4270.橋下・大阪維新「船中八策」の骨格



橋下・大阪維新「船中八策」の骨格に現時点でツッコミを入れる。

橋下徹大阪市長が代表として率いる大阪維新の会は、衆院選向けの
公約集「船中八策」の骨格をまとめた。

13日の全体会議後も大阪維新の会はペーパーを出しておらず各紙
の報じる内容にバラつきがあるが、八つの柱で方針を掲げているよ
うだ。維新の地方議員や3月に設立する維新政治塾での議論も踏ま
え、最終決定する模様だ。

筆者のスタンスは、「地域の主体性」と「既得権の破壊」を掲げる
一連の橋下氏の言動及び、この「船中八策」に基本的な方向として
は賛成の立場である。その上で、取り急ぎ現時点で出ている各論に
ついての不明点、懸念点及び異論等のみを大小取り混ぜて下記に示
す。(朝日新聞が13日付のネット版記事で報じた「骨格」を基に
した)

●統治機構の変革:◆地方の事情に合った大都市制度の創設◆地方
分権の推進◆地方交付税廃止

道州制は、基礎的自治体?道州?国の現状の都道府県制と同様に3階
建てであり、同州が強すぎれば、屋上屋を重ね地方分権に逆行する
ため、基礎的自治体にこそ国が担うべき事項以外の権限と財源を大
きく降ろし、道州は域内の調整機能を主な役割とすべきである。

また、「地方共有税制度」創設による自治体間の財源調整は、基礎
的な調整(継続的な下駄)と制度開始後20年程度で逓減消滅させ
る調整(時限的な下駄)の2勘定に分け、ナショナル・ミニマムと
自助努力を両立させるべきだろう。

●行財政改革:◆基礎的財政収支の黒字化◆国会議員の定数・歳費
削減◆人件費3割カット

国会議員の定数削減・歳費削減は総じて、国会及び政府の機能強化
に繋がる工夫と共に行うべきである。それ無くして、ただ頭数と金
を減らすだけでは、官僚の恣意的な裁量範囲を今以上に強めてしま
う事に終わる。

また人件費3割カットは、地方自治体にも及ぶように地方と国の財
源分けを設定すべきである。

●公務員制度改革:◆職員基本条例案の法制化

公務員の身分保障は基本的に民間と同レベルとすべきだが、一方労
働3権のうちスト権については、公共サービスが独占形態でストに
より機能麻痺する事を鑑みれば与えるべきではなく、両者はバラン
スを取るのが望ましい。

●教育改革:◆教育委員会の設置を選択制に◆学習塾バウチャー制
度の導入

●社会保障制度改革:◆年金を掛け捨て制と積み立て制の併用◆高
齢者と現役世代の格差是正◆政府が国民に現金を給付するベーシッ
クインカム制度の設計

掛け捨て制と積み立て制は、現行の賦課方式年金を間に挟んで、理
念的にもベクトルが真逆であり、たとえ過渡的形態としてもどう併
用させるのか不明である。

●経済・税制:◆自由貿易圏の拡大◆法人税率と所得税率を引き下
げ、資産課税と消費税を増税

TPPについては、トータルな国益上、以下の2点について相当な
譲歩が担保されない限り、参加すべきではない。

◇貿易自由化・関税撤廃はあるべき方向だが、基礎的食糧に関して
は有事の安全保障上、国際法で「食糧自給権」を確立し総カロリー
ベースで自由化制限すべきである事。

◇また、いわゆる「関税外障壁」に関しては、その国の文化や社会
構造に直結するものもあり、いきなり全てを国際機関に提訴決着さ
せる方法は乱暴すぎる事。

なお、米国内も相手国から可能な限り利益を吸い取ろうとする経済
界と中国を牽制したい国務・国防総省では思惑が異なり、後者に働
き掛ける事により譲歩は引き出せるはずである。

また、資産課税増税は、それが甚だしいものなら共産主義に近づき
、経済活動への意欲を阻害するので自ずと限度があろう。また、預
金に比べ現金残高の補足は技術的に難しく本物の「箪笥預金」が増
えるかもしれない。

消費税増税は、橋下氏のTwitter等によると一方で所得税の「消費額
控除参入」で消費を促進する模様だが、ブレーキを踏みながらアク
セルを吹かす事になるまいか。なお「消費額控除参入」は、スーパ
ーのレシートを一年分集めて確定申告せねばならず、これも技術的
には難しい。

●外交・防衛:◆日米同盟を基軸に、豪州も含めた3国同盟を強化
◆日本全体で沖縄の基地負担の軽減を図る◆領土を自力で守る防衛
力のあり方を検討

「3国同盟」の意図は、中国の拡張主義に対する備えに他ならない
。この趣旨を一歩進めてインドやロシア、韓国とも同盟乃至はそれ
に準ずる協定を結ぶべきである。

●憲法:◆首相公選制の導入◆参議院を廃止。代わりに主張が議員
を兼務できる、国と地方の協議の場の議院を設ける◆以上を実現す
るため、憲法改正に必要な衆参の賛同を3分の2から2分の1に

イスラエルに於ける首相公選制の導入は、中選挙区選出の議会で安
定与党を構成出来ず政府が立ち往生し失敗に終わり廃止となった。
この事からの教訓は、「意思決定の明確化・迅速化のための首相公
選制導入は小選挙区制の徹底、比例区の撤廃と合わせ技で行うべし
」である。

「国と地方の協議の場の議院」は首長兼務の国会議員によって構成
される模様だが、これでは国と地方の対立構造が強すぎる。強すぎ
る対立構造は、特に有事の時に危険である。当該議院と衆院の権限
バランスにもよるが、何らかの形で首長以外の者も入れて対立構造
を薄めるべきである。

以上、今後の「船中八策」の具体化・明確化と読者の「橋下ウォッ
チ」の参考になれば幸いである。
                    以上

佐藤

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