橋下・大阪維新「船中八策」の骨格に現時点でツッコミを入れる。 橋下徹大阪市長が代表として率いる大阪維新の会は、衆院選向けの 公約集「船中八策」の骨格をまとめた。 13日の全体会議後も大阪維新の会はペーパーを出しておらず各紙 の報じる内容にバラつきがあるが、八つの柱で方針を掲げているよ うだ。維新の地方議員や3月に設立する維新政治塾での議論も踏ま え、最終決定する模様だ。 筆者のスタンスは、「地域の主体性」と「既得権の破壊」を掲げる 一連の橋下氏の言動及び、この「船中八策」に基本的な方向として は賛成の立場である。その上で、取り急ぎ現時点で出ている各論に ついての不明点、懸念点及び異論等のみを大小取り混ぜて下記に示 す。(朝日新聞が13日付のネット版記事で報じた「骨格」を基に した) ●統治機構の変革:◆地方の事情に合った大都市制度の創設◆地方 分権の推進◆地方交付税廃止 道州制は、基礎的自治体?道州?国の現状の都道府県制と同様に3階 建てであり、同州が強すぎれば、屋上屋を重ね地方分権に逆行する ため、基礎的自治体にこそ国が担うべき事項以外の権限と財源を大 きく降ろし、道州は域内の調整機能を主な役割とすべきである。 また、「地方共有税制度」創設による自治体間の財源調整は、基礎 的な調整(継続的な下駄)と制度開始後20年程度で逓減消滅させ る調整(時限的な下駄)の2勘定に分け、ナショナル・ミニマムと 自助努力を両立させるべきだろう。 ●行財政改革:◆基礎的財政収支の黒字化◆国会議員の定数・歳費 削減◆人件費3割カット 国会議員の定数削減・歳費削減は総じて、国会及び政府の機能強化 に繋がる工夫と共に行うべきである。それ無くして、ただ頭数と金 を減らすだけでは、官僚の恣意的な裁量範囲を今以上に強めてしま う事に終わる。 また人件費3割カットは、地方自治体にも及ぶように地方と国の財 源分けを設定すべきである。 ●公務員制度改革:◆職員基本条例案の法制化 公務員の身分保障は基本的に民間と同レベルとすべきだが、一方労 働3権のうちスト権については、公共サービスが独占形態でストに より機能麻痺する事を鑑みれば与えるべきではなく、両者はバラン スを取るのが望ましい。 ●教育改革:◆教育委員会の設置を選択制に◆学習塾バウチャー制 度の導入 ●社会保障制度改革:◆年金を掛け捨て制と積み立て制の併用◆高 齢者と現役世代の格差是正◆政府が国民に現金を給付するベーシッ クインカム制度の設計 掛け捨て制と積み立て制は、現行の賦課方式年金を間に挟んで、理 念的にもベクトルが真逆であり、たとえ過渡的形態としてもどう併 用させるのか不明である。 ●経済・税制:◆自由貿易圏の拡大◆法人税率と所得税率を引き下 げ、資産課税と消費税を増税 TPPについては、トータルな国益上、以下の2点について相当な 譲歩が担保されない限り、参加すべきではない。 ◇貿易自由化・関税撤廃はあるべき方向だが、基礎的食糧に関して は有事の安全保障上、国際法で「食糧自給権」を確立し総カロリー ベースで自由化制限すべきである事。 ◇また、いわゆる「関税外障壁」に関しては、その国の文化や社会 構造に直結するものもあり、いきなり全てを国際機関に提訴決着さ せる方法は乱暴すぎる事。 なお、米国内も相手国から可能な限り利益を吸い取ろうとする経済 界と中国を牽制したい国務・国防総省では思惑が異なり、後者に働 き掛ける事により譲歩は引き出せるはずである。 また、資産課税増税は、それが甚だしいものなら共産主義に近づき 、経済活動への意欲を阻害するので自ずと限度があろう。また、預 金に比べ現金残高の補足は技術的に難しく本物の「箪笥預金」が増 えるかもしれない。 消費税増税は、橋下氏のTwitter等によると一方で所得税の「消費額 控除参入」で消費を促進する模様だが、ブレーキを踏みながらアク セルを吹かす事になるまいか。なお「消費額控除参入」は、スーパ ーのレシートを一年分集めて確定申告せねばならず、これも技術的 には難しい。 ●外交・防衛:◆日米同盟を基軸に、豪州も含めた3国同盟を強化 ◆日本全体で沖縄の基地負担の軽減を図る◆領土を自力で守る防衛 力のあり方を検討 「3国同盟」の意図は、中国の拡張主義に対する備えに他ならない 。この趣旨を一歩進めてインドやロシア、韓国とも同盟乃至はそれ に準ずる協定を結ぶべきである。 ●憲法:◆首相公選制の導入◆参議院を廃止。代わりに主張が議員 を兼務できる、国と地方の協議の場の議院を設ける◆以上を実現す るため、憲法改正に必要な衆参の賛同を3分の2から2分の1に イスラエルに於ける首相公選制の導入は、中選挙区選出の議会で安 定与党を構成出来ず政府が立ち往生し失敗に終わり廃止となった。 この事からの教訓は、「意思決定の明確化・迅速化のための首相公 選制導入は小選挙区制の徹底、比例区の撤廃と合わせ技で行うべし 」である。 「国と地方の協議の場の議院」は首長兼務の国会議員によって構成 される模様だが、これでは国と地方の対立構造が強すぎる。強すぎ る対立構造は、特に有事の時に危険である。当該議院と衆院の権限 バランスにもよるが、何らかの形で首長以外の者も入れて対立構造 を薄めるべきである。 以上、今後の「船中八策」の具体化・明確化と読者の「橋下ウォッ チ」の参考になれば幸いである。 以上 佐藤