5131.資本主義の終焉か?



WEDGEに「「資本主義の終焉」か?」が載っている。現在の資本主義
の問題があり、それをどうするのかと考えないと意味を持たない。
昔は、社会主義や共産主義という考え方があったが、今は、まとも
な人たちには受け入れられない。

現状の資本主義の問題点は、石油価格が上昇したが、中国の製品価
格が低いので、日本が最初にデフレになり、その後、世界的なデフ
レになり始めている。

デフレにならない国は、新興国でまだ十分、自国民の賃金が先進国
に比べて安い国である。韓国もつい最近まではデフレになっていな
いが、ウォン高になり、日本と同じようなデフレ不景気になり始め
ている。

石油価格が上昇したのと比例して、農産物価格も上昇している。こ
の2つの付加価値が上昇していることが分かる。儲けが大きくなっ
たということである。

工業製品価格が上昇せずに、石油などの価格が上昇したら、原価が
上がり、原価で利益が圧迫されることは明らかである。このため、
資本家や企業家はまず、自分の収入を維持して、労働者の賃金を落
としている。または、製造を労働賃金が安い国に移すことである。

このため、貧富の格差が拡大したのである。

これを抜け出すためには、どう、付加価値が高いものを日本が作り
、世界に売り出し、かつ、その技術を開発するかということが、日
本の豊かさを増すためには必要なことである。

残念ならが、人口減少であり、長期に見て、日本が経済成長をする
ことは、無理であるが、1人当たりのGDPを増すことはできる。

この観点からすると、エネルギー産業、農業などが有望分野である
ことが分かる。

もう1つ、イノベーションがなくなってきた。このため、新興国に
追いつかれる分野が増して、その分野の製品価格は下落することに
なる。スマホなどが良い例である。

イノベーションが起きやすい分野とは、今までとは毛色が違う、取
り組んでいる人の数が少ない分野となる。

そして、その分野で、日本だけが多いというと、バイオ分野や有機
農法分野であり、この分野で、画期的な技術が出ているし、可能性
が高い。

ということは、日本がより豊かになりそうな分野は、農業分野、バ
イオ分野であろうと見るのであるが、どうであろうか?

山本さんも、日本の成長分野を示さないと、どうしていけば良いの
か、政治家も困るはずであり、処方箋を書いて欲しいものである。

そうしないと、いろいろな人の低成長の主張を批判しても、今のま
まであれば、日本は低成長のままになってしまう。

さあ、どうなりますか?


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「資本主義の終焉」? 
脱成長路線では世界を救えない
2014年09月16日(Tue)  山本隆三 (常葉大学経営学部教授)WEDGE
水野和夫の『資本主義の終焉と歴史の危機』(集英社新書)を読み
終え、最初に思い浮かべたのは、マルサスとジェボンズの2人の経済
学者だった。マルサスは18世紀末に「人口論」を著し、人口の増加
のペースは食料生産のそれを上回り、食料確保のため実質所得は上
昇しないと予測した。ジェボンズは、19世紀に著書「石炭問題」に
より、やがて石炭を使い果たすために工業は減速すると予想した。
 経済学者としては偉大であった2人だが、この予測の結果は言うま
でもないだろう。マルサスの時代、地球の人口は8億人程度だった。
石油と化学肥料、農業機械という技術の進歩が人口の増加を支える
食料生産を可能にし、地球の人口は72億人に達している。石炭の枯
渇によるエネルギー供給の問題については、ジェボンズが考えもし
ていなかった石油、天然ガス、原子力などの登場があったと言えば
十分だろう。
 水野もマルサスやジェボンズと同じような勘違いをしているので
はないか。水野は、『100年デフレ』(日本経済新聞社)『人々はな
ぜグローバル経済の本質を見誤るのか』(日本経済新聞出版社)な
どの著書以来、同じような主張をしている。簡単に言えば、中国の
生産過剰などにより利潤が低下し資本主義を続けられないほどの問
題が生じるが、次の制度がどんなものか分からないので、経済成長
をする必要はないとの立場だ。何人かのエコノミストと呼ばれる人
たちが水野の本を推薦していることから同様の意見の人は多いよう
だが、その主張の前提は正しいのだろうか。

「近代化のひずみ」「資本主義の終わり」の根拠は?
 枝野幸男は、その著書『叩かれても言わねばならないこと。』(
東洋経済新報社)で、「日本は近代化の限界に直面している。地震
、津波、原発事故により、最も激烈なかたちでひずみや矛盾を突き
付けられた」と書き、日本で近代化の限界が他の国より早く出たの
は、「米国、フランスなどは移民を入れ、国内に常に貧しい層を抱
え、それを成長の糧にすることができたからだ」と主張している。
日本も2000万人の貧困層を抱えているし、移民を入れることで「近
代化のひずみ」が先送りされるのであれば、日本も移民を入れるべ
きとなるが、それが枝野の考えなのだろうか。
 枝野の主張でよくわからない点は他にもある。「中国、インドな
どの新興国が追い上げるので、工業製品の輸出は望めなくなる。代
わりに大きな隙間産業を狙うべき」として、盆栽をあげている。枝
野の選挙区が盆栽の産地らしい。日本の輸出額は、リーマンショッ
クの影響を受け減少していたが、それでも60兆円程度あった。主体
は輸出額10兆円の自動車などだ。この輸出規模の一部を盆栽で補え
ると経済産業大臣が考えていたというのは、悪い冗談だ。
 枝野の著書を読んだ時に、システムのひずみという発想が枝野と
似ていると思ったのは、水野も著書のなかで何度も言及している米
国の歴史、社会学者ウォーラーステインだ。水野の主張のかなりの
部分も、ウォーラーステインの著書から来ている。枝野も読んでい
るのではないか。例えば、『史的システムとしての資本主義』(岩
波現代選書)では、水野の主張と同じく「資本は自己増殖を第一の
目的」「世界人口の15%の真の中間層と残りの85%の人びととの格
差がどんどんひらいている」「史的資本主義を維持するか、崩壊し
てゆくのを傍観……」という記述がある。
 水野はウォーラーステインが40年前に主張していた資本主義の終
わりを最近の経済事象で説明しようとしているが、その試みは成功
しているとは言えない。水野の主張の主な根拠をみてみたい。
「金利ゼロ=利潤率ゼロ」なのか
 水野は、今までもエネルギーコストが上がり、過剰設備があるか
ら「利潤率が下がっている」と主張していたが、今回の著書では「
金利ゼロ=利潤率ゼロ」と本の帯に書いている。金利率がゼロなら
ば利潤率もゼロになるのだろうか。ファイナンス理論からすれば、
間違っている。
 水野の説明はこうだ「資本利潤率はROA(使用総資本利益率)だが、
ROAは借入コストとROE(株主資本利益率)の加重平均だ。総資本に
占める割合は負債の方が大きいので、ROAは国債利回りに連動する」。
まずROA、利益率と資本コストが混同されている。企業は投資に際し
、ハードルレートと呼ばれる最低限必要とされる利益率を決める必
要があるが、そのレートは資本コストに事業の様々なリスクを加味
したうえで決められる。資本コストの計算は外部資金(負債)の調
達金利と株主が要求する自己資本に対する収益率を加重平均したも
のだ。例えば、自己資本比率30%の企業で外部資金を金利3%の銀行
融資に依存し、自己資本分の必要利益率が20%であれば、資本コス
トは次の式で計算される。
 70% x 3% + 30% x 20% = 8.1% 
 水野は外部資金の比率が高いので、利潤は外部資金に連動すると
しているが、それは正しくない。連動するのは資本コストであり、
利潤ではない。しかも、外部資金の比率が高くなれば、ファイナン
スのリスクが高くなるために、自己資本に対し株主が要求する利益
率は上昇するので、結果として資本コストは上がり、連動も弱まる。
金利率ゼロだから収益もゼロになるというのは、ファイナンス理論
からすると飛躍がある。
 金利率はゼロではないし、ゼロに近くても、収益がゼロに近づく
訳ではない。もし、詳しく知りたい方がおられれば、ファイナンス
理論の基礎を解説している私の著者『企業の意思決定のためのやさ
しい数学』(講談社プラスアルファ新書)を中古でも手にいれてお
読み戴きたい。10年以上前の新書だが、ファイナンス理論の基礎に
変化はない。
 常識で考えても、企業が利潤ゼロの投資を行う筈はない。仮に投
資を行う企業がなくなれば、水野が懸念する過剰生産設備はあっと
いう間に解消する。金利ゼロを利潤ゼロとし、資本主義の終焉に結
び付けるのは無理だ。

中国の影響を受け日本だけデフレに?
 速水優元日銀総裁は、デフレはグローバル化によるものと在任中
に述べたことがある。総裁がそう考えていたのであれば、金融緩和
が十分に行われずデフレが悪化したのも理解できるが、水野も速水
元総裁と同じく、グローバル化の影響を受けデフレが進むという立
場だ。
 日本だけ世界に先駆けデフレになったのは、過剰な生産設備を作
り出した中国の影響をいち早く受けたからだと主張している。日本
の貿易相手国として2007年から中国は米国に代わり1位になったから
、この主張は正しいと思った人も多いかもしれない。しかし、世界
には日本よりもっと中国の影響を受けている国は多くある。表はい
くつかの国の国内総生産(GDP)と中国からの輸入額の比率を示した
ものだ。韓国、ハンガリーなどは歴史的にも中国からの輸入比率が
高いが、デフレにはなっていない。日本だけがデフレになった理由
はグローバル化ではないし、世界は生産過剰、需要不足とも言えな
い。そもそも、中央、地方政府の影響により多くの投資が行われる
中国経済は、水野が終焉するという資本主義に含まれるのだろうか。
 日本がデフレになったのは、財政政策、金融政策を誤ったことに
加え、過去20年間の資源配分が適切な形ではなく、産業構造がデフ
レを引き起こすように変化したことだ。『「里山資本主義」では持
続可能な社会をつくれない』でも簡単に説明したが、一人当たり付
加価値額の高い分野から低い分野への労働人口の移動があったこと
に加え、生産性の向上が実現しなかったことが、付加価値額、即ち
GDPの低下を引き起こし、消費、即ち需要不足を引き起こしたという
ことだ。
グローバル化の波に乗れなかった日本
 では、なぜGDPを引き下げる産業構造の変化が起きたのだろうか。
経済が発展するに連れ、第二次産業が減り、サービス業が増えるか
ら、日本では当然製造業からサービス業への変化が起こるのだろう
か。そうだとすれば、経済が復活するためには非製造業の生産性の
向上策が必要になるが、問題はそう簡単ではない。
 図は、世界の輸出額に占める日本の財の輸出額のシェアを示して
いる。小泉政権時代日本は輸出が好調で経済が持ち直したことがあ
った。その2000年代前半でも日本の輸出のシェアは低下している。
日本の輸出の伸び以上に世界の輸出は伸びていたのだ。エネルギー
価格上昇の影響を取り除くために、先進国のなかでの日本のシェア
も図には示しているが、やはり波を描きながら低下している。
 日本がデフレに陥って以降、グローバル化は大きく進んだが、日
本は波には乗れなかったことを図は示している。この間、米国、ド
イツの製造業の付加価値額は伸びている。製造業が伸びていない英
国では、金融と通信部門の付加価値額が飛躍的に増加し、経済も成
長した。そんななかで、日本の製造業が付加価値額を伸ばせず、輸
出も相対的に減少した理由の一つは、デフレ経済下で製造業がキャ
ッシュフローを返済に回し、研究開発費を削減したため、他国との
技術競争に敗れたためではないだろうか。
21世紀のジェボンズになってはいけない
 エネルギー・環境技術に関する経済産業省系補助金の審査委員を
務めているので企業からの申請書を見る機会があるが、日本企業の
技術が、汎用品では韓国、中国の追い上げを受け、高度な分野では
欧米に遅れてきているのではないかと不安を覚えている。もちろん
、エネルギー・環境の狭い分野での話だが、日本の製造業の相対的
な落ち込みをみると、他の分野でも同様のことが起こっているので
はないだろうか。エネルギー・環境分野では、次のようなことがあ
る。
 数カ月前に、日本企業が石炭ガス化複合発電設備(IGCC)と二酸
化炭素補足貯留設備(CCS)を、世界で初めて米国で建設すると発表
した。しかし、IGCCとCCSの組み合わせは、既に2010年から米国で工
事が開始されており、来年運転開始予定だ。CCSでは英国の事業に欧
州委員会が3000万ユーロの支援を決めた。世界初どころか欧米の後
を日本が追いかけている。
 これから有望とされる洋上風力設備の世界シェアの80%以上は、
ドイツのシーメンスが持っており、残りも欧州メーカだ。洋上風力
から電気を地上に送る直流高圧の世界のシェアの80%はABBなど欧州
の3社が持っている。
 米国政府の援助により、トウモロコシの廃棄物を原料にバイオデ
ィーゼルを製造する商業プラントが、製造を開始した。年間の生産
量は2500万ガロン(約10万キロリットル)だ。
 太陽光パネルの生産量では、中国メーカが世界を圧倒している。
日本企業の20倍以上の生産量だ。日本企業が余剰資金を研究開発投
資に使わずに返済に充てている間にも、欧米、新興国の技術開発は
進んでいたということだ。エネルギーの分野でも随分多くの技術が
開発された。
 水野は、エネルギーコストの上昇を懸念し、「シェール革命はた
かだか100年の話」としているが、それでは21世紀のジェボンズにな
る。100年あれば、エネルギー関係の新技術が多く開発され、化石燃
料依存はなくなるだろう。電気自動車、水素自動車が主になり、発
電も原子力と再生可能エネルギーになるだろう。化石燃料の使用は
激減するに違いない。

経済成長はできないのか、不要なのか?
 欧州がリーマンショック後の不況から立ち直り始めたところで、
ロシアの地政学の問題により景気が再度低迷し始めた。しかし、景
気低迷の状態を資本主義の終焉と呼ぶのは無茶だ。16世紀と21世紀
に似通った点がいくつかあるから、資本主義の終焉というのもこじ
つけに近い。人口も、産業も、エネルギーも、制度もなにもかも16
世紀とは異なる。歴史に学ぶことは重要だ。しかし、16世紀の新世
界発見と、今の市場を同一視し、資本主義には地理的な周辺、辺境
が必要と言われると、一体いつの話をしているのかと首を捻らざる
を得ない。
 世界には自給自足経済を中心とし一日1ドル以下で生活している人
が10億人以上いる。2ドル以下となると25億人、3人に1人だ。この人
達の生活を向上させる必要がある。世界には辺境がもうなく、経済
成長は不要というのは、持てる人の理論ではないか。
 水野は朝日新聞記者・近藤康太郎との対談『成長のない社会でわ
たしたちはいかに生きていくべきか』(徳間書店)のなかで、「デ
ジカメが3台あり、もう要らない」と発言しているが、世界にはデジ
カメどころか十分な食料を買えない人が多くいることを考えるべき
だ。5,6年前のことだが、インドに滞在している時に読んだロー
カル紙に、「生まれてから一度も満腹感を味わったことがない人の
比率がインドでは約8割」とのアンケート結果があり、愕然としたこ
とがある。
 私たちは、まだ経済成長を必要とする社会に住んでいる。気候変
動、エネルギー・環境問題を考えながら、持続可能な発展を求める
べきだ。市場が格差を拡大しているのであれば、再配分政策を通し
是正を図るのが資本主義の政策ではないのか。中国の過剰設備、歴
史を理由に資本主義の終焉を主張し、脱経済成長を主張するのが正
しいとは思えない。
 日本も欧米諸国に負けない技術開発に力を入れ、再度製造業を中
心とした経済成長を図る一方、非製造業の生産性向上を考えるべき
だ。蓄電装置、原子力、バイオ燃料、水素自動車など、これからの
技術はエネルギー分野にも多くある。




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