4306.デジタル言語学の悟り



デジタル言語学の悟り

皆様

デジタル言語学の行き着く先がみえました。
だいたいこんなことだとおもいます。

得丸


デジタル言語学の悟り 

 ヒト一人の生命は、草一本、虫一匹の生命と、同じだけ尊い。

5年前に仏教を勉強しているとき、悟りとは何かということを議論す
ることはあまりなかった。難しい話題は教える側も大変だから、避
けて通るというのは、宗教も科学も似ている。
悟りに関する言葉としては、道元の「修証一如」、悟りとは修行で
ある、修行することが悟りである、悟ったのなら黙って修行に身を
入れよという教えが一番心に残っている。
宗教にしても、科学にしても、悟りや真理を求める気概がなければ
、修行にも研究にも身が入らないと思うので、悟りを求める気持ち
は大切である。

先日、ノーベル財団のホームページで、昨年のノーベル医学賞を受
賞したジュール・ホフマンのノーベル講演を聞いていた。ホフマン
の専門は、生命体の免疫応答で、Tリンパ球の細胞の表面にあるトー
ル様受容体(Toll Like Receptor: TLR)から、どのような経路(pathway)
で細胞核内にあるDNAに信号が送られて転写がはじまり、免疫反応が
生まれるのかということを研究しているようだった。
一度聞いただけなので、講演の中味をちゃんと理解したわけではな
いが、生得免疫と獲得免疫は同じであるということを言っていた。
つまり生まれながらにして持っている免疫の記憶と、後天的に獲得
する免疫の記憶は、同じメカニズムであるということだ。反射も条
件反射も同じ現象であるといったパブロフの卓見もこれと同じであ
ろう。
また、すべての多細胞生物の免疫システムは同じであるということ
も言っていた。講演の終わりにホフマンが示した図は、海綿も、イ
ソギンチャクも、昆虫も、円口類も、脊椎動物も、すべての多細胞
生物の免疫システムは、AMP(アデノシン一リン酸)とNF-kBというDNA
の転写を促す因子と、TAK1という酵素キナーゼとTOLLという釣り鐘
状のT細胞受容体によって起きていることを示していた。

彼は多くを語らなかったが、これはおそらく悟りである。生まれな
がらにもっている免疫の記憶と生後に獲得する免疫記憶が同じであ
り、脊椎動物も無脊椎動物も同じ免疫システムであるとすれば、ヒ
トの知能もイソギンチャクの知能も、同じメカニズムであるという
ことになる。
ではヒトはどうすれば人間になれるのか、ということが問われなけ
ればならない。

デジタル言語学の結論も似ている。
ヒトとヒト以外の動物の違いは、言語だけである。生体構造も、知
能メカニズムも、喜怒哀楽の感情も、病気にかかることも、すべて
同じである。鳥インフルエンザや豚インフルエンザという言葉はあ
るが、おそらくヒトと同じウィルスに感染するのだ。ヒトによって
それぞれ知能や運動能力や気質の違いがあるように、動物にも同じ
ような個体差がある。
ヒトの違いは、音節という論理信号を獲得したことによって、コミ
ュニケーションのデジタル化が可能となったことだ。
デジタル化とは、(1) 語彙数を無限にもつこと、(2) 概念を文法に
よって分節化する(紡ぐ)ことにより複雑で精巧な情報を伝達できる
ようになったこと、(3) 複雑で精巧な情報をひとつの概念記号で表
現できるようになったこと、(4) 複雑で精巧な情報を概念として、
それを分節化することによってさらに複雑な情報の多元多項式をつ
くりだし、それをひとつの言葉(概念)としてもてることを意味する。
(4)の例として、「悟り」や「もののあはれ」、「わび・さび・しお
り」、そして「免疫」や「脳生理現象」といった言葉がある。これ
らの言葉は、けっして一筋縄でいかない複雑で深遠なことを意味す
るが、そういった言葉によって、人間の修養段階や自然現象を、総
合的な現象として表現できるのである。
だから、「悟り」とは何か、「もののあはれ」とは何かということ
を、常日頃から追い求めることは大切である。それは「免疫」や「
脳生理現象」を科学的に理解しようとする研究態度とむすびつく。

複雑系という点では「言語」も追い求めるべき対象になりうること
が、デジタル言語学によって明らかとなった。そして「言語」を解
明することは、「人間」を解明することと同じであった。
いったいどういう結論が導かれるのだろうか。
ヒトは動物である。ヒトとヒト以外の動物の違いは、デジタル言語
をもっているかいないかだけである。
ヒトはデジタル言語を獲得して、森羅万象、宇宙の真理、人間存在
の真実を解明することができるようになった。
できるのだから、求めなければならない。そうしなければ、ヒトは
間違った観念に冒された状態から脱しきれないからだ。

おそらくホフマンやその他の悟った科学者たちは、「基本的人権」
というものがヒトが勝手に作り出した世迷いごとであることを知っ
ている。科学的にいうと人権なんて嘘のかたまりで、わがままで幼
児的なヒトの暴走(それは自滅に直結する)を招いただけである。
ヒトの知性は、イソギンチャクや昆虫と同じ仕組みであるから、誤
った宗教教育や家庭教育やテレビの宣伝広告に大きく影響されてし
まい、なかなか真理にたどりつけないのだ。
むしろ日本の仏教説話や民話が伝える汎神論的世界は、真理を悟っ
た科学者たちに受け入れられるだろう。動物にも心があって、人間
と心が通い合う。人間は自分も動物であることをわきまえて、動物
や昆虫や植物の生命を尊重して生きていかなければならない。

コオロギとセミでどっちが偉いかということを議論することがナン
センスなように、ヒトが他の生き物よりも偉いと考えることは間違
っている。
ヒトだけが土地や資源を略奪し、ゴミや汚染物質を環境中に撒き散
らしていることは間違っている。
ヒト一人の生命は、草一本、虫一匹の生命と、同じだけ尊い。
これがデジタル言語学の到達した地平である。


コラム目次に戻る
トップページに戻る