4820.米国衰退後はどうなるか?



米国の名声と影響力は、財政問題をめぐり政府機関の一部閉鎖を招
いた政治の混乱で大いに傷ついたのは、確かである。

国家が軍事力ではなく、文化や価値観などによって支持や信頼を得
られる力を意味する「ソフトパワー」という言葉の生みの親、ハー
バード大学のジョセフ・ナイ教授は、米国が政府機関の閉鎖で深刻
な打撃を被ったと指摘。「今回のことで、政府や世界の準備通貨で
あるドルの管理能力の評判に傷がついたという意味では、米国のソ
フトパワーが大いに損なわれたことは明白だ」と語った。
中国から中東に至るまで、各国の政府と投資家たちは現在、米国債
やドルを大量に保有すべきか再考を迫られていると、ナイ教授は指
摘する。

オバマ大統領も、16日間にわたる政府機関の一部閉鎖が米国の世
界的な立場を傷つけたと認め、「われわれの敵を勢いづかせ、ライ
バルたちを勇気づけ、断固たるリーダーシップを期待していた友人
たちを失望させた」と述べた。

このような状況から、米国支配体制が揺らいでいるという見解と次
の世界体制はどうするべきかを論じ始めた。

米国支配体制が揺らぎを肯定的に評論するザチャリー・カラベルの
ような米国知識人も現れている。

「米国離れ」は、おおむねネガティブなこととして受け止められて
いる。しかし実際には、現在の米国にとっては非常に大きなメリッ
トだ。なぜなら、雇用創出や経済成長など、急を要する国内問題に
全神経を集中できる絶好の機会にもなるからだ。米国にはあまりに
多くの未解決問題があり、世界には非常に多くの新たなダイナミズ
ムが登場している。

もし各国が米国にリーダーシップを期待しなくなれば、世界は分岐
点を迎えることになる。中国や中南米、インドやサハラ以南のアフ
リカなど複数の重心がある世界は、今より安定的な場所となるだろ
う。われわれはそれを前々から知っていたからこそ、国際連合など
の機関をつくっては壊すなど試行錯誤を繰り返してきたのだ。
恐らく今、米国の相対的な強さが失われつつあるため、われわれは
真の国際秩序を構築し始めるのだろう。

しかし、その国際秩序とは何かと言うと、リチャード・N・ハース
は、現在の国際システムの基本的特徴は、国がパワーを独占する時
代が終わり、特定の領域における優位を失いつつあることだ。国家
は、上からは地域機構、グローバル機構のルールによって縛られ、
下からは武装集団の挑戦を受け、さらには、非政府組織(NGO)や企
業の活動によって脇を脅かされている。こうしてアメリカの一極支
配体制は終わり、無極秩序の時代に世界は足を踏み入れつつあると
いう。

そして、21世紀における国際秩序の主要な特質の一つが、(一極
支配でも、多極化でもない)無極化(ノンポラリティー)になるこ
とが、ますますはっきりとしてきている。無極化、あるいは無極秩
序とは、1〜2カ国はおろか、3〜4カ国でもなく、実に数十のア
クター(国際政治のプレーヤー)がさまざまなパワーを持ち、それ
を行使することで規定される秩序のことだ。当然、これまでの秩序
は劇的に変化していくとした。 


どちらにしても、大変な時代が来たことは確かである。
しっかりとした舵取りをしないと、日本も大変なことになるぞと、
日本の指導者は、覚悟する必要がある。

さあ、どうなりますか?

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焦点:米国のソフトパワー、国内政治迷走で失墜
2013年 10月 20日 13:59 JST
[パリ 17日 ロイター] - 米国の名声と影響力は、財政問題を
めぐり政府機関の一部閉鎖を招いた政治の混乱で大いに傷ついた。
1枚のある写真がそのことを雄弁に物語っている。
インドネシアのバリ島で開かれたアジア太平洋経済協力会議(AP
EC)の集合写真では、中国の習近平国家主席とロシアのプーチン
大統領が、笑顔で前列中央に立っている。一方、国内の財政問題が
決着できずに同会議を欠席したオバマ米大統領に代わって出席した
ケリー国務長官の立ち位置は一番端だ。
世界で最も経済活動が活発なアジアに軸足を移す外交政策を掲げる
国にとって、これは一時的な後退にとどまらないかもしれない。そ
して、その範囲はアジアだけに限らないだろう。
国家が軍事力ではなく、文化や価値観などによって支持や信頼を得
られる力を意味する「ソフトパワー」という言葉の生みの親、ハー
バード大学のジョセフ・ナイ教授は、米国が政府機関の閉鎖で深刻
な打撃を被ったと指摘。「今回のことで、政府や世界の準備通貨で
あるドルの管理能力の評判に傷がついたという意味では、米国のソ
フトパワーが大いに損なわれたことは明白だ」と語った。
中国から中東に至るまで、各国の政府と投資家たちは現在、米国債
やドルを大量に保有すべきか再考を迫られていると、ナイ教授は指
摘する。
米国では16日、暫定予算案と短期的な債務上限引き上げ法案が土
壇場で成立し、デフォルト(債務不履行)が回避された。オバマ大
統領はその翌日、16日間にわたる政府機関の一部閉鎖が米国の世
界的な立場を傷つけたと認め、「われわれの敵を勢いづかせ、ライ
バルたちを勇気づけ、断固たるリーダーシップを期待していた友人
たちを失望させた」と述べた。

<隙を突く中国>
オバマ大統領が国内問題で身動きが取れない中、中国の習国家主席
と李克強首相は東南アジア諸国を歴訪。米国の同盟国であるインド
ネシア、タイ、マレーシアなどに大規模な投資や貿易強化を約束し
た。
中国国営の新華社は、米国が国内の「政治的な瀬戸際外交」で国際
金融の安定を危険にさらしていると非難。「米国債はもはや安全な
投資先ではないかもしれない」というのが、米国の債権者にとって
の教訓だとした。
また新華社は別の論説記事で、「米国離れした世界」の構築を検討
する時期が来たのかもしれないと論じている。

<米ソフトパワーの衰退>
今回の米国内政治の混乱について、同盟国であるアラブ諸国やイス
ラエルの反応には、戸惑いや心配が同時に垣間見える。米国に駐在
するアラブの外交官は匿名を条件に、「サウジアラビアは(米国の
)イラン外交やシリアとエジプトの情勢に敏感だが、米国が中東情
勢において唯一の超大国であるという感覚は徐々に薄れつつある」
と述べた。
また、アラブ諸国の政府や民間投資家らは米国債や米株への投資額
が非常に大きいため、その懸念は地政学的な面だけでなく、金融的
な側面も併せ持っている。
ソフトパワーよりもハードパワー、つまり軍事力が重視される地域
に関して言えば、オバマ大統領はイラクから米軍を撤退させ、まも
なくアフガニスタンからの撤退も完了する。シリアの化学兵器使用
に対する軍事介入は、議会が合意に至らなかったこともあり回避さ
れた。
こうした状況を受け、イスラエルやサウジアラビアなどでは、イラ
ンの核兵器開発を阻止する米国の「本気度」などについて疑念が拡
大している。
同じような懸念は中米からも聞こえてくる。メキシコの副外務大臣
を務めた経験を持つハビエル・トレビノ議員は、米国のソフトパワ
ーは米議会の「近視眼的」な物の見方によって損なわれていると指
摘。「国内の政治問題を早急に解決できなければ、敵に機会を与え
ることになる」とし、「ロシアや中国、北朝鮮、シリアに悪いシグ
ナルが送られている」との見方を示した。

<ダメージは長期に及ぶのか>
とはいえ、米国経済のダイナミズムやポップカルチャーの魅力を考
えれば、米国の影響力が受けたダメージはそう長くは続かないかも
しれない。少なくとも、そうした先例はある。
1996年に今回と似たような状況で政府機関が閉鎖したときには
、ソ連崩壊から5年後という米国の世界的支配力がピークに達して
いた時期でもあり、影響はほとんど生じなかった。
クリントン政権とオバマ政権で国務副長官を務めたジェームズ・ス
タインバーグ氏は、「米国衰退論」はひどく誇張されていると指摘
。1860年代に起きた南北戦争に言及し、「米国の歴史には、政
治対立が激しくてもそれを乗り越えてきた時代が他にもある」と語
った。
また、スウェーデンのボルグ財務相は、米政府機関閉鎖の長期的な
影響について、中国がドルを外貨準備として保有する気をなくして
いるとすれば、政治的というよりも財政的なものではないかと指摘
。ただ、そこには中国側の戦略が絡むとみる。 ボルグ氏は「準備通
貨であることは大変な強みであるため、その状況を揺るがそうと考
えることすら狂気の沙汰のようにも見える」としながらも、「彼ら
(中国)にとっては、将来のある時点でドルを手放す必要があるこ
とを意味しているのだろう」との見方を示した。
(Paul Taylor記者、翻訳:伊藤典子、編集:橋本俊樹)
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アメリカの相対的衰退と無極秩序の到来
――アメリカ後の時代を考える
リチャード・N・ハース 米外交問題評議会会長
フォーリン・アフェアーズ日本語版2008年5月号
現在の国際システムの基本的特徴は、国がパワーを独占する時代が
終わり、特定の領域における優位を失いつつあることだ。国家は、
上からは地域機構、グローバル機構のルールによって縛られ、下か
らは武装集団の挑戦を受け、さらには、非政府組織(NGO)や企業の
活動によって脇を脅かされている。こうしてアメリカの一極支配体
制は終わり、無極秩序の時代に世界は足を踏み入れつつある。そこ
では、相手が同盟国なのか、敵なのかを見分けるのも難しくなる。
特定の問題については協力しても、他の問題については反発し合う
。協調で無極化という現象を覆せるわけではないが、それでも、是
々非々の協調は状況を管理する助けになるし、国際システムがこれ
以上悪化したり、解体したりしていくリスクを抑え込むことができ
る。
<ノンポラリティーとは>
 21世紀における国際秩序の主要な特質の一つが、(一極支配で
も、多極化でもない)無極化(ノンポラリティー)になることが、
ますますはっきりとしてきている。無極化、あるいは無極秩序とは
、1〜2カ国はおろか、3〜4カ国でもなく、実に数十のアクター
(国際政治のプレーヤー)がさまざまなパワーを持ち、それを行使
することで規定される秩序のことだ。当然、これまでの秩序は劇的
に変化していく。  
 20世紀は多極化の時代で幕を開けたが、2度の世界大戦や小規
模な紛争を経て半世紀後には、(米ソの)二極体制が誕生した。こ
うして冷戦時代に入ったが、1990年代にはソビエトが崩壊した
ことで、二極体制から一極支配体制の時代、つまり、アメリカとい
う一つの国家が秩序を支配する時代を迎えた。だが、いまやパワー
は各国、各アクターに拡散しつつあり、無極秩序の時代が到来しつ
つある。 
 無極秩序は他の秩序とはどう違っているのか。この新しい秩序は
なぜ、どのようにして、出現するようになり、その帰結はどのよう
なものになるのか。
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コラム:脱「米国中心主義」のすすめ
2013年 10月 19日 11:23 JST 
By Zachary Karabell
世界経済に甚大な影響を及ぼすと懸念された米国のデフォルト(債
務不履行)は土壇場で回避された。しかし、今回の米政治のドタバ
タ劇は、過去5年で勢いを増してきた1つの傾向に一段と拍車をか
けることになった。それはつまり、米国中心の世界と決別し、新し
く漠然としてはいるが、はっきりと「米国離れ」したグローバルシ
ステムに歩を進めるというものだ。
米政治劇には国内外から痛烈な批判が相次いだが、中国国営の新華
社は論説で、米ドルへの依存をもうやめにし、「米国の政治混乱」
にこれ以上左右されない「米国離れした世界」が必要だと呼びかけ
た。その少し前には、ロシアのプーチン大統領がニューヨーク・タ
イムズ紙への寄稿で、米国が自らを例外視する傾向は「極めて危険
」だと断じていた。

上記2つの批判が米国の歴史的な「敵対国」によって書かれたもの
だからと言って、その内容を一蹴していい理由にはならない。確か
に、中国やロシアからの米国批判は、背景に政治的動機があり、国
内外の反米主義者受けを狙ったものでもある。しかし、偽善的な敵
であっても鋭い洞察力はなきにしもあらずで、中国とロシアからの
メッセージは同じだった。米国は世界の基軸通貨と圧倒的な軍事力
を持つ強い国かもしれないが、それは必ずしも、世界のリーダーや
世界の警察であることを意味しないというものだ。

草の根保守運動「ティーパーティー」から中間層まで、多くの米国
民は依然として、自分たちの国が世界唯一の超大国であるという耳
に心地良い話が好きだ。もし今回の政治混乱に何か良い面があると
すれば、そうした時代遅れの「超大国論」を白紙に戻すことに、わ
れわれも一歩近づくということだろう。
2008年の金融危機は、米国が金融システムや資本主義の運営に
はるかに優れているという誤った考えを世界に捨てさせることにな
った。欧州連合(EU)には少しの間、デリバティブやモーゲージ
に熱中する米国人に舌打ちする余裕があったが、それもEU自身が
混乱に陥る2010年までのことだった。

「新興」世界の方が2008年の危機から圧倒的に良い状況で脱し
たが、それが米国にとってはとりわけ「不都合な真実」となった。
米国や欧州に比べ、1970年代の南米経済危機や1990年代の
アジア通貨危機など、過去の地域的危機から厳しい教訓を学んだ国
々は、金融危機の余波にも強い耐久力を見せ、米国に対して批判の
声や懐疑的な声を強めるようになった。

米国が自国経済を支えるために超低金利や量的金融緩和政策を採用
すると、多くの発展途上国からは、米国が通貨戦争に加担している
と非難の声が上がった。2010年に韓国ソウルで開催された20
カ国・地域(G20)首脳会議では、オバマ大統領に向けられたの
は、世界最大の経済を率いるリーダーを称賛する敬意ではなく、経
済政策への注文であり、かすかな軽蔑だった。中国の外務次官は米
国に対し、「主要通貨発行国の責任と義務を自覚し、責任あるマク
ロ経済政策を取るよう」直言した。ドイツのメルケル首相はそれよ
りは外交的だったものの、緊縮策の緩和を求める米国の呼びかけは
きっぱりとはねつけた。

2011年には、米議会で債務上限問題をめぐるチキンレースが始
まった。世界は今回、米国の政治家たちが、自国の名声と世界の金
融システム両方に与える打撃を忘れ、愚かさと尊大さの中でこう着
状態に陥る姿を再び目の当たりにした。2年のうちに2回起きたこ
とで、この問題はお決まりのパターンにも見え始めている。
「米国離れ」は、おおむねネガティブなこととして受け止められて
いる。しかし実際には、現在の米国にとっては非常に大きなメリッ
トだ。なぜなら、雇用創出や経済成長など、急を要する国内問題に
全神経を集中できる絶好の機会にもなるからだ。米国にはあまりに
多くの未解決問題があり、世界には非常に多くの新たなダイナミズ
ムが登場している。

もし各国が米国にリーダーシップを期待しなくなれば、世界は分岐
点を迎えることになる。中国や中南米、インドやサハラ以南のアフ
リカなど複数の重心がある世界は、今より安定的な場所となるだろ
う。われわれはそれを前々から知っていたからこそ、国際連合など
の機関をつくっては壊すなど試行錯誤を繰り返してきたのだ。
恐らく今、米国の相対的な強さが失われつつあるため、われわれは
真の国際秩序を構築し始めるのだろう。当然そこには難題も待ち受
けているが、特定の1つの国への依存度は弱まる。
奇妙に聞こえるかもしれないが、米財政問題は、時の贈り物と言え
る。世界はあきれて困惑しているが、「米国離れ」した世界で、米
国はようやく自国の問題に取り組むことができる。その機会をうま
く生かせるかどうか、われわれは見届けなくてはならない。
[16日 ロイター]
*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見
解に基づいて書かれています。





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