5047.中ロ同盟とプーチンのアジア・シフト



中ロ同盟とプーチンのアジア・シフト 
 ―中ロ同盟はアジア-太平洋の覇権を目指す― 

        DOMOTO             2014年6月12日
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735 
【目次】 
【1】 プーチンのアジアへの旋回シフト 
【2】 中国とロシアの軍事同盟的な協力体制 

   【1】 プーチンのアジアへの旋回シフト 
「ロシアは太平洋へも旋回できる」 
2012年9月のウラジオストックで開催されたAPECで、カーネギ
ー・モスクワ・センターの所長はこう言ったそうです。 

Tales of Different “Pivots” (2013-1/14 戦略国際問題研究所 ) 
http://csis.org/publication/comparative-connections-v14-n3-china-russia 

米国のシンクタンクである戦略国際問題研究所(CSIS)のユー
・ビン氏による上記のレポートによれば、ロシアの東方への旋回(
シフト)は、プーチン政権2期目(2004年?2008年)の投資政策に見
られるといいます。これは前ヒラリー・クリントン国務長官が彼女
の論文「米国の(アジア)太平洋の世紀」で“pivot”(旋回・方向
転換)を使った2011年よりもずっと前にあたります。 

ユー・ビン氏によれば、プーチンのアジア-太平洋への「旋回」はロ
シアの壮大な戦略の一環であり、その大戦略は、ロシアをユーラシ
ア大陸(アジア+ヨーロッパ)での強大なパワー(支配力)にするた
めの、経済と(軍事)戦略の領域から構成されるといいます。 

ロシアと中国は東シベリア油田の共同開発で協定を結んでおり、先
月の5月21日にはロシアと中国はガスプロムによる中国への天然ガ
スの供給で合意し契約を済ませました。 

現在、ウクライナ問題での制裁により欧米資本がロシアから撤退す
るのを、中国の投資資本がその穴を埋める格好となり、中国がロシ
アに対して優位に見えますが、戦略国際問題研究所(CSIS)の
アンドリュー・クチンス氏によれば、将来的にロシアがエネルギー
供給という点から中国に対して優位に立つことになりそうです。プ
ーチンだけでなく中国共産党も当然これを承知してでの合意でしょ
う(クチンス氏はロシアとユーラシアが専門、シニア・フェロー)。
クチンス氏はこう述べます。 

「ロシアの欧州と西側諸国に対する相対的な経済的優位が、石油・
天然ガスの供給を第一の理由としてきたのと全く同じように、アジ
アにおける戦略的統合はエネルギーによって左右されている。」 

Russia and the CIS in 2013: Russia's Pivot to Asia(「ロシア
のアジアへの旋回」) (2014-1月 戦略国際問題研究所 ) 
http://csis.org/publication/russia-and-cis-2013?utm_source=feedburner&utm_medium=feed&utm_campaign=Feed%3A+CSIS-Russia-And-Eurasia-Related-Publication+%28Russia+and+Eurasia+-+Related+Publication%29 

つまりプーチンのアジア-太平洋への大戦略の経済的領域として、石
油と天然ガスの大量供給で、中国と南シナ海までを含めた東アジア
の国々を、欧州と全く同じようにかなりの部分ロシアに依存する仕
組みを作ろうということです。 

2013年のロシアのアジア・シフトをレポートした上記の記事では、
ロシアが南シナ海での中国の覇権を妨げる(阻止する)ために、ベ
トナムに対して武器セールスと防衛協力だけでなく、エネルギー探
査の支援を強めていることにもクチンス氏は触れています。現在、
中国とベトナムは南シナ海でトラブルを起こしていますが、2013年
3月から急接近を表明した中国とロシアが、南シナ海をめぐりどの
ような話し合いをしていくのか注目です。 

極東も含めた2013年でのプーチンのアジアへの旋回の詳細は、クチ
ンス氏の上記記事のリンク先にPDFファイルとして掲載されてい
ます。 

   【2】 中国とロシアの軍事同盟的な協力体制  

冒頭で紹介した戦略国際問題研究所の Tales of Different “Pivots”
 という2013年1月のレポートでは、中国とロシアの間で「もっとも
重大な問題として、軍事技術の協力と軍事協力の問題」が議論され
ているとすでに報告していました。 

 “The most serious issues of military-technical cooperation 
and military cooperation  were  discussed,”  commented  
Deputy  Defense  Minister  Anatoliy Antonov,  who attended 
the meeting.  

今年5月20日の日経は、「中ロ首脳『戦略的関係、新段階に』 米
国をけん制」と見出しを付けて報道しました。しかし、中国とロシ
アは2013年3月に習近平とプーチンのモスクワでの首脳会談で、両
国間の強い協力関係を強調した共同声明を発表しています。その首
脳会談でプーチンは「ロシアと中国の戦略的な同盟体制は、極めて
重要である」と習近平に対して述べました。 

この時の共同声明には初めて中国とロシアのあいだで「新しいタイ
プの大国関係」(“New Type Great Power Relations”)という言
葉が使われました。この中ロ間で用いられた「新しいタイプの大国
関係」については米国のシンクタンクであるジェームズタウン財団
のウェブサイトに、これを考察した論文があります。中ロ間がエネ
ルギー分野で連携し急接近を表明した今年5月の記事です。 

Conceptualizing “New Type Great Power Relations”
: The Sino-Russian Model (2014-5/07 ジェームズタウン財団) 
http://www.jamestown.org/programs/chinabrief/single/?tx_ttnews%5Btt_news%5D=42332&cHash=13148cfd7311153f1728b8fc16411b7b#.U5kubfl_uJl 

この記事によると冷戦終結後、1995年に江沢民のスピーチのなかで
使われた「新しいタイプの関係」(“New Type of Relations” (NTR))
という言葉は、それよりも前から中国の専門家たちが使っていまし
た。それから18年後の2013年3月の習近平・プーチン会談での共同
声明で “Great Power” という二文字が採択され加えられ、「新し
いタイプの大国関係」(“New Type Great Power Relations”)と
なったそうです。そしてそれは、オバマ大統領が米中両国について
「新しいタイプの大国関係」という言葉を習近平との会談で使った
3か月前のことです。 

NTR remained in official Sino-Russian statements until 
“Great Power” was added and adopted by both China and Russia 
in March 2013 -- three months before use by President Obama 
at Sunnylands (Xinhua, March 22, 2013; White House, June 8, 2013).
(※訳注 Xinhua 新華社) 

米国と中国の間で「新しいタイプの大国関係」という言葉が公式に
使われたのは、2012年2月の習近平(副主席)の訪米での講演が初
めてですが、日本のマスコミではこの米中間の「新型の大国関係」
ということばかりしか取り上げていないようです。しかし、その米
中会談のほぼ1年後に、中国とロシアは従来のお互いの関係を「新
しいタイプの大国関係」として、大きく前進させようと公言してい
るのです。 

この記事のなかでは、この中ロの「新しいタイプの大国関係」とい
う概念が、1990年半ば以来の中ロ関係の歴史を経て改良され、よく
発達を遂げた、首尾一貫した中国の外交政策の帰結であるとしてい
ます。 

またこの「新しいタイプの大国関係」という概念は、中ロの関係を
安定させ、<アメリカの行動様式と異なる「新しい国際秩序」を確
立するための手段>であるとも述べています。 

First, NTGPR is a well-developed, coherent outgrowth of Chinese 
foreign policy with a history of use and refinement 
in Sino-Russian relations since the mid-1990s.  
Sino-Russian joint statements articulate the concept 
as a means to stabilize their relationship and establish a 
“new international order” to shape U.S. international behavior.   

2013年3月の中ロの共同声明の話は、米国のハドソン研究所の首席
研究員である日高義樹氏の著作『アメリカはいつまで日本を守るか
』(2013年11月刊)の中にもあります。しかし、米国のマスコミは
、この習近平とプーチンの共同声明を殆んど伝えなかったそうです。 

それは米国の専門家の多くが、中国とロシアが軍事的協調や同盟体
制をとるのは極めて難しい、または不可能だと考えていたのが、そ
の共同声明が注目されなかった理由だと日高氏は説明しています。

これに対して日高氏は、欧米に対抗するために、過去からこれまで
敵対関係が基本線であった中国とロシアの関係は変化しているとそ
の著作で言っていました。そして中ロは、軍事的関わり合いを飛躍
的に強化し、両国は同盟体制に走り始めていると分析していました。
(Su35の中国への売り渡し、空母建造での中国への技術協力など) 

もちろん日高氏は、両国が同盟体制をとることは不可能だとする考
え方も取り上げ、米国や欧州と経済的に密接に結びついている中国
とロシアが、欧米と対決するのは経済的に見て非常に難しいといっ
た見方も紹介しています。ただ、歴史的事実はその反対事象も示し
ていると述べ、密接な経済的関係があったにも関わらず、当事国間
で戦争が始まった事例を挙げています。そして経済的・文化的に密
接な関係があったとしても、それを超える要因があれば、戦争や軍
事対決は容易に始まるとも述べています。 

「戦争」という言葉が出てきましたが、私は、核兵器を含む大量破
壊兵器が地球上に氾濫し、グローバリゼーションで世界経済が密接
にかみ合う21世紀において、IQの高い大国の首脳や政権・官僚が
そうそう簡単に、アニメゲームのように大きな戦争を起こすことは
ないと常に考えています。大国同士の戦争とは、今まで築き上げて
きた国家基盤に計り知れない巨大な損失を被る行為です。これは多
くの人々の認識でもあると思います。日高氏のいう歴史的事例とは
別に、中国とロシアの軍事的・経済的協力関係は世界秩序と国際情
勢において、もう少し戦争とは別の形で具現化されていくと考えて
います。 

前述の日高氏の2013年11月の著作レポートでは、第6章の「中国と
ロシアは軍事同盟を結ぶのか」で中国とロシアの軍事力の状況につ
いても書かれています。以下に私が注目した箇所を一部要約してみ
ました。 
------------------------------------------------------------
(要約開始) 
アメリカ海軍は第4世代の潜水艦作戦である海底ネットワークの開
発を進めている。これは太平洋や東シナ海での中国のA2AD戦略
を無効化し消滅させるものだ(A2AD:Anti-Access Area-Denial
 接近阻止・領域拒否)。それに対抗して、ロシアは急速に古い潜水
艦を新しいものに変えており、太平洋における潜水艦の戦いは新し
い時代に入ろうとしている。「やや時代遅れの中国の潜水艦を尻目
に」、アメリカとロシアの最新鋭の潜水艦が太平洋で活発な行動を
展開している。 

ベーリング海は北極海の一部で、温暖化現象で北極海の氷が解け始
めるようになってから注目されている。米国海軍の首脳は、「ベー
リング海はこれからアジアからヨーロッパなどへの、マラッカ海峡
に匹敵する重要な海上ルートの拠点になる」と言っている。 

ロシアと中国の海軍は明らかに責任の分担を図っている。ロシアが
北極海からベーリング海、そしてオホーツク海から日本海へと海軍
力を強化する一方で、中国海軍は東シナ海と南シナ海、さらに西太
平洋の広大な地域で、強力な海軍力を展開しようとしている。<ロ
シアと中国の軍事同盟の目標は>当面、ロシアと中国が協力して海
軍力を行使し、アメリカ軍を追い出すことである。 
(要約終了) 
------------------------------------------------------------

先ほど戦略国際問題研究所の Tales of Different “Pivots” とい
う2013年1月のレポートで、中国とロシアの間で、すでに「もっとも
重大な問題として、軍事技術の協力と軍事協力の問題」が議論され
ていることを述べました。 

安倍総理「ロシアとは融和、中国へは批判」G7で強調 (2014-6/05 テレビ朝日) 
http://news.tv-asahi.co.jp/news_politics/articles/000028275.html 

6月4日にベルギーで開かれたG7首脳会議では、制裁強化を求める
アメリカなどとは対照的に、安倍首相はロシアへの融和を訴えまし
た。集団的自衛権の議論を聞いていてもそうですが、安倍政権と自
民党は国防情勢や国際情勢に弱いと思います。中ロの軍事的・経済
的な協力ということを、まるで想定していない。「アワ(泡)ノミ
クス」と同じです。 

5月24日に中国機が自衛隊機へ異常接近し、6月11日には中国のSu27
戦闘機が自衛隊機に2回異常接近するという事態が起こっています
が、非常に強気な中国のこのような行動は、中国とロシアのこのよ
うな同盟体制という背景から考えるべきです。 


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