4545.どうすれば経済成長が可能か?



■総選挙の真のテーマ:どうすれば経済成長が可能か? 
ー公共事業と構造改革の功罪ー

16日投開票の衆院解散総選挙の争点が分散し、有権者は投票先に迷
っている。

結果として、一番のテーマは原発政策となりそうだが、原発推進・維
持・廃止にせよ、現時点では各党ともメリットとデメリットを数字に
よって明示出来ない以上、時期尚早のテーマであり、キャッチフレー
ズ合戦に終わり生産的な議論とはならないだろう。

本来、今回の総選挙では、日本を取り巻く喫緊の課題として、消費税
増税とTPP交渉参加を含む経済問題と外交防衛問題が問われなけれ
ばならない。

外交防衛問題については、中国の領域拡張意志と米国の国力減退が明
らかな中、基本的方向としては、自主防衛を高めると共に米国中心に
諸外国と中国包囲網を作り牽制する以外の選択肢はない。

経済問題として、先ず消費税増税は、デフレ脱却して瞬間風速でなく
安定した経済成長構造(最低名目GDP4%、実質2%の2年連続達
成)を作り、もし必要なら足りない分を増税するようでないと、増税
による経済失速により逆に減収に終わる。

金融政策については、現在の日本はガラパゴス化しており、諸外国並
みに金融緩和拡大、インフレターゲット設定、日銀法改正を行い、異
常な円高とデフレ傾向を終わらせなければならない。

◆公共事業の功罪◆
さて、以上は、常識的に真面目に考えれば当然の結論を述べたに過ぎ
ない。

しかし、以下の点は多少の熟考が必要かも知れない。

自民党、公明党等は、「国土強靭化」として防災・減災・補修に関わ
る公共事業を景気回復の起爆剤としようとしている。

これらについて、真に必要なものは何時かは行わなければ成らないの
だから、精査した上で集中して進める事が、現下のデフレ脱却にも資
するだろう。

ただ、これらの防災系の公共工事は、工事完了後は経済効果を齎さな
いので、建設国債を発行しての工費支出後、税収(法人税・消費税・
地方税)として国庫に返ってくるのは最大でも50%程度になり、持
続的な経済成長のエンジンには成り得ない。

これに対して、高速道路や新幹線、リニア新幹線等のうち真に利用価
値のある交通・産業インフラ系の公共事業は、工事完了後も経済効果
を齎し税収として工費支出額以上のリターンとなる可能性がある。
(但し、本当に有効利用された場合。)

また、新エネルギー、バイオ、航空・宇宙、防衛、人工知能等の新産
業分野への基盤整備投資についても、同様である。

◆構造改革の功罪◆
日本維新の会、みんなの党等は、いわゆる構造改革、規制緩和を経済
政策の中心に打ち出している。

規制緩和によって、電力等の許認可事業の地域独占体質に風穴を開け
、医療・福祉・農業・通信についても参入障壁を下げ民間の活力を引
き出す事は、必要不可欠である。

しかし、両党がモデルとする小泉・竹中構造改革を思い出してみると
、様々な問題点があった。

例えば身近な例として、タクシー事業の規制緩和を行った結果、仙台
駅等ではタクシーが溢れ運転手が食えない状況になった。

これに対しニューヨーク等では、タクシー1台毎の事業免許の総量を
制限すると共に、市場での自由な売買が可能であり、競争と需給バラ
ンスの両立を図っている。

あるいは、小泉・竹中構造改革は、金融検査マニュアルを機械的に適
用し、潰れなくても良い中小企業と中小金融機関を潰し日本経済の傷
跡を深くした。

その意味で、小泉・竹中構造改革は、何か意図が在ったは断定できな
いが、少なくともやり方が非常に乱暴で拙かったと言える。

また、両党はTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)について、無条
件で交渉参加し、情報収集後に交渉条件を考え、最後に国益に沿わな
ければ国会で批准しなければいいと主張している。

しかし、裸で交渉入りするのは非常に危険である。

食糧安保の確保や、企業が相手国家を国際機関に提訴し一発で決着さ
せるISDS条項や、如何なる理由でも自由化を元に戻せないラチェ
ット規定の取り扱いを、交渉参加前に概要だけでも国民に示さないの
では、米国の言い分をほぼ丸呑みするつもりと勘繰られても仕方ある
まい。

◆総選挙の真のテーマ◆
日本経済にとって、当面の公共事業も規制緩和も必要である。

その前提の下に、育成すべき新産業分野を精査する能力、「官民折半
・双方自己責任」等の投資の仕組み作りのセンス、規制緩和・貿易自
由化で開くべきものと守るべきものについての哲学、少子高齢化に対
する持続的政策の有無が重要である。

今回の総選挙は混沌としているが、防衛、消費税、金融緩和に加え、
上記の点が投票の判断基準と成るべきだろう。

各党及びマスコミに於いては、生煮えの原発論争に時間を空費せず、
選挙後半戦のテーマとして是非これらを深掘りして頂きたい。
                    以上

佐藤 鴻全


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