4960.野山獄日記



野山獄日記 2014年3月12日

みなさま、
日記というものをあまりつけたことがないのですが、このところ、いろいろなこ
とが起きており、日記という形式を使ってみようと思いました。
適当にお付き合いください。


野山獄日記 2014年3月12日 得丸公明 (思想道場 鷹揚の会)

1. 人類の起源について大学で講演します
 3月1日にH大学でインド史を教えるH.A.君からメールが届く。新年度に大学
2.3年生を対象に行う「人類の起源」のうち1〜2コマをやって もらえない
かというもの。人間はなぜ争うのか、殺し合うのか、どうすれば平和に生きられ
るのかを考える講義にしたいのだという。もちろん旅費・交 通費は出ないし、
謝金も出ないのだが、大勢の学生の前で自分の仮説を語る自由はある。
 この2週間、講義の内容について、やりとりしていたが、H.A.君のOKが出たの
で、実施することになりそう。
 そもそも僕が南アフリカの洞窟に行こうと思ったのは、2007年2月にインドの
ティルパティにあるスリ・パドマヴァティ女子大学で開かれたアン ベドカル没
後50年のシンポジウムにのこのこと出かけて、「アンベドカルとアパルトヘイ
ト」という題の講演をしたことがきっかけ。その講演のなか で、「人類は南ア
フリカにある、人類のゆりかごと名付けられた洞窟のなかで生まれた」と、勇み
足でしゃべったことに対して、自分で一度も訪れてい ないのは心苦しい、一度
は訪ねてみようと思ったのがきっかけである。
 じつは僕は、当時、仏教の勉強をしていて、一年間仏教を勉強した修学旅行と
して、ガンジス河沿いのブッダの足跡を訪れるべきか、聞いたこともな い町に
ある聞いたことのない大学で行われるシンポジウムに参加するのと、どっちが面
白いかをH.A.君に助言を求めたのだった。H.A.君は、即 座に、「僕もまだ訪れ
たことはないけど、ティルパティは、インド最大の聖地です。その町を訪れるだ
けでも、ものすごく意味があります」という助言 をくれたのだった。
 つまり、この7年間続けている人類の起源、言語の起源とメカニズムの研究
は、インド史研究家のH.A.君なしには始まらなかったということにな る。
 今回の講義には、そのことのお礼もこめるつもり。

2. 時間のフリーハンドを会社に与える
 自分自身、所属する会社と自宅待機処分や退職条件についての団体交渉をして
いるのだが、加入した組合に僕より後から加入した人のための団体交渉 支援や
会社との交渉支援も行っている。
 先週金曜日には、外資系の医療機器である冠動脈造影装置の営業担当者が、会
社および会社が雇った弁護士と交渉する現場に立ち会った。そして、今 日は、
会社に送りつける手紙の作成を手伝った。
 6年近く働いてきた社員に対して、会社は、2ヶ月の退職金プラス有給休暇買取
 2ヶ月という驚く程冷たい条件をつきつけてきた。会社で優秀社員 として3年
連続表彰されたこともあるベテラン営業マンのプライドをいたく傷つける行為で
ある。会社は、売上が下がっているとか、彼の販売実績が悪 いとか、いろいろ
と口実を並べているけど、どれも説得力に欠ける。要するに、上司が好きか嫌い
かだけで、退職勧奨の対象にされたような事例であっ た。
 しかし、この交渉は、本人ももはや会社にいたくないと感じているのと、会社
は一日でも早く退職させたいという思いでいるために、退職金が何ヶ月 になる
かだけの問題で早晩決着する交渉であると思われる。
 会社の言い分に対して反論し、営業マンの能力を確認する事実をあげて、最後
の段落で「会社が急ぐなら、退職金を給料の○ヶ月分にすれば、本人は 退職和解
に合意します」という一文をいれて、手紙をつくって、会社と弁護士に送りつけた。
 会社に時間の自由裁量権(フリーハンド)を与える代わりに、組合員にお金の利
益が訪れることを祈りつつ。

3. 千代に八千代に代々木は聖地
 東京管理職ユニオンは、京王新線初台駅から徒歩5分くらいのところにある。
新宿駅南口から歩いても15分強であり、意外と便利なところにある、 と思って
いた。住所は渋谷区代々木4丁目で、まわりは驚くほど閑静で、それでいて個性
的な住宅や美術館や商店が散在している。時間は30分以上余 計にかかるけど、
原宿から明治神宮を抜けてくることも可能で、御苑や西参道の樹々をみながらく
るのもおもしろいと思っていた。だいぶ以前に見た岸 田劉生の絵にも、代々木
の絵があり、印象的んだったなあという記憶も蘇る。
 ところが、先週金曜日に、ユニオンの事務所から品川駅にいくにあたって、徒
歩でJR代々木駅まで向かったのだけど、途中に平田篤胤神社があっ た。大きな
住宅の一部が神社になっていて、庭もないのにそれなりの雰囲気を醸し出してい
る。その近くには、妙智会という新興宗教の本部もある。
 その日ユニオンから代々木駅まで3回(一往復半)歩いて、なんとなく代々木
という土地そのものが聖地のような気がしてきた。「君が代は千代に八 千代
に〜」と歌にもあるように、「代」が重なってここの地名になっている背景に
は、何か地霊の働きもあるのかもしれない。かつてはてな人力検索エ ンジン
で、東京の聖地・パワースポットはどこですかという質問に対して、僕は明治神
宮西参道あたりと答えた記憶があるのだが、代々木そのものが聖 地かもしれな
いと思うようになった。
 その日の夕方は、小田急線と明治通り(環状6号線)の間にある細い裏道をあ
てもなく参宮橋、代々木八幡へと抜けたのだが、これもまた適度なアッ プダウ
ンがあり、行き止まりありで、味わい深い道だった。代々木八幡も、狭い割に味
わい深い神社だった。
 ユニオンのおかげで思わぬ発見をして、「通勤」が楽しくて仕方ない。

4. 4段のお稽古
 今年になってから僕は、元旦以来3月11日までに43回合気道の稽古をした。
 多田塾一門が合気道本部道場に集まる研修会が2回、吉祥寺の月窓寺道場が23
回(うち朝8時からの稽古が14回)、武蔵境にある桜堤合気道クラ ブが11回、自
宅に近い自由が丘道場が6回、そして本部越年稽古が1回。
 成人の日が初回だった桜堤(毎週日曜と不定期木曜の夜)が予想外に多くなっ
た。桜堤を指導される若い先生の稽古は言葉以前に楽しい。7回は師範 代の指導
だったが、若先生の指導と同じだけ集中できた。ここでは自分のできていないと
ころを丁寧に見て頂き、的確にご指摘頂けるのが本当にありが たい。
 郊外の住宅公団団地の中学校の夜の体育館の126畳(長9x短14)に数人で稽古し
ていると、浩然の気、宇宙とつながる気を感じる。
 4年前に三段になったとき、ようやく多田師範の手足の動きが少し見えるよう
になったが、昨年夏に四段をいただいてからの稽古は多田先生の動きに 少しで
も近づくための稽古だと思っている。

5. ウィルス情報に人生を狂わせるな
 今週は明治大学で電子情報通信学会のコンピュテーション研究会があった。 
この研究会は、もともとはオートマトン研究会という名称だったが、い つの間
にかコンピュテーションという名前になった。オートマトンという名称は、ジョ
ン・フォン・ノイマンが、情報理論という言葉の代わりに(おそ らく情報理論
という看板をシャノンの指導教官であったブッシュに譲り渡したために)、彼の
研究対象につけた名前であり、オートマトンの理論は情報 の理論と同一である
ということをノイマンは何度か講演で話している。ノイマンにとって、オートマ
トン研究あるいは情報理論は、生命がどうして自動 的に進化してきたのかを解
明することが目標だった。
 電子情報通信学会のオートマトン研究会は、おそらくノイマンが意図したこと
を理解しないまま、藪から棒に自動計算を行うことを研究対象にしたの だ。だ
から、オートマトンよりももっと中性的なコンピュテーション研究会に名前を変
えたのだろう。
 僕はこの研究会で3年前の3月、2年前の3月にも発表をしているけど、今回を含
めてつねに朝一番に順番がきた。朝一番だと聴衆の数はちょっと少 ないけど、
他の参加者とまるで違う内容のテーマで発表をさせてもらえるだけでもありがた
いことだと思っている。
 今年の僕の発表には、人類の古典である言語情報には3種類あり、天才の文
章、病原菌ウィルスの文章、正しいことも誤りも両方もつ普通の文章があ ると
説明した。とくに 「病原菌ウィルスのような文章は駆除する (シュレディン
ガー、シャノン、チョムスキー)」と名指しで批判し、ウィルスに ひっかかると
一生を無駄に過ごすことになりますという話までしていた。
 自分の発表の後、3本の発表を聴かせていただいたが、内容を聞いていてだん
だん「ああ、余計なことを言ってしまったかな。みんなの心は傷ついて いない
かな」という思いが募ってきた。しかしながら、もしかすると傷つくような人
は、とっくにこの研究分野から逃げ出していて、残っている人は、 僕の言葉に
傷つくこともないのかもしれないとも思い直した。
 他の参加者と率直な話ができればもっと面白かっただろう。

今週の発表
自動的にネットワークして成長する知能 〜 デジタル言語にもとづく個体と人
類の知能のネットワーク要求解析 〜
得丸公明(システムエンジニア)
・資料番号       COMP2013-60
申込先研究会: COMP
開催日   : 2014-03-10
会場    : 明治大学

6. 最初の妻とその次の愛人に捨てられたシャノン
 昨年10月3日に、自由が丘の駅のホームで、東工大の植松友彦先生とばったり
会った。クロード・シャノンの「通信の数学的理論」の新訳をちくま 学芸文庫
から出版された方である。電子情報通信学会の情報理論研究会が2010年7月に東
京新宿の工学院大学で開かれたときに、「植松先生、シャ ノンって、アナログ
なことしか話していませんよね」「そうなんですよ。PCMなんてのもじつはアナ
ログですからね」という会話をさせていただき、 その後も情報理論研究会の場
で何度かお顔を拝見している。
 僕は、最初の妻、ノーマ・バルツマンの自伝を読んでいることをお話し申し上
げたところ、植松先生は、電車のなかで、前月にスペインで開かれた ITW(情報
理論ワークショップ)で、プリンストン大学のセルジオ・ヴェルデュ教授が、
シャノンの最初の妻と二番目の妻の間にいた女性について非 常におもしろい講
演をしたという、最新情報を教えてくださった。
 じつは僕はシャノンの奥さんとしては、最近までベティーしか知らなかった。
このベティーは、IEEEのインタヴゅーやOMNIのインタヴューの とき、横から口
を挟むなかなかウルサい奥さんという印象があり、あまりよい印象をもっていな
かった。ベティーと結婚する前に、一年同居した奥さん がノーマで、ほかに何
年か付き合った恋人がいたというのは、まったく知らないことだった。
 すぐにそのヴェルデュ教授に手紙を書いて、その愛人女性の手記のタイトルを
教えてもらった。(インターネットと電子メールのおかげで世界は本当 に狭く
なったものだ)
 今年5月に別府で開かれる情報理論研究会では、ノーマの自伝と、愛人であっ
たマリア・モルトン・バーの「筆記療法」 (Graphotherapy)を読み込むことに
よって、シャノンという男の人物像を描いてみようと思っている。
 ちなみに、ノーマとマリアに共通することは、ともに美人で聡明で裕福なユダ
ヤ人の家系に生まれていることと、ともに最終的に女性の側がシャノン の元か
ら逃げ出していることである。
 ノーマは、プリンストンでアインシュタインにお茶を出したことがあり、その
際、「あなたのご主人は実に立派だ」とまで言われている。それでも シャノン
から逃げ出した。ノーマは、別れたあと、ハリウッドで別の男性と結婚し、夫婦
で赤狩り(マッカーシズム)の標的となったためにフランスに 長く暮らす。そ
して自分の息子がMITで学んでいたために約20年後にボストンを訪れたときに、
シャノンとベッドインする。さらに、その2年後に も同じようにボストンを訪れ
たときにシャノンを誘ってベッドインするのだが、そのベッドのなかで、シャノ
ンが何をしゃべったかが克明に記録されて いる。
 マリアはシャノンと別れた後、二度の結婚をして二度離婚した。しかし、その
後も、家族ぐるみの付き合いをシャノン家と続けていた。彼女はシャノ ンが大
好きで、自分の診療室にはシャノンの肖像が掲げられていた。彼女の「筆記療
法」は、なぜ自分はクロードと結婚しなかったのかということを、 自分なりに
納得するために、自分の人生を振り返るものである。昔の記憶をランダムに少し
ずつ、呼び起こしていくなかで、驚いたことに自分からシャ ノンのもとを去っ
たことを思い出す。そして1944年にシャノンと一緒に国内旅行しているとき
に、シャノンの同僚であり、数学者であるヘルマン・ ワイルと出会い、マリア
はシャノンに対するその時のワイルの態度にいたく心を傷つけたことが思い出さ
れる。
 ノーマもマリアも、シャノンが亡くなった後で、シャノンの思い出を正直に物
語っている。これは資料として信頼性が高く、今後情報理論を見直すに あたっ
て、貴重な一次資料となるであろう。


11月にヴェルデュ教授からもらったメール
Dear Mr. Tokumaru,

The lecture will not be published.
His girlfriend was Maria Moulton-Barr
She wrote an autobiographical book called Graphotherapy
in which she talks about Shannon.

The Channel is meant to be in Figure 8.
It must have been an oversight by Shannon.

Best Regards,
Sergio Verdu

On Oct 3, 2013, at 3:41 AM, Kumon Tokumaru wrote:

Dea r Prof. Verdu,

I am a Japanese information theoretician and natural philosopher.

I have been working on the Mechanism and the Origin of Human Language
using Information Theories. In my hypothesis, human language is a
digital evolution of animals’ vocal communications.

I used the General Communication Model as axiomatic system (or reference
model) to investigate and analyze the complex mechanism and found it
very useful.

The model first appeared in Shannon’s Paper, a Mathematical Theory of
Communication, as Figure-1. This model seems to have developed as OSI
Reference Model used in Computer Networks. However, it is very funny
that Shannon used Fig.-8 in his 1948 paper as Schematic diagram of a
correction system which does not have noisy channel. I cannot understand
why Shannon deleted Channel Noise from Figure-8. This is a mystery. Do
you have any idea?


This morning I met Prof. Uematsu of TIT and he told me that he had very
highly appreciated your lecture delivered at ITW last month. I would
like to read the lecture, if possible. Could you please advise when and
on which journal your lecture will be published.

I am interested in Shannon’s private life. I.e. Who was his girl friend
between Norma and Betty, and during which period they are seeing each
other.

Best regards,
Kumon Kimiaki TOKUMARU


**番外 (Hors Series)**  2月読書会「アンパンマンの遺書」を論じ合ったと
きに、「員数合わせ」の話題から飛んで話題となった「神聖喜劇」の著者の訃報。
ご冥福を祈ります。

    /訃報/
    作家の 大西巨人氏死去 97歳 長編小説「神聖喜劇」など: 大西巨人氏が死
    去長編小説「神聖喜劇」など長編小説「神聖喜劇」などで知られる小説家の
    大西巨人(おおにし・きょじん、本名=のりと)氏が12日午前0時 30分、

7 癌の情報理論 ー 内部被曝はなぜ恐ろしいか
 放射線の被曝量と癌になる確率が比例することは、微量の放射線被曝も危険で
あること、一定量の被曝で致死量になることを意味する。
 同時にこの被曝量と発病確率が比例することから、被曝は確率的・統計的な影
響を及ぼすことがわかる。
 これこそが本来情報理論が扱うべきテーマであったと僕は思っているのだが、
情報業界全体がシャノンの偽情報理論によって悪しき洗脳を受けている ため
に、なかなか業界の人にはわかってもらえない。なにせすべての情報理論の教科
書が、シャノンの「0がくるか1がくるか、確率予測しましょう」 という怪しげ
なマルコフ理論を無批判に紹介しているのだから。
 本当は、0として送ったものが1として、1として送ったものが0として受信され
る確率、いわゆる「ビットエラー率(Bit Error Rate)」が問題であるのだ。そし
てそれは回線と回路上の熱雑音によるエントロピーの増大の結果起きる、つまり
熱の関数として熱力学的に起きるのであ る。
 では放射線被曝すると、いったい何が細胞のなかで起きるのだろうか。おそら
く、細胞の核内でおきているタンパク質情報編集作業である転写後修飾 が阻害
され、または、核内から細胞質に送られるメッセンジャーRNAという情報が破壊
されて、出来損ないの情報が、出来損ないのアミノ酸列(ポリ ペプチド)に翻
訳されて、出来損ないのタンパク質として三次元化するのだろう。転写後修飾
は、核をもつ細胞(真核細胞)でのみ行われている現象 で、これは転写後修飾
が雑音を嫌うことを意味する。
 放射線によって転写後修飾が阻害されてうまれる出来損ないのタンパク質こそ
が細胞を「癌化」させる実態であり、被曝はこの癌化タンパク質を増や すこと
になる。
 こう考えると、外部被曝と内部被曝では癌の発病率も大きく違ってくることに
なる。外部被曝は、一過性で主として外皮が放射線を浴びるのみであ る。これ
に対して、水・空気・食物などによって体内に放射性物質が取り込まれる内部被
曝は、放射性物質が骨や臓器のなかに取り込まれて、そこで放 射線を出し続け
ることになる。癌になる確率(危険度)は、桁違いに大きくなると思われる。
 肥田舜太郎・鎌仲ひとみ著『内部被曝の脅威』では、内部被曝は細胞分裂の際
にDNAを損傷すると書かれているが、もっと大変なこと、瞬間瞬間の タンパク質
産生が阻害されると考えるほうが妥当ではないだろうか。

8 ダーウィンを超えた島泰三
 3月15日、日本アイアイファンドの年次総会が東大・山上会館であり、久々に
伺う。かつて会員だったが、会費が支払えなくなって休眠状態が続いていたのだ
が、今年は島先生からお誘いがあり、顔を出す。
 アイアイファンドは、マダガスカルのアイアイの保護区の管理や植林をおこな
う小さな国際NGOだけど、実態は人類学者島泰三の分身であり、島家のホームパ
ーティーにお邪魔した気分になる。
 二次会が本郷三丁目の喫茶店であり、5時半からだというので、赤門前の大山
堂という古本屋で時間を潰し、書棚の背表紙を眺めていた。すると、読みたい本
がまったくないことでイライラしてきた。結局、日本の学問は、欧米で誰かがや
ったことを、紹介し、理解する努力で終わっている。紹介し、理解した先に、批
判し、乗り越えるという作業がなくてはならないのだが、時間が足りないという
よりも、正しく批判するための思考装置を身に付けることができなくて、挫折す
る。自分の言葉で考えない癖がつくのだ。これが99%の学者の実情であろう。
 島泰三先生は、幸いにも、東大の大学院修士課程のあと、東大闘争で実刑判決
を受けて博士課程を刑務所で過ごしたから、欧米の学者を追いかける機会に恵ま
れなかった。お若い頃のニホンザルの研究からはじまって、アイアイの食べ物や
「口と手連合仮説」(『親指はなぜ太いのか』)も、すべて、自分の足で歩き、自
分の体で感じたことをもとにして考えておられる。それがダーウィンを超える発
見「口と手連合仮説」と「言語と裸化の重複する突然変異仮説」に結びついたの
だ。
 僕が『はだかの起原』に出会ったのは、2005年に「はてな人力検索エンジン」
のおかげだった。鷹揚の会でも取り上げ、講演や論文でも引用させてもらったあ
と、裸化した人類はきっと洞窟のなかに住んでいたはずだからと、南アフリカに
ある「人類のゆりかご」という世界遺産を訪れようと思ったのが2007年。そこか
ら言語と知能のメカニズムにたどり着くのに、7年かかってしまった。それくらい
人類と知能は複雑なものである。
 今年、2014年は、『はだかの起原』が出版されて丸10年の記念すべき年である
。島泰三先生が切り開いた知のフロンティアは、もっと深め広げていかなければ
ならない。

9 STAP細胞騒動は何だったのか
 1月の終わりに、突然STAP細胞という騒ぎがおきた。テレビが火をつけたよう
であり、ヤラセっぽいなとは思っていた。
 Bリンパ球をオレンジジュースに浸して、それを別のメスの子宮に挿入すると
いう荒っぽい実験で、Bリンパ球が万能化するという。そんな単純な刺激で大き
な変化がおきるというのは、万能細胞化するというよりは、免疫学者イェルネが
「免疫二次応答」として紹介した「体細胞超変異(Somatic Hypermutation)」で
はないだろうかと思った。
 NATUREの雑誌が図書館に届いたとき、すぐに読んでみたところ、案の定Bリン
パ球の活性化は2~3日で止まるという実験結果が出ていた。
 STAP細胞などと呼ばずに、Bリンパ球の活性化といえばすむ話ではなかったのか。
 ところが、最近になって、急に小保方博士の論文にコピペがあったとか、実験
結果が間違っていたとかの話になり、論文取り下げというところまで話が進展し
てしまった。
 これは科学信仰や理系女子ブームに水を差すための陰謀ではないかとまで思っ
てしまう。そういえば理化学研究所の野依良治所長は、教皇庁科学アカデミーの
メンバーだった。小保方さんをスケープゴートにして、理系ブームに水を差す陰
謀だったと考えると、なんとなく納得できる。

10 危険がいっぱい・もはや危険ではない
 次男が車の免許をとって、レンタカーでドライブしたいというので、助手席に
座って江ノ島を往復した。
 お昼は「シラス丼」をどうしても食べたいという。
 シラスには、海洋中の放射性ストロンチウムが生体濃縮している可能性がある
から、やめろといってもきかない。
 食堂の前を何度かいったりきたりして、最終的にジャンケンで勝ったほうの言
うことに従うことにして、今回は勝たせてもらった。茅ヶ崎に住んでいるユネス
コ時代の大先輩に電話して、鎌倉のおいしいイタリアンレストランでランチを食
べることになった。
 江ノ島を出ても、次男は不服そうであった。
「シラスは絶対に危険なのか」というので、
「いいかい。危険というのはね、どうなるかわからないときの言葉なんだよ。
 屋根の上を歩いている人に対して、危険だと言うのであって、屋根から落ちた
人には危険とは言わないんだ」
 この説明はけっこうウケた。
「誰がそう言ったの」「僕だよ」「たまにはいいこと言うんだね」ときた。
 3・11の福島原発事故から丸三年が経過して、ますます体調不良の人が増え
ている。これは危険だから注意しましょうという時期を過ぎてしまった、もはや
危険ではないということになるのだろうか。放射能に汚染された食品を口に入れ
ることが危険であることは、なんら変わっていないのだが。




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