4063.クラス0戦略・号外「円高問題と日本経済の凋落」



クラス0戦略・号外「円高問題と日本経済の凋落」 

最近の円高傾向に歯止めがかからない。(7/29現在、77円/
ドル、110円/ユーロ) 
日本は財政状況がアメリカより悪いにも関わらず、なぜこんなに円
が人気があるのだろうか。 
3・11東北大震災の直後で、日本が危機的状況だと言うのに、円
が買われて急激な円高となった件を考えると、日本政府が財政破綻
しても、円高傾向は変わらないのではないか。 
そんな心配が現実味を帯びて来る。 

たまたまロイターのサイトで為替アナリストのコラムを読んだら、
「どんな円高も時間があれば企業努力で克服出来る」とも受け取れ
る発言が目に止まった。 
ちょっと待てよ。モノには限度というものがある。 

長年製造メーカーにいた経験から言わせて戴ければ、この20年間
にどれだけ工場を海外移転し、結果的に信じられない安さのハイテ
ク製品が逆輸入され、売り上げは先細り、借金ばかりが膨らむ。 
海外移転しない下請け会社は次々と廃業・倒産する。 
正社員が削減されて人件費の安い派遣社員に置き換えられ、国内の
工場は次々と閉鎖し、国内に残った正規雇用は技術開発と営業だけ
となっている。 

高卒の職場は失われ、猫も杓子も大学に行くようになり、使い物に
ならない大卒者(不景気で単に就職くじ運の悪い大卒者も含む)が
就職出来ずにスーパーやコンビニでアルバイトをしながら親元で生
活している。 
親の年金があるうちはいいが、親の介護が必要になり、アルバイト
も出来なくなると・・その先は、良く聞く悲劇が待っている。 

残念ながら、これが円高に対する「企業努力」の実態であり、貧困
・失業などの社会不安の元凶となっている。 

日本経済失速の原因は、円高だけではない。 
安い労働力(+安い通貨)を抱える中国など、世界との競争の中で
、日本の産業そのものの空洞化が進んでいる。 
そもそも、まともに太刀打ちできない状況の中での円高(円だけ高
)である。 
人員ベースで見れば、大手の工場の9割が既に海外移転済みであり
、中小の下請け企業に至っては、残っているのが半分。それも多く
が売り上げが半分以下となれば、既に大幅な人員カットや出勤調整
を行って何とか持ち堪えている状況である。 

トヨタが(国内販売分を)国内生産にこだわっていたのは、自社の
利益よりも、国家・国民を思ってのことであるが、そのトヨタの社
長をも「限界を越えた」と言わしめた。 

バブル期(1990年)の為替相場は、ドルが150円、ユーロが
180円の水準である。現在は80円・110円であるから、2倍
近い円高水準にある。 
商品の品質が同じなら、10%安い方に顧客が流れ、高い方はいず
れ沙汰される。 
例え10%でも企業努力を怠れば、厳しい審判を受けるのが競争社
会の現実である。国際競争と言えども同じである。 

企業努力で何とかなるのは、(どんなに物作りに秀でた民族でも)
30%まで。 
トヨタの社長が言う通り、明らかに「限界を越えている」。 
その結果は、100円ショップの品揃えを見れば良く判る。 

こんなものまで100円で売れるのかとびっくりする事が多々ある
。国内で作れば300円で売る商品を、50円で輸入して100円
で売るのだから、本来300円分の仕事があるはずが、50円分の
流通だけの仕事しか無くなるのである。これで景気が良くなる訳が
ない。 

たまに「Made in Japan」を見つけると嬉しくなるが、それも包装ま
で人手のかからない自動機で作られた商品がほとんどである。これ
だけで国内の雇用が維持出来るはずもない。 

かつて莫大な貿易黒字を叩き出して来た国内の製造業は、既に虫の
息なのである。 
2007年頃からは貿易収支は既に赤字転落となり、2009年か
らの更なる円高で止めを刺されたと言ってもいい状況にある。 

日本経済失速の最大の原因は、政府の無策による。 
円高を放置し、産業の保護を怠り(業界自体の責任も大きい)、少
子化問題を放置し、労働法整備を怠って所得格差を野放しにした。
将来あるべき若者に一生最低賃金のまま働かせ、親の介護と共に一
生を終えさせていいはずはない。 

このまま無策のまま、日本経済が自力で復活する可能性があるとす
れば、中国などの周辺諸国の平均所得が日本人を上回った時である。 
欲深い中国人の経営者が、手先の器用な日本人を工場でこき使う。 
50年後か、100年後か、想像したくはないが。 
そんな苦渋の時代を経てから更に50年か100年経ってからの復
活となるだろう。 
日本人よ、それでいいのか。 

話を為替相場に戻そう。 

東北大震災での復興予算が19兆円(5年間の合計分)とされてい
るが、今後10年の間に50?70%の確率で起こるであろう東南海
沖地震では、200兆円規模の被害が見込まれる。 
対して、円高による経済的損失は、円高が急激に進んだ2008年
以後だけで見れば、年間70兆円前後の輸出額に対してその30%
が損失とすれば、3年間で60兆円となる。 

円高で輸入が安くなるメリットはあるが、ハイテク商品の価格に占
める輸入原材料の価格は数%以下であり、ほとんど無視出来る範囲
である。円高は国内産業や雇用へのダメージが大きく、デフレを加
速している。実質的なメリットはその半分も無いと言える。 
少なく見積もっても、現在の円高は差し引き年間10兆円の経済的
損失がある。 
2年に1回東北大震災が起こるのと同じ、20年に1回東南海沖地
震が起こるのと同じである。 
地震対策よりも円高対策に知恵を出すべきなのは明らかである。 

『大田区では、89年に1万5000社あった町工場が2010年
には4000社にまで減少、20年間に7000社が廃業し、多数
の技術者や工場長が職を失った。』 
(日経産業新聞のHPより) 

2010年はまだ1ドル90円である。 
今は80円を割り込み、この状況が長期化する恐れもある。 
大田区の町工場4000社が生き残るには、最低でも90円(去年
の水準)に戻さなければならない。 
町工場がかつての活気を取り戻すには、1ドル120円以上をしば
らく維持して、国内での受注が再び増えるのを我慢強く待つしかない。 
対ドルだけでは済まない。他の全ての通貨に対して、同じ比率
(120/80=1.5倍)まで下げなければならないのである。 

どうやって円安に誘導するのか。 
それは、「なぜ円高が止まらないのか」を考える事である。 

「円は安全である」 

そう思われているからに他ならない。 
これを、 

「円は危ない」 

と思わせればいいのだが。 
日本国債が危ないのは疑いようの無い事実であるが、これが「=円
が危ない」とは単純には結び付かない。 

「日本には金(カネ)がある」 

そう思われている限りは、円高は収まりそうも無い。 
実際、国民総預金は1000兆円を越える。 
国と地方の債務残高も1000兆円を越え、負債が預金を越えるの
はもはや時間の問題である。 
国債は、買い手がいないと発行出来ない。 
買い手は、元手が無いと国債は買えない。 
元手とは、基本的に預金の事である。 
株や証券などの金融商品を担保に元手とする事も出来るが、それで
万一国債が暴落した時は、株や証券も一緒に暴落する事になるため
、経済に致命的打撃を与え、好ましくない。 
原則として、今ある(国民の)預金以上の国債は発行出来ないと見
るべきだろう。 
外資も50兆円程度であはるが、日本国債を買っている。 
たかが10%ではあるが、その50兆円がいきなり投げ売りされ、
国内にそれを全て引き受ける金融機関が無ければ、その時点でデフ
ォルト(財政破綻)という事になる。 

『後世に莫大な借金を残す』とは良く言われるが、政府は今生きて
いる国民に対して借金をしているのである。 
財政破綻すれば、国民の預金が紙屑となるだけで、少なくとも後世
に借金が残ることはない。(年金の削減を始め、行政サービスが大
幅に低下することは間違い無いが) 

『銀行預金は1000万円まで法律で保護されているから安全だ。』 

それは、政府が保証してくれるからに他ならない。 
保証人が破産した場合は・・・もちろん対象外なのである。 

『あなたの1000万円は、100年後に償還の日本国債となりま
した。』 

そんな通知が送られて来る。 
それを債券市場で売ったら、10万円にしかならないかも知れない。 

現在、市中にある現金(1万円札)は、せいぜい100兆円(国民
一人当り100万円)くらいである。 
これは、日本人が好きな箪笥預金による所が大きい。(利息0では
仕方ない) 
普通の先進国では、一人10〜20万円くらいである。 
金融機関はその日に必要な分しか現金を持っていないので、預金者
一人当り10万円がせいぜいである。余った分は、日銀に預金して
いる。 
日銀もある程度現金を持っているが、銀行の合計と大差無い程度だ
ろう。 
デフォルトになってから物理的に引き出せるのは、一人平均10万
円か、せいぜい20万円という事になる。1%の国民が1000万
円引き出した時点で、銀行から現金が消えてしまうのである。 
政府が預金封鎖するまでもなく、一瞬で金融システムが破綻してし
まう事になる。 

国債を買っているのは、銀行や個人だけではない。日銀も銀行から
の預入金を運用する形で買っている。要するに、国民の預金が好む
か好まざるかに関係無く次々に国債に化けているのである。だから
こそ、これだけ借金が増えたのでる。 

この事実が理解出来れば、上の「通知」が現実的なものである事が
理解出来るだろう。 

『現玉を刷る』(刷った現玉で国債を償還/発行する) 

金融政策としては禁じ手であり、IMFから確実に警告を受けるが
、確実な円高対策の一つである。中学校の日本史で習った、江戸時
代の「悪貨は良貨を駆逐する」という格言と同じである。実際に国
債の投げ売りが始まったら、やらざるを得ないだろう。 

アメリカは、毎年抱える巨額の貿易赤字の分だけ、実質的に「ドル
現玉を刷ってきた」のと同じである。(実際のドル紙幣は円紙幣と
同じくらいしか出回っていない) 
中国・日本だけではない、世界中にドルがだぶついている状況にある。 
その結果としての「ドル安」とも言えるだろう。 

先進国各々の経済状況によらず、50年後には新興国との所得格差
も小さくなり、「人口=国力」となる。 
円高・少子化無策を放置すれば、50年後には日本の人口は半分に
なり、製造業が崩壊した結果、経済力はインドどころか、インドネ
シアの半分にも満たない。 
人口政策を誤ったツケは、100年後にも影を残す。 

『日本経済凋落の具体的シナリオを日本政府自らが示す。』 

もちろんそれは「最悪のケース」という事ではあるが。 
それ意外には無いだろう。 

一応、個人的見解としておきますが。 
アメリカも財政事情は厳しいが、アメリカは持ち堪えるだろう。 
日本は、残念ながらデフォルトは避けられない。 
リーマンショックの10倍の経済危機が世界を揺るがす。 
しかし、そのダメージのほとんどは、日本国内で吸収される。 
まるで日本だけが大津波を受けたように、世界から大きく後れを取る。 
ギリシャではなく、既に財政破綻したアルゼンチンの現実を見るべ
きだろう。 
アルゼンチンと違うのは、円が暴落するとは限らないことだ。 

財政破綻した結果、1000兆円を越えるジャパンマネーが一瞬に
して消える訳であるが、それでも残り少ない円の現玉に買いが集中
すれば、円高は避けられないかも知れない。 
それは確実に復興の妨げになる。 

「どうせ財政破綻して円安になるのだから、それまで円高を放置し
ていい」などと思ってはいけないのだ。 
一度失われた物作りの技術は、そう簡単には取り戻せない。 
ましてや、その珠玉の技術が日本企業の退職者を通じて次々に海外
に流出している事実を重く受け止めなければならない。 
日本の製造業が衰退すれば、外貨を稼ぐ手段が無くなり、ジャパン
マネーそのものも消えて無くなるのである。 

以上、まとまりのない内容になって恐縮ですが、今すぐに日本の政
治家に伝えて置きたい事を書かせて戴きました。 
少ないながらも、なるべく数値による比較を行い、定量的に判断出
来るよう努めたつもりです。 
今、日本が抱える最大の危機が「円高」であり、次に「少子化」(
説明不足ながら)があることを理解して戴ければ幸いです。 
(東北震災・原発・電力不足は、ずっと下の方なのですよ。) 

勘助 


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