4982.完成したデジタル言語学



完成したデジタル言語学
From:得丸

 島泰三博士の『はだかの起原』(2004年)には裸 の哺乳類として、ハダカデバ
ネズミが紹介されている。暗い地下トンネルのなかで生涯をおくるハダカデバネ
ズミは、音声コミュニケーション が盛んで、声が低いと体も大きくて偉く、挨
拶の仕方が違う。つまり敬語をもつ。

しかし、ハダカデバネズミの音声記号の数は17しかなく、ヒトに比べて3桁も4桁
も桁 違いに少ない。この違いについて考えているとき、ひらがな積み木が頭に
浮かび、ヒトは音節の順列組合せによって単語を造るから単語数が多 いことに
気づいた。ひと桁違うとまるで違う単語になるのは、デジタル方式だろうか。ヒ
トの言語は動物の音声コミュニケーションのデジタル 進化ではないかと思った。

ところが、デジタルとは何かの定義がどこにもなかっ た。2008年から6年かけ
て、ヒト音声言語のデジタル性について、主として電子情報通信学会、情報処理
学会、人工知能学会の研究会に80回以上参加することによって学習と思考を重ね
てきた結 果、一連の仮説が生まれ、驚くべき結論が導かれた。

以下概要:

1.2002年、地球環境問題の深刻さに頭を悩ませていたとき、 「水俣病はチッ
ソが悪いのではない。人類文明の原罪である」という石牟礼道子さんの言葉に出
会った。人類とは何者か、文明とは何かという ことをはじめて考えた。

2.2007年2月末に南インドの学会で、人類は南アフリカの洞窟「人類のゆりか
ご」でうまれたに違いない、洞窟環境が人類を生んだの だと、口にした責任
上、南アの洞窟を訪れようと思い、同年4月末に南アの「人類のゆりかご」に行
く準備をしていたとき、そこは300万年前の人骨化石を発掘した場所で、7万5千
年前にうまれた現生人類のものではないことがわかった。しかし幸運なことに、
7万5千年前 の人類の居住が確認されている洞窟、クラシーズ河口洞窟も、南ア
フリカにあったのだ。

3.ヒトとヒト以外の動物の身体的違いは、ヒトは喉頭降下によって母音の共鳴
が生まれるようになったことである。他に、脳 の構造や、身体や神経回路の仕
組みに違いはない。

4.喉頭降下は、南アフリカのインド洋・大西洋沿岸地方で暮らすブッシュマン
たちにおきた。7万7千年前 にクリック子音を獲得し、舌筋を多用するように
なって、下顎の発達がおき、6万6千年前に母音の共鳴が生まれるようになった。
喉頭より上の声道は、水平部と垂直部が同じ長さで直交することで、片側が 開
口している二連共鳴管として機能するようになったのだ。ブッシュマンだけがい
まもクリック子音を使っているのは、喉頭降下が起きる以前 の語彙が残るからだ。

5.音節は音素性とモーラ性をもち、音素性が無限の造語力を与え、モーラ性は
すべての音節が相手にきちんと誤りなく届くこ とを保証することによって文法
を生み出した。ここで、文法の定義は、「主として単音節の付加または変化(活
用)によって、概念相互の意味的関連や概念の意味修飾を指示し、いったん獲得
すると無意識に使うことができる論理スイッ チ」である。

6.言語は、脊髄反射によって運用されている、脳室内免疫ネットワークであ
る。言語機能や思考能力を高めるためには、運動 神経を鍛えることが有効であ
る。武道で投げられたときの受身や、山登りなど、不安定な環境で自分の体を立
て直す体験をすると、言語能力や 思考能力も高まる。

7.脳幹網様体に言葉の記憶が抗原として構築されてはじめて言葉を聞き取るこ
とができる。そのためはじめて耳にする言葉 は、頭に残らない。その言葉が重
要であるという認識が伴わないと、新たな言葉は覚えられない。また、覚えた言
葉を正しく使うためには、脳 内で「ああかな、こうかな」、「ああでもない、
こうでもない」といった思考を積み重ねて、言葉を正しく使えるようにする必要
がある。孔子 の言葉は「思いて学ばざれば暗く(常に新たなことを学び続けなさ
い)、学びて思わざれば危うし(新 たなことを学んだら、その言葉を正しく使え
るように脳内で思考を積み重ねる必要がある)」と通信路誤り訂正して理解する
といい。

8.言語の記憶(記憶理 論でいう「意味記憶」)は、脳室内の脳脊髄液中の免疫
細胞Bリンパ球の抗体である。抗体は、抗原と結びついてネットワークするほ
か、抗体の一部が抗原の役割をはたすことによっ て、抗体と抗体がネットワー
クする。

9.概念には、五官の記憶をともない概念(いわゆる具象概念)と、五 官の記憶
をともなわない概念(いわゆる抽象概念、論理的概念)があるが、生物学的には同
じ免疫抗体であるために、これらの概念の区別を意識的におこなわないと誤った
概念操作を招 き、大変に危険である。

10.文法は、記号のパターン認識(二 分法)と、記号とその運動ベクトルの二
元統合の能力を使っている。運動ベクト ルを、論理ベクトルとすることで文法
は機能しており、文法を使うようになったヒトは反射の運動能力を阻害する。

11.できごとの記憶(記憶理 論でいう「エピソード記憶」)は、大脳皮質にあ
るマイクログリア細胞が、言葉の記憶を抗原提示しつつ 記憶する。マイクログ
リア細胞は、マクロファージと同じ性質をもつから、抗原提示機能をもつと考え
られる。

12.したがって脳に言語中枢はないといえる。言語は、分散型の脳室内免疫細
胞ネットワークである。

13.また、ヒト以外の動物でも、文法を含む言語を理解することはできるはず
である。彼らにできないのは、母音を発声するこ とだけである。ヒトとヒト以
外の動物のコミュニケーションは、これがわかれば格段に向上するだろう。

14.コンピュータ・ネットワークは、有史以来人類が残してきた言語情報に、
電子ネットワークによって瞬時にして対話式(キーワード検索などが可能)アクセ
スできるようになった。これは音声言語、文字に続く人類の第三の進化である。
しかし言語情報を取り込む際には、 通信路誤り訂正(著者が書いたとおりの文章
であるか)、情報源誤り訂正(著者の 書いた内容は正しいか)を確認する必要がある。

15.一般に、言語情報には、3種 類ある。自分が手にした言語情報がそのうち
のどれであるのかを見極めて、適切な方法で接すれば、人類未踏の領域がどこに
あるかすぐわか り、自らを前衛の位置におくことができる。(1) 天才が書いた
文章で、読書百遍して少しずつ自分の知能 に取り込むべきもの(ノイマン、イェ
ルネ、ピアジェ、孔子、孟子)、(2) 読者に 概念上の混乱を与える、三回以内に
誤りに気づいて葬り去るべきもの(シュレディンガー、シャノン、チョムス
キー、プレート理論)、(3)著者はどのような人間で、何を見て、どのような結論
を出したのかの思考プロセスを丁寧においかけて、著者のどこが正し くてどこ
が間違っているか、著者が見逃した事実は何かを含めて読み取るべきもの(島泰
三、ローレンツ、ティンバーゲン、パブロフ)

16.以上のことがわかると、人類は新たな文明の構築作業にとりかかることが
できる。いま人類ははじめて人間になれる時代で ある。はじめて主体的意識的
に進化をできる時代である。破局を迎えている現実を直視して、自らの言語・思
考能力を高めて、時代を乗り切る べきである。

17. 人類は、五官で感じられる物理的な喜びとともに、言語作用によって生まれ
る脳内量子力学によって論理的な喜びも感じることができる。言葉を正 しく使
うことによって、知能は無限に発展する。ここに人類の喜びはある。



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