4198.ユーロ崩壊の方向



ドイツのアンゲラ・メルケル首相とフランスのニコラ・サルコジ大
統領が、ユーロの方向を決めることができる。しかし、この2人の
会談の結果は、ユーロの将来を明るくしていない。

恒久的な救済基金である欧州安定化メカニズム(ESM)を、2013年6
月ではなく2012年6月に設置すること。

財政赤字の制限を守れなかった国は、自動的ではないとはいえ、制
裁を科される可能性が高くなる。加盟国の国内法に財政均衡を義務
づける条項を盛り込むこと。

「ユーロ債」(ソブリン債務の共同発行)を排除すること。

ECBの国債買取は、否定しなかったが肯定もしていないこと。

であるが、国際通貨基金(IMF)は、欧州債務危機の拡大阻止で、G20
がIMFに6000億ドル(約47兆円)前後の融資枠を確保する検討に入っ
たとの一部報道を、否定した。

このため、欧州には1914年8月の臭いが漂っている。同月に欧州の
首脳らは傲慢と国家主義、複雑に絡み合った同盟関係、先見性の欠
如によって第一次世界大戦へと滑り落ちていったような雰囲気で、
ドイツのメルケル首相に不満を感じるのと、彼女を説得できないサ
ルコジ大統領に失望感がある。

現時点でも、各国の返済能力を疑問視する投資家が国債利回りを押
し上げ、大陸欧州の銀行は保有ソブリン債で巨額の損失を抱えてい
るが、今後もその範囲を拡大してくることが間違えない。

このため、ポーランドのシコルスキ外相は講演で、「ポーランドの
外相でこんなことを言った人間はいまだかつてないと思うが、私は
ドイツの覇権よりもドイツの無為を恐れる」とした。

そして、米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)
がとうとう、再び政治プロセスに横やりを入れた。今回は欧州債務
危機の収拾を目指す欧州連合(EU)首脳会議を目前にしてユーロ
圏15カ国を格下げ方向で見直すと発表したのだ。

黙ってみていられないファンロンパイEU大統領が、ユーロ圏17
か国で共同発行する「ユーロ共通債」の導入検討を提案するという。

8〜9日にブリュッセルで開かれる欧州連合(EU)首脳会議はど
うなりますか、期待はできないが見ものである。
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EU大統領、ユーロ共通債導入提案へ…独仏反対[読売新聞]

 【ロンドン=中沢謙介】8〜9日にブリュッセルで開かれる欧州
連合(EU)首脳会議で、ファンロンパイEU大統領が、ユーロ圏
17か国で共同発行する「ユーロ共通債」の導入検討を提案するこ
とが7日、明らかになった。

 ロイター通信などが伝えた。

 ただし、ドイツのメルケル首相とフランスのサルコジ大統領は5
日の共同記者会見で共に否定的な姿勢を示しており、EU首脳会議
で本格的な議論になるかは不透明だ。

 共通債は、財政不安を抱える国でもユーロ圏全体の信用力を使っ
て財政資金を調達できる仕組み。欧州の財政・金融危機解決の切り
札との見方も多い。

 首脳会議ではまた、ファンロンパイEU大統領が、財政危機に陥
った国に対する恒久的な支援制度「欧州安定メカニズム(ESM)
」を、銀行の形で設立することも提案する。これにより、ESMは
欧州中央銀行(ECB)から資金供給を受けられ、支援能力の向上
が期待できる。

(2011年12月7日13時05分 読売新聞)
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「G20が融資枠」報道を否定=議論の事実ない―IMF
時事通信 12月8日(木)8時9分配信
 【ワシントン時事】国際通貨基金(IMF)の報道担当者は7日、欧
州債務危機の拡大阻止で、20カ国・地域(G20)がIMFに6000億ドル
(約47兆円)前後の融資枠を確保する検討に入ったとの一部報道に
ついて、「報道にあるような議論がIMFと行われたことはない」とし
て、否定する見解を示した。

 報道は、日米中などからの借り入れでIMFに融資枠を設定、欧州自
体の金融安全網である欧州金融安定化基金(EFSF)と合わせて実質
1兆ドル(約78兆円)を超える資金支援枠を確保するという内容。こ
れに関し、ロイター通信も、G20当局筋が報道は事実に反すると否定
していると報じた。
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ユーロ圏を救えなかったメルコジ
2011.12.08(木)FT
2人の頭脳は1人の頭脳に勝ると言われる。ドイツのアンゲラ・メル
ケル首相とフランスのニコラ・サルコジ大統領の会談の場合は、そ
うではなかった。

 会談の結論が、欧州中央銀行(ECB)が国債市場への介入強化を決
断する支援材料になるとすれば、多少の救いとなるかもしれない。
だが、両首脳はブルボン家のように、何も学ばず、何も忘れなかっ
たようだ。

 では、何が合意されたのか? 会談で下された決断には、以下の
内容が含まれているようだ。

EUサミット直前の独仏合意の中身

 ユーロ圏内の救済に関しては、自発的な債務再編の可能性は残る
ものの、民間の債券保有者に損失負担を強いることはしない。財政
赤字の制限を守れなかった国は、自動的ではないとはいえ、制裁を
科される可能性が高くなる。加盟国の国内法に財政均衡を義務づけ
る条項を盛り込む。

 恒久的な救済基金である欧州安定化メカニズム(ESM)を、2013年
6月ではなく2012年6月に設置する。危機時には、政策協調を監視す
るために欧州諸国の首脳が月1回会合を開く――。

 つまり、債務繰り延べにおける強制的な「民間部門の関与」が消
えたわけだ。これはECBを喜ばせるだろう。やはり消えたのは、財政
面で「罪を犯した者」に対する自動制裁と、欧州司法裁判所による
財政規則違反の評価だ。これはフランスを喜ばせるだろう。

 フランスはこのほか、新たな欧州連合(EU)条約の代わりに、ユ
ーロ圏諸国が政府間協定を結ぶ可能性があるという合意も取りつけ
た。ドイツも完全に手ぶらで帰ったわけではない。ドイツは今回の
会談でも、「ユーロ債」(ソブリン債務の共同発行)を排除するこ
とができた。だが、多くを手に入れたようには見えない。

 今回の合意に促され、ECBが国債市場への介入を強化する可能性は
あるだろうか? ECBのマリオ・ドラギ新総裁は先週、欧州議会で行
った演説で、国家財政に関して各国政府を拘束する合意は、金融市
場の「信頼を回復させ始めるために最も重要な要素だ」と語った。
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欧州が恐れるドイツ、覇権より怖い無為−燃え盛る家を前に改築設計図

12月5日(ブルームバーグ):11月24日は米国では感謝祭の祝日だ
ったが、欧州にとってはまたしても緊張でぴりぴりした木曜日だっ
た。欧州議会のあるフランスのストラスブールに、ドイツのメルケ
ル首相はいつになく遅れて到着し、フランスのサルコジ大統領とイ
タリアのモンティ首相を待たせた。待たせても心配はない。メルケ
ル首相はいわばハムレット役だ。同首相なしに記者会見が始まるこ
とはない。

  その前日、欧州債務危機はついにドイツに達していた。10年債
の入札が札割れになったのだ。その日の流通市場でドイツ10年国債
利回りは米国債を0.3ポイント上回る水準で終了した。ブルームバー
グ・ビジネス ウィーク誌12月5日号が報じる。

  メルケル首相が真実に向き合う瞬間かと思われた。ユーロの崩
壊を防げるのはドイツだけだ。ユーロ崩壊は金融危機と世界的リセ
ッション(景気後退)につながるだろう。1人の女性が、世界の運
命をその手に握っていると言っても言い過ぎではない状況だ。しか
し、フランス、中国、米国を含む世界の首脳らがいら立ち、戸惑い
、怒りを募らせるのを尻目に、メルケル首相は繰り返し行動を拒む。

  記者会見が始まって10分後、メルケル首相の発言の番が来ると
、市場と世界の政治家はドイツ語での首相の発言の中から今度こそ
、ユーロ共同債や欧州中央銀行(ECB)による無制限の債券購入
を支持するシグナルを聞き取ろうと息を殺して耳をそばだてた。

  ところが、メルケル首相は1ミリたりとも譲らない。ドイツの
納税者にギリシャやイタリアの債務を共同で背負わせるユーロ共同
債は「必要でもなく適切でもない」と首相は言明。高債務国に財政
再建を強いる条約改正の手続き迅速化を重ねて呼びかけた。さらに
、危機対応においてECBの役割拡大を迫らないとサルコジ大統領
に約束させ、外交上の勝ち星まで挙げた。

  メルケル首相にとって快挙だ。しかし、ドイツの政策当局以外
からはうめき声が上がった。欧州外交評議会(ECFR)の上級研
究員、セバスチャン・ダリアン氏は「ユーロ崩壊かユーロ共同債か
のどちらかへ一歩近づいただけだ」と述べた。

  ギリシャから始まった危機は欧州の中核国に及び、政府の緊縮
財政策で税収は低下。各国の返済能力を疑問視する投資家が国債利
回りを押し上げ、大陸欧州の銀行は保有ソブリン債で巨額の損失を
抱えた。

  危険を知らせる信号の一つは、欧州の銀行のドル建て資金調達
コストが2008年以来の高水準に達したことだ。米連邦準備制度理事
会(FRB)は11月30日に、ECBおよび他の4中銀に供給するド
ル資金の金利を引き下げた。各中銀はドル資金を管轄域内の銀行に
貸し付ける。債券ファンド大手、米パシフィック・インベストメン
ト・マネジメント(PIMCO)のモハメド・エラリアン最高経営
責任者(CEO)はブルームバーグテレビジョンとのインタビュー
で、中央銀行は「銀行システムの機能に何か不安があるのだろう」
と述べた。

  欧州には1914年8月の臭いが漂っている。同月に欧州の首脳ら
は傲慢と国家主義、複雑に絡み合った同盟関係、先見性の欠如によ
って第一次世界大戦へと滑り落ちていった。

  世界はメルケル首相が金融大災害の一歩手前で折れると想定し
ているが、その保証はない。メルケル首相は条約変更を呼び掛けた
時、「ユーロ圏の建築の弱さ」を修正する必要があると語った。同
首相は自らを、燃えている家の火を消す消防士ではなく、改築を手
掛ける建築家とみている。しかし、メルケル首相が完璧な設計図を
引き終わるころ、改築予定の建物は既に焼け落ちているかもしれない。

  ドイツ人はユーロを、ドイツ・マルクの子孫で跡継ぎだと考え
ている。1948年に誕生したドイツ・マルクは敗戦後のドイツ人が誇
れる数少ない存在の1つだった。そのマルクが1999年にユーロに縛
り付けられ、2002年に完全に姿を消したとき、多くのドイツ人は断
腸の思いだった。今、ユーロ反対派は声を大にしてその不当さを訴
える。世界が紙幣増刷をECBに迫るなかで、ドイツ連邦銀行は
ECBでギリシャと同じ1票の議決権しか持たない。ドイツ人が南
欧諸国の放逸と見なすものへの憤まんが、ドイツ首相の手を縛る。

  しかし問題は、欧州には熟考している時間がないことだ、銀行
破綻やソブリンデフォルト(債務不履行)は数カ月後ではなく数週
間後に迫っている。ポーランドのシコルスキ外相は11月28日、ベル
リンでの講演で、「ポーランドの外相でこんなことを言った人間は
いまだかつてないと思うが、私はドイツの覇権よりもドイツの無為
を恐れる」と懸念を示した。   
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S&Pが再び政治に横やり、ユーロ圏15カ国を格下げ方向で見直し

12月6日(ブルームバーグ):米格付け会社スタンダード・アンド
・プアーズ(S&P)が再び政治プロセスに横やりを入れた。同社
は8月、米財政赤字をめぐる政治の行き詰まりを受けて米国を格下
げし、資産家ウォーレン・バフェット氏から非難された経緯がある
が、今回は欧州債務危機の収拾を目指す欧州連合(EU)首脳会議
を目前にしてユーロ圏15カ国を格下げ方向で見直すと発表した。

  S&Pは5日、域内債務危機への対処方法をめぐり各国当局者
の意見が引き続き一致していないため金融の安定に悪影響が及ぶリ
スクがあるとして、ドイツとフランスを含む15カ国の格付けを「ク
レジットウオッチネガティブ」に指定した。同社は、4カ月前には
米国の格付けを「AA+」に引き下げており、1兆ドルを超す財政
赤字の削減方法をめぐる協議が難航し米国の信用の質が損なわれた
と指摘していた。

  S&Pが今月8−9日のブリュッセルでのEU首脳会議を間近
に控えたタイミングで動いたことをめぐって、債券保有者から疑問
の声が上がった。同社の動きに先立ってメルケル独首相とサルコジ
仏大統領は同日、経済協力を強化する方向でのEU条約変更を求め
る計画を提示していた。
  LPLフィナシャル(サンディエゴ)の市場ストラテジスト、
アンソニー・バレリ氏は5日の電話インタビューで、「S&Pは引
っ込んでいるべきだ」と述べ、「債務問題の解決を目指すEU首脳
の仕事を複雑にさせる」と指摘した。
 

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