4864.米国の対中外交政策:オフシェア+関与



オバマ大統領の側近のスーザン・ライス大統領補佐官(国家安全保
障政策担当)は11月20日の講演で、米国の対中外交について「新た
な大国関係を機能させようとしている。米中の競争は避けられない
が、利害が一致する問題では協力関係を深めていく」と言明、米中
の「新たな大国関係」に意欲を示した。その条件で外交すると言っ
ている。米国はオフシェアバランスとエンゲージの2つを組み合わ
せた対中国外交をしている。詳しくはディプロマット誌の
「Offshore Engagement: The Right U.S. Strategy for Asia」を見
て欲しいが、ずいぶん、腰が引けた外交になっている。(最後にリ
ンク)

米軍事力を中国周辺から撤退して、フィリピンの台風救助などで存
在感を高める。そして、中国との経済的な関係を深めるというもの
である。

この米国外交のベースを頭に入れて、日本外交をしないと、ただ強
気で外交をすると、ニューヨーク・タイムズ紙は社説ではないが、
安倍政権を「ハイパーナショナリスト(超国家主義)政権」とし、中
国の防空識別圏設定については「中国との緊張を高めるバカげたリ
スクを冒す安倍政権を勇気づけることなく、日本の国益を守る方法
をオバマ政権は見つけるべきだ」と言われてしまう。

安倍首相の強気が米国オバマ大統領から嫌がられいることをバイデ
ン副大統領から突きつけられたような格好になってしまった。

中国の尖閣問題が外交問題になっていることを認めて、早く日中対
話を始めるべきである。現時点では、沈静化が必要だ。

さあ、どうなりますか?

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首相の疑心ぬぐえず バイデン氏、中国での発言注目
2013.12.4 00:23 sankei[日中関係]
 安倍晋三首相は3日のバイデン米副大統領との会談で、中国が尖
閣諸島(沖縄県石垣市)を含む東シナ海上空に防空識別圏を設定し
たことに対し、強い反対姿勢で日米の足並みの一致を示すことがで
きた。ただ、安倍政権とオバマ政権の「温度差」は、防空識別圏を
めぐる対応でも表れた。官邸側がオバマ政権への疑心を完全に払拭
するにはまだ時間を要しそうだ。
 安倍首相「日米の同盟関係は順調に発展してきている」
 バイデン氏「首相は短期間ですでに日米同盟の強化で実績を挙げ
ている」
 アジア歴訪で最初の訪問国に日本を選んだバイデン氏は、オバマ
大統領のメッセージを代読しながら良好な関係をアピールした。
 官邸側は「バイデン氏を日米関係強化のパイプにしたい」(外交
筋)と考えてきた。今回はバイデン氏と2人だけの会談時間を約20
分確保し、日米同盟の強化を訴えた。
 オバマ氏がデフォルト(債務不履行)や医療保険制度改革(オバ
マケア)など内政問題に追われる中、日米間には中国の海空におけ
る挑発的な進出や米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設など
の課題が横たわる。
 官邸側は、11月のケネディ駐日大使の着任を機に、オバマ氏直
属の「バイデン−ケネディ」ラインで外交ルートの構築を目指すが
、中国の防空識別圏問題でも日米間にズレが出た。
 日本政府は、中国が要求する民間航空会社の飛行計画書提出を拒
否する姿勢を示した。一方の米政府は軍事と民間は別として事実上
容認。対中けん制で足並みを揃えられなかったことは想定外だった。
 日本政府が期待を寄せるバイデン氏だが、会談後の共同記者発表
で「誤算や過ちの可能性は高すぎる」と語り、「日中間の危機管理
メカニズム」の構築と対話を促した。「米国は仲裁役」との立場で
中国への気遣いもにじませた。
 2日は「一切の措置の撤回を求める」と強気だった首相も、会談
では「撤回」に言及しなかった。
 加藤勝信官房副長官は会談後、記者団に「首相は会談で『黙認し
ない』と言った。政府の姿勢はこれまでとまったく同じだ」と強調
。首相もまた本音を「封印」した格好となった。
 米政府は中国側に対し防空識別圏をめぐる運用手続きの「撤回」
を求めるとしているが、官邸側はバイデン氏が習近平国家主席にど
こまで言及するか注視している。(坂本一之)
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米副大統領、首相に「日米関係は安全保障の礎」
 安倍首相は3日夕、首相官邸で米国のバイデン副大統領と会談し
た。
 会談では、首相が「アジア太平洋地域の安全保障環境が厳しくな
る中、副大統領来日で、日米関係をよりいっそう緊密なものとして
強化したい」と述べたのに対し、バイデン氏は「日米関係は我々の
安全保障の礎だ」と応じた。
(2013年12月3日18時54分  読売新聞)
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米副大統領、中韓首脳との対話努力を安倍首相に強く要求=「防空
識別圏」撤回に言及せず―米外交筋
Record China 12月4日(水)7時23分配信
2013年12月3日、米外交筋が明らかにしたところによると、日中韓3
カ国歴訪中のバイデン米副大統領は日中、日韓間の緊張関係の打開
に向けた仲介を大きな目的にしている。3日の安倍晋三首相との会談
でも「中韓首脳との対話による解決」を強く求めたという。
バイデン副大統領は安倍首相との3日の共同記者会見で、中国防空識
別圏への懸念を表明し、日本への防衛義務を履行すると約束した。
しかし、安倍首相が会談で、中国に対し撤回を要求するよう持ちか
けたのに対し応じず、会見でも防空圏の撤回に言及しなかった。
この会談でバイデン副大統領は「このままでは不測の事態が起きか
ねない」と強く懸念し、日中間の衝突を防ぐため、危機管理の枠組
みを新たに設けることを提案。日本にも緊張緩和に向けた対話努力
を強く促した。同筋によると、バイデン副大統領は4日からの習近平
国家主席ら中国首脳との会談で、中国の防空識別圏の運用における
緊張緩和の体制づくりについて協議し、米中が合意する見通し。
米国務省は先週、中国が設定した防空識別圏を通過する米民間航空
各社が、飛行計画を出すことは認めるとの声明を出した。この対応
は日本側とは真っ向から食い違う。日本政府は中国の防空圏を既成
事実にしないため、飛行計画を出さないよう国内各社に指示してい
る。
オバマ大統領の側近のライス大統領補佐官(国家安全保障政策担当
)は11月20日の講演で、米国の対中外交について「新たな大国関係
を機能させようとしている。米中の競争は避けられないが、利害が
一致する問題では協力関係を深めていく」と言明、米中の「新たな
大国関係」に意欲を示した。中国の習近平国家主席が6月のオバマ大
統領との会談で提案した米中の二大大国で世界を仕切る「G2論」を
容認する考えも示唆したものと受け取られている。ライス氏は日中
が帰属を争う尖閣諸島をめぐっても「米国は主権の問題には立場を
とらない。日中の対立を先鋭化しないよう平和的で、外交的な方法
を探るよう両国に促す」と明言、日米安全保障条約が尖閣に適用さ
れるという方針にも触れなかった。
米外交政策に詳しいチュエンション米アメリカン大学国際関係学部
教授・アジア研究所長 は11月27日、日本記者クラブで記者会見し、
尖閣諸島問題について、「米国の立場は、究極的に主権については
日中どちらの側にも立たない、ということであり、平和的な解決を
求めている」と指摘。「金融危機、地球環境、中東、北朝鮮問題な
ど二つの大国が協力しなければいけないという面が多く出現してい
る。日中韓の3カ国が協議し協力すればこの地域に安定と繁栄をもた
らす」と語っている。(取材・編集/SK)
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日米間の齟齬を「言葉のあや」でごまかすな
春名幹男
執筆者:春名幹男2013年12月2日fsight.jp
「米政府が、民間航空会社にフライトプランを提出するよう要請し
たことはないと外交ルートを通じて確認している」
 安倍晋三首相は1日、視察先の岩手県釜石市で記者団にそう説明し
た。
 中国による「防空識別圏(ADIZ)」の設定、必ず関係国間の
情報戦ないしは心理戦の様相を呈するとみていたので、実際に米政
府が何と指示したのか、検証してみた。
「ノータム」に沿った運航を「期待」した米政府
 米国務省のホームページに、11月29日付で「中国が宣言したAD
IZ。米航空会社のためのガイダンス」というタイトルで国務省ス
ポークスマンへの質問に対する回答という形で次のような文章が掲
載されていた。
*質問: 中国が最近宣言したADIZを運航する米航空会社に対
して特別に何かガイダンスを出しているのか?
*回答: 海洋および空域の上空通過の自由および国際法に沿った
利用は太平洋における繁栄と安定、安全保障にとって不可欠である
。われわれはなお、中国が「東シナ海航空識別圏」を宣言したこと
を深く憂慮している。
 米国政府は一般的に、国際的に運航している米航空会社が諸外国
が発行するNOTAMs(Notices to Airmen、いわゆるノータム、航空
情報)に沿って運航するよう期待している。ノータムに沿った米航
空会社の運航をわれわれが期待していることは、新たに宣言された
ADIZへの運航に対する中国の要求を米国政府が受け入れたことを示
すものではない。
 確かに安倍首相が言うように、米政府は米航空会社に「要請」な
どしていない。しかし、「一般的」なガイダンスとして、中国が出
した憂慮すべきノータムでも守ることを「期待」しているのだ。従
って、大手米航空会社は政府から飛行計画の中国への提出を求めら
れたと判断してそのように行動したのである。米メディアはすべて
そのように伝えている。
 日本の総理が米政府が言いもしない言葉を挙げて事実確認した、
と公式に言明することの是非を日本のメディアは問うべきだが、残
念ながらそんな報道は見当たらない。
 米国はクリスマスに次ぐ長期休暇の感謝祭連休で、日本も安倍首
相は出張中だった。日本版国家安全保障会議(NSC)も「未開店」で
あり、一部官僚の発想であえてこうした回答がまとめられたとみて
いい。
「安倍政権を勇気づけるな」と警告していた米紙
 11月23日に中国が発表した東シナ海防空識別圏。「中国のお手つ
き」という第一印象を持った人が多かったのではないか。現実に「
中国のオウンゴール」とする専門家の意見も米メディアでは伝えら
れていた。
 これで日米韓が結束を取り戻せる、とみた人もいるだろう。
 しかし、現実はそれほど甘くなかった。
 ニューヨーク・タイムズ紙は社説で、安倍政権を「ハイパーナシ
ョナリスト(超国家主義)政権」とし、中国の防空識別圏設定につい
ては「中国との緊張を高めるバカげたリスクを冒す安倍政権を勇気
づけることなく、日本の国益を守る方法をオバマ政権は見つけるべ
きだ」と指摘していたのである。
 同紙はクオリティペーパーではあるが、米政府の広報紙ではない
。ただ、米国務省などを取材先として情報を集めて、社説をまとめ
ることはよくある。オバマ政権の見解をそのまま取り入れることは
なくても、ある程度反映しているとみてもいいだろう。
 現実には、オバマ米政権は当初から安倍政権の出方を警戒しなが
ら、対応を進めていたのは事実だと思われる。
 こんな時こそ、日本政府は米政府と緊密に協議すべきだった。
 民間航空機が中国に対して飛行計画を出すべきかどうかをめぐっ
て、日米間の齟齬を露呈してしまったのは拙い。中国メディアはこ
の点を突き始めたようだ。米政府が乗客の安全を第1として、鷹揚に
対応したのに対して、安倍政権が言葉のあやでごまかすことは避け
るべきだ。
(春名幹男)


Offshore Engagement: The Right U.S. Strategy for Asia

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