5128.ロシアから見た中東情勢



イスラム国に対するロシアの見方を知りたくて、ロシア科学アカデ
ミー、中東紛争分析センタ長のアレキサンダー・シュミリン博士の
講演を聞きに昨日は溜池の日本財団に行ってきた。
(講演)
中東地域では、大国の関与もあり、危機的な状況になっている。特
にシリアの危機は、イスラム国の隆興で危機になり、見方が大きく
分裂している。

シリア国民がアサド独裁政権に反対し立ち上がったという見方と、
シリア政府が反政府主義者、宗教テロリストとの戦いをしていると
いう見方がある。もう1つが、地政学的な見方で、ロシアと米国の
代理戦争という見方である。他の外部の国から仕掛けられたという
ことである。

ナラティブ(narrative、物語)が重要であり、それぞれが違うナラ
ティブで言っている。このため、見方が違うので、解決の枠組みも
多様になっている。そして、時間が経つとそれぞれのプレーヤの見
方も変化している。

この中東には多くの紛争があった。最初にイスラエルとアラブの対
立、そして、イランとイラクの対立、リビアとエジプトの対立など
があり、それに大国が関与していた。ロシアと米国である。
もう1つが、テロリズム、シーア派対スンニ派の戦いなどがあった。

イラクがクウェートに侵攻して、国家間の紛争の時代になった。
穏健国家対テロ国家、シーア国家対スンニ国家などである。

3つの対立がある。1.テロ組織がイスラム国家に対立する構図で
、ハマス、ヒズボラ、アルカイダなどである。2.内乱で地域紛争
になったシリアやリビアなど。3.スンニ派とシーア派の国内での
対立で、イエメンやバーレーンなど
である。

このうち、2は「アラブの春」によって生み出された紛争である。
この見方も、大衆の独裁者に対する反乱という見方と、欧米が背後
で糸を引いていたという陰謀論がある。反乱というのは民主国家の
見方であり、陰謀論は独裁国家から見た見方である。

このため、シリア政府を悪者という見方と正義という見方に分かれ
る。

シリアの時間的な流れは、1つに国民の蜂起に始まり、2つに反政
府軍ができたが、3つにイスラム急進派がイラクから来たのである。

シリアではアサドと穏健派とジハードの3つの組織が今、戦ってい
る。

この時にシリアで、化学兵器問題が出てきて、ロシアの介入でシリ
ア政府と国連、米国は交渉して、破棄することになった。

しかし、この交渉をスンニ派諸国は拒否した。この問題で交渉する
ことは、シリア政府を正当化してしまうことになるからである。ア
サド政権を存続させてしまうことになる。

この問題で、米国とスンニ派諸国は、大きな亀裂ができた。スンニ
派諸国は、オバマ米国は弱体化したと見た。このため、スンニ派諸
国は、モスクワに向かった。

そして、ウクライナ危機が出て、世界の政治体制が変化した。

そして、イスラム国がカリフ制を宣言した。今までの国家体制を覆
すので大きな危機と認識されたのである。

このように、当初の国民の反乱が、時間が経つと周辺問題の方が大
きくなってしまったのである。

アサド政権は存続している。背景は、小数派民族の支持、国家体制
が健在、軍が健全、宗教指導者が支持、近隣諸国と取引するスンニ
派商人が支持したことのためである。

このため、シリア紛争は、その様相を変化させている。プーチンが
8月22日にニューヨーク・タイムズ紙に言った「アサドとイスラ
ム国が対立した戦いになる」という見方が正しいことになってきた。

このため、スンニ派サウジのバンダル皇太子などがモスクワに来て
、プーチンと対話している。エジプトのシージ大統領、イスラエル
のネタニエフ首相も来て会話している。このように、ロシアが中東
に影響力があるということで、来ているのである。

この動きで、米国をイラつかせるためであると見ている。米国は、
今までアルカイダに対して、その絶滅を目指していた。そして、ビ
ン・ラディンを殺して勝ったとしていた。

アルカイダは、イスラム教の十字軍であり、世界的にイスラム教を
保護し、ジハードすることが目標である。グローバルな動きをして
いる。各地にアルカイダのグループがある。コーカサスにもアルカ
イダのグループがある。そして、それぞれのグループは自主性を持
っている。

しかし、イスラム国は、アルカイダとは違う。その目標は、国を作
ることなので、近くの敵を叩くことである。アルカイダが世界を敵
であるのとは違う。

イスラム国の敵は、シーア派であり、アサドやバクダット政権であ
る。それとスンニ派穏健派である。穏健派を戦いの障害と見ている。

事実、イラクのスンニ派住民は、イスラム国、アルカイダに対して
蜂起して、イラクから追い出した。このため、シリアに逃げたのが
、また、イラクに戻ったのである。

6月29日にカリフ制を宣言した。1924年トルコのアタルテェ
クがカリフ制国家を止めるという宣言したが、それが復活したので
ある。中東の国は現在、宗教と国が分離している。このため、欧米
の植民地されたのであると見ている。

このため、一世紀ぶりに名誉を取り戻したということになる。

このため、イスラム国の外部の敵は、米国ではない。米国はアサド
を倒すので、味方ではないが敵ではない。米ジャーナリスト2人を
殺したのは、空爆を止めるためである。

イスラム国の第1の敵はロシアである。その理由は、アサドをサポ
ートしていることである。プーチン大統領が第1の敵である。

今、イスラム教の守護者は、サウジアラビア、アルカイダであった
が、カリフ制の復活で、イスラム国が注目されてきた。このため、
欧米、ロシアからムスリムがイスラム国に押しかけている。

もう1つが、資金が集まってくる。湾岸諸国からファンドがイスラ
ム国に来ている。このファンドは非公式であるが、非常に大きい。
真のムスリムは、利益の5%を喜捨するのが義務である。この金を
もらうことが目標であり、イスラム教の守護者の中心を狙っている。

オバマは湾岸諸国に譲歩した。中東地域に責任を負うとしてスンニ
派諸国の側についた。この提案をサウジは受け入れた。

このため、有志連合の中心は、サウジと米国になる。

しかし、米国とロシアは力相撲をして、競争的な立場にある。
(以上)

コーディネーターの保坂さんから、コメントで「ロシアは、中東で
の役割を果たす準備ができていない。」とシュミリン博士が別の場
で言っていたと。6月29日はラマダンの第1日目であり、かつ1916
年のサイクス・ピコ協定も破ることになった。と。

Q1:なぜ、有志連合にロシアは参加しないのか?
A1:米ケリーは、ウクライナ問題を棚上げするので、ロシアも参加し
てほしいと誘いがあったが、ロシアは連合に入らない。空爆をシリ
アへにも行うとしたので、これをロシアは受け入れることができな
い。米国は国連を通じてアサドと協議している。ウクライナ危機は
関係ない。しかし、ロシアもイスラム国の脅威は理解している。

Q2:イスラム国は、ロシアとの同盟関係で中国も敵にしているのか?
A2:ロシアと中国には同盟関係はない。ウクライナ問題でも中国は味
方をしてくれなかった。中国はウイグルでアルカイダに脅威を感じ
るが、イスラム国ではないし、イスラム国も中国を敵としていない。

中国も中東に対して、経済関係しかない。それに比べて、ロシアは
中東に武器などを供給してポジションがある。

Q3:カリフ制で、トルコの復権を目指しているのか?
A3:イスラム国は、トルコとは関係ない。カリフ制は宗教的な意味で
ある。カリフ制は、昔スペインから中央アジアまで広がっていた。
現在、サウジもカリフ制を受け入れていない。民族国家としている。
カリフ制では、国境を認めていない。このためであると見る。

イスラム国の理論本でもトルコを名指ししていない。アバース朝を
カリフ制の見本としているので、彼らはアバース朝の後継者と見て
いるようである。

Q4:イスラム国ができることで、クルドは独立して、国境が変化する
のか?
A4:イスラム国ができることで変化しているが、その後はわからない。
しかし、このイスラム国を無くすことであるので、どうなるか?

Q5:文明の衝突であり、有志連合に参加するべきではないのか?
A5:受け入れるべきかもしれない。米オバマと露プーチンにウクライ
ナ危機の相互作用が働いている可能性はある。

ロシアでは、有志連合の参加は、罠という見方もある。しかし協力
していくと思うが。


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イランも「暗黙の同意」か=米のシリア空爆作戦−ロシア専門家
 来日中のロシア科学アカデミーのアレクサンドル・シュミリン中
東紛争分析センター長は12日、都内で講演し、オバマ米大統領が
表明したシリア領内のイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」
への空爆拡大について、シリアのアサド政権の後ろ盾となっている
イランも「暗黙の同意」を与えているとの見方を明らかにした。
 米国は6月、イラク危機をめぐって国交のないイランとも協議。
シュミリン氏はこうした協議が水面下で続いているとした上で、「
米の空爆拡大を支持するサウジアラビアなどスンニ派諸国との関係
で極めて敏感な問題であり、イランの同意が公表されることはない
が、有志連合の非公式の部分となっている」と指摘した。
(2014/09/12-16:20)
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安保理決議なしは「侵略行為」 シリア空爆でロシア
2014.9.12 08:39
 ロシア外務省のルカシェビッチ情報局長は11日、国連安全保障
理事会決議なしに米国が過激派「イスラム国」打倒に向け空爆をシ
リア領内に拡大した場合は「侵略行為であり重大な国際法違反とな
るだろう」と表明した。
 また米国が、イスラム過激派と対立するイラク政府を助けながら
、同時にシリアの反体制派武装組織を支援することは「二重基準」
だと批判した。米国が支援するシリア反体制派はイスラム国と「大
して変わらない」とも述べた。
 ロシアはシリアのアサド政権を支持しており、米国によるシリア
空爆に反対する考えを明確にした。(共同)



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