4517.石原新党参入と次期衆院総選挙の争点



石原新党参入と次期衆院総選挙の争点 
ー消費税増税、原発政策、TPP参加ー
                        佐藤

石原慎太郎氏が、10月下旬に東京都知事を辞職し新党を結成する
事を表明した。

来るべき次期総選挙では、自民党が比較第一党となり民主党が大敗
するだろう事はほぼ既定路線だが、石原新党の参入により、乱立す
る小党間でどう第3極が形成され、どんな枠組みの連立政権(自民
党大勝が無い限り)が出来上がるか一層混沌の度合いを増してきた。

内政、外交で重要課題は山積しているが、来るべき総選挙で争点と
なるのは、差別化の容易さ等の点で、消費税増税、原発政策、TPP
参加問題の3点となり、これらを巡って総選挙前、総選挙後の合従
連衡が行われると思われる。

このため、国民監視の下、これらについて政党間でより明確で深い
議論が激しく行われる必要がある。

自身の頭の整理も兼ね、以下に筆者の考えを記す。

◆消費税増税◆
消費税増税は、デフレ脱却と無駄削減を果たすまでは行うべきでは
ない。

GDP名目4%、実質2%成長を最低2年以上連続達成し、成長構
造を造り日本経済を軌道に乗せると共に、行政改革により冗費を削
り、それでも足りない分の増税について、国民に信を問うべきであ
る。

会社経営に例えれば、赤字続きの時に経営者が先ず行うべきは、営
業努力と新規製品開発等で付加価値を高め売上数量増を図ると共に
、役員・社員の給与カットを含め冗費を削る事である。

この事無しに値上げを行えば、客離れによって売上高は更に落ち込
むし、もし営業努力や新規製品開発と並行して行ったとしても、安
易な値上げは企業内の努力を妨げ目標の未達に終わるだろう。

これを国家経営に当て嵌めれば、経済政策によって経済成長を果た
すと共に、冗費を削り、それでもし足りない分が有れば、初めて増
税を国民に問うべきである。

よく、国家経営と会社経営は違うと言われるが、GDP(国内総生
産)は民間会社の利益や個人の収入、その他を集計したものなのだ
から、基本は同じである。

経団連会長である住友化学の米倉会長はじめ海外展開する大企業経
営者は消費税増税に賛成だが、これは輸出戻し税によって消費税が
実質免除となっているため、法人税増税の回避とバーターでそうし
ているし、マスコミが賛成するのは、記者クラブ制度と放送電波割
り当て等で官僚と一蓮托生の既得権側だからである。

政府・日銀が行うべき事は、特別会計見直し等の行政改革により冗
費を削ると共に、国民と国際社会に向かってデフレ脱却の説得力あ
る具体的なシナリオを示し実行する事である。

国民に嘘をついてマニフェストに無い消費増税法案を通した民主党
は論外として、自民党も、増税論者の石破茂氏を破った安倍晋三氏
が総裁選で「デフレ脱却しない限り消費増税はしない」と明言した
事自体は一応天晴れだが、一方でデフレ脱却を増税の必要条件とし
ない消費増税法案には賛成しているのだから、その担保と覚悟は薄
弱と言わざるを得ない。

また、日本維新の会の橋下徹代表は、消費税を地方税化した上での
11%への増税という曲球を打ち出したが、政府民主党の打ち出し
た消費増税に賛成する石原慎太郎氏との連携を考えたものであり、
消費増税分に見合う法人税・所得税の減税を謳っていない事から見
ても、基本的にトータルな増税論者であり実質的に地方税化する前
の増税にも妥協して容認すると見てよいだろう。

社会保障目的という建前はともかく、お金に色は着いていないのだ
から、全体の奉仕者たる国地方の公務員の給与を民間レベルに合わ
せる事も無く、官僚組織の餌と天下りの原資に回る安易な消費増税
に結果的に賛成するのなら、既に彼らは官僚組織の掌の上にあり、
幾ら勇ましく「官僚支配からの脱却」を謳っても、単なるお題目に
帰さざるを得まい。

◆原発政策◆
信無くば立たず、原発政策もまた然り。

少なくとも即時原発全廃が現実的でない以上、先ず福島第一原発事
故の徹底した反省に基づき具体的な安全運営体制を確立する事が不
可欠である。

また、今回の事故で明らかになったように電力会社は過酷事故時の
当事者能力と賠償能力が無いのだから、原発は全て国営化すべきだ
ろう。

その上で、今後の原発政策は、脱原発にせよ、原発維持にせよ、そ
れぞれのメリット・デメリットを可能な限り数値化し、比較考量出
来るシナリオを各党が掲げ、国民投票的な総選挙(もしくは国民投
票そのもの)で、決めるべきである。

そのためには、現時点で原発政策の方向を決定するには時期尚早で
あり、数年掛けてでも民間を含めて国を挙げて様々な試算を行い、
議論を煮詰めるべきである。

福島第一原発事故は、地震・津波の天災に、橋本政権での省庁改編
による検査監督部門と推進部門の経産省傘下への同居、津波規模の
想定の甘さ、発電機設置位置の設計ミス、形式的で不十分な防災訓
練、指揮命令系統の混乱等が加わった人災である。

原子力規制委員会が新設され、新安全基準の制定が来夏に予定され
ており、一応の対策は為されようとしているが、原子力村の体質自
体が革まなければ事故は繰り返される。

このためには、福島第一原発事故に関し、政治家、原子力委員会、
旧原子力安全委員会、経済産業省、資源エネルギー庁、旧原子力安
全・保安院、東電の関係者の処罰が必要である。

「想定外」であったと言う詭弁と責任体制が分散し曖昧であった事
を持って誰も処罰されないのであれば、今後の事故再発は防げまい。
原発は、どんなに安全策を講じても事故の確率はゼロとはならない。

その意味で、事故の確率、被害規模を原発維持のデメリットとして
見積もって置かなければならない。
また、核燃料廃棄物の処理方法の確立も不可欠である。

一方、原発をゼロとすると、エネルギーコスト、エネルギー安全保
障、原発輸出、潜在的核抑止力等の面で日本社会に大きな負荷とな
る。

太陽光、風力、地熱、潮力、波力、生物油脂等の新エネルギー及び
メタンハイドレード、シェールガス等による代替効果と、その開発
・輸出による経済効果のプラス面も含め、脱原発のメリットとデメ
リットを総体で数値化する必要がある。

国民の生活が第一の小沢一郎代表は、ドイツの例を参考に10年後
の原発全廃を謳っているが、日本はフランス等の隣国から電力購入
をしているドイツと事情が違い過ぎる。

(仮に日本海を挟んで送電用の海底ケーブルを通しても、韓国、中
国から電力購入する事になり、ある程度は備蓄が出来る化石燃料と
比べても安全保障上極めて危うい。)

日本維新の会の「脱原発政策」は、原発維持の石原新党との連携も
手伝って、曖昧度を更に増している。
結果として、原発政策を「今すぐ決めない」自民党が一番現実的だ
が、ただ放って置いて単なるこれまでの継続に終わる可能性も高
いので国民の監視が必要だ。

◆TPP参加問題◆
TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加は、基礎的食糧生
産の適用除外の明記と、一方の意向だけでいきなり国際機関に提訴
・決着させるISDS(投資家対国家の紛争解決)条項の削除を前
提条件とすべきである。

TPPは、国務・国防総省の考える中国包囲網としての目的と、商
務省・経済界の考える本来の自由貿易推進の目的、及び日本収奪目
的の3つの顔を持つ。

現下の中国に尖閣諸島、進んでは沖縄が狙われている状況に於いて
、中国を牽制する包囲網の構築は日本にとって不可欠である。

一方、自由貿易を促進するのは基本的には国際社会のあるべき方向
ながら、基礎的食糧は特に有事の戦略物資であり、食糧安保の観点
から、国際的に「食糧自給権」の対象としてこれを定義し、自由貿
易の枠外とすべきである。

また、TPPが謳う、いわゆる「非関税障壁」撤廃は、各国の文化
や社会構造に根差したものもあるため、時間を掛けて交渉すべきも
のであり、ISDS条項で一方の意向だけでいきなり国際機関に提
訴・決着させるのは乱暴過ぎる。

以上を総合し、TPP参加問題は、米国務省・国防総省系に舞台裏
で働きかけ、前掲の前提条件付きで交渉すべきである。

なお、海外からファイナンスしなければならない米国の財政状況は
日本以上に深刻であり、2期目のオバマ政権が兵力をヨーロッパ・
中東から太平洋・アジアにシフトした上で総量ベースで削減に入る
事は、ほぼ規定路線だ。

どの国、どの国家間でも経済・財政と軍事・防衛は地下茎で繋がっ
ており、日本が自主防衛を高めて米国の防衛負担を軽くする事が、
元より日本の自立を促すと共に、TPP交渉でも有利に働くだろう。

「バトルシップ」という今春公開されたハリウッド映画があった。
米海軍と日本の海上自衛隊が共同して、宇宙からの侵略者に立ち向
かうという娯楽アクションものだが、「日本も海軍力を増強して共
に中国の拡張主義に立ち向かおう」と言う隠れたメッセージは明白
で、辿って行けば恐らく国防総省筋から制作費が入っていたのだろ
う。

竹中平蔵氏が軍師として経済政策の全てを仕切る日本維新の会とみ
んなの党は、ほぼ無条件でのTPP参加にまっしぐらであり、その
面では外国交渉能力が欠落した民主党と並んで、国益を損なうだろう。

以上、消費税増税、原発政策、TPP参加問題だけ見ても、各党の
主張は捩れており、総選挙後すんなり連立政権が組めるか、また組
んだ後に果たして機能するのか甚だ不透明である。

そんな状況下、拙文が少しでも参考になれば幸いである。

なお、以下に現時点での各党の主要な政策についてのスタンスを纏
めたものを附す。(文書で表明しているもの以外に、幹部の言動等
からの筆者の推測を含む。)

◆政党・主要政策関連図(仮)◆
       自 民 公 石 維 生 社 
消費税増税  △ ○ ○ ○ △ × ×
TPP推進  △ ○ △ × ○ × ×
脱原発    × △ × × ○ ○ ○
憲法改正    ○ △ △ ○ ○ ○ ×
自主防衛推進 ○ × × ○ ○ ○ ×
地方分権   ○ △ △ ○ ○ ○ △
成長重視   ○ × △ ? ○ ○ ×
公共事業   ○ △ △ ○ △ ○ ×
行政改革   △ × △ ○ ○ ○ ×
規制緩和   △ × × ○ ○ ○ ×
年金積立制  △ × × ? ○ △ ×
日銀法改正  ○ × △ ? ○ ○ ?
道州制    ○ △ △ ○ ○ △ ×
首相公選制  × × × ○ ○ × ×

※自民、民主、公明、石原新党、維新みんな、生活、社民共産の順
                    以上

佐藤 鴻全


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