4513.佐藤優『人間の叡智』



佐藤優『人間の叡智』、できれば三回くらい読んでいらしてください
From: KUMON KIMIAKI TOKUMARU
皆さん、


11月30日(新橋)の読書会で取り上げる佐藤優『人間の叡智』、一回読んで見ま
したが、鈴木孝夫・田中克彦対談(p128-9)や、「日本浪漫 派の保田與重郎のア
イロニーの思想などが重要になってくる」(p190)など、我々がこれまで読んでき
た本が取り上げられているので、それだけで も、稀有な本だといえるでしょう。

また、最終章で、「最低ふたつの古典をもて」、というところなど、これまた現
代に珍しい知識人であることがわかります。

ただ、『獄中記』と違って、現代世界をどのように読み解くのかという世界認
識・時代認識が描かれている本ですので、そのひとつひとつの考え方の理 解、
正しいかどうかの判断が必要であり、それをもとにして、佐藤がいう「人間の叡
智」とは何か、ほかに「人間の叡智」と呼べるものはあるのか、自 分がどのよ
うに「人間の叡智」に接近して、それを生かすのかといったことの議論をするた
めには、とくに第1章の世界認識・時代認識の精緻な読み取 りと批判が必要に
なります。

お時間のある方は、二回か、三回くらい読んで、彼の言っていることの理解を深
め、その妥当性についても、自分なりに考えておいてください。

一回読んだだけですが、彼のマルクス経済的な時代の読み取りは、非常におもし
ろい。また、ロシア理解も深い。知的エリートの大切さを訴えるところ にも共
感はもてます。

一方で、彼は日本は帝国の一員として生き延びることを模索せよというので、ア
ジアやアフリカの人々への共感はあまり感じられません。また、現代科 学につ
いて、多少触れていますが、深まっていません。このあたりは『獄中記』の読書
遍歴からも想像がつくことですが。


最近ではめずらしい批判に値する本だと思いますので、ぜひとも、各人、佐藤優
の主張と取り組んでみてください。あれやこれや、ああでもないこうで もない
と、考えたことの回数が、言葉の深みを生み出します。

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もう本を手にされたとのこと。お忙しいこととは思いますが、もし可能なら、一
度読み、それから一週間くらい間を開けてまた読み、さらに一週間して 三回目
を読むということをお試しください。

読むべき本が見当たらない昨今、この本は、めずらしく批判に値する本だと思い
ました。

1. インテリジェンスの世界で、国家について一生懸命に考え、行動して、ベ
ストを尽くして裏切られた著者が、
2. 獄中で、ゆっくりとものを考える時間を得た。(吉田松陰と同じですね) 
3. その著者が編集者に対して語り下ろした本であるので、読みやすい

世界観・国際情勢・時代認識を論じているところが、『獄中記』よりむずかしい
ですが、それを乗り越えるために三回くらい読むとよいのではないかと 思います。


ものを考えるとは、記憶の演算ではないでしょうか。
記憶の演算を、あれやこれや、ああでもないこうでもないと、たくさん試して、
それぞれの結果の記憶がさらに次の演算に投入される。
そうすると、だんだんと、記憶と演算結果が統合されて、新たな意識がうまれて
くる。
これが思考であり、これは概念をもつ現生人類だけができることです。

思考することは、人類の特権であり、それは実は義務でもあると思います。
概念を正して、きちんと思考したことばを使うと、誤解も少なくなるし、思考が
深まります。

メッセンジャーRNAは、かならず指定されたタンパク質の発現に結びつくのに、
どうして人間の言語は同じ文章が違った記憶を呼びさますことになる のか。こ
れが人類の課題です。少しでも、この課題を乗り越えるために、三回読んできて
いただくのが、よいのではないかと思うのです。


本来であれば、読書会参加者も全員拘置所に入って、読書会の日までこの本だけ
と取っ組み合うと、読書会の効果は増すのでしょうが、拘置所には自由 に出入
りできないので、せめて三回くらい読めば、きっと新たな発見があると信じてい
ます。

よろしくお願いします。
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佐藤優の「人間の叡智」は、新帝国主義の時代に入ったことをくり返し力説して
います。

これは何を意味するのでしょうか。
もはや自然資源を只で取り込むことができなくなったということではないでしょ
うか。
自然資源は、森林資源も枯渇し、魚が獲れなくなり、石油も枯渇しつつあります。

経済発展とは、自然資源を只で仕入れるから発展できたのであり、それができな
いとなると、持っている奴から奪い取るしかない。
これがアメリカの21世紀戦略で、このことを指して「新帝国主義」と呼んでいる
のではないかという気がしてきました。

だとすると、新帝国主義は、ローマクラブの「成長の限界」を、国家レベルで語
るか地球レベルで語るかの違いにすぎないといえないでしょうか。
こう考えると、佐藤優の主張と、我々がこれまで考えてきたこととの接点が増え
るように思います。

しかし、今我々は、帝国主義的な資源の奪い合いに参加するより、人類の来し方
行く末を考えるとともに、人類の知性がもつ無限の可能性に思いを馳せ てもよ
いのではないでしょうか。

得丸久文
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11月の課題本「人間の叡智」の佐藤優氏は
文化放送の常連コメンテータでもあります。
毎月第1と第3の金曜日に午前8時半〜
9時半の間、ラジオトークショー番組の
「くにまるジャパン」に登場します。
時間が時間ですので、勤務をお持ちのみなさんは
聴きにくいと思いますが、機会がありましたら
ラジオを文化放送に合わせて、特に9時から15分間の
「コメンテーター・ジャパン」を聞いてみてください。

ちなみに、11月2日の金曜日はこんな話でした。
以下引用。

―あまり報道されなかったが、ロシアのパトリシェフ国家安全
保障会議事務局長が10月22日に来日して、玄場さんや
野田さんに会った。プーチンの側近だ。これで森さん
(喜郎元首相)の11月訪ロ、それに続く12月前半の
野田さん(首相)の訪ロはほぼ確実になった。

今日本外交にとって重要なのはロシアだ。
中国を牽制するのにロシアの力は大きいからだ。
政府は絶対にそんなことは言えないが、この一連の動きは
中国包囲網の構築を意図している。尖閣問題でロシアに
不介入の立場をとってもらうことが一番の課題だ。

中国は既にこの動きを察知しているから、あらゆる手立てを
講じてロシアの対日接近を阻もうとしている。ロシアの中にも
中国ロビーはいるし、日本にも北方領土問題で飯を食って
いる北方領土ビジネス屋がいる。4島一括でなければ
いけない、と講演して30万円ももらうような人がいる。
彼らは、北方領土問題が解決されたらおまんまの食い上げだ。

中国は野田政権を相手にせず。もう時間の問題と見ている。
しきりに流しているのが「中国は安倍政権に期待する」という
話だ。安倍さんは前回、首相になって最初に訪中した。
それを中国は再現しようとしいる。

バイカル湖以東の中ロ国境にはロシア側に640万人、
中国側に1億4千万人いる。給与はロシア側が3倍だ。

ロシアは、何かあればあっという間に中国人がなだれ
込んできて圧倒されてしまうことを恐れている。そこで、中国と
手を握らないパートナーを求めているのだ。

外交は、言葉になっていないところで何をやっているかを
見ないといけない。パトリシェフが来たのは、まさにそういう
ことだ。

中国牽制発言は政府や政治家の言うことではない。
言論人はそのためにいるのだから、もっと言ったらよい。

これから注目すべきは外務省のサエキ外務審議官だ。
北朝鮮6者協議のテーブルに就いていた人で、お前ら、
嘘をつくな、とテーブルを叩いて北朝鮮を怒鳴り上げた。
対ロでは、北方領土交渉の責任者だし、以前はインド大使
だったから、インドの人脈も持っている。この人脈はロシアに
有効だ。ロシア、インド、ベトナム、それにフィリピンをつないで、
対中包囲網をつくる。日本が武器輸出3原則を緩めて、
フィリピンに巡視船を輸出するのもその一環だ。

中国が国連で始めた日本の歴史認識キャンペーンは
放っておけない。

ロシアとは、2001年のイルクーツク宣言に戻る必要が
ある。歯舞、色丹の2島変換で平和条約を結び、
国後、択捉の2島は継続協議にする。そうしてロシアと
戦略的提携関係を結ぶ。戦略的と言う言葉が出た
時には、必ず、第3国を想定している。つまり、中国だ。

安倍さんは、そこが分かる人だ。宗男事件の時、安倍さん
は小泉内閣の官房副長官だったが、「北方領土
については鈴木さんの考えは正しかった」と言い続けた。

日本は今、韓国カードを失っている。ロシアがもの
凄く大事になっている。日本の政治エリートが、この
帝国主義の波を乗り切っていけるかが問われている。

近く鈴木宗男が橋本徹と会う。会って橋本に対中牽制の
重要性をわからせる。中国をどうするか、コンセンサスを
作る。今月と来月がヤマだ。

概要以上。

なお、メモはラジオを聞きながらのもので、録音は
取る暇がなかったため、細部に聞き落とし、聞き違いが
あり得ます。が、佐藤氏らしい話しぶりは、いつものことです。

文責・岩村立郎
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岩村様

貴重な番組情報ならびにコメントの中味までありがとうございます。

なかなかに生々しい外交の模様が、惜しげもなく
語られているのですね。

インド大使をやっておられた斎木審議官がそんな激しい
外交交渉をしておられたとは知りませんでした。
北朝鮮とやるには、そこまでやらないとダメなのでしょうか。
そこまでやってもダメなものはダメなのでしょうか。

『獄中記』を読んだときにも思いましたが、
個別の外交官の語学能力や交渉術、国家への忠誠心は
とても大事ですが、

そもそも昭和20年8月15日以降の、「日本」がいったい
どういう国際関係の中で存在している国なのか、
ということをもっときちんと理解しておかないと、
どんな立派な外交術もむなしく空振りになるのではないか。

佐藤優はそういったことを獄中で考えなかったのか。

「言葉になっていないところで何をやっているか」が大事なら
「言葉にされていないけれども、どうなっているか」ということも
大事かもしれない。


詩人のウィスタン・オーデンは、詩人のやってはいけないこととして
「言葉をお金に換える職業についてはいけない。翻訳家までならよい」
といった趣旨のことを書いていました。

佐藤優の活躍ぶりを耳にするのは、うれしいことですが、
それが彼独自の思想や分析結果を鈍らせることにつながるなら、
ちょっとさびしい気もします。

思想道場鷹揚の会 得丸公明
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皆様、

佐藤優は、『人間の叡智』の中で、日本浪漫派を紹介していますが(これは一読
目にもご紹介しました)、よく読むと、大衆を扇動するイデオローグの ような扱
いになっていないでしょうか。非常に微妙なところですが。

P189-190のあたりです。

結局、人間は、ナショナリズムとか、啓蒙の思想、人権の思想、そういうもので動く
↓
それらの思想は全部まやかし。まやかしだとわかっている人たちが、承知の上で
それらを使っていかにイメージ操作をしていくかというのが課題。
↓
言いかえれば、物語をつくること、ストーリーテリングの能力が必要
↓
物語をつくるのに必要とされるのは、アナロジーとかアイロニーとか、いままで
は見えなかったような力です
↓
日本浪漫派の保田與重郎のアイロニーの思想などが重要になってくると思いま
す。直球では駄目なのです。そういう意味では、橋下氏は面白いし、民主党の
前原氏がすでに十分面白い。

と、こういう具合に議論しています。

もしかしたら、佐藤優は、保田與重郎をきちんと理解していないで、単なる大衆
をアイロニーという言葉で騙した扇動家のように思っているのでしょう か。
ふとそんなことを思ったもので、ご報告します。
皆様、このあたりいかが読まれますか。


得丸公明(思想道場鷹揚の会)


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