4402.シリア崩壊を仕掛ける



内戦状態に陥っているシリア情勢の打開を目指し、国連安全保障理
事会常任理事国と周辺関係国による外相級会合が6月30日、ジュ
ネーブで開かれた。アサド政権と反体制派双方が参加する中立的な
「移行政府組織」を樹立して政権移行の実現を目指すことで合意し
た。 

しかし、ロシアのラブロフ外相は7月5日、シリアのアサド大統領
のロシア亡命を受け入れるよう一部欧米諸国に要請されたとした上
で、受け入れる考えがないことを明らかにした。ロシアはシリアの
現政権を支持する方向のようである。アサド政権を存続して、一部
反体制派を参加させたいようである。

シリアのアサド大統領は7月3日、トルコ軍機撃墜について「低空
を飛んでおりイスラエル機と誤認した。イスラエルは2007年に
シリアを攻撃している。戦争状態の国はこういう対応をしてしまう
」と語り、故意の撃墜を強く否定した。

トルコ軍は7月4日、先月シリア軍に撃墜された戦闘機のパイロッ
ト2人の遺体を東地中海の海底で発見し、遺体の引き揚げを行って
いると発表した。トルコの戦闘機はシリアが海岸線に配置していた
対空砲によって撃墜されたとアメリカの情報関係者は指摘している。
国防関係者も対空ミサイルで撃墜された痕跡はないとしているよう
だ。ということはトルコ機撃墜はシリア領内の可能性が高い。

反対に、シリアの反体制派を支援する欧米やアラブ諸国など有志国
による第3回「シリアの友人」会合が7月6日、パリで開かれた。

参加した107カ国の閣僚らは反体制派の武力弾圧を続けるアサド
政権に退陣を要求するとともに、シリアへの制裁や軍事行動を可能
にする国連憲章第7章に基づいた決議案を早期に採択するよう、国
連安全保障理事会に求めた。

しかし、アサド政権を擁護する中露両国は出席しなかった。シリア
制裁の安保理決議は拒否権を持つ中露が採択に反対してきた経緯が
あり、現状では実現は困難な情勢だ。

その上に、欧米諸国、サウジアラビアやカタールのような湾岸産油
国に支援された反政府軍の残虐行為が露見してきた。

最近、ホウラでの虐殺は反政府軍によるものだとロシアのジャーナ
リストだけでなく、ローマ教皇庁のフィデス通信やドイツのフラン
クフルター・アルゲマイネ紙も報告している。

そうした中、イスラエルがレバノンのヒスボラに対する大規模な軍
事侵攻を準備しているという話も出てきた。シリアを外国の軍隊が
侵略したとき、ヒスボラはシリアとともに戦うとしていたので、そ
の気勢を削ぐことのようだ。

ロイター通信は7月5日、反体制派などの情報としてシリア政府軍
の精鋭部隊、共和国防衛隊幹部で、アサド大統領の親しい友人であ
るマナーフ・トゥラース准将が政権を離脱し、トルコ経由でパリに
向かっていると報じた。

トゥラース氏はイスラム教スンニ派で、少数派のアラウィ派支配へ
の不満が多数派のスンニ派の間で強まっており、その流れに乗った
ようだ。

このように中東全域のシーア・アラウィ派連合とスンニ派の戦いに
なる兆候が出ている。その中でイスラエルの行動は、スンニ派の戦
いにどのような影響を与えるかが問題である。

アメリカのネオコン(親イスラエル派)は遅くとも1991年の段階で
シリアの体制を転覆させる計画を立てていた可能性が高い。ウェズ
リー・クラーク元欧州連合軍最高司令官に対し、ポール・ウォルフ
ォウィッツ国防次官(当時)はシリアのほか、旧ソ連圏の国々、イ
ラン、イラクを掃除するとしたが、イラクが終わったので次の目標
であるイラン、シリアに向かっているようでもある。

裏で戦争のシナリオを書いているのは、攻撃の米国だけではなく、
防御と言う意味で露中で3ケ国である。

しかし、中東全域に跨る戦争になったとき、その結果は、石油輸入
ができずにアジア諸国、特に日本は大きな影響を受けることになる。
早く、代替エネルギーへの変換をする必要がありそうである。

さあ、どうなりますか?

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シリア軍幹部の離脱、仏が確認 アサド政権を見限り?
2012.7.6 21:14
 【ベルリン=宮下日出男】フランスのファビウス外相は6日、シ
リア軍幹部が政権を離脱し、トルコ経由で現在フランスに向かって
いると明かした。ロイター通信は5日、反体制派などの情報として
シリア政府軍の精鋭部隊、共和国防衛隊幹部で、アサド大統領の親
しい友人であるマナーフ・トゥラース准将がシリアを出国し、パリ
に向かっていると報じていた。

 事実ならこれまでで最もアサド氏に近い人物の離脱になるとみら
れる。反体制派筋は、准将がアサド政権を見限ったことを表明する
との見通しを示している。

 トゥラース氏は、イスラム教スンニ派。アサド氏とは軍士官学校
でともに学んでおり、父、ムスタファ・トゥラース氏はアサド氏の
父であるハフェズ・アサド前大統領の下で長年、国防相を務めた。

 シリアでは少数派のアラウィ派支配への不満が多数派のスンニ派
の間で強まっており、トゥラース氏も周囲に対し、政権による弾圧
への不満を漏らしていたとされる。パリには父ら家族が滞在してい
るという。
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シリア:制裁の早期決議、安保理に要求 有志国第3回会合
毎日新聞 2012年07月06日 23時46分

 【パリ宮川裕章】内戦状態に陥ったシリアの反体制派を支援する
欧米やアラブ諸国など有志国による第3回「シリアの友人」会合が
6日、パリで開かれた。参加した107カ国の閣僚らは反体制派の
武力弾圧を続けるアサド政権に退陣を要求するとともに、シリアへ
の制裁や軍事行動を可能にする国連憲章第7章に基づいた決議案を
早期に採択するよう、国連安全保障理事会に求めた。

 議長総括によると、参加国は、弾圧責任者の処罰や、反体制派の
結束強化の支援、シリア民間人の人道援助などでも一致した。

 アサド政権を擁護する中露両国は出席しなかった。シリア制裁の
安保理決議は拒否権を持つ中露が採択に反対してきた経緯があり、
現状では実現は困難な情勢だ。

 会議でクリントン米国務長官は中露について「前進を妨害してお
り、到底許容できない」などと激しく批判。アサド政権に対する国
際的圧力を強め退陣を促すため、シリアに対する軍事行動を含む措
置を許容する国連安保理決議案の可及的速やかな採択が必要だとの
考えを強調した。
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シリアで反政府軍による住民虐殺の事実が明らかになる中、ウィキ
リークスが「シリア・ファイル」の公表を開始、その一方でイスラ
エル軍のレバノン侵攻も話題に  
2012.07.06櫻井ジャーナル

 内部告発を支援しているウィキリークスが7月5日、「シリア・フ
ァイル」の公表を始めた。2006年8月から今年3月にかけてシリアの
政界関係者、閣僚、あるいは企業が送った240万件以上の電子メール
を2カ月以上の時間をかけて明らかにしていくという。内容から考え
ると、シリア政府の周辺から漏れたのだろう。

 ここにきてシリアでは体制転覆を目指すイギリス、アメリカ、ト
ルコなどのNATO、あるいはサウジアラビアやカタールのような湾岸
産油国に支援された反政府軍の残虐行為が露見してきた。そうした
中、ウィキリークスが公表するとしている「シリア・ファイル」が
どのようなインパクトを与えるのか、興味深いところだ。

 本ブログでは何度も書いていることだが、アメリカのネオコン(
親イスラエル派)は遅くとも1991年の段階でシリアの体制を転覆さ
せる計画を立てていた可能性が高い。ウェズリー・クラーク元欧州
連合軍最高司令官に対し、ポール・ウォルフォウィッツ国防次官(
当時)はシリアのほか、旧ソ連圏の国々、イラン、イラクを掃除す
ると話していたというのだ。

 また、調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュは、ジョージ・
W・ブッシュ政権はサウジアラビアなどと手を組み、シリアやイラ
ンを攻撃する秘密工作を始めたと2007年の時点で警告している。実
際、そのときには工作がスタートしていた。

 シリアの体制転覆工作は反政府派への資金援助に止まらない。反
政府軍を編成、拠点を提供、兵士を訓練し、武器を与えたことは間
違いなさそうだ。イギリス、カタール、アメリカ、フランス、ヨル
ダン、トルコなどは自国の特殊部隊をシリア領内に潜入させ、活動
している可能性があるとする情報も流れている。

 昨年から一部のジャーナリストは反政府軍の残虐行為を明らかに
して、アメリカが中米で展開した工作との類似性を指摘していた。
1980年代、エル・サルバドルなどでは「死の部隊」を、ニカラグア
では反革命軍を編成して農民を虐殺した手法だ。ベトナム戦争の際
、アメリカの情報機関と特殊部隊が展開した農民皆殺し作戦、フェ
ニックス・プログラム(ソンミ村事件はその一部。詳しくは拙著『
テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』を)と似ているとする
声もある。

 シリアの場合、最近、ホウラでの虐殺は反政府軍によるものだと
ロシアのジャーナリストだけでなく、ローマ教皇庁のフィデス通信
やドイツのフランクフルター・アルゲマイネ紙も報告している。ま
た、イギリスのテレビ局、チャンネル4のアレックス・トンプソンに
よると、反政府軍は彼の取材チームを交戦地帯へと導き、政府軍か
ら銃撃されるように仕向けたと主張している。

 こうした事実が明るみに出ても、これまで「残虐な政府軍」と「
民主化を求める反政府派」という構図でシリアの戦闘を描いてきた
「西側」のメディア(あるいは「左翼」を自称している人びと)は
無視しているが、インターネットの発達した現在、そうした情報を
封印することは不可能である。原子力の「安全神話」を広めてきた
日本のマスコミが、東電福島第一原発の「過酷事故」を経験しても
反省していないことを連想させる。せいぜい「アリバイ工作」的な
記事を小さく載せるだけだ。シリアの場合、そうした「アリバイ工
作」すらないが。

 シリアの体制を速やかに転覆させられず、泥沼化しているのが現
状だが、そうした中、イスラエルがレバノンに対する大規模な軍事
侵攻を準備しているという話も出てきた。シリアの体制転覆による
不安定化に備えてのことだという。リビアにしろ、シリアにしろ、
イスラム武装勢力が影響力を強めていることは明らかで、そうした
ことを理由に挙げているようだが、そうした状況を作り出している
のはNATOや湾岸産油国だ。
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アサド氏亡命受け入れず ロ外相
2012.7.6 01:10
 ロシアのラブロフ外相は5日、内戦状態に陥ったシリアのアサド
大統領のロシア亡命を受け入れるよう一部欧米諸国に要請されたと
した上で、受け入れる考えがないことを明らかにした。ドイツのウ
ェスターウェレ外相との共同記者会見で述べた。

 ラブロフ氏によると、アサド大統領亡命受け入れは6月1日にプ
ーチン大統領がドイツを訪問した際、メルケル首相から持ち掛けら
れ、さらに同月30日にシリア情勢をめぐってスイスで行われた国
連安全保障理事会の常任理事国など「連絡調整グループ」の閣僚会
合でも話題に上った。

 ラブロフ氏は、こうした要請について「不誠実な試みであり、ロ
シアの立場を理解していない」と述べた。(共同)
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パイロットの遺体発見−シリア撃墜のトルコ機
2012年 7月 5日 11:40 JST
WSJ
 【イスタンブール】トルコ軍は4日、先月シリア軍に撃墜された戦
闘機のパイロット2人の遺体を東地中海の海底で発見し、遺体の引き
揚げを行っていると発表した。

 発表では遺体の発見場所については具体的には示されていないが
、トルコ政府当局者は、その後戦闘機の残骸が1285メートルの海底
に沈んでいることを明らかにし、国際空域で撃墜されたことを示し
ていると述べた。

 撃墜を受けて、トルコ軍はシリアとの国境沿いに対空砲部隊を配備
し、エルドアン・トルコ首相は「断固たる措置」を講じると述べ、
両国間の緊張が一気に高まった。アサド・シリア大統領は、シリア軍
は同国領空を飛行中だった戦闘機を対空砲で撃墜したと説明。これ
に対しトルコ政府は、同機はシリアの12マイルの領空外の沿岸13マ
イルの地点で撃墜されたと主張している。

 ただトルコの世論調査では、国民の多数はシリアとの軍事衝突に
強く反対している。トルコのシンクタンクEdamが、トルコ軍機撃墜
事件の前に行った世論調査によると、シリア内戦へのいなかる形の
介入にも反対しているのが41%に達した。トルコはシリア内に緩衝
地帯を設けるべきだと考えている人は15%弱、軍事介入を支持して
いるのが12%弱、シリアの反体制派自由シリア軍への武器供与を支
持しているのが約8%だった。

 アサド大統領は3日付のトルコ紙ジュムフリエトとのインタビュー
で、シリア軍はトルコ機をイスラエル機と誤認したとし、「100%事
故だった。起きなければよかったと思っている」と遺憾の意を表明
した。
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「イスラエル軍機と誤認」=トルコ機撃墜を釈明−シリア大統領
 【アンカラAFP=時事】シリアのアサド大統領は3日、トルコ
紙ジュムフリエトのインタビューに応じ、6月22日のトルコ軍機
撃墜について「低空を飛んでおりイスラエル機と誤認した。イスラ
エルは2007年にシリアを攻撃している。戦争状態の国はこうい
う対応をしてしまう」と語り、故意の撃墜を強く否定した。
 また、「シリア軍による撃墜でなければよかったのだが」と釈明
。行方不明のトルコ軍搭乗員2人の親族に哀悼の意を表明した。
(2012/07/04-06:29)
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統一政府構想、シリア関係国間で合意 政権移行目指す
2012年7月1日4時12分

 内戦状態に陥っているシリア情勢の打開を目指し、国連安全保障
理事会常任理事国と周辺関係国による外相級会合が30日、ジュネ
ーブで開かれた。アサド政権と反体制派双方が参加する中立的な「
移行政府組織」を樹立して政権移行の実現を目指すことで合意した。 

 会合は国連とアラブ連盟の合同特使、アナン前国連事務総長が仲
介した「停戦案」が事実上失敗するなか、打開策を探る試み。アサ
ド政権支持のロシア、中国を含む形で「政権移行」に合意したこと
は、アサド政権にとっては政治的な打撃となる。ただ、アサド政権
、反体制派とも双方が参加する統一政府の樹立には難色を示してお
り、実現には難航も予想される。 

 この日の最終文書には、樹立の期限は明示されていないが、アナ
ン特使は「1年以内に進展することを望む」との見通しを示した。
新政府の構成、人選については「(政権、反体制派)双方の合意に
よる」(最終文書)とすることで妥協した。 
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トルコの戦闘機はシリア領内で対空砲によって撃墜されたと米国の
情報関係者も指摘、トルコ、英国、湾岸産油国、そしてネオコンの
好戦的な言動に疑問を投げかけた 
2012.07.02櫻井ジャーナル
 
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、シリアが海岸線
に配置していた対空砲によってトルコの戦闘機は撃墜されたとアメ
リカの情報関係者は指摘している。国防関係者も対空ミサイルで撃
墜された痕跡はないとしているようだ。公海上でシリアの対空ミサ
イルによって撃ち落とされたとするトルコ政府の主張に説得力がな
いとアメリカ側も考えているのだろう。

 撃墜に関するシリアとトルコ、両国政府の主張を比較したならば
、シリア側の説明に説得力があることは明白で、アメリカ側の分析
が「驚き」というわけではない。トルコがシリアの防空システムを
調べていたという見方も、常識的なものだ。ただ、アメリカからこ
うした発言が出てきたのは興味深い。

 考えてみると、リビアの体制転覆でもそうだったが、積極的な国
はイギリスや湾岸の産油国。アメリカの場合はジョン・マケイン上
院議員やジョー・リーバーマン上院議員のようなネオコン(親イス
ラエル派)、あるいはヒラリー・クリントン国務長官のような戦争
ビジネスを背景に持つ人びと。日本のエリートたち、つまり政治家
、官僚、大企業経営者、その周辺に蠢いている学者やマスコミ社員
などは、こうした好戦派に従い、偽情報を撒き散らしてきた。

 しつこいようだが、ウェズリー・クラーク元欧州連合軍最高司令
官によると、こうした好戦派が中東や北アフリカを軍事制圧する作
戦を練り始めたのは遅くとも1991年。その中心にはネオコンのポー
ル・ウォルフォウィッツがいた。

 調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュは、ジョージ・W・ブ
ッシュ政権はサウジアラビアなどと手を組み、シリアやイランを攻
撃する秘密工作を始めたと2007年の時点で警告している。

 また、2001年9月11日の直後、ブッシュ政権は攻撃予定国リストを
作成、そこにはイラク、イラン、シリア、リビア、レバノン、ソマ
リア、スーダンが載っていたとクラーク元司令官は語っていた。


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