■従軍慰安婦問題の論点整理 ー言論戦には、事実確定、理論構築、戦略策定が必要だ? 佐藤 5月中旬現在、今のところトーンダウンしているが、安倍首相は先 の大戦の位置付けと従軍慰安婦問題に関する河野談話の見直しにつ いて迷走し、一方で橋下大阪市長は後者について米海兵隊による沖 縄の婦女暴行事件にまで広げて過激発言を行っている。 これによって日本に対し、これまでの中国・韓国のみならず、米国 を中心に国際社会から懸念が寄せられている。 ◆事実関係の論点◆ 従軍慰安婦問題に関しては、先ず以下の各論点について可能な限り の事実関係の確定と、そのデータベース化が必要だ。 ●BC級戦犯として軍人および民間人が処分された、インドネシア のスマランの慰安所等に於けるオランダ人女性等への売春強制は、 局地的・個人的な犯罪として以下と峻別可能か。 ●その他の地域で、軍自体による強制は在ったのか。 ●その他の地域で、民間業者による強制について、軍の黙認が在っ たのか。 ●その他の地域で、慰安婦の親等による強制について、軍の黙認が 在ったのか。 ●上記各項について、もし在ったとすれば、組織的なものか、兵員 の個人的なものか。 ●当時の他国による戦地および母国での慰安婦制度または、それに 準じるものの状況 ●当時の他国による戦地および母国での慰安婦制度等に於ける強制 性の有無 韓国・中国は、戦前日本に支配されたり国土で戦った劣等感や怨嗟 から、この問題に固執する。 一方米国は、日本が道徳的に悪でなければ、先の戦争で2発の原爆 を落とし市民を大量殺戮した事を肯定出来ず、自我のバランスが保 てない。 今、日本は、主にこの3国に対して、国際世論を味方に付けるべく 言論戦を戦う図式になっている。 従軍慰安婦問題に関して、日本としては、前述の事実確定に基づく 理論構築、続いて戦略策定が必要である。 ◆安倍政権に戦略は有るか◆ この問題に加え、安倍政権は、主要閣僚によるA級戦犯合祀の靖国 参拝等により、結果的に国内外に向け東京裁判(極東軍事裁判)史 観への異議申し立てを示唆している。 日本にも言い分があり、主張すべきは主張して行くべきだ。 しかしながら、言論戦は形を変えた戦争であり、今回の件は先の大 戦の焼き直しとも言える。 先の大戦で日本は、情勢判断、体制構築、戦略策定、統制の何れを も欠き、ABCD包囲網の前に敗北した。 日本の戦国時代や史記列伝、三国志に照らすなら、東京裁判史観と 従軍慰安婦問題の内、日米間の機微に渡る部分については別枠とし て位置付け、先ず中韓、米中を分断離反させ、米、韓、ロシア、イ ンド、ASEAN諸国等で中国包囲網を築き、その牙を抜いた後で 異議申し立てを行ってゆくのが、基本的戦略としては常識的な線だ ろう。 もちろん、一気に日米間の機微にまで踏み込む選択肢もある。 民間には、事実関係を整理した上でなら、緻密に国益を計算せずと も自由な主張が許容されてよい。 あるいはこれは、地方の首長や野党の党首についても、ある程度ま でなら当て嵌まるかも知れない。 しかし、政権は国益を踏まえ、勝てる戦いをしなければならない。 孫子に、戦いの要諦は、天の時、地の利、人の和とある。 迷走は下策であり、それを採れば必ず負ける。 安倍首相には、何れにせよ勝てる戦略の選択と、ぶれない姿勢が必 要である。 以上 佐藤 鴻全