5096.ウクライナから中東へ



米軍が再度、中東に戻ってきた。ISISの攻撃でクルド人が危機的な
状態になったことによる。ロシアはイランの味方であり、米軍の攻
撃を歓迎している。そして、ウクライナ東部からロシア特殊部隊は
撤退のようである。検討しよう。  津田より

0.ロシア・ツディから見える世界
ロシア・ツディ誌の記事が考察に有効である。最後にリンクがある
。イランとロシアは、立場が似ている。欧米から制裁を受けて、経
済は麻痺しているか、その恐れがある。このイランとロシアが連携
して対応するという。

「Sanctioned Russia and Iran sign 5-yr deal to ease Western 
pressure」で、ロシアの工業製品や穀物をイランが買い、イランの
原油をロシアが世界に売る。もちろん、パイプラインがあるので、
欧米のイラン原油積出を公海上で制限する処置も取れないし、売る
欧州では、それをロシアの原油かイランの原油と区別できない。

「Russia, China agree more trade currency swaps to bypass 
dollar」では、ロシアへの制裁で、ロシアは生き残りをかけて、欧
米以外の国との経済関係を構築している。

そして、中国とは、ドルを介しない貿易を増やし、両通貨のスワッ
プを増やす方向で、両中央銀行は協定を結んだ。今までは、中露貿
易の75%がドルを介していたが、それをやめる方向である。

ドル経済圏を脱して、中ロが協力して、脱ドル経済圏を作るという
が、人民元は国際取引を解放していないので、当然、ルーブルを中
心にした経済圏をロシアは狙っていることになる。

ロシアは手持ちの米国債を積極的に売っているので、米国はその米
国債をFRBが買っている。中国も追加で米国債を買わなくなり、日本
しか米国債を買っていない。

このため、米国は米国債の売り先が徐々に無くなり、財政赤字をそ
のままにはできなくなっている。このため、軍事費を大幅に落とす
ことになる。

このような状況に、現在の世界の経済状態がある。米国の経済的な
影響力も軍事的な影響力と同様に大きく落ちているのだ。

中露と新興国の経済力が上がり、特に中国の経済力により、米国は
同盟国との経済的な制裁も効かなくなる方向である。中国はアルゼ
ンチンともスワップ協定を結び、アルゼンチンは米国を国際法廷に
訴えることができるのである。しかし、米国は裁判を拒否したと
「US refuses to recognize UN court jurisdiction on Argentina’s 
debt」で述べている。

経済面での米国は、今までほどには大きくなく、米国の金融支配力
は大きく落ちている。中国とロシアがドル決済を自国通貨決済にし
たら、ドルの基軸通貨は揺らぐことになる。米国の衰退は加速して
いく。アルゼンチン国債を不当なデフォルトにしたことが、米国の
金融力を大きく毀損することがわかるはずである。

このため、中国を中心に開発銀行を新興国で作り、米国の支配力を
削ぐことが有効性を帯びている。

欧米の報道機関の記事を読んでいるだけではわからない世界の動き
が、見えてくる。

1.ウクライナ東部をどうするか?
ウクライナ軍が同国東部で攻勢を強め、親ロシア派が支配する都市
を制圧する構えを見せる。一方、ロシアのプーチン大統領は、ウク
ライナへの侵攻の準備とばかりに国境付近に約2万人の兵士を集結
させた。

しかし、人道目的の軍派遣を国連に問うたが拒否され、赤十字に持
ちかけたが、ここでも拒否されてしまった。この状況でウクライナ
に軍を派遣したら、それは世界から侵略を非難されて、欧州が石油
や天然ガスの取引を制裁項目に入れられる可能性がある。これが現
在のロシア経済にとっては命取りである。

どうもドイツのメルケル首相が、プーチンに電話して脅したようで
ある。

このため、ウクライナとの国境付近で実施していた軍事演習を終了
させ、ロシアのパトルシェフ安全保障会議書記は、ウクライナ情勢
に関して「ロシアは早期の緊張緩和に向けてあらゆる努力を継続す
る」との立場を明らかにした。

ウクライナ東部「ドネツク人民共和国」首相アレクサンドル・ボロ
ダイ氏が辞任した。ボロダイ氏はロシア国籍で、今年5月にロシア
下院の仲介で共和国に合流し、首相に就任した。

「Donetsk militia ready for ceasefire to prevent further 
humanitarian catastrophe」によると、後任には、アレクサンドル
・ザハルチェンコ氏が就任し、すぐに、戦闘を停戦させて、ドネツ
クでの市街戦をしないと宣言した。多くの市民がいて、電気も水道
もなくなっている。多くの住民がロシアに逃れているという。

しかし、武装集団は、ボロダイ氏の辞任情報を否定しており、武装
集団内で混乱が起きている可能性がある。特にロシア特殊部隊は、
武装解除されて、かつロシア国籍であることを暴かれると、ロシア
陰謀説を証明したことになる。このため、どう、このロシア特殊兵
を逃がすかが重要になっているようである。

2.中東での戦闘へ
米国がISISに対して、空爆を行うことになり、ケリー米国務長官と
ロシアのラブロフ外相は9日、イラク情勢などをめぐり電話会談し
、長官は米軍によるイスラム過激派「イスラム国」への空爆に理解
を求めたもようだ。

ロシア外務省は「イスラム国と戦うイラク政府を支援する立場で米
ロ双方が一致した」「(会談で)国際社会が二重基準なく対テロで
協調する重要性が確認された」と声明を発表。ラブロフ外相は、単
独で軍事行動に踏み切った米国に慎重な対応を促したとみられる。

ロシアは米国との紛争であるウクライナ東部を捨てて、イランが求
めていたISISへの空爆を米国が行うことをロシアも求めて、中東の
石油を得ることを優先したようである。

ロシアは米国だけが攻撃したのでは、石油利権が得られないので、
ロシアも中東の戦争に参入する可能性が高い。ISISに対して、ロシ
アも参戦して、それを打ち負かした後、そのままパレスチナ紛争に
向かう可能性がある。

ナショナル・インタエスト誌「Palestine's ICC Threat: Pluses and
 Minuses for Mahmoud Abbas」によると、国際刑事裁判所にアバス
がイスラエルを訴えることになり、今回のガザ攻撃は犯罪となる可
能性が高い。アバスは、インティファーダなどの武力を仕掛けるこ
とはないが、世界的に評判がよく、そのアバスが国際刑事裁判所に
訴えると、イスラエルには不利な結果になる可能性があるようだ。

イスラルに対して、西岸でもインティファーダで投石する住民もい
て、その住民をイスラエル兵は狙撃している。このようなことが繰
り返すと、イスラエルは犯罪行為を拡大していることになり、シリ
アやヒズボラ、イランなどの攻撃を正当化させることになる。もち
ろん、イランの後ろにはロシアがいる。

ロシアが中東に出てきた時に、イスラエルは要注意である。黙示録
によると、最後の審判はイスラエルから始まるからである。

さあ、どうなりますか?


参考資料:
Donetsk militia ready for ceasefire to prevent further humanitarian catastrophe
http://rt.com/news/179212-ukraine-militia-ready-ceasefire/

Russia, China agree more trade currency swaps to bypass dollar
http://rt.com/business/179032-currency-swap-russia-china/

Sanctioned Russia and Iran sign 5-yr deal to ease Western pressure
http://rt.com/business/178316-russia-iran-oil-deal-sanctions/

US refuses to recognize UN court jurisdiction on Argentina’s debt
http://rt.com/news/179228-argentina-us-un-debt/

Palestine's ICC Threat: Pluses and Minuses for Mahmoud Abbas
http://nationalinterest.org/blog/the-buzz/palestines-icc-threat-pluses-minuses-mahmoud-abbas-11042

5095.ロシアの攻略の仕方
http://www.asahi-net.or.jp/~vb7y-td/260809.htm


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イラク空爆めぐり協議=互いに「理解」求め合う−米ロ外相
 【モスクワ時事】ケリー米国務長官とロシアのラブロフ外相は9
日、イラク情勢などをめぐり電話会談し、長官は米軍によるイスラ
ム過激派「イスラム国」への空爆に理解を求めたもようだ。米ロ外
相の協議は8日の空爆後初めて。
 ロシア外務省は「イスラム国と戦うイラク政府を支援する立場で
米ロ双方が一致した」と声明を発表。ラブロフ外相は、単独で軍事
行動に踏み切った米国に慎重な対応を促したとみられる。
 また、声明は「(会談で)国際社会が二重基準なく対テロで協調
する重要性が確認された」と強調した。シリアでは、イスラム国は
反アサド派として内戦に加わっているが、米国もその反アサド派を
支えている矛盾をラブロフ外相は会談でけん制した可能性がある。
(2014/08/10-05:38)
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「緊張緩和に向け努力」=ウクライナ情勢でロシア高官
 【モスクワ時事】ロシアのパトルシェフ安全保障会議書記は、8
日配信のロシア通信のインタビューで、ウクライナ情勢に関して「
ロシアは早期の緊張緩和に向けてあらゆる努力を継続する」との立
場を明らかにした。(2014/08/09-07:44)
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ロシア、ウクライナ国境付近の軍事演習終了
2014年 08月 9日 07:42 JST
[モスクワ 8日 ロイター] - ロシア国防省は8日夜、ウクライ
ナとの国境付近で実施していた軍事演習を終了したことを明らかに
した。インタファクス通信が報じた。
インタファクスによると、国防省は「演習に参加していた軍機はそ
れぞれの基地に帰還する。対空ミサイル部隊も機材を通常配備され
ている場所に向け搬送を開始した」としている。
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イラク空爆、終了日程決めていない=米大統領報道官
2014年 08月 9日 05:12 JST
[ワシントン 8日 ロイター] - オバマ米大統領は、イラク北部
の過激派「イスラム国」に対する空爆を終了する具体的な日程は決
めていない。アーネスト報道官が8日、明らかにした。
同報道官は記者団に対し、「オバマ大統領は(空爆の)終了に関す
る特定の日程は示していない」とし、状況は現地の治安情勢次第と
なると述べた。
米軍はこの日、イラク北部に展開しているイスラム過激派組織「イ
スラム国」に対する限定的な空爆を開始。米軍によるイラクでの軍
事行動は2011年末の駐留軍撤退後、初めてとなる。
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ロシア当局幹部「緊張緩和へ努力継続」、株・ルーブル上昇
2014年 08月 9日 00:30 JST
[モスクワ 8日 ロイター] - ロシアのパトルシェフ安全保障会
議書記は、同国がウクライナ危機の緊張緩和に向けた努力を続ける
方針を示した。国営ロシア通信(RIA)が8日、同氏のインタビ
ュー内容を報じた。
これを受け、同日のロシア株式市場は上昇した。1207GMT(
日本時間午後9時07分)時点で、ドル建てのRTS指数.IRTSが2
%上昇した。ルーブルも値上がりした。
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ロシア国籍の「ドネツク人民共和国首相」が辞任
2014年08月08日 11時08分Yomiuri Shimbun
 【キエフ=上杉洋司】ウクライナ東部で一方的に「独立」を宣言
した「ドネツク人民共和国」の首相を名乗るアレクサンドル・ボロ
ダイ氏が辞任したことが7日、分かった。
 同共和国のツイッターが伝えた。後任には、アレクサンドル・ザ
ハルチェンコ氏が就任するという。タス通信によると、同氏は東部
ハリコフを拠点とするグループ「オプロート」のリーダー。ボロダ
イ氏は副首相に就任するという。
 共和国幹部によると、ボロダイ氏はロシア国籍で、今年5月にロ
シア下院の仲介で共和国に合流し、首相に就任した。武装集団の公
式通信社とされる「ノボロシア」は当初、ボロダイ氏の辞任情報を
否定しており、武装集団内で混乱が起きている可能性がある。
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プーチン大統領に逆転勝ちはあるのだろうか。
大西宏2014年08月07日 13:38BLOGOS
ウクライナをめぐって、欧米とロシアの制裁合戦が始まりました。
欧米が7月29日に追加したロシアへの懲罰的な制裁に対して、プーチ
ン大統領は報復として、食料輸入を制限することを発表しました。
これには日本も含まれるのでしょう。ウクライナ問題は、もはやウ
クライナ内部の戦闘よりも、欧米とロシアの制裁合戦に焦点が移っ
てきたように見えます。
しかし、ロシアが、どれだけ欧米に対しての制裁のカードを切れる
のかはかなり疑問です。欧米からのロシア制裁は、ロシアとの関係
が深いヨーロッパ経済にとってはマイナスになって帰ってくるとし
ても、どう考えてもロシア経済への影響のほうが大きいことはいう
までもありません。
欧米からの制裁にまず悲鳴をあげたのが、ロシアの旅行会社や航空
会社のようです。ルーブルが下落してしまったために、旅行代理店
が海外の航空会社に料金を支払えない状態となり、連鎖倒産が起こ
ったり、またロシアの格安航空会社「ドブロリョート」は、制裁で
航空機リース契約を解除させられ、四日から運航の休止に追い込ま
れています。
ロシア国民 制裁に悲鳴 旅行会社 相次ぎ倒産:東京新聞:
しかし、ヨーロッパへの天然ガス輸出に制裁が加えられない限り、
こういった直接的な打撃でロシア経済が崩壊するということはない
でしょうが、ロシアへの制裁は、じわじわとロシア経済の基礎体力
を削いでいくことになってきます。すでに、海外、とくにヨーロッ
パからのロシアへの投資がストップするだけでなく、資本の引き上
げが進んできているようです。
欧米の経済制裁で疲弊が進むロシア経済。落とし所の探り合いが続
く | ニュースの教科書
オバマ大統領は6日の会見で、1000億〜2000億ドル(約10兆〜20兆
円)の資本がロシアから逃避し、ロシア経済は「急停止」したとい
う認識を示しています。
米大統領、ロシア経済「制裁で10兆〜20兆円の資本逃避」:日本経済新聞
なせ資本流出がロシアにとって致命的になってくるのかですが、ソ
連が崩壊したのは経済破綻からでした。そこからロシア経済が立ち
直ってきたのは、自力というよりは、欧州からロシアへの投資があ
ったからです。天然ガスなどについても、欧州資本や欧州からの技
術がなければいまでも新規の開発ができません。産業の近代化も欧
州資本がなければ進みません。
ロシアからの対抗策といえば、欧州航空会社のシベリア飛行禁止を
ちらつかせていますが決定打になるのでしょうか。その効果のほど
は怪しいと感じます。
天然ガスの輸出を止めることは、欧州にとっては大きな打撃になり
ますが、同時にロシア経済を支える主要輸出産業なので、それはで
きません。欧州向けの天然ガス輸出を中国に切り替えれば、待って
いるのは価格の下落です。
しかしプーチン大統領が欧米から大きな妥協を勝ち取らなければ、
ロシア国内での支持を失ってしまいます。おそらく経済打撃が深ま
れば深まるほど、ナショナリズムが高まってくることも考えられ、
それが国内からの強い圧力となってきます。
引くに引けないプーチン大統領は、エコノミストが指摘するように
痛みを覚悟し、対抗を続けるように見えますが、最悪は、プーチン
大統領が北朝鮮にならって、瀬戸際外交をエスカレートさせること
です。もしかすると、その可能性のほうが高いのかもしれません。
ウクライナ国境周辺のロシア軍を増強したこともそのひとつかも知
れず、軍の暴走が懸念されるところです。
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ウクライナ危機、「第2のグルジア」を危惧する声
2014.08.08(金)  Financial Times
(2014年8月7日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
2008年8月7日の午後、当時グルジア大統領だったミハイル・サーカ
シビリ氏は、分離派の南オセチア自治州の州都ツヒンバリを砲撃す
ることを含め、グルジア軍に南オセチアの支配権を奪い返すよう命
じた。
 数時間のうちに、ロシア軍――南オセチアとの国境地域で軍事演
習を行っていた――がカフカス山脈の下のロキトンネルを通ってな
だれ込み、ロシアとグルジアの5日間の戦争が始まった。
 あれから6年経った今、グルジアからわずか数百マイルしか離れて
いないウクライナ東部で歴史が繰り返されるのではないかという国
際的な懸念が高まっている。
歴史は繰り返すのか
 最近の兆候は憂慮すべきものだ。数週間前にウクライナとの国境
沿いに配備された部隊を1万人余りまで減らした後、ロシアはここ数
日で、その数を2万人程度までほぼ倍増させた、と米国と北大西洋条
約機構(NATO)の当局者は話す。
 少なくともそれと同じだけのロシア軍が、ロシアが3月にウクライ
ナから併合したクリミア半島でも侵攻の隊形を組んでいる、とウク
ライナ政府は言う。一方、ロシア政府は、8日までの予定で大規模な
空軍の軍事演習を始めている。
 最も重要なことは、ロシアの支援を受けたウクライナ東部の分離
派が活力を取り戻したウクライナ軍に倒される可能性に直面してお
り、ルガンスクとドネツクの州都で最後の抵抗の準備をしているこ
とだ。
 5日夜、6年前のツヒンバリを彷彿させるように、折しもロシアが
ウクライナ東部の人道上の「大参事」について議論するために国連
安全保障理事会の緊急会議を招集した矢先に、ドネツクが空爆を受
けた。
 安保理の大半の理事国は、赤十字の指揮下で「人道」部隊を派遣
するというロシアの要請を拒否した。
 NATOは6日、ロシアは今、「人道的な任務あるいは平和維持の任務
という言い訳を、ウクライナ東部に軍隊を派遣する口実として」使
うかもしれないと警告した。
 ポーランドのドナルド・トゥスク首相は、ポーランド政府には「
(ロシア軍による)直接介入のリスクが数日前より確実に高まって
いると考える理由がある」と付け加えた。
プーチン大統領の決断
 介入するかどうかは、ウラジーミル・プーチン氏が15年前の今週
、初めてロシア首相に就任して以来、同氏にとって最も重要な決断
の1つになるかもしれない。
 プーチン氏は軍事支援の提供を否定しているが、介入しなければ
、その大義――キエフの「ナショナリスト」の政府からウクライナ
東部のロシア語を話す人々と「同胞たち」を守ること――にプーチ
ン氏が深く賛同する反政府派に屈辱を与える危険を冒すことになる。
 だが、ウクライナ東部に侵攻すれば、より厳しい西側の経済制裁
を招き、ロシアをさらなる孤立に追い込み、グルジア紛争よりはる
かに大きな金銭的、人的コストを負担する危険を冒すことになる。
 介入する根拠があるとすれば、それは、ロシアが2008年に南オセ
チアで行ったように、反政府派によるドネツクとルガンスクの支配
を維持し、紛争の「凍結」を試みることだろう。南オセチアでは、
ロシアは紛争後すぐに共和国の独立を認め、今なお同国を占領して
いる。
 それができれば、プーチン氏の主な戦略的目標―−つまり、ウク
ライナのNATO加盟を防ぐこと――を達成するための継続的な手段に
なるはずだ。
「凍結された紛争」の設計者がドネツク人民共和国の副首相に
 ロシア人のウラジーミル・アンチュフェエフ氏が先月新たに自称
ドネツク人民共和国の副首相になったことは、ドネツクを凍結され
た紛争に変えるロシアの計画を示す証拠かもしれない。アンチュフ
ェエフ氏は20年間にわたり、ロシアが支援するモルドバの分離独立
地域・沿ドニエストルの安全保障のトップを務めてきた。
 「アンチュフェエフは、凍結された紛争の設計者だ」。ロンドン
のシンクタンク、王立国際問題研究所(チャタムハウス)のロシア
研究者、ジェームズ・シェール氏はこう言う。「彼は(ウクライナ
東部の)住民の誰にも負けないくらい冷酷で何倍も有能だ」
 ロシアは理論的には、ウクライナの反政府派を権力の座にとどめ
、最東端の都市で民間人の大虐殺を招きたくないと思っているウク
ライナ軍を阻止するために、国境を越えて十分な武器とその他の支
援を供給し続けることができる。だが、ウクライナ軍は、ロシア国
境からの補給路を切断する寸前まで来ている。
ロシアの武力集結は威嚇行為か
 ただ、英国王立防衛安全保障問題研究所(RUSI)のロシア軍専門
家、イゴール・スツヤギン氏は、ロシア政府はまだ侵攻する準備を
していないと述べ、ロシアの武力集結はウクライナ軍を脅かすこと
を狙った威嚇行為だと指摘する。
 他の軍事アナリストらは、ロシアが4月にウクライナ国境に集結さ
せた4万人の部隊とは異なり、現在の構成部隊には、ドネツクとルガ
ンスクを掌握し続け、施政下に置くのに必要な部隊は含まれていな
いと付け加える――もっともこれらの部隊を増強することは今でも
可能だが。
 スツヤギン氏は、経済制裁が一般のロシア国民に打撃を与え始め
ているため、ロシア政府としては、ウクライナから棺が戻ってくる
事態は避けたいと思うだろうと話している。
By Neil Buckley
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ウクライナ情勢:制裁の応酬懸念 露が報復、EU農畜産業痛手
毎日新聞 2014年08月08日 東京朝刊
 ロシアのメドベージェフ首相は7日、ウクライナ情勢をめぐる欧
米などの対ロシア制裁への報復として、制裁発動国からの農産品と
食料品の輸入を禁止する措置を発表した。対象は米国、欧州連合(
EU)、カナダ、オーストラリアなどで、対露制裁に加わっている
日本は含まれなかった。米欧などとロシアとの対立は、経済制裁の
応酬という新たな段階に発展しつつあり、冷戦終結後に拡大してき
た国際貿易体制にとって大きな懸念材料となりそうだ。【ロンドン
坂井隆之、モスクワ田中洋之】
 ◇日本対象に含まれず
 報復措置はプーチン露大統領が6日に大統領令に署名していた。
輸入が禁じられるのは、対象国産の牛・豚・鶏肉、魚、牛乳・乳製
品、野菜、果物など。禁輸は7日から実施され、期間は1年間。
 ロシアの食料品・農産物の輸入額は2012年で403億ドル(
約4兆1500億円)。EUからロシアへの農産品輸出額は13年
で122億ユーロ(約1兆6500億円)と、輸出総額の0・7%
程度。米国からのロシア向け食料・農産品輸出も13年に13億ド
ルと輸出総額の0・1%程度で、「米欧全体の経済への影響はほと
んどない」(米経済紙)との見方が大勢だ。
 ただ、欧州のロシア向け輸出は域外に輸出する果物と野菜の2ー
3割を占めており、農畜産業者の経営にとって痛手だ。世界最大の
リンゴ輸出国でそのうち56%をロシア向けに輸出するポーランド
は、ロシアの輸入禁止措置で国内総生産(GDP)が0・6%低下
すると予測する。仏乳製品大手のダノンは売り上げの約1割をロシ
ア事業が占めており、食品メーカーにとっても対応を迫られそうだ。
 また、米欧の制裁などに伴うロシア経済の悪化で欧州自動車メー
カーのロシアでの新車販売台数は既に急減している。メドベージェ
フ首相は自動車など製造分野の「保護措置」にも言及しており、報
復対象が広がる恐れもある。
 ロシアにとって輸入禁止はもろ刃の剣だ。ロシアは穀物をほぼ自
給する一方、英メディアによると、食品全体では約4割を輸入品に
頼っているとみられる。ロシアは通貨安の影響で消費者物価が既に
前年比8%近くまで上昇しており、米欧からの輸入停止がインフレ
に拍車をかける恐れがある。
 プーチン大統領は6日、禁輸措置に伴う対策として、ブラジルや
アルゼンチンなどの制裁不参加国からの輸入拡大などを指示したが
、短期間での切り替えは容易ではなさそうだ。
 一方、ロシアが日本を報復の対象外としたのは、日本の対露制裁
が米欧に比べて厳しくなかったことに加え、対日関係の過度の冷却
化を避ける狙いとみられる。「対露包囲網」から日本を切り崩した
い思惑もありそうだ。
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ウクライナ戦闘機を撃墜=マレーシア機事件のブクか−親ロ派
 【モスクワ時事】ウクライナ当局者は7日、東部ドネツク州で空
軍のミグ29戦闘機が親ロシア派武装勢力によって撃墜されたと明
らかにした。インタファクス通信が伝えた。
 当局者は「ミグ29はブク(SA11)とみられる地対空ミサイ
ルで撃墜された」と述べた。親ロ派は緊急脱出した乗員2人を拘束
し、市街地の空爆に関わった疑いで取り調べていると語った。親ロ
派はブク発射に言及せず、ミグ29撃墜の事実のみ確認した。
 7月17日にドネツク州で乗客乗員298人が全員死亡したマレ
ーシア航空機撃墜事件は、親ロ派のブク地対空ミサイル発射による
ものと疑われている。親ロ派は公式にはブクの保有を否定。後ろ盾
のロシアもミサイル供給や軍事教練への関与はないと説明している。
(2014/08/08-06:04)
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コラム:ウクライナ侵攻、プーチン氏の「脅し」にあらず
2014年 08月 7日 18:04 JST
国際政治学者イアン・ブレマー
[7日 ロイター] - ウクライナ軍が同国東部で攻勢を強め、親
ロシア派が支配する都市を制圧する構えを見せる。一方、ロシアの
プーチン大統領は、ウクライナへの侵攻の準備とばかりに国境付近
に約2万人の兵士を集結させた。ロシアが侵攻する可能性が高まっ
ているのは明らかだ。
だが、それはまだプーチン大統領にとって2番目の選択肢にすぎな
い。なぜそうなのか、何が大統領の考えを変え得るかについて考え
てみたい。
プーチン大統領は何としてでもウクライナを「ロシア圏内」にとど
めておきたいと考えている。それには、以下の2つを確実にするこ
とが欠かせない。1)ロシアが引き続きウクライナ南東部への影響
力を維持すること。2)ウクライナの北大西洋条約機構(NATO
)への加盟をめぐり、ロシアが事実上の拒否権を持つことだ。この
2つには、ウクライナ東部に独自の対外経済政策を許し、NATO
加盟に関しても拒否権を発動できるようにする同国の連邦化が必要
だ。言うまでもなく、ウクライナのポロシェンコ大統領にとっては
全く受け入れられない話だろう。故に、プーチン大統領には強硬な
手段(介入)か、超強硬な手段(侵攻)のどちらかを取るしかない。
プーチン大統領が現在取っている政策は、持続的な介入だ。親ロ派
を通して不安定な状況をつくり出し、統一国家としてのウクライナ
がロシアから離れることを困難にしている。「長期戦」となれば、
ウクライナ政府がロシアの影響力が強まる連邦制を受け入れざるを
得なくなるまで、ロシアは親ロ派への武器支援やウクライナへの経
済圧力を続けることになる。
一方、侵攻に出れば、介入よりはるかに高い代償を伴うことになる。
そもそもロシア国民はそれを望んではいない。国民の大半はプーチ
ン大統領のウクライナ政策を支持しているが、ロシアの調査機関レ
バダ・センターによる最近の世論調査では、51%がウクライナ侵
攻に反対と答えている。一方、賛成と答えた回答者はわずか29%
だった。
侵攻して手に入れた領土の保持にはばく大な費用がかかるだろうし
、スラブ民族同士の血で血を洗う争いがロシアで報道されれば、プ
ーチン大統領の人気は急落するだろう。また、明白な侵略行為は、
対イラン制裁のような一段と厳しい制裁を米国から受けることにつ
ながりかねない。そうなれば、欧州も米国と足並みをそろえること
になるだろう。
プーチン大統領が今は介入策を選んでいるとはいえ、侵攻に向けて
準備していてもおかしくない。侵攻の脅しだけでも戦略的利点があ
るからだ。第1に、ドネツクとルガンスク両州の包囲がどんな結果
を招くかを示すことで、ポロシェンコ大統領に対する抑止力となる。
第2に、プーチン大統領がすでに取っている不明瞭な形での介入か
ら気をそらし、西側諸国に「ロシアは侵攻するか否か」という点に
注意を向けさせることができる。
ただ間違ってはいけない。プーチン大統領は、抑止力として、また
は状況を混乱させるための「はったり」だけで進攻を準備している
わけではない。これは大統領にとって「バックアップ・プラン」で
もある。
もしウクライナが親ロ派の拠点の制圧をやめるなら、もしくは失敗
するなら、介入という長期戦が続くことになるだろう。市街戦の難
しさを考えると、その可能性が最も高いように見える。しかし、も
しウクライナ軍が親ロ派を圧倒するなら、侵攻はプーチン大統領に
残された唯一のカードとなるかもしれない。
そうなった場合、プーチン大統領はどのように侵攻するだろうか。
すでに下準備は整っている。親ロ派の人道的支援の要請に応える形
で、平和維持活動という任務を装って侵攻は進んでいくだろう。す
でに平和維持活動の記章をつけたロシアの車両が国境付近に現れた
との報告もある。
プーチン大統領はウクライナからの独立の是非を問うたドネツク州
とルガンスク州の住民投票に「敬意」を表した。もしかしたら侵攻
したうえで、それはウクライナの本当の領土ではないという驚くべ
き主張をするかもしれない。
平和維持活動という口実が米国の強硬姿勢を和らげることはないだ
ろう。だが、欧州には、すぐに腰を上げない国も恐らくあるはずだ。
そして他のBRICS諸国は、傍観する姿勢を崩さないだろう。
差し当たり、プーチン大統領にとって最善の選択は侵攻ではなく、
介入だ。しかし、ウクライナ軍が優位となれば、大統領の考えは変
わる可能性がある。侵攻は、単なるはったりや交渉の切り札ではな
い。そのリスクは極めて現実的なのだ。
*筆者は国際政治リスク分析を専門とするコンサルティング会社、
ユーラシア・グループの社長。スタンフォード大学で博士号(政治
学)取得後、フーバー研究所の研究員に最年少で就任。その後、コ
ロンビア大学、東西研究所、ローレンス・リバモア国立研究所など
を経て、現在に至る。全米でベストセラーとなった「The End of 
the Free Market」(邦訳は『自由市場の終焉 国家資本主義とどう
闘うか』など著書多数。
*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見
解に基づいて書かれています。



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