とうとう、FRBは、出口戦略に出てきた。ドル安戦略と同様な戦略を 日本とEUがとり始めたことで、ドル安戦略が有効ではなくなった ことと、シェール・ガスとオイルを高値で売りたいということで、 ドル高政策に変更した。 日本は相対的に、円安になり、1ドル=108円台後半と約6年ぶりの 円安水準になった。このため、日経平均株価も終値ベースで8カ月 ぶりの1万6000円を回復した。 ただエネルギー価格や食料価格などが上がれば中小企業や家計には 負担増となり、一層の実質賃金減少になる。 この状況になり、やっと、経済評論家の一部が、アベノミックスの 効果が逆転して、スタグプレーションになると言い始めた。このコ ラムに追随する経済評論家が出てきたことは、良いことである。 「アベノミクスの4つの誤算」があり、1つ目が、実質ベースの円安 がかなり進んでいて、しかも海外の景気が持ち直しているのに、供 給制約から実質輸出が伸びていない点。 2つ目が、企業の業績が回復しているのに、設備投資が更新投資や省 力化投資の域を出ず、能力増強投資となっていない点。 3つ目が、個人消費が弱い原因は、消費増税の反動減だけではなく、 実は円安で実質購買力が損なわれているという点。 4つ目が、人手不足や資材価格の高騰によって公共投資の執行が遅れ ている上に、いわゆる「クラウディング・アウト(政府の追加財政 によって、結果的に民間投資や個人消費が抑制されてしまうこと) 」の効果で、民間の建設投資が抑制されてしまっている点 であると、河野 龍太郎(こうの・りゅうたろう)氏BNPパリバ証券 経済調査本部長チーフエコノミストがいう。 もう、そろそろ、第1の矢の金融量的緩和と第2の矢の財政出動を 止めるべきであると河野さんは言うが、私も同様に考える。 そして、第3の矢の構造改革を進めるべきである。労働人口が制限 されているので、その労働資源を高付加価値産業へシフトすること である。そのアイデアが重要なのである。今までの常識に縛られず に、発想の転換をするべき時である。 さあ、どうなりますか? ============================== 円安で明暗 車・機械の採算改善、中小は原料高が圧迫 2014/9/19 2:00日本経済新聞 電子版 外国為替市場で円安・ドル高が加速している。18日の東京市場で は1ドル=108円台後半と約6年ぶりの円安水準となり、日経平均株 価も終値ベースで8カ月ぶりの1万6000円を回復した。市場では円 安が110円台まで進むとの見方もあり、輸出企業には追い風になりそ うだ。ただエネルギー価格などが上がれば中小企業や家計には負担 増となる。円安による日本経済の押し上げ効果には陰りもみられる。 円相場は8月以降、1カ… ============================== NY円、108円後半 円売り広がる 【ニューヨーク共同】18日のニューヨーク外国為替市場の円相 場は午後5時現在、前日比32銭円安ドル高の1ドル=108円64 〜74銭をつけた。ユーロは1ユーロ=1・2917〜27ドル、 同140円40〜50銭。 米国債の利回りが一時上昇したことから、日米の金利差拡大を見 込んだ円売りが広がった。円は一時1ドル=108円96銭まで下 落したが、節目となる109円に近づくと円買いが入り、やや値を 戻した。 2014/09/19 07:50 【共同通信】 ============================== 情報BOX:FRBの新出口戦略の概要 2014年 09月 18日 10:02 JST [17日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)は17日、現 在の金融緩和策からの出口戦略案として、2011年6月に示した 従来計画の修正版となる「政策正常化の原則と計画」を公表した。 フェデラルファンド(FF)金利を主要な政策手段とするとともに 、FF金利を調整するための主な道具として超過準備に対する付利 金利を利用することを明確にした。 新計画の概要は以下の通り。2011年版との比較も示した。 <金利> 金融緩和策を解除する時期が訪れた時には、FF金利の誘導目標レ ンジをまず引き上げる。 FF金利を目標レンジに導くための主な手段は、民間銀行がFRB に預ける準備預金の超過部分に掛かる金利の調整。 リバースレポ金利もFF金利の誘導に利用する。ただ、リバースレ ポ金利は「必要な限りにおいて」利用するだけであり、必要性が無 くなれば徐々に利用を停止する。 2011年版では、FF金利を誘導するために超過準備への付利金 利と準備預金の調整を利用するとしていた。その時点でリバースレ ポの試験実施はまだ行われていなかった。 FRBは昨冬からリバースレポを試験実施しているため、市場参加 者は引き締め局面に入ればこの金利が主要な役割を果たすと予想し ていたが、新計画はリバースレポを補助的かつ一時的役割に留める ことを明示した。 <債券償還分の再投資> FRBは現在、保有債券が満期を迎えると償還資金を債券に再投資 している。新計画は、利上げ開始後に再投資を停止、あるいは段階 的に削減するとした。段階的削減の時期は経済・金融環境次第とし た。 2011年版では、再投資停止を政策正常化の第1歩と位置付け、 利上げ前に実施する可能性さえ示していた。 <資産売却> FRBは直接売却によってモーゲージ担保証券(MBS)の保有を 減らすことは計画していない。ただし「長期的には、残高を削減、 あるいは全廃するため、限られた額の売却は正当化されるかもしれ ない」としている。ポートフォリオの縮小は、証券の満期到来、も しくは住宅保有者の住宅ローン早期償還に任せる。仮に売却する場 合には事前にその計画を公表する。 2011年版では、利上げが始まればMBSの売却も開始し、3、 5年以内にFRBのバランスシートから完全に除去することを視野 に入れていた。 <バランスシート> FRBは、長期的には「金融政策を効率的かつ効果的に実行するた め、必要以上の証券を保有しない」計画。また、現在のように米国 債とMBSをミックスして保有するのではなく、米国債を主体に保 有する計画としている。 ============================== アベノミクスに4つの誤算、円安のデメリットが顕在化 BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストに聞く 大竹 剛 2014年8月25日(月)日経bp 河野 龍太郎(こうの・りゅうたろう)氏 BNPパリバ証券経済調査本部長チーフエコノミスト 1964年生まれ。横浜国立大学経済学部卒業。87年住友銀行(現三井 住友銀行)入行。大和投資顧問(現大和住銀投信投資顧問)エコノ ミスト、米国大和投資顧問エコノミスト、第一生命経済研究所を経 て2000年から現職。 4〜6月期の実質GDP(国内総生産)の成長率は年率でマイナス6.8% と大きく落ち込みました。消費の回復も遅れています。これまで消 費増税の影響は「想定内」との見方が多かったですが、実は「想定 外」のことが起きているのではないでしょうか。 河野:4〜6月期のGDP統計の結果、今の日本が直面している構造的な 問題が明らかになったと考えています。実は今年の春頃から、日本 経済に様々な問題が見えてきました。一言で言えば、「アベノミク スの4つの誤算」です。 4つ、もあるのですか。 河野:はい。まず1つ目が、実質ベースの円安がかなり進んでいて、 しかも海外の景気が持ち直しているのに、供給制約から実質輸出が 伸びていない点。 2つ目が、企業の業績が回復しているのに、設備投資が更新投資や 省力化投資の域を出ず、能力増強投資となっていない点。 3つ目が、個人消費が弱い原因は、消費増税の反動減だけではなく 、実は円安で実質購買力が損なわれているという点。 そして4つ目が、人手不足や資材価格の高騰によって公共投資の執 行が遅れている上に、いわゆる「クラウディング・アウト(政府の 追加財政によって、結果的に民間投資や個人消費が抑制されてしま うこと)」の効果で、民間の建設投資が抑制されてしまっている点 です。 それぞれの点を、順を追って説明してきましょう。 よろしくお願いします。 潜在成長率の8倍も成長したから人手不足が起きた 河野:まず、前提として、私たちは日本の潜在成長率が大きく低下 していること、そして、経済のスラック(供給能力の余剰)がほと んどなくなっていることを認識すべきです。 多くのエコノミストが潜在成長率は1%弱と試算していますが、私 は0.3%に過ぎないと分析しています。しかし、2013年の実質成長率 は大盤振る舞いの追加財政や消費税の駆け込み需要の影響もあって 2.3%にもなりました。その結果、急に人手や設備が足りないという ことになった。 過去20年、総需要不足だけではなく、実は供給能力も低下してい ました。つまり、潜在成長率が0.3%しかないのに、その8倍も成長 したものだから、人手不足などが一気に顕在化したのです。 生産設備もむしろ減っているので、輸出も伸びません。2013年以 降、物価で調整すると、輸出は悪化していないものの、増えてもい ません。世界経済は2012年の終わりから回復しています。米国の景 気は昨年4月から回復していますし、中国も今年の春から持ち直して います。それでもなぜ、日本は回復しないのでしょうか。 過去20年の景気回復のパターンを振り返ると、輸出が伸びると生 産が増え、家計所得が向上して消費も回復する。そして、企業の業 績も回復し、設備投資も増えるというものでした。しかし、今回は この回復パターンの起点になるはずの輸出が伸びていません。供給 制約によって、その前提が狂っているのです。 円安でも輸出が伸びないという、政府・日銀の誤算 なるほど。 河野:これまでであれば、世界の景気が回復すれば、日本では電機 ・IT(情報技術)セクターが回復していました。しかし、今回はそ うなっていません。 その原因は、電機セクターは2000年代中頃に、過剰なストックを 国内で積み上げてしまった反省から、国内の生産能力を大幅に減ら しているからです。例えば、薄型テレビの生産能力はリーマンショ ックを経て大きく減りました。「ガラケー」と呼ばれる日本独自の 携帯電話の国内生産も、iPhoneなどスマートフォンの登場でほとん どなくなりました。部材の生産も、半導体を作らなくなったことで 減少しています。 ただし、電機セクターの生産能力の低下は、昨年の段階で既に分 かっていました。誤算だったのが、自動車セクターの生産が回復し ていないことです。北米では日本車が売れているのに、輸出が伸び ていません。日産自動車やホンダがメキシコに工場を作るなどした ことから、国内生産が落ちているからです。部品についても、中南 米から買う割合が高まっています。 「3.11」の反省と電機セクターの教訓で国内生産伸びず しかも、これほど円安が進んで企業業績が改善しているのに、国内 の生産を増強しようという機運も高まらない。これが2つ目の誤算で すね。 河野:その背景には、「3.11」の反省があります。東日本大震災後 、国内のサプライチェーンが分断されて生産に影響が及んだことか ら、部品の生産拠点を分散しようという動きが加速しました。その 結果、日本での生産は増やさず、海外生産を増やすという流れにな りました。 実質ベースで円安はプラザ合意当時の水準にあります。それほど 円安が進んでいるのに国内生産が増えないのは、政府や日銀にとっ て誤算だったでしょう。 実は、国内生産を抑制するきっかけになっているのは、欧米がバ ブルで円安も加速した2006〜2008年頃に、電機セクターが国内生産 を拡充するという誤った経営判断をした教訓があります。この教訓 が広く輸出企業に広がっており、一時的に円安になっても生産を増 強しようという機運は高まりません。 そもそも、海外に生産を移転するのは、国内で安価な労働力を調 達できなくなったからです。マクロ的に見れば、モノの生産からサ ービスへと労働力が移動しているのです。このマクロ的な流れを、 一時的な円安で変えるのは難しい。 実際、民間企業の設備投資は減価償却以下の水準でしかなく、能 力増強になっていません。2009年以降、生産ストックは減っており 、日本は構造的な問題を抱えているわけです。 円安によるインフレで実質所得が減少 3つ目の誤算、実質所得の低下についてはどう分析していますか。 河野:消費が抑制されている一因も円安にあります。名目所得は増 えているのに、円安でインフレになっているので、実質所得は昨年 後半から減っています。実質所得が減っているのは、消費増税の影 響だけではないのです。 昨年後半から消費増税の駆け込み需要で耐久財の消費が伸びる一 方で、非耐久財の消費は弱かった。非耐久財の消費が弱かったのは 、円安で実質購買力が減っていたからです。しかし、耐久財の駆け 込み需要があり、全体として見ればそれが目立たなかった。ところ が実際には、駆け込みも反動減も、1997年の消費増税の時よりも大 きかった。 冒頭で解説した通り、供給能力に余剰があるときは円安のメリッ トは出ます。円安によって輸出が伸び、生産も増えて家計も良くな るからです。しかし、今は円安でも輸出が伸びないうえに、実質所 得も減っている。円安のデメリットが目立っています。むしろ、今 の日本経済には、円安よりも円高の方がメリットが大きい。 追加緩和も財政出動も手仕舞いを検討すべき 円安が逆効果ということになると、アベノミクスそのものの前提が 揺らいでいるということにもなりませんか。 河野:アベノミクスの一番の功績は円安誘導でした。アベノミクス が始まった当初は、確かに円安のメリットはありましたが、昨年く らいからデメリットの方が大きくなってきています。 実は、これは重大な意味を持ちます。円安のデメリットが大きい ということは、円安に誘導する金融政策が日本経済にとって逆効果 をもたらすということです。「今すぐ利上げをしろ」とは言いませ んが、明らかに追加緩和はすべきではありません。異次元緩和(QQE )の手仕舞いを議論する段階に来ています。 また、財政政策の見直しも必要です。最近、民間で設備投資計画 の見直しが相次いでいます。小売企業が人手不足や資材の高騰によ って出店計画を下方修正していることなどは、その典型でしょう。 実は、この一因は、政府の公共投資が人手不足に拍車をかけてい ることにあります。政府の公共投資が労働力を抱え込んでしまって いるのです。これが、4つ目の誤算です。そのため、今、政府がやる べきことは、むしろ公共投資を抑制して抱えていた労働力を民間に 解放し、民間投資を促進することです。 消費税率10%引き上げ前に政策判断を間違うリスク 消費税率を10%に引き上げるために、財政出動によって景気を下支 えしようという動きも出ていますが。 河野:そうですね。消費税率を10%に引き上げるために、景気対策 として追加の金融緩和や財政出動を求める声が強まっています。こ れは、さらに民間投資を抑制してしまうリスクがあるため、危険で す。むしろ、アベノミクス3本の矢の1本目(金融緩和)、2本目(財 政出動)の手仕舞いを始めて、3本目の構造改革を急ぐ必要がありま す。 成長率を高めるには、潜在成長率を高めるしかありません。潜在 成長率が下がっている状況で、財政出動によって完全雇用状態とな ればインフレは加速します。そうなれば、名目賃金は上がったとし ても、実質賃金は下落してしまいます。まさに(景気悪化とインフ レが同時に進行する)スタグフレーションの状況に陥るわけです。 こうした兆候が見えてきてから政策を転換すればよいという見方 もありますが、日本は巨額の公的債務を抱えており、インフレ率が 上昇すれば財政破綻のリスクを抱え込むことになります。 マクロ政策はできるだけ早く転換すべきです。私は昨年から、大 規模な金融緩和策や財政出動には一貫して反対してきました。昨年 春から余剰供給能力がなくなっていたからです。こうした状況で追 加緩和や財政出動をするのは、マクロ経済の作法からはあり得ませ ん。 低成長時代にあった経済の仕組み作りを 潜在成長率を高めるために、何をすればいいのでしょう。 河野:アベノミクスの一番の問題は、デフレ脱却と成長が大切だと いう正論を掲げることで、解決しなければならない喫緊の課題であ る社会保障問題の解決を先延ばしにしてしまったことです。 先ほど資本ストックが全く伸びていないとお話ししましたが、資 本ストックの原資となる国民純貯蓄が、社会保障費によってほとん ど食われてしまっている状況にあります。つまり、社会保障改革を しなければ資本ストックは伸びず、潜在成長率は上がらないわけで す。 ただし、潜在成長率を高める努力をしたとしても、劇的に変化す ることはないでしょう。そもそも私たちは、低成長時代にあった経 済の仕組みを作らなければならないのです。