3866.好適環境水やウナギの完全養殖



1.好適環境水
海水魚も淡水魚も成育できる不思議な水が好適環境水である。

海水魚と淡水魚の大きな違いは、浸透圧の調整機能である。魚の体
液は海水魚も淡水魚もほぼ同じだ。そのため、通常でも淡水魚は体
液よりも薄い淡水が体内に入り込み、海水魚は体液が体の外へ逃げ
出す。これを防ぐため、淡水魚は水を飲まないようにして、尿の形
で水分を体外へ排出している。逆に海水魚は水をどんどん取り入れ
、えらから塩分を排出す。好適環境水は魚の浸透圧調整に深くかか
わるK,Naなどの成分と濃度を特定。わずかな濃度の電解質を淡水に
加えることで好適環境水を生みだしたのだ。

この好適環境水は、岡山理科大学の山本俊政アクアリウム学科長ら
が開発した。

メリットは、まず第一に製造が低コストで可能という点が挙げらる。
またその他様々なメリットがあり、水資源のみで海水魚の養殖が可
能(山村が漁村に変わる!山間部における産業の創出)、受精卵か
ら出荷まで海水の必要性がない、海水と比較し成長が早い、魚病の
リスクが低く魚病薬に頼らない有機栽培が可能、魚種による適合性
が広い、微小プランクトンの培養が可能、 天候に左右されず計画出
荷が可能、などが挙げらる。

ということで、山村でも漁業ができるようになったことである。
事実、山の中でトラフグ・ヒラメ・タイを育て上げることに成功し
、出荷を実現した。

2.ウナギの完全養殖
そして、ウナギの完全養殖にも成功したという。2010年4月に
独立行政法人水産総合研究センターがこのほどウナギの「完全養殖
」に成功したという。「生態を解明したらノーベル賞もの」と言わ
れるだけあって、研究者たちが苦闘の末、50年以上かかってたど
り着いた世界初の“偉業”。これで大量生産、安く食べられる時代
がくる? 

 水産総合センター養殖研究所(三重県)の飼育現場は、青暗い照
明に包まれている。「完全養殖」で誕生したウナギの仔魚(しぎょ
)は約8ミリほど。25センチのボールに約200匹ずつ入れられ
ており、強い光を浴びると死んでしまうというぐらいデリケートだ。

 天然ウナギを一切使わず、人工授精から育てた親ウナギから卵と
精子を採り、2代目をつくるサイクルを循環させる「完全養殖」。
成功までには多くのハードルがあった。

 人工授精の研究が始まったのは約50年前の1960年代。天然
ウナギからの人工授精とふ化までは比較的順調に進んだが、深海で
生まれる仔魚が何を食べているか全く分からなかった。遠洋から採
取した仔魚の消化管の内容物をDNA鑑定しても分からず、ふ化し
ては餓死する状態が約30年続いた。

 90年ごろから研究を始めた同研究所繁殖研究グループの田中秀
樹グループ長(52)は「ありとあらゆる餌を試しました。天然プ
ランクトン、配合飼料、魚、エビ、カニ、クラゲ、エイのひれ、ゆ
で卵の黄身…。少しでも粒が大きいとのどを詰まらせ呼吸が止まる。
永遠に分からないムダな努力をしているのではと言われて、一時は
不整脈が出た」と振り返る。

 96年、サメの卵を主成分とした餌に仔魚が食いつき、餓死する
ことはなくなった。しかし、次は水質管理との戦いだった。餌の食
べ残しが水槽内に少しでもあると水が腐り、仔魚は死んだ。ろ過器
や排水器を導入すると、仔魚は排水に吸い込まれた。

 水温や水流、塩分濃度の管理方法などの研究を重ね、ボール型水
槽で水を循環させながら飼う方法を見つけるまでに2年の歳月を費
やした。四角い水槽だと食べ残しの餌が水槽の隅に残ったが、ボー
ル型だと残らず、水の循環もうまくいった。

 仔魚には1日5回、午前9時から2時間おきに、研究者が餌を与
えている。餌を与える15分間だけボールの水の流れを止め、5回
目の餌を与えたところで、毎日新しい水槽に引っ越しさせる。

 自然界のウナギでも成魚となるのは、数十万個の卵からわずか2
匹程度とされる。養殖下でも仔魚の段階で細菌に感染したり環境に
適応できない個体は死んでいく。約600匹弱の仔魚のうち、シラ
スウナギにまで成長するのは1匹いるかどうか。

コスト面の問題もある。養殖池で育てられたシラスウナギはほぼ
100%がオスになる。ストレスの影響ともされ、天然のウナギは
回遊してくる中でメスになるが、人工で育てるとホルモン処理をし
ないとメスはできない。よって「完全養殖」のサイクルを継続させ
るためにはホルモン処理が不可欠。人体と鮭(さけ)由来のホルモ
ンを使用するので食の安全性に問題はないがコストがかかる。

加えて、ふ化からシラスウナギになるまで約半年、成魚になるまで
に最短でも2年、個体によってはさらに数年かかることもコスト増
につながる。

「完全養殖」が流通ベースに乗るまでにはまだ時間がかかりそうだ
が、そもそも同研究所が目指すのは成魚ではなくシラスウナギの供
給。天然のシラスウナギの捕獲量は年々減っており、特に今年は不
漁。例年の1〜2割の漁獲高の地域もある。同研究所は養殖業者へ
の種苗供給の安定化、資源保護の観点から、シラスウナギの大量生
産を10年以内に成功させたい、としている。

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