■憲法9条改正論の本質は、主体的かつ国際的大義に適うかにある。 -自民党草案の検証- 佐藤 安倍首相が、憲法改正要件の緩和を目指し96条改正を夏の参院選 の焦点の一つとしようとしている。 首相の狙いは、可能なら他党を含め96条改正勢力を結集し、それ が出来ないまでも憲法議論を盛んにして、自民党が昨年定めた憲法 改正草案に基づき、9条改正への道を開く事だ。 中途半端な位置付けの自衛隊と集団的自衛権の行使、国際貢献等に ついての内閣法制局のガラス細工の解釈に依った現状の打破を図る 安倍首相の心情は理解出来る。 しかし筆者は、諸外国で一般的な硬性憲法規定を外すこう言った飛 び道具や迂回路を探るよりも、北朝鮮と中国からの脅威が迫る現下 、「安全保障基本法」等を制定し具体的な対応を定め、その国民へ の定着を見定めた後に精神規定として9条改正を含め堂々改憲を世 に問うのが本来的かつ現実的と考える。 ◆憲法第9条改正私案◆ 以下に九条改正の拙案を示す。 〔 〕内は、追加箇所、( )内は削除箇所。 第二章 戦争の放棄 第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希 求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、 国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。 ○2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力 <追加>:〔の保持は、自衛権の発動、国際貢献活動、及び国民の 生命若しくは自由を守るための活動の為のものに限定し、その目的 にのみ行使を妨げない。〕 <削除>:(は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めな い。 ) <新設>:〔○3 前項の自衛権には、集団的自衛権を含む。 また自衛権行使及び国際貢献活動は、国際的大義に適い広く国際社 会に認められ得るものでなければならない。 その要件、実行組織、統制については、別途法律で定める。〕 <注> 1項は、侵略戦争の放棄として、パリ平和条約(ケロッグブリアン 条約)や国連憲章でも用いられる一般化した文脈なので、敢えて変 えず現行のままとした。 2項の戦力の不保持と交戦権の放棄は、明らかに現実的ではないの で削除し、代わりに自衛権の発動、国際貢献及び国民の生命若しく は自由を守るための活動の為のものと限定した。 3項は、集団的自衛権行使は言わずもがなの面もあるが、これまで の内閣法制局解釈から決別するために敢えて挿入した。 また、「国際的大義」に適う事を自衛権及び国際貢献活動の発動要 件として入れ、それを担保するために国際社会からの認証を条件と した。 ◆イラク戦争と自民党草案の問題点◆ 2003年の米国によるイラク戦争開戦に、当時の小泉政権下の日 本は支持表明し、戦闘終結後に自衛隊は人道復興支援活動と安全確 保支援活動として給水活動等に従事した。 イラク戦争自体への是非は別として、イラクの大量破壊兵器保有や フセイン政権のアルカイダとの繋がり等を開戦理由としたブッシュ 政権に対して、日本が独自の情報を一切持たずに支持を表明した事 は、凡そ主権国家として主体性のある態度とは言えず、属国のそれ である。 自民党の憲法改正草案(2012年4月27決定: http://www.jimin.jp/policy/policy_topics/pdf/seisaku-109.pdf )は、公明党と創価学会信徒等の改憲アレルギーへの配慮から、環 境権等の本来法律で定めればよいようなものまで盛り込んでいる。 また、9条についても、5項に渡って軍の統制他について述べてい るが、国防と国際貢献がどうあるべきかについて伝わって来ない。 自民党草案は、下記第3項で国際貢献(集団的自衛権行使も含むか 不明)について、以下のように述べる。 <以下抜粋> 3 国防軍は、第一項に規定する任務を遂行するため の活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全 を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維 持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことが できる。 <抜粋以上> 恐らく、この抽象的な書き方の下では、結果的に時の大国に対しよ り従属的となり、例えばもしイラク戦争時に集団的自衛権行使がク リアになっていたら、米軍に従い参戦を余儀なくされていただろう。 筆者の拙案では、「また自衛権行使及び国際貢献活動は、国際的大 義に適い広く国際社会に認められ得るものでなければならない。」 とした。 大して変わらないと言えばそうかも知れず、憲法も法律も所詮は人 間の作り出した言葉の羅列であり解釈次第でどうにでもなるが、シ ンプルな言葉で「見える化」したものは究極の選択時に有効な判断 基準を呈すると思う。 筆者は、そもそも外交・防衛の基本は、万国不変の原理として「国 際的大義を伴う、長期的国益の追求」で在らねばならず、改正憲法 9条はそこから演繹したものでなければならないと考える。 戦力の行使については、自国または同盟国の自衛戦争に値するのか 、国際的大義に適い広く国際社会に認められ得るのか、が日本の主 体的行動原理で在らねばならない。 改正憲法9条は、もしこれらと日本の長期的国益に適うのなら、た とえ米国本土防衛でも義旗を掲げ出兵し得るし、そうでなければ出 兵出来ないという事を内外にシンプルに意思表明するものである必 要がある。 憲法改正について、迂遠を排した本質的論議が進む事を望む。 以上 佐藤