現代という芸術アラカワ 記憶は鏡像として夜つくられる From: tokumaru 皆様、 現代という芸術アラカワをお届けします。 http://www.milestone-art.com/MILESTONES/issue129/htm/p17tokumaru.html 現代という芸術 アラカワ No.11 記憶は鏡像として夜つくられる 言語学や心理学など人間の認知にかかわる科学は、記憶という一 番大切な問題を避けている。難しいから避けているのだろうが、あ まりにみんなが避けているから、まるでタブーのようになっている。 その結果、いくら研究しても、誰も答えにたどりつけない。 意味とは記憶である。記憶を語らずして、意味のメカニズムは明 らかにならない。 ヒトだけでない。鳥や獣も昆虫も、生きものはみんな記憶をもっ ている。ひとつは、DNAが伝える生命の記憶、もうひとつは経験によ って獲得する学習の記憶。おそらくこれも脳内でDNAの二重らせん構 造として記憶されているのだろう。 そして、何かを見たとき、何かを聞いたとき、記憶を参照して、 向かうか、逃げるか、無視するかを判断する。記憶は、再認のため の受動的な装置である。現前の顔や姿は、記憶に参照されて、それ が記憶にあると所定の行動のスイッチが入る。 意味のメカニズムの14は、「意味の記憶の構築」と題されていて 、「記憶の研究:記憶のはたらき、記憶の範囲、意味が実現すると きの記憶の役割、記憶が記憶自体(そのはたらき)を思い出せる全体 状況の構築をめざす」とある。 男が鏡に向かってカメラを向けている。その写真の上には、白い 手書きの鏡文字で母への手紙が書いてあり、下の余白には「夜」と ひと言。 記憶は、鏡像や鏡文字になっていて、それは寝ている間につくら れるのだ。 どうして鏡文字なのだろう。細胞の核内でDNAがメッセンジャーRNA に転写されるとき、アデニン(A)はウラシル(U)に、グアニン(G)はシ トシン(C)と反転する。それが核膜を通過すると、細胞質内のリボソ ームにアンチコドン構造をもつトランスファーRNAが待ち受けていて 、ふたたび反転する仕組みになっている。 われわれの記憶も、同じように反転、再反転して、記銘、再生、 再認が行なわれているのではないか。記憶にもとづく再認(パターン 認識)のメカニズムと、再認のための記憶の構築メカニズムについて 、このあと、アラカワはいくつもの投射や分解の図で示す。脳とい う生体コンピュータが、われわれの記憶を整理して保存し、使える ようにする作業である。