4993.中国は世界をどう変えるか?



昨日は、マーティン・ジェイクスの講演を聞きに溜池に行ってきた。
マーティン・ジェイクス氏は、「When China Rules the World」が
世界14ケ国語に訳されて、30万部を売り上げている。イギリス
共産党機関紙「Marxism Today」の編集長を務めた後、現在インデペ
ンデントなどの世界の新聞、雑誌のコラミストで活躍している。
(講演)
3つの題で話す。1つが中国の経済の台頭、2つが中国の経済、政
治、倫理。3つとして中国が世界をどう変えるか?である。

1.中国の経済
米国の2008年経済崩壊後、中国の経済成長が止まらないために台頭
してきた。2012年で見ると、中国は2008年から見ると130%のGDPに
なっている。しかし、欧米も日本も停滞して、2008年のGDPとほとん
ど同じである。

ビューという調査機関によると、子供が親より豊かになるか?とい
う調査では、中国は82%がYESであり、NOは7%であるが、日本は15%YES
で、NO76%である。欧米も日本と同じである。

2年前、2027年に米国を中国がGDPで抜くとしていたが、今は2018年
に抜くとなっている。中国は貿易大国になり、輸出は1位、輸入は
2位であり、全体では米国を抜き、1位になっている。
このため、ほとんどの国で、中国との貿易がトップになっている。
2位、3位を見ると、ほとんど全ての国になる。

中国開発銀行と中国輸出入銀行の世界への投資額は1100億ドル
であり、世界銀行の投資額が1000億ドルと世銀より中国の方が
多い。このため、世界に大きな影響を与えているのだ。その分、世
銀の位置づけが小さくなっている。米国より中国の方が経済面での
力が上になってきている証拠である。

2008年には、人民元での決済をすることはなかった。ローカル通貨
であり、貿易での決済はドルかユーロであったが、2012年では人民
元での決済が12%を占めている。2015年では16%になると予測されて
いる。人民元が国際通貨になってきている。準備通貨になる可能性
も高い。

中国の評判を聞くと、ナイジェリアのように良いが80%、悪い8%とい
う所と、アルゼンチン、メキシコ、日本のように中国の評判が悪い
ところがある。

中国と米国では、どちらが影響力があるかという調査では、多くの
国で、米国より中国の方が影響力があると答えている。オーストラ
リアやマレーシアなどであり、逆に米国と答えたのは、日本、フィ
リピンなど中国と安全保障面で問題がある国だ。
といように、中国は世界の大国として台頭してきている。

しかし、まだ、1人当たりのGDPで見ると、米国の1/5でしかない。
そして、中国は経済改革をしようとしている。外需から内需、ハイ
テク、資本集約産業にシフトさせようとしている。成長率も下がっ
ている。しかし、まだ貧困層がいるので低賃金もあり、成長率が7%
程度になるが、20年程度は成長できる。1980年では米国の1/20でし
かなかったのが、現在1/5になり、2018年では米国と同等になる。

そして、2030年では中国が世界33%、インド19%、米国が15%、EUが15
%、日本が3%になると予測されている。実に米国の2倍の規模になる。

要するに、2030年の世界は、今とは違う世界になるということであ
る。途上国と中国の経済が大きくなり、先進国経済は相対的に小さ
くなる。

2.中国の社会
近代化するためには、西洋化しかないとしていた。英国の産業革命が
西洋を変化させて、日本以外の東洋では産業革命はできないと見ら
れていた。しかし、その日本も西洋とは違う文化を持ち、東洋と西
洋のハイブリッドな文明を形成した。

西洋を取り込み近代化して、東洋も残すというハイブリッド化が日
本から出てきた。中国も同じで、西洋化した社会ではなく西洋を一
部取り込んだ社会である。

中国は、どのような社会になるのであろうか?
その前に、中国の文化・社会の特徴は何か?
これを知るには、政治の表面を見るのではなく、2000年の歴史を見
る必要がある。中国での共産党の歴史は80年しかなく、それで中国
を理解することはできない。

この共産党の歴史から、中国はどこかで崩壊するという誤った理解
が西洋でされているが、違う。それは起こらない。中国は国民国家
ではない。

中国人は5000年の歴史という。秦王朝はBC206年に中国を統一した。
漢王朝はBC87から141年まで支配した。これで中国はまとまる。
中国人が中国人と思うのは、家族、個人、国の関係で思うことであ
る。ルールベースとして人間関係を基礎にした社会であり、法律を
ベースにしていない。

中国は文化を基礎にした国家であり、西洋は国民国家であり、その
構造が違う。このため、国の運営方法が違う。長寿、文明、広大さ
などの違いが西洋とある。

この広大な国家では多様性があり、バラツキが出る。中央政府より
省政府が大きな力がある。

このため文明国家であり、一体性、秩序が重要であり、遠心力が働
くので、維持が大変で、安定を重視する。

香港を見れば分かるように、1997年返還したが1国2制度を取った。
西洋では、そのような制度は無理であり、早晩、共産党体制になる
と見ていたが、現状でもその制度が変化しない。国民国家の西洋で
は、このようなことは考えられない。香港は今でも民主化されてい
るし、英国ベースの法律が施行されている。

この意味する所が分かっていない。中国政府は人民の代表が統治す
るわけではない。民主主義が前提ではない。中国政府は正当性があ
ると民衆が考えることが重要なのである。調査すると現政府の支持
率が80%以上になる。

というように、正当性があると見られるのは、経済成長があること
で国民が徐々に豊かになっているからである。西洋的な物の見方で
はわからないが、儒教的な見方ではわかるはずである。

国家の役割は、文明を守り、それを体現することである。このため、
提供されているものに対して、国民は評価することになる。市場原理
と同じ論理である。

この根本は、家族の父と同じような姿勢で国を統治することであり
、儒教的な考えと近い。国家が何を達成したかというと、教育改革
で貧しい人も大学に入れて、公務員になれるようにしたことである。

3.中国は世界をどう変えるか?
今までは、中国は経済成長しか考えていないので、世界をどう変え
るかは、考えていないはず。ロシアと中国は違う。ロシアはイデオ
ロギーを第一にしているが、中国は違う。米国のようになるかとい
うと、少しは米国流になるが、国の運営が違う。

中国人は、もっとも優れた文明と思っている。西洋も同じであるが、
この2つが大きく違う。西洋は文明を文明化されていない国に持ち
込むことを考えた。これが植民地化である。宣教師が世界にキリス
ト教を広めていくことになる。

しかし、中国は他国に行くことはない。国から離れない。文化や経
済を広めるが、征服するとは考えない。属国化することで止める。

中国文化が優位にあるので、周辺国が朝貢してくると思っている。
中国自体は、中国にとどまる。13億人の人口がいるので、遠心力
が働かないようにしている。

人口が少ない英国はイージーに統治できる。米国も3億人であり、
統治は易しい。このため、中国は国内優先であり、外国は下である。

中国は軍事大国になる。しかし、米国ようにはならない。世界の軍
事費の50%を米国が占めるということにはならない。国民1人当たり
の軍事費は、日本より中国の方が低い。米国とは比べ物にならない
くらい低い。

中国は、途上国と米国のハイブリッドになる。途上国は中国を見本
にして経済発展を図ることになる。

中国は現状の国際体制に不満がないし、それにより利益を享受でき
ることが重要と考えている。新しい体制を作ることはあると思うが、
ソ連のような感じではない。
(以上)

(Q&A)
Q1:先生は楽観的であるが、中国の貧富の差拡大はどうなるのです
か?
A1:日本のように、バブル崩壊でゼロになることはない。中国の1
人当りGDPはまだ、だいぶ低いことによる。しかし、経済成長のスピ
ード7%と低くなる。

Q2:軍事費の伸びが大きいと思うが、どうでしょうか?
A2:軍事予算伸びが経済成長で拡大した。このため、不釣り合いと
は言えない。米軍の能力と比べると、まだまだの状態である。

Q3:日本に中国は攻撃してきた。元寇の役で、このとき勝っていた
から中国に支配されていないが、もし負けたら中国に併合されてい
た可能性があるが、それに対して、どう思うか?
A3:中国は属国化する方向で対応する。その制度は完備されいる。
このため、日本を併合しない。日本が中国にやったことより、優し
いかもしれない。

Q4:農村から革命が起こるのではないか?
A4:不安定なことがあるとそうなるが、現状の中国は安定している。
成長で多くの国民が豊かになっている。

Q5:21世紀は20世紀より平和になりますか?
A5:20世紀は恐ろしい世紀であり、21世紀は悲観的な世紀ではない
と思う。2050年にはGDPで先進国15%、途上国85%ということになる。

Q6:中国台頭に対する対策は、何かありますか?
A6:そのような心配を止めることである。中国の成長を押しとどめ
ることはできない。対策などは無駄である。日本は中国と緊張関係
にあるが、それを考え直すことである。前向きに考えることである。
関与させることである。そうしないと、日本が逆に孤立化すること
になる。

(感想)
大変な講演会であった。しかし、客観的データを積み上げると、そ
ういうことになるということもわかるので、山口防大教授もエンゲ
ージとヘッジの2つを使っていくしかないかとコメントしていた。

しかし、この講演を聴いている間に、もう1つの観点があるような
気がしていた。それは中国やインド、途上国の経済が伸びると、農
産物と資源が足りるのかという観点であり、この当たりのデータは
、マーティン・ジェイクスさんの講演では考慮されていないのが気
になる。暗黙で資源無限大を前提にしている。




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