汰されるかになる。こうならないように円安にして競争力を上げよ
うとしたのが、アベノミックスのはずであるが、その政策が効かな
くなることになる。円安にしたことで、輸入する石油などの資源が
高騰して、その分コストが嵩んでいるのにである。

日本の収支が成り立つのは、国内の製造業であり、それも中途半端
なグローバル企業の輸出力と完全なグローバル企業の特許料や配当
などの所得力である。

サービス業界や福祉業界などが労働者雇用率が大きい。それはグロ
ーバル企業が儲けた金が回ってくることによる。このため、中途半
端でも、完全でもグローバル企業を強くするしかない。

3.匠の技
ドイツなどでも一緒であるが、日本の中小企業の匠の技が注目され
ている。ドイツが現在、絶好調なのは、この中小企業の匠の技が大
企業の製品の質を高めて、それが海外で売れていることによる。

そして、日本が一番、誇れるのが、食文化である。ミシュラン・ガ
イドでのレストランの星の数で、日本の東京は、パリの3倍以上も
ある。3ツ星レストランは数的には変わらないが、2ツ星となると
4倍も違う。1ツ星も3倍以上である。

日本食の平均的なレベルの高さが高く、しかも均一である。この理
由が、素材の良さをあまり味付けしないで出すので、調理人の腕と
いうより、素材の良さだというのである。

農水産業界の質が高いことによる。そして、日本人の舌の良さが、
そのレベルの高さを維持する理由なのであろう。

この価値を使わない手はない。グローバルに評価されている物を世
界に展開することである。平均的な農水産物でも鮮度を保てば、世
界市場は開かれることになる。

このためには、どうするか。浜中農業協同組合の取り組みである。
質を保証して、その体制を作ることである。企業参加でも良いし、
協同組合でも良いし、その仕組みを作ることである。

そのためには、企業参加と農地取得の規制緩和と、革新的な農業技
術の導入、加工業などの周辺産業の工場も同時に誘致することであ
る。そして、農水産業を中途半端なグローバル企業化することであ
ろうと見る。

さあ、どうなりますか?



参考資料:
Paying for Productivity
http://www.project-syndicate.org/commentary/laura-tyson-worries-that-america-s-failure-to-share-growth-widely-threatens-its-long-term-prosperity

5139.資本主義の終焉
http://www.asahi-net.or.jp/~vb7y-td/260924.htm



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