4907.イスラム世界のスンニー派・シーア派対立と政治変動



シリア和平会談がジュネーブで行われるが、英国にあるイスラム平
和財団理事長のアブドル・ラザク・アブドッラー博士の講演会があ
るというので、昨日、聴きに行った。
(講演)
ジュネーブで第2回目のシリア和平会談が始まるが、イランを呼ば
ないことで、うまくいかないことになる。中東の大国を反映してい
たので、無理である。

ここで中東の大国とは米ロではなく、サウジアラビアとイランのこ
とである。このイスラムの大国の対立が今問題なのである。

なぜ、この2ケ国が大国かというと、経済、軍事、宗教などでそう
なる。イスラムとしては、トルコやインドネシア、マレーシアなど
も希望しているし大国候補であるが、大国とは言えない。

サウジアラビアはイスラム教が生まれた国であり、メッカとメジナ
の2つの聖地を持ち、巡礼が年2回、100万人〜130万人も巡
礼に来る。

このため、イスラム教の信者に対して、世界的に影響力がある。こ
の巡礼(Haji)は影響力を行使するツールになっている。もう1つ
が、石油を持っていることである。米国と同盟国というのも大きな
力になっている。宗教的には、イスラム教(スンニ派)を世界に広
める役割があり、拡大させている。

イランは、世界でシーア派が支配している唯一の国である。シーア
派は中東各地に飛び飛びに存在する。その飛び地に対して、本や講
演、学校などをいろいろと提供しているのがイランである。

そして、シーア派は世界的に伸びている。その上に核兵器を開発し
石油がある。

この2ケ国が宗教的に対立している。

シーア派、スンニ派がイスラム世界を2分している。私の故郷であ
るマレーシアは、スンニ派が国の宗教であるが、シーア派の学生が
1300人いる。しかしマレーシアではシーア派信者は犯罪である。

この構造がシリアでも起こっている。アサドがシーア派であり、反
アサドがスンニ派である。戦略的な戦いでもある。イランは反米で
、サウジが親米である。

イランは、メッカへの巡礼者にテロを行い、1979年と1987年に100人
以上の犠牲者が出た。イランはシーア派の布教を積極的にしている。
このため、プロ・シーア派の布教者を世界に送っている。

しかし、サウジは、そのような布教はしていない。

スンニ派が支配しているバーレーンは、国王など少数だけがスンニ
派であり、圧倒的多数がシーア派である。サウジはこのバーレーン
に介入して、シーア派のデモ隊を弾圧して、国王を守っっている。
イランは反君主制であり、サウジは君主制である。

シリアの状況は、混沌としている。反アサド勢力の中にアルカイダ
勢力がいて、多数の勢力がいる。この勢力間で紛争も起こっている。

ここで、米国はイランと関係改善を行う。しかし、このことをサウ
ジから見ると、米国の裏切りと見える。米国がエジプトのムバラク
を見殺ししたことから疑念が出ていたが、確信になっている。

君主制に対して、米国がどう見ているのか、サウジは心配している。
はたして、民主化運動にどう対応するのかと。

日本は、シリア平和会議に参加することになっている。その時、日
本はどう対応するのであろうか?
日本は一貫した姿勢が必要であるが、どうするのか?
この一貫性を確保するためには、根拠が必要であるが、何に根拠を
置くのかが問題である。

シリアの反政府派はバラバラであり、この反政府派が政権を取って
も、イラクと同様に安定しないことは現時点でわかっている。

(Q&A)
宮田さんがモデレータであり、質問があった。
Q1.シーア派とスンニ派の違いは何か?
A1.初代カリフの相続問題で権力闘争であり、2代アブバカルは、預
言者の子孫に預言者の財産を相続させなかったことで、派閥が割れ
たことによる。子孫を正統とするのがシーア派であり、世俗でも相
続をいうのがスンニ派である。

Q2.どうして、イスラム地域内で調整できないのであろうか?
A2.両派での権力闘争が続いている。宗教的に敬虔な人と、宗教上の
決まりだけを守るが人を殺すことを平気で行う人がいて、そのそれ
が両派にいるので、収まらない。

ワラビー主義のイスラム教国サウジが一番原理主義で過激であり、
それでいながら、親米国という矛盾したことが原因であるようだ。
イランは反米でありながら、反君主であり、イスラム教的には穏健
である。この矛盾があり対立しているし、対立が溶けない。

イスラム教には、神との仲介者がいない。個人が直接神に向き合い
ことになるので、個人の考え方が重要になる。

会場ないから
Q3.サウジが中国に頼る方向であるが、ウイグルに対してはどう思っ
ているのであろうか?
A3.サウジは米国に頼れないので、中国に安全保障を頼ろうとしてい
る。このため、サウジの鉄道プロジェクトに中国を指名した。

Q4.イスラム教では、教義解釈権はどうなっているのか?
A4.教義解釈権とはファトワのことだと思いが、スンニ派でも複数に
分裂していて、多数の宗教団体が別個に出している。しかし、ファ
トワには拘束権がない。
コーランは歴史的な物語と一般的な原則しかない。あと、預言者の
言葉であるダハリ、行動原則のムスリムがあり、この解釈の仕方は
、それぞれの宗教分派で違う。

Q5.シリアはスンニ派、アラフィ派、シーア派の人たちが平和に共存
していた。それを外部勢力が分断したのであり、おかしいし、化学
兵器をシリア政府が使ったことも、反論する文章が2つ出ている。
それを読んで欲しい。(シリアの女性:大使館要員か?)
A5.シリアは現時点では割れているので、そのベースで考えることが
必要。


感想としては、
イスラム教のスンニ派、シーア派の基本的な教義は、同じでありな
がら、なぜ暴力で宗教戦争をするのかわからないという根本的な疑
問が解決しなかったようである。

イスラム域内での解決ができなく、欧米のキリスト教国が介入する
ことになり、それは、本当は一番嫌うことであるはずなのに、その
ようになっている。

何かがおかしいという疑問が解決されなかった。日本は原則的にイ
スラム域内での解決を志向するしかないと見た。域内での矛盾が多
く、外交原則ができない。





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