4214.ECBの量的緩和



とうとう、ECBもユーロの量的緩和を行い始めた。ECBは各国
国債の買い入れはしないが、銀行への3年という長期資金貸付を行
うことで、金融緩和をし始めた。

欧州の銀行も、銀行間取引金利が大きく、ほとんど資金調達が無理
であったことから、このECBの期間3年物オペの供給資金は、砂
漠で滋雨になっている。それも4890億ユーロ(約50兆円)と規模が
大きく、それだけ、欧州の銀行にとっては、息が付けたような雰囲
気である。

これを受け、主要銀行間取引金利が低下した。米日などの株価も上
昇した。ユーロ危機が去ったような印象を受ける。

しかし、ECBは銀行システムへの潤沢な資金供給で信用逼迫と与
信縮小を防ごうとしているだけである。

しかし、フランスのサルコジ大統領ら政治家から、銀行はECBか
ら低金利で借り入れた資金を南欧諸国の国債購入に充て、借り入れ
コストを押し下げることを期待する声もあるが、これには無理があ
る。

欧州の金融機関が、格下げが予想される国債を買うというと、買っ
た瞬間格下げで国債価格が下がるかもしれない国債をバランスシー
トに載せてる思う方がおかしい。それにBISから自己資本規制で
9%を守れと言われてる時でもある。

ということと、銀行の当面の資金繰りができただけであり、資本増
強などを行う必要がある。銀行が追加で国債を買わないので、国債
価格が下落して、損失が拡大する事態は変わらない。

また、今後もECBが金融緩和を継続的に行うかどうかは疑問であ
るし、政治的な限界がある。現時点はデフレ状態であるので、この
ような金融緩和ができるが、スタグフレーションになってしまうと
、ドイツが拒否することになる。

中国・新興国の成長が続くことになり、食糧や資源は、今後も上昇
することは確実である。それをどう見るか?

また、ギリシャの国家債務を半減する交渉を銀行やファンドを行っ
ているが、ファンドは半減を拒否している。このため、ギリシャも
いつ、国債デフォルトに移行するかという可能性もある。

さあ、どうなりますか?
まだまだ、ユーロ危機が去ったわけではない。

==============================
ユーロ圏の流動性が過去最高、ECB3年物オペで
2011年 12月 24日 05:11 JST

[フランクフルト/ロンドン 23日 ロイター] 23日の欧米
短期金融市場では、ユーロ圏金融市場の流動性水準が過去最高に達
した。

ロイターの算出によると、銀行が保有する流動性の規模は4830
億ユーロに増加。これまでの最高は、3度にわたるECBの1年物
資金供給オペを背景に2010年半ばにつけた3500億ユーロで
、これを更新した。

欧州中央銀行(ECB)が今週実施した期間3年物オペの供給資金
が銀行に払い込まれたことが背景。

ECBは21日、初の3年物流動性供給オペで4891億9100
万ユーロを供給。銀行は23日、供給資金を受け取った。

これを受け、主要銀行間取引金利が低下した。

3カ月物欧州銀行間取引金利(EURIBOR)は、1.404%
と、前日の1.410%から低下した。
==============================
欧州の銀行、ECB資金を「むさぼり食う」、市場凍結恐れ大量に調達

  12月21日(ブルームバーグ):欧州中央銀行(ECB)の初の
3年物資金供給で、域内銀行は貪欲に資金を調達した。市場の凍結
状態が続くことを恐れ、来年満期を迎える債務の額のほぼ3分の2
を手当てした。
  ECBの21日の発表によると、1134日物オペで域内の523金融機
関が計4890億ユーロ(約50兆円)を応札した。ブルームバーグ・ニ
ュースがまとめたエコノミスト調査では、中央値で2930億ユーロの
応札が予想されていた。ECBは全額を供給する。ゴールドマン・
サックス・グループのアナリストによれば、供給額は2012年中に満
期となる欧州の銀行債務の約63%に相当する。
  INGグループ(アムステルダム)のシニアエコノミスト、マ
ルティン・ファンフリート氏は「中銀資金への依存は不名誉という
概念はユーロ圏の銀行がECBのオペを多大に利用する妨げにはな
らなかった」と論評した。
  ECBは銀行システムへの潤沢な資金供給で信用逼迫と与信縮
小を防ごうとしている。フランスのサルコジ大統領ら政治家からは
、ECBから低金利で借り入れた資金を南欧諸国の国債購入に充て
、借り入れコストを押し下げることを期待する声もある。
  バークレイズは4890億ユーロのうち1930億ユーロが新たに金融
システムに注入される額で、2960億ユーロは満期を迎えた債務の借
り換え分になると概算している。
==============================
危険はらむECBの長期流動性供給オペ、日米欧とも薄商いの株高

 [東京 21日 ロイター] 欧州中央銀行(ECB)が21日
に実施する期間3年の長期流動性供給オペ(LTRO)はマーケッ
トに一定の安心感をもたらしているが、危険もはらんでいる。手元
の流動性増加に安どした銀行が国債購入を拡大すれば、国債価格が
下落したときのリスクもそれだけ増えるためだ。

 リスク回避ムードが後退し、世界的に株高となっているが、商い
は薄く盛り上がりには乏しい。ユーロもアジア時間に入りもみあい
の展開だ。

 <国債積み増せばそれだけリスクも増加>
 ECBは銀行の流動性支援を目的に12月の理事会で期間3年の
オペ導入を決定。その第1回目が21日に実施される。無制限・低
利の融資であり、市場での資金調達が困難になっているイタリアの
銀行などが応札に殺到するとみられている。ロイターが短期金融市
場関係者に対し実施した調査では、供給額の予想中央値は2500
億ユーロ(約25兆円)となっているが、市場では5500億ユー
ロにのぼるとの予想もある。

 手元流動性が増加した銀行は国債を積み増すのではないか──。
そうした「期待」が欧州国債の利回りを引き下げた。スペイン財務
省が20日に実施した3カ月物および6カ月物の国債入札は、平均
利回りが大幅に低下。アナリストは、銀行はECBがきょう実施す
る3年物資金供給オペでの調達資金による購入を予定している、と
指摘している。

 金融機関の不良債権処理が深刻化していた2001年に日銀は量
的緩和政策を導入。その後、総合デフレ対策などが打ち出されたこ
とで株価はいったん上昇に転じた。ECBがオペで間接的ながらも
国債の購入に踏み切ることで、一段の流動性が供給されるとの思惑
が生じやすい。「資産バブルが醸成されれば、先行きの不安心理が
和らぐ可能性がある」(国内証券)という。

 欧州国債の金利低下に加え11月の米住宅着工件数も堅調であり
、リスクオフムードが後退。米ダウ<.DJI>は337ドル高と急上昇
、前場の日経平均<.N225>も続伸している。「年末ラリー期待も復活
してきた」(外資系証券)との声も出てきた。
==============================
森野さん:ECBの限界?
「・・・欧州がなんとか切り抜けていくほどに、ますます銀行のECB
に対する要求は増大するだろう。ECBが・・・ユーロ圏の銀行に資金
提供する唯一の源泉になることができるとしても、それは政治上、
持続可能なのだろうか。ある点で、指導者たちは全民間部門の信頼
を欠く銀行がもはや成長する経済にファイナンスすることができな
いことを理解しはしないだろうか?その時点で、彼らは、ユーロが持
続可能ではなく、離脱の準備をするとの結論を下すであろう。そう
してECBの限界に達していることであろう。」

最後の貸手としてのECBの量的緩和には、政治的な限界があるのでは
ないかと疑問を呈する向きがある。ECBに限界があるとすれば、それ
はユーロ圏の政治的能力がそうしていよう。しかしそれを決めるの
もまたユーロ圏諸国の政治的意思なのだな。
==============================
ECBの資金供給オペは朗報?
2011年12月23日 11:07ジョン太郎

今日はこの話題。
21日のヨーロッパ市場で、ECBは史上初の3年物資金の入札を行いま
した。

1,134日物のオペですので応札した銀行は3年間の資金を得たことに
なります。応札した金融機関は523機関。2009年実施の1年物オペの
4,500億ユーロを上回る過去最大規模の4,892億ユーロが供給されま
した。同日に定例の14日物ドル資金入札でも330億円を供給、合わせ
て53兆円が供給されることになります。これを受けてユーロは一瞬
上昇しましたがその後腰折れ。イタリア国債やスペイン国債の価格
も上昇しましたが、その後腰折れ。

さて、このECBの資金供給オペ、金額を見るとかなりの規模です。欧
州の銀行の資金調達がかなり苦しくなっている中での大規模な資金
供給、果たしてこれは朗報なんでしょうか。以下、私の考えを。

まず、欧州の金融機関にとっては間違いなく朗報です。

欧州の金融機関以外にとっては、朗報かどうかはわかりません。私
にとっては別に朗報ではありません。今回の資金供給は「やらない
としょうがないもの」でしかなく、やらないといけないものをやっ
ただけで、やらなければシャレにならん道をどんどん進んでいくと
いうだけのことのように見えます。

欧州の銀行間取引はお互い疑心暗鬼状態でその規模はかなり縮小し
ています。あんなところいつ潰れるかわかんないから怖くて資金な
んか出せるか、とお互いに思っている状態です。当然Libor(銀行同
士が資金を融通し合う時に使う金利)が上昇します。で、上昇して
いました。そうすると手元の資金がキツイところが、資金を調達で
きなくなって破綻、というケースが当然ながら出てくるわけでそれ
が連鎖を呼ぶことになります。今回の資金供給はこれを防ぐのが一
番の目的だと思います。しかも供給された資金は3年物と足の長い資
金であり、銀行は大助かりです。欧州の銀行にとっては朗報以外の
何物でもないでしょう。

それ以外の人にとってはどうでしょうか。ブルームバーグのニュー
スによれば、フランスのサルコジ大統領はECBが長期オペを通じて1
%の超低金利で資金を供給していることに言及し「イタリア政府が
はるかに低い利回りで国債を購入するよう同国の銀行に求めること
が今後可能になるだろう。それを理解するのに金融の専門家は必要
ない」と発言しています。1%で調達した資金で自国の国債を買うの
に6%の利回りは必要ないだろう、4%とか3%でいいだろう、そうい
う利回りでイタリアの銀行のイタリア国債を買うことに期待してい
るわけです(現在、イタリアの10年国債利回りは6.9%)。

サルコジだけでなく、今回の資金供給による資金で欧州の金融機関
がユーロ圏の国債を買い支ることが期待できると見る向きは結構多
くて、そういう報道もいっぱいあるんじゃないかと思います。ECBが
銀行に資金供給→供給してもらった資金で銀行が国債買う→国債価
格上昇し利回り低下→ユーロ圏政府の調達金利低下→借金返済楽に
なる→バンザーイ、という話ですね。

無理っしょ。可能性はゼロじゃないだろうけど・・・欧州の金融機
関が今回供給された資金でユーロ圏の国債を買う可能性はあると思
いますよ。ゼロじゃないと思いますよ。

でもね、今の欧州の金融機関が、近いうちに格下げされることが予
想されている国債を買うのか、買った瞬間格下げされて価格が下が
るかもしれない国債を買うのか、買った後にずるずる値段が下がっ
ていくかもしれない国債をバランスシートに載せていいことがある
のか、自己資本規制でやいのやいの言われてる時に?という素朴な
疑問があります。ただでさえ、やれストレステストだの、やれ持っ
てる国債の明細を明かせだの、やれこのデータを開示しろだの、リ
スク量を報告しろだの、ずーっと言われまくっている銀行が、そう
いう国債を買うんでしょうか。わざわざユーロ圏国債の保有額増や
すの?不自然じゃない?

こないだ10月の包括合意でギリシャ向けの債権を50%カットしろっ
て強要されたばっかりなんですよ?
(その時の詳しい解説はこちら)
http://jovivi.seesaa.net/article/232600830.html
http://jovivi.seesaa.net/article/235954316.html

例えば、欧州圏の某銀行は今回のオペで110億ユーロを調達しました
が、この銀行の来年の社債償還額はちょうど110億ユーロです。調達
したお金でユーロ圏の国債を買うとはとても思えません。

今回供給された額は4,892億ユーロ、来年満期を迎えて乗り換えが必
要な欧州の銀行の債務は6,000億ユーロ以上と言われています。今回
供給された資金のうちユーロ圏の国債購入に充てられる資金はどの
くらいになるんでしょうか。私はかなり限定的だと考えています。

結局、ユーロの国債はECBが買うしかないんだと思いますよ。買った
ところで問題の根本的な解決にはなりませんし、永遠に買い続ける
ことはできないわけですが・・・でもECBが買うしかない。他に買う
人いないし。実際、ここんところののユーロ圏政府の必要調達額と
ECBの国債購入はほとんど同じくらいと言われてます。今回の資金供
給オペもECBの国債購入も、結局はユーロの価値や信頼を少しずつ削
っていくことになります。流動性をどんどん供給して、お金印刷し
まくって、というだけのことですからね。

資金供給オペを行う張本人であるECBのドラギ総裁はFTとのインタビ
ューで「資金の使途を決めるのは銀行自身だ」と発言したうえで「
銀行には実態経済、特に中小企業に資金を供給することを期待する
と」と言っています。国債を購入させるために資金供給するわけで
はないとECB総裁が言ってるわけです。ドラギ総裁はECBの本来の役
割・責務・法で定められた業務の範囲内でしか行動できないとハッ
キリ言っています。また、人々はその事実を受け入れる必要がある
とも言ってます。ECBの責務というのはユーロ圏の物価の安定です。

今回の資金供給で、ここんとこ上昇していたユーロLiborは低下しま
した。銀行にとっては大変ありがたい資金供給となりました。
でもキツイ銀行が市場から調達しないで済むようになった、という
だけの話で銀行同士の疑心暗鬼や不安を解消したわけではありませ
ん。ですからドルのLiborは上がっています。

ユーロは資金供給オペのニュースを受けて上がりましたが、その後
腰折れ。ユーロ圏の国債も上がりましたが、その後腰折れ。

私は今回供給された資金の多くが銀行の借り換え需要や手元資金調
達の目的に充てられ、ユーロ圏国債購入にまわる資金は限定的と見
ています。

今回のニュースも、頭痛薬を飲んだ、風邪薬を飲んだ、という対処
療法に過ぎず、病巣を取り除くには至っていません。構造的な問題
解決策はまだ見えていません。(構造的な問題って何よ?って方は
先ほどリンクしたこの記事(http://jovivi.seesaa.net/article/235954316.html
)の後半にある例え話をご参照ください。

以上、ECBによる史上初の3年物資金供給オペ、過去最大規模の資金
供給オペ、に対する私のコメントです。
しんどいクリスマスですなぁ。


コラム目次に戻る
トップページに戻る