5046.「森は海の恋人」畠山重篤



昨日は、日本経済人懇談会の講演会で畠山重篤氏の「森は海の恋人
」を聞いた。畠山さんは、1943年生まれの牡蠣の養殖業が本業であ
るが、森に植林していることで有名で、小学校の教科書に植林が載
っている。NPOの名前が「森は海の恋人」である。

3.11で多くの人が亡くなり、1mも地盤沈下した。3.11後
心配したのは、海が生物を育てる力を戻してくれるかどうかであり
、津波後は、海に生き物がいなくなった。沈黙の海になってしまっ
た。

牡蠣の養殖は、エサがいらない。魚、鶏や豚とは違う。魚のエサ代
が売価の60%にもなるが、牡蠣はいらない。植物プランクトンを
エラで漉して、それを食べている。海の生産力とは、この植物プラ
ンクトンがいるかどうかである。

植物プランクトンがいれば、植物連鎖が起こり、それを食べる動物
プランクトンがいて、それを食べる小さな魚がいて、それを食べる
大きな魚が居ることになる。

津波後、京大の森里海連環学の先生たちが気仙沼に来たので、プラ
ンクトンがいるかどうかを見てもらったら、多くいるというので安
心した。

海のガレキは、ボランティアたちの苦労で半年で取り去られた。そ
の後、牡蠣養殖用イカダも全て流されたので、山のスギを持ってき
て、イカダを作り、牡蠣の種は、石巻の渡波が津波でやられずに、
種が残っていた。これを分けてもらった。9月には牡蠣の養殖が開
始できた。

牡蠣は秋から春が出荷時期であり、夏は暇である。この夏に出荷で
きる物を探して、帆立貝を見つけて、それを苦労の末、気仙沼でで
きるようになった。

牡蠣は、普通2年かかる。しかし、1月に半年しか経っていないの
に、出荷できるほど大きくなっているので、出荷した。また11月
に帆立貝の養殖を開始したが、これも4月には出荷できるほど大き
くなっている。

なぜ、大きくなったかというと、津波で海の底にあった有機物が撹
拌されて、栄養豊かな海になったからである。津波の真っ黒な色は
有機物のためである。有機物とは窒素やリンで、それが豊富なのだ。

生物に必要なものは、他には鉄である。ヘモグロビンに鉄が必要で
あり、植物では葉っぱのクロロフィルに鉄が必要である。

しかし、海は貧血状態になり安い。鉄はサビて海の底に沈んでしま
う。

アラスカ海は、チッソ、リンが豊富なのに、プランクトンがいない。
鉄分を調べると、ほとんどない状態であることがジョン・マーチン
の研究でわかった。

日本海はプランクトンが豊富であり、良い漁場になっている。大陸
からの黄砂で鉄分が多い。三陸海岸もプランクトンが多いが、こち
らは、アムール川からの鉄分である。

森は腐葉土を生み、腐葉土はフルボ酸を生み、鉄分をフルボ酸がフ
ルボ酸鉄として安定させる。小さな鉄にしてくれる。酸化鉄は大き
な鉄であり、重く海に沈むが、この小さな鉄は沈まない。

このことをキレート効果というが、重要である。これと同じ効果が
出るのはレモンのクエン酸でミネラルの吸収をよくする。

このように森が、吸収できる鉄分を供給してくれる。田畑や海に供
給してくれるので、植物も魚も成長できるのである。

アムール川の色は、茶色であるが、これはフルボ酸鉄の色である。

日本は全土の7割が森である。3万5000の川が有り、フルボ酸
鉄を供給してくれている。このため、魚も美味しいし、お米も美味
しい。これが「森は海の恋人」の理由です。

このため、山で植林をし始めた。このことが小学5年生の教科書
に載り、高1の英語の教科書にも載るようになった。

平成6年に皇居に呼ばれて、牡蠣のために森作りの話をしたとき、
「森は海の恋人」の英訳を皇后さまに相談したら、「The forest is  
longing for the sea, the sea is longing for the forest」とな
った。long for とは慕うという意味で、旧約聖書に出てくる言葉
。国連で森の賞で表彰されたが、その時にも、この言葉が評価され
た。

現在、ルイビトンが、NPO「森は海の恋人」を全面的な支援してくれ
ている。



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