5012.米中関係:アジア太平洋地域と世界への影響



この講演会の主催は、ブルッキングス研究所であり、ジェームス・
スタインバーグ元米国務副長官とマイケル・オハンロン氏、それと
田中均元外務審議官である。

この講演の英語は「US-China Relation:Implication for the the
Asia-Pacific and the World」であり、影響というより暗黙の了解
または暗示になっている。その意味が講演を聴くとわかった。

(スタインバーグ氏の講演)
「Strategic Reassurance and Strategic Resolve:US-China Relation
in 21st Century」(オハンロン氏と共著)の内容の講演会であり、
その著書では、50年前から東アジアの情勢を述べている。朝鮮戦
争後、地域内諸国が奇跡的な経済発展をしてきた。安全保障につい
ては、不確実性が増している。中国の経済的な台頭で軍事費も拡大
させている。

この中国の台頭に対して、2つの論がある。1つは歴史的な観点と
国際関係から、米中は最後には戦う事になるのは必然とする悲観論
であり、2つ目は、リアリストたちがいう論であり、中国と米国は
深い相互関係が有り、紛争はできないので戦争は起きないという楽
観論である。

しかし、将来の行方は分からないという観点から、この本では米中
関係を見ている。長期的な予測はできないし、読めない。中国の中
央集権的な政治体制も不確実である。習近平氏の動向も読めない。

それでは、正しい戦略とはどうするのか?
読めないということで、積極的なヘッジをすることになるが、これ
をすると相手に対立を煽ることになる。ヘッジは敵対という疑いを
持たれてしまい、戦争のなる危険がある。これは安全保障のジレン
マであるが、それに陥る。

このため、ヘッジを慎重に行う必要がある。

信頼を得ることは難しい。中国は平和的な台頭と言いながら、米国
をそらすために、言葉だけの可能性がある。両首脳の言葉だけでは
このため、信頼を得ることはできない。

このように複雑である。誤解に基づく敵対心になってしまうことが
問題で、ヘーゲル長官のASEANでのスピーチでも、アジアシフ
トを言うと中国封じ込めと捉えることになる。そして、それではな
いと言っても、中国軍高官は信用できないという。

このため、言葉だけでは信頼関係はできない。

この本で述べているのは、レーガン大統領が言った保障で、具体的
な行動を取ることで信頼を得て、お互いの国益を守るために誤解に
基づく敵対はしないことである。

5つの方法を記述した。
1.相手に敵対心がないことを示す2.相互主義、3.透明性、
4.保障、5.レッドラインを示して、決意を明確にする。

戦略については、長期的な分析が必要であるが、相手にハッキリと
意図を伝えることが重要である。そして、米中間で明確にした意図
をすり合わせてるプロセスが重要になる。

誤解に基づく紛争をさせることである。

この方法は米中関係以外の関係でも不信感を除去するのに適用でき
ると見ている。どの2国関係にも応用できる。

(オハンロン氏の補足)
現在、米国は、前方展開した方が良いという立場を取っている。
このため、西太平洋で衝突する可能性がある。しかし、平和的に処
理したい。競争的な関係を限定して、協力関係を増したい。戦争は
避けたい。そのためには、平和へ向けての良い循環が必要である。
このため、20の政策を示し、コミュニケーションを欠かさないよ
うにしている。

ここでは4つの政策を述べる。
1.オープン・スカイ協定
旧ソ連のワルシャワ協定国との間で取った政策で、防空圏内に入る
場合には、偵察目的でも飛行許可を取ることで、中国に対しても有
効と見ている。

2.インシデント回避協定
相手と自国軍艦同士が近距離時、回避するルールを決める。これに
より、戦争を回避できる。

3.宇宙におけるデビリ(ゴミ)問題
宇宙空間は現在、ゴミが多く、それが問題になっている。このゴミ
は時速2500kmで飛んでいる。このため、機能停止した衛星は、高度
を低くして地球に落ちてデブリ化しないようにする協定を米中間で
行う。

そのほかには、軍近代化の問題で提案している。
中国は世界第2位の軍事大国になっている。軍事費も年率20%近く
UPになっている。GDPの2%になっている。米国はGDPの7%。
しかし、米国は湾岸地域など世界展開しているが、中国は西太平洋
だけであり、範囲が違う。これは中国も理解している。

このため、中国に軍拡を抑えることを提案する。

米国もエア・シー・バトルを言うのを止めるべきである。近代化し
た空軍と海軍が連携して動くことであるが、中国は誤解している。

このため、表現を変えることである。オペレーションとすれば、中
国に参加してもらえることもできる。

全てに冗長性が必要であり、エスカレーションしないようにして、
核戦争にしないことである。このため、小さな紛争も抑えることに
なる。

中国は軍拡しているが、それに追従して米国は軍拡してはいけない。
脅威を抑える。中国は西太平洋に乗り出してくる。しかし、これに
競争的にしないことである。

そして、国際的なルールに中国が関与することがポジティブな関係
を作ることになると見ている。

(田中氏からの質問)
1.オバマさんの保障は、同盟国向けであったが、これを中国にも
行うことか?そして、米中間に安全保障上で共通な利益があるのか?
米中で太平洋を2つに分けることか?
レッドラインを示すことが決意というが、中国は、その決意を試し
ているように感じる。穴があるとそこをついてくる。防空識別圏で
も日米の立場が違うので、その穴を突いてきた。

2.同盟国とは戦略的前方展開にしている。このため、米戦略は日
本と同一的な戦略を持つ必要がある。現在、日米は戦略的に一致し
ているのか?尖閣についても米国は、どちらに属するのか見解を示
さない。日米の違いをどう埋めるのか?

3.中国国内のヘッジはどうするのか?中国の統治ができなくなっ
たら、現政権は、そらすために外部に攻撃的になる。この時、保証
と決意はどうするのか?

(スタンバークの答え)
1と3は、同じ質問である。中国政治を善意とみるか悪意とみるか
、後向きと見るか前向きと見るか。相手がどちらに向くかを考える
ことである。米中は、平和裏の競争を行うことであるが、利益が不
一致になると第2次大戦になるので、誤解を生まないようにするこ
とである。

これは前向きの時であり、後向き時はヘッジするし、警告をするこ
とである。米ソ冷戦時に実行したことであり、それを再度行うこと
である。

少なくとも悪意の方向にドンドン行くのを避けることである。

(田中)
中国は、米国の決意を試している。中国は既に30年、50年とか
で目標完遂を決意している。

(スタインバーク)
中国が自制的でないなら、米国は対抗的になるので、反対に中国か
らの保証を必要とすることになる。

(田中)
オハンロンさん、抑制が必要というが、中国サイドの利益になるの
はないですか?

(オハンロン)
米国は同盟国を持ち、中国が戦争をすると負けるので、中国にとっ
ては、不利益になる。

(スタンバーグ)
中国は弱いことを意識させないと、競争的になるので負けるという
ことを理解させることである。

(Q&A)
Q1:中国の体制が続かない可能性があるが、この提案は中国体制は
変わらないことを前提にしているのか?
A1:NO。どの体制でもよい。

Q2:人権問題を米国は言わないように思うが、どうか?
A2:人権問題は米国はしつこく言っている。しかし、聞かない。方
法を考える必要にある。

Q3:中国の台頭は、カムバックしていると中国は捉えているがどう
感じるか?
A3:中国の歴史が影響している。覇権国家になることもある。

Q4:尖閣はどうか?
A4:決意を示すことである。しかし、レッドラインを柔軟にしてお
きたいので領土帰属は保留にしている。ルールを明確にして、武力
で現状の変更をさせないことである。しかし、戦争はしない。

Q5:ベトナム、フィリピンと中国についてはどうか?
A5:中国の一方的な現状変更にASEANは、一方的でも良いので行動ル
ールを作り、中国に参加をさせる方向にするしかない。
米国はASEANをサポートする。ベトナムとは米国は安全保障対話をし
ている。プレゼンスを高めることである。
ここでは中国は明確に攻勢に出ている。

Q6:この本に中国はどう反応したか?
A6:中国の公式見解は出てこないが、非公式には軍拡のスローダウ
ンは了解したようである。

Q7:ウクライナ政策はどうか?
A7:ウクライナの政策でロシア系住民が心配している。ロシア系住
民に対して決意をEU、NATOは示すべきであり、正当化できない。
オバマ大統領は、制裁を直ぐにするべきであったができなかった。
決意を示し、行動をする。代償を払う必要がある。
これを同じことを東アジアも行うことである。

Q8:ロシアと中国は同盟関係になってしまうのではないか?
A8:中国とロシアの関係が強くなる。しかし、中ロの利害は違うの
で、ロシアが中国を守ることはない。

Q9:中国は19世紀の帝国主義であり、これをどう評価するのか?
A9:田中さんが答えて、この本は戦争をどう回避するかであり、中国
も行動が必要であり、前提が違うようである。






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