5084.これからの世界はどうなるのか?



世界が混乱し始めている。米国が世界の警察を止めたことで、地域
紛争が拡大している。ウクライナでのロシア、イラクでのISIS、ガ
ザでのイスラエルや中国の米覇権転覆工作など、世界は安全面で、
大きな懸念を抱くことになってきた。このあと、世界はどうなるの
であろうか。検討したい。   津田より

0.世界の論調
この予測に有効なのは、プロジェクト・シンジケート誌に載る多く
の評論である。それを読むと大体の世界の流れが掴める。今回は、
「The Global Security Deficit」「The Onshoring Myth」
「The New Thirty Years’ War」の3本が、今後を予測するにも有
効であると見る。リンクは最後にあるので、有料版の方はそれを読
んでください。無料版の方は、題名でグーグルで検索してください。

この世界的な混乱の原因は、米国国民が要求し米オバマ大統領が実
現させている「世界の警察を米国が降りたこと」であるが、これに
ついては、ワシントン・ポスト紙の「The Vacant Presidency」がよ
く表している。

ノーベル経済学を受賞したミシェル・スペンス教授の「The Global 
Security Deficit」が全体像を示している。要約すると、現在、リ
スクが高くなり心配である。2008年以降の経済には成長を妨げ
る不均衡な状態がある。米国経済もスローな成長しかできないでい
る。アジアでは、中国と紛争状態で日本の成長が阻害されている。
米中はサイバー戦争になり、その解決ができない。中東では大きな
紛争が有り、ロシアやウクライナ東部でも戦争状況であり、ヨーロ
ッパが影響を受けている。民間機も撃墜されて、安全性に障害が出
ている。

40年前より現在は国際的な交流が盛んになり、発展途上国の経済
発展のためにも地域紛争を無くすことが必要である。G20の役割が
大きくなり、皆で世界的な貿易の流れを阻害する動きを防止するこ
とが必要である。冷戦は終わり、世界の安定を図る組織が必要であ
る。不均衡な経済状態より地域の不安定さが、世界経済成長を阻害
している。

各所で戦闘が起こり、物流や交流が滞ってきたことが経済成長に大
きな影響を与えているということである。

1.その他の論調
ボストン連銀の2人の「The Onshoring Myth?」(米国へ戻ってくる
というのは迷信)、米国が中国の労働コストに近づいてきたことと
、シェール・ガスによって経済優位性が増してきているという。
しかし、エネルギー消費の高い工業は戻ってきているが、電子機器
のような産業は戻ってきていないという。

これと同じことが日本にも言えるようだ。多くの製造業は、多くの
加工業の集積がないと成り立たない。このため、一度、その加工業
がなくなると、いくらコスト的に優位でも戻ることができなくなる。

もう1つが、労働コスト的には、中国での製造業は優位性をなくし
ているということである。

FRCのトップであるリチャード・ハース氏の「The New Thirty Years’
 War」で、17世紀前半のヨーロッパが経験した宗教戦争である30
年戦争が現在、中東で行われている。中東でもシーアとスンニ派の
戦いになって、現在、宗教が強く、世俗が弱い。石油があるので、
近代的な社会にもならない。お手上げという状態であり、問題を少
なくするしかない。とさじを投げている。

最後に、右のワシントン・ポスト紙の「The Vacant Presidency」で
、オバマ大統領の不甲斐なさを指摘しているが、米国が警察官を止
めたことで、世界は混乱の中に投げ入れたようである。

経済的には、アルゼンチンのデフォルトが確定的になり、中国が、
またアルゼンチンに近づいて同盟国にするようである。

世界的な紛争の広がりと経済的な破綻などで、国際通貨基金(IM
F)は24日、最新の世界経済見通し(WEO)を発表、2014
年の世界全体の実質成長率を3.4%とし、4月に公表した前回予
想から0.3ポイント下方修正した。

また、バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチ・グローバル・リサ
ーチの調査によると、23日までの1週間に世界の株式ファンドか
ら50億ドルが流出した。地政学的な緊張の高まりを受け、世界株
安への懸念が広がった。

全体をまとめると、欧州の17世紀から20世紀の戦争の時代が現
在、欧州以外の地域で活発化して、戦争状況になるようである。欧
州は、第2次大戦後、戦争に懲りて、EUという共同体を作り、国
の一段上に統治機構を作ったことで、地域戦争を防止している。

しかし、他の地域には、このような仕組みがないので、戦争や紛争
になっている。特に宗教戦争になっている中東であろう。アジアで
は中国の存在で、紛争が起きているので、貿易などの交流が阻害さ
れている。世界の成長センターでも懸念事項が出ている。

2.ピケティの「21世紀の資本主義」
ピケティの「21世紀の資本主義」が米国で話題になっている。東
洋経済7/26号でも取り上げている。しかし、池袋のジュンク堂でも
英語の本はなかった。そのため、いろいろな雑誌などからの情報を
元にすると、資本収益率の方が成長率より高いために、資本家が労
働者より多くを稼げて、徐々に貧富の差が開いていくことになると
いうのがメインのようである。

このため、所得税や相続税を上げ、再分配を進めることが必要とい
う趣旨のようだ。

日本社会は資本家も豊かになっていない。それは成長率が低く、か
つ企業が内部留保をして、その資金を投資していないことによると
いう。なぜ、投資しないかというと、人口減少で国内に投資先がな
いことによる。ピケティ氏へのインタビューで言っている。

3.イノベーションが必要
もう1つ、先進国経済が低い成長である理由は、インターネットの
ようなイノベーションがないことによる。既存産業を先進国の戻す
というのは、ありえない。加工産業がなくなり、完成品メーカだけ
を戻すことはできない。または、自国販売分だけの製造工場となる
だけである。今までの産業の取り合いをしても、大きな成長はない。

そして、サムソンにも新しいアイデアの製品がなく、中国企業の低
価格の製品に侵食されて、ぱっとしない販売実績になっている。米
国はシェール・ガスというイノベーションで、息を吹き返した。し
かし、製造業と違い産業としての規模が大きくないので、低成長に
なっている。

日本は、公共事業の工事で今は、人手不足になっているが、この工
事がなくなる2020年以降はどうなるかわからない。このため、
成長戦略がある。観光業などを即効性のある産業であるが、これも
地域不安定の影響を受ける。イノベーションが欲しいところである。

このイノベーションとして、燃料電池自動車は有望であるが、水素
ステーション建設に現時点、4億円も掛かり、規制緩和が求められ
ているが、ここ数年では前進していない。壁が厚いのである。

それと現時点では、燃料電池車の値段が高いし、ランニングコスト
のメリットが少ないことで、どうなるのか?

IPS技術も期待が集まるが、産業規模が小さい。燃料電池車は産業規
模が大きく、また燃料電池の市場は、もっと大きいので、期待が持
てるのである。

4.今後の世界は
今後の世界は、確実に世界戦争に向かっているし、黙示録を実現す
るというユダヤ教起源の一神教の圧力を感じる。黙示録自体がキリ
スト教、イスラム教、ユダヤ教の3教の聖書であるので、その信者
たちが恐ろしい。

一神教の中で宗教戦争を通して、無意味さを知っているのはヨーロ
ッパの人たちであり、この人たちが中東地域やロシア地域の人たち
にどう説得できるかでしょうね。

もう1つの世界の問題は中国で、この覇権主義が強く出てくると、
これも戦争に結びつくことになる。周辺諸国の国は連合して、対応
する必要あると思う。また、中国も国内での権力闘争が激しく、分
裂するという可能性もあるようだ。

世界戦争後になると思うが、戦争防止の仕組みをより強力にしてい
くことであろう。世界的な調整機関を置き、国に優先した位置づけ
にする必要がある。戦勝国を中心に世界的な強力な機関を作るしか
ない。

そして、現在の欧州機構(EU)と同じような機関を世界に作るこ
とになる。

しかし、今後の戦争で何人の人が死ぬのであろうか?7000万人
という人もいるが、10億人という人もいる。もちろん、核戦争に
なる可能性が高い。


参考資料:
The Global Security Deficit
http://www.project-syndicate.org/commentary/michael-spence-warns-that-political-instability-and-conflict-are-now-the-main-threat-to-the-global-economy

The Vacant Presidency
http://www.washingtonpost.com/opinions/charles-krauthammer-the-vacant-presidency/2014/07/24/0b110fdc-1363-11e4-9285-4243a40ddc97_story.html

The Onshoring Myth
http://www.project-syndicate.org/commentary/federico-d-ez-and-gita-gopinath-refute-claims-that-the-us-is-experiencing-a-significant-return-of-manufacturing

The New Thirty Years’ War
http://www.project-syndicate.org/commentary/richard-n--haass-argues-that-the-middle-east-is-less-a-problem-to-be-solved-than-a-condition-to-be-managed


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世界の株式ファンドから資金流出、地政学的緊張の高まりで=調査
2014年07月26日(土)03時27分
[ニューヨーク 25日 ロイター] - 25日に公表されたバンク
・オブ・アメリカ・メリルリンチ・グローバル・リサーチの調査に
よると、23日までの1週間に世界の株式ファンドから50億ドル
が流出した。地政学的な緊張の高まりを受け、世界株安への懸念が
広がった。
資金の純流出は4週間ぶり。
米国株ファンドからは9週間ぶりの大きさとなる76億ドルが流出
した。
一方、新興国株ファンドには2億ドル、日本株ファンドには6億ド
ルが流入。それぞれ7週、5週連続での資金流入となった。
欧州株ファンドからは1億ドルが流出。資金流出は3週連続。
リスク回避を反映し、高利回り債ファンドからは48億ドルが流出
した。昨年6月以来の大規模な流出となる。
債券ファンドには19億ドルが流入。5週連続での資金純流入とな
った。
米債ファンドには18億ドルが流入した。流入額は9週間ぶりの高
さとなった。
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アルゼンチンが「デフォルト選択」=ホールドアウト債権者NML
2014年 07月 25日 08:39 JST
[ニューヨーク 24日 ロイター] - アルゼンチンの債務問題を
めぐり、債務再編に応じなかったホールドアウト債権者であるヘッ
ジファンドのNMLキャピタルは24日、同国政府が調停人を通じ
た交渉を拒否し、デフォルト(債務不履行)を選択する見通しだと
明らかにした。
裁判所が任命した調停人のダニエル・ポラック氏との個別協議を受
け、NMLの広報担当者は声明で「本日、アルゼンチン政府は来週
にデフォルトを選択すると明言した」と明らかにした。デフォルト
期限は30日となっている。
NMLはアルゼンチン政府のチームと交渉する用意があり、解決策
の策定に向け柔軟に対応すると表明。「アルゼンチンはいかなる話
し合いも再び拒否した」と指摘し、「同国代表団は可能な解決策は
ないとだけ述べた」と明らかにした。
ポラック氏はこれとは別に発表した声明で、今後数日間で追加交渉
が予定されているとする一方、デフォルト回避のための時間は「足
りない」と指摘した。
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世界成長率3.4%に下方修正=ウクライナ、中東リスク−IMF
 【ワシントン時事】国際通貨基金(IMF)は24日、最新の世
界経済見通し(WEO)を発表、2014年の世界全体の実質成長
率を3.4%とし、4月に公表した前回予想から0.3ポイント下
方修正した。米国の寒波や中国経済の調整などが要因。また、ウク
ライナや中東情勢の悪化を受け、4月よりも「地政学的リスクが上
昇した」と指摘した。日本に関しては財政出動などの効果を認め、
1.6%と前回予想から0.3ポイント上方修正した。
 IMFは日本の14年の成長率について「第1四半期が想定以上
に力強かった」として引き上げた。15年見通しも上方修正したが
、財政出動が減ることによる成長減速は避けられないとの見解を示
した。(2014/07/25-00:18)
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「21世紀の資本論」が問う、中間層への警告
日本に広がる貧困の芽とは何か
杉本 りうこ :週刊東洋経済編集部 記者 2014年07月21日
一匹の妖怪が世界を徘徊している。ピケティという名の妖怪が――
。マルクスの言葉をもじってそう言いたくなるようなブームが、欧
米で巻き起こっている。フランス経済学校のトマ・ピケティ教授に
よる『21世紀の資本論』が、経済書としては異例の大ヒットとなっ
ているのだ。英語版で約700ページにも上る本格的な経済書だが
、特に米国では書店から蒸発するように売れ、出版社が増刷を急い
でいる。
マルクスの『資本論』をほうふつとさせるのはタイトルだけではな
い。本書は「資本主義は格差を拡大するメカニズムを内包している
。富裕層に対する資産課税で不平等を解消しなければならない。さ
もなければ中間層は消滅する」と主張。この主張が米国では、「ウ
ォール街を占拠せよ」運動に代表されるような格差の議論に結び付
き、一般市民を巻きこんだピケティブームが巻き起こっている。米
国の保守派は「ソフトマルキシズムだ」と反発するが、ポール・ク
ルーグマンやロバート・ソローなど、ノーベル賞受賞経済学者はピ
ケティの実証的な研究を高く評価している。

中間層が消滅する未来
同書は日本でも2014年内をメドに、みすず書房から出版される
見通し。書店に並べば、国内でも話題の一冊となることは間違いな
い。なぜなら、中間層が消滅する資本主義の暗鬱とした未来は、私
たち日本人の足元でもさまざまな現象として現実味を帯びつつある
からだ。
たとえばリストラ。たとえば高齢化した親の介護、自身の病気。こ
ういった不運だが誰の身の上にも起こるライフイベントは、収入の
激減や支出の急増を招き、中間層の人生設計を容易に狂わせる。何
も起こらなくとも、年収1000万円クラスのアッパーミドルにと
っては、社会保障コストの負担が増える趨勢だ。
アベノミクスで景気が回復したといわれるが、好景気を実感できて
いる日本の中間層はどれぐらいいるだろうか。かつては1億総中流
と呼ばれ、誰もが成長を実感し、ささやかながらも豊かさを享受で
きた社会。それがすでに過去のものというのは、現代に生きる日本
人の実感といっても、いいのではないか。好景気を実感するよりも
、人生という長いレースで貧困側に転落しないか、その不安におの
のいている人のほうが多いのではないだろうか。
本誌は今話題のピケティの『21世紀の資本論』を、国内ビジネス誌
としては初めて特集して伝える。特に8ページにわたるピケティ本
人のロングインタビューは、海外でも例のない読み応えだ。さらに
ピケティの提起する議論を端緒に、国内中間層をとりまく貧困の落
とし穴についても考えた。
今回取材したが、紙幅が尽きて掲載できなかった問題のひとつに、
教育がある。富裕層の所得が雪だるま式に増えるのと同様に、子ど
もの教育機会も親の所得に比例して充実する、という事実がある。
東大生の親の年収は、950万円以上が半数以上、というのはよく知ら
れた例だ。
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「21世紀の資本論」ピケティ氏は急進的なのか
By PASCAL-EMMANUEL GOBRY
2014 年 5 月 26 日 17:42 JST
 フランスの経済学者、トマ・ピケティ氏の著書「Capital in the 
21st Century(21世紀の資本論)」が米国で大論争を巻き起こして
いる。米経済学者のポール・クルーグマン氏はニューヨーク・レビ
ュー・オブ・ブックス誌で同書を評して、「世襲財産の力の拡大を
抑制」したいと願う人々への「召集」と書いた。保守派の論客はピ
ケティ氏の「ソフトマルクス主義」(こう言ったのはアメリカン・
エンタープライズ研究所のジェームズ・ペトクーカス氏だ)やタイ
トルであからさまにマルクスの「資本論」に触れていることにやき
もきしている。
 データが詰まった600ページを超える著作の中で、ピケティ氏は資
産の収益率が長期的には経済全体の成長率より高いため、資本主義
は不平等の悪循環を生むと主張している。ピケティ氏によると、不
平等の拡大によって現代社会が新たな封建的な体制に変貌する恐れ
があるという。彼は(所得にではなく)資産に対して世界的に税を
課すことでこのシナリオを回避したいと考えている。
 ピケティ氏は一体どれほど急進的なのだろうか。実のところ、そ
れほどでもない。アクセントや博識、ボタンを首元までとめないシ
ャツの着こなし、ふさふさした黒い髪。ピケティ氏はどこから見て
もフランスの知識人そのものだが、フランスの知識人は誰もが急進
的というわけではない。フランスにはまだ正真正銘、本物のマルク
ス主義者がいる。穏やかに話すピケティ氏をそれと間違えることは
ない。だからこそピケティ氏は米国にもたらしたほどの衝撃をフラ
ンス国内の世論に与えてはいないのだろう。
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21世紀に資本家と労働者の格差は拡大するのか
ピケティ『21世紀の資本論』の衝撃
2014.07.15(火)  池田 信夫
今、アメリカで『21世紀の資本論』と題する本が話題を呼んでいる
。700ページ近くある専門書がアマゾン・ドットコムのベストセラー
第1位になり、「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」はこんなカバ
ーストーリー(Piketty's Capital: An Economist's Inequality 
Ideas Are All the Rage)を組んだ。
 多くのデータや数式の並ぶトマ・ピケティ(パリ経済学院教授)
の本がアイドル並みの人気を集める背景には、アメリカで深刻化す
る所得格差の拡大がある。上位1%の高額所得者がGDP(国内総生産
)の20%以上を取る格差社会に対して怒る人々が、ピケティを「21
世紀のマルクス」として崇拝しているのだ。
マルクスの「窮乏化の予言」は甦るか
 マルクスは『資本論』で、資本主義の未来について矛盾する予言
をした。第1巻では、資本が少数の資本家に集中して労働者が窮乏化
して蜂起し、「収奪者を収奪する」未来を予言したが、未完の第3巻
では「一般的利潤率の傾向的低下」を予想した。しかし利潤率が下
がるなら賃金は相対的に上がるので、労働者が窮乏化することはあ
り得ない。
 20世紀には、利潤率が上がるとともに労働者も豊かになり、マル
クスの予想はどっちも外れた。しかし今、マルクスが第1巻で予言し
たように労働者は窮乏化している、というのがピケティの主張だ。
図のように欧米の所得格差は1970年代から拡大し始め、今では上位
10%の所得がアメリカでは50%近くを占める。
 ピケティの本が大きな反響を呼んだのは、「資本主義で格差は縮
小する」という定説をくつがえしたからだ。これまでは成長に伴っ
て資本家も労働者も豊かになると考えられ、戦後の各国のマクロ経
済データもそうなっていた。
 しかしピケティは、1930年から70年ごろまでの平等化の傾向は、
大恐慌や戦争で資本が破壊されたために起こった例外であり、19世
紀から資本家と労働者の格差は拡大してきたと主張しているのだ。
格差を拡大させる「資本主義の根本的矛盾」
 これは経済学者の論争を呼んだ。標準的な限界生産性理論によれ
ば、資本収益率が高ければ資本蓄積が高まり、その収益が低下する
収穫逓減が起こって「資本/労働」比率が一定の率に収斂する。し
たがって不平等が拡大し続けることはあり得ない。
 しかしピケティは「資本の限界生産性なんてあり得ない」と言う
。資本と労働を「生産要素」として同列に扱う新古典派経済学は寓
話であり、実際に生産を行うのは労働者だ。資本家はリスクを取っ
て投資し、そのリターンを取るので、資本に限界生産性はない。
 彼はここ200年の資本収益率(資本収益/資本ストック)rと成長
率gの間には、おおむね次のような関係があるという。
 r>g
 つまり資本収益率が成長率を常に上回るので、資本収益の増える
スピードが(資本家以外の)所得が増えるスピードを上回り、格差
が拡大する。これを彼は資本主義の根本的矛盾と呼ぶ。
 しかしこの式がどうやって導かれるのか、はっきりしない。rは資
本というストックに対する比率で、gはGDP(国内総生産)というフ
ローに対する比率なので、このまま比較することはできない。資本
ストックとGDPの比率がないと、両者の関係は分からない。
 その「資本/所得」比率βも、ピケティによれば拡大していると
いう。つまりGDPに対して資本ストックが増え続け、それに対する資
本収益率が上がり続けているため、これからも格差は拡大するとい
うのだ。
 それは本当だろうか。標準的な新古典派成長理論によれば、「資
本/労働」比率は長期的には一定の定常状態に収斂するはずで、資
本蓄積だけがどんどん増え続けることは考えにくい――というのが
正統派の経済学者の反論だ。
日本では格差は拡大しないが経済は停滞する
 ところが驚いたことに、新古典派成長理論の元祖であるロバート
・ソロー(ノーベル経済学賞受賞者)が、長文の書評で「ピケティ
は正しい」と評した。
 その要点は、簡単に言うと次のような話だ: 経済が定常状態に到
達すると、「資本/労働」比率は一定になるが、成長はそこで止ま
るわけではない。技術進歩や知識の蓄積などの外部性によって成長
は続く。
 この生産性の増加のうち、労働者個人に帰着するものは賃金とし
て還元されるが、それ以外の労働人口の増加や地価上昇の利益など
はほとんど資本家のものになるので、生産性が上がると格差は拡大
する。他方で資本の収穫逓減の傾向もあるので、長期的には両者は
相殺されて所得分配は安定するだろう、とソローは予想している。
 日本についてはどうだろうか。ピケティの本には各国ごとのデー
タもあるが、日本の所得格差はフランスとほぼ同じで、ヨーロッパ
と似たような動きを見せている。これは意外に思う人がいるかもし
れない。日本は格差が欧米ほど大きくないと思われているからだ。
 これはピケティの「資本」の定義が広く、労働以外の設備や土地
などを含んでいるからだ。こう定義すると「資本収益」には賃金以
外の所得のほとんどが含まれるので、日本でも賃金は低下して格差
は拡大している。
 しかし日本で特異なのは、資本収益が株主に還元されないで、企
業貯蓄(内部留保)になっていることだ。この結果、株主資本利益
率はアメリカの3分の1になる一方、企業が貯蓄超過になる異例の状
態が続いている。
 資本収益があまり投資されないので、格差はアメリカほど拡大し
ないが、成長もしない。潜在成長率は、ゼロに近づいている。この
最大の原因は生産年齢人口が減っていることだが、資本蓄積率も生
産性上昇率も下がっている。
 資本主義には格差を拡大させる傾向があるが、それは投資によっ
て成長するエンジンでもある。資本収益を投資しないで「会社」に
貯め込む日本経済では、株主も労働者も豊かになれないのだ。
 ピケティが言うようにアメリカでは「過剰な資本主義」が不平等
をもたらしているが、日本では「過小な資本主義」が停滞をもたら
している。これを是正して資本市場を活性化することは容易ではな
いが、今後の日本経済の最大の課題の1つだろう。



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