3983.音節デジタル方式のネットワークシステム



言語の起源については、さまざまな本がすでに出ています。

それらについて、簡単に論評しておきますと、「音節デジタル方式
のネットワークシステム」ということを踏まえていませんから、以
下の点で説明が不足していることが多いようです。

1 「いつ・どこで・どうやって言語が生まれたか」に欠けている
ものが多い。

・母音がいつ生まれたか。
・母音を発声するための特殊な喉のメカニズム(喉頭降下)。
・どうして南アフリカにだけクリックがあるのか。
 これらについても説明出来ていません。

2 ヒトの語彙数が3〜4桁もけた違いに多いことの説明がない。

・音節による順列ということです。

3 ヒト以外の動物とヒトのどこが同じでどこが違うかを説明して
いない。

・アナログ通信の部分はヒトもヒト以外の動物も同じです。

4 文法とは何かを説明していない。

・なぜ一度だけの発声できちんと聞き取れるのか。
・デジタルでないと文法は生まれません。
・チョムスキーみたいに、「人間の知的能力の範囲外」であり,
「神の介在なしにはあり得ない」という結論に導かれてしまいます。

5 動物も身振りをしますし、ミツバチもダンスをしますが、なぜ
言語を獲得しなかったかの説明がない。

・ したがって言語とは何かを説明できない。

6 概念と概念体系、概念操作について論じていない。

・ 通信の物理学ではなく、情報の論理学(記号論理学)の分野に
  立ち入っていない。
・ 抽象概念とは何か。科学的概念とは何かを論じていない。

7 内言(発声器官運動制御の神経パルスが、発声を伴わないで脳
内でフィードバックしている)について論じていない。

と、ざっと考えてみました。

いかがでしょうか。

これらのひとつにでも誠実かつ科学的に回答している論があるでし
ょうか。

得丸
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得丸さん、皆様

得丸さんのいくつかの指摘の中で、これからの研究課題となりそう
な点をコメントしてみました。

1.ネットワークシステムについては、フリースケール・ネットワー
クシステムの思考が有用であると思います。最近複雑系の分野で注
目されているネットワークで人間社会、生物集団、生命体など広い
意味で「生きているもの」に関連した複雑なネットワークシステム
です。既にいくつかの参考書が出ているようですが、未だ読んでい
ません。
従来の静的な釣鐘型のランダムウォークとは違うネットワークを構
成するものです。

一例であるバラバシ・アルバートのモデルを概略すると、”ネット
ワークの成長は、既存のネットワークに新しい頂点が一つずつ参加
し、それらが既存の頂点のいくつかとリンクを作るという形で進行
すると考える。このとき、書く新参者によって作られる新しいリン
クの数は、例えば2本という決まった値に固定しておく。その2本
がつながる先が既存の頂点の中からどのように選ぶかをみると、ま
ったくランダムに二つの頂点を選ぶのではなく、優先的選択という
ルールを課すネットワーク・モデルとなるもの”です。
自然現象の事例では、コロイド粒子の凝集や電気分解による金属の
析出に見られるような現象があります。
”一つの種粒子からはじまり、遠方からランダム・ウオークによっ
て近づいてきた別の粒子がたまたまこれに付着する。次にもう一つ
の粒子が遠方からランダム・ウオークで近づいてきて付着する過程
を繰り返しながら、凝集体が成長していくプロセス”のモデルです。

凝集して大きなクラスター(塊)に成長するプロセスは、動的な言
語のネットワークについても適用できると思います。例えば、単語
がいくつからある中で”ある”とか”作る”とかいうよく使用する
単語は他の単語とくっつきやすく”形づくる”とか”身づくろいす
る。”など(もっと良い事例あると思います)大きな塊となりやす
い単語があり、「叩く」とか「報いる」などのような単語では、余
り熟語になるような大きな塊が出来にくい単語であり、同じ長さの
音節からなる単語も一律ではない。
また、”愛犬が走る”、”マラソンランナーが走る”、”新幹線が
走る”など”走る”主体はさまざまであるが、さまざまな実体が一
つの述語として不変性をもってお互いにつながっている。モノ的に
はまったく異質のものを急接近させる構造に酷似している。


このネットワークとは少し異なるが単語の頻出度については、ジッ
プの法則があって、”文学作品などに表れる単語の出現頻度を、頻
度の高いものから順に並べると逆ベキ法則に従う”という”ゆらぎ”
の現象があります。
逆べき乗とは、2乗則でいえば、1/2, 1/4, 1/8,1/16,1/32,1/64,
1/128と急速に低下する傾向である。3乗、4乗になるともっと激し
い低下となります。本の中で使われている単語は意外と限定されて
いることを示します。

必然的に文章で良く使われる単語は限られている。外国語を学習す
る時に必須1000語とか3000語とかいう分類ができるのも単
語が一様でないからである。
音節についても同じようなことが考えられる。日本語の51字や英
語の音、アルファベット文字も辞書を引くと良く使われる字と少な
い字に分かれる。アルファベットの隣の文字の頻出度のある傾向の
もとで異なっている。

これらの現象は、アナログからデジタルの言語に進化したときに出
来た言語のネットワーク・システムの作り方のヒントになるかもし
れないと思いました。

2.内言について
言語の再帰処理能力が関係しています。人間は4歳ごろから再帰の
概念を理解し、繰り返し使うようになるとの説があります。
「彼女が彼と喋っていたのを私が見ていたことを彼女が知っていた
か私は疑っている。」という文の理解は、いつごろからなぜ理解で
きたのでしょうか?

他者への心を理解したり、他者の視点に立って世界を見る能力です
。言語が精神的状態、感情表現の共有、協力関係を進めるための手
段だった証拠であり、心の誕生の現象であると思います。

この再帰現象の構造については、関係詞の使い方と共に花弁のよう
なフラクタルの構造が類似していて有用とおもいます。”心の起源
としくみ”に関係するかもしれません。これからの研究課題と思い
ます。
記号論理学では、如何に扱っているのでしょう。「パイコネ理論」
や量子力学の「繰りこみ理論」のようなものになってしまうとより
難解になりますね。

小川
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フリースケールネットワークについてのご助言ありがとうございま
す。調べてみます。

私が「ネットワーク」という言葉で指し示そうとしているのは、今
、職場や学校や自宅でも一般化してきた「コンピュータ・ネットワ
ーク」とまったく同じメカニズムです。

つまり、ネットワーク物理層によって一信号の誤りもない通信が確
立し、それを前提としてネットワーク論理層で論理処理が行なわれ
るという仕組みです。

この物理層・論理層という呼び方は、それほど一般的ではありませ
んが、OSI参照モデルの物理層・データリンク層・ネットワーク層ま
でを物理層(通信層)として考え、そこから上のトランスポート層
、セッション層、表現層、アプリケーション層では記号論理学にも
とづいた論理処理が行なわれていると思うのです。

ヒトの概念や概念体系・概念操作についての論理層の研究はあまり
行なわれていないので、自分なりに考えたところをお話しもうしあ
げます。

得丸


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