近畿大学水産研究所で完全養殖マグロはできた。完全養 殖とは、養殖施設内で人工孵化(ふか)した親から生ま れたマグロのこと。これに対し、天然の幼魚を捕らえて きて生け簀(いけす)で育てたマグロを「畜養マグロ」 と呼ぶ。稚魚を天然から獲るばかりだと、資源は減る一 方。そこで、畜養ものから卵をとって再生産に結び付け ようと考えて実現したのが、完全養殖マグロだ。 この完全養殖を1970年に研究着手して、実に32年とい う長い研究で、2002年6月に成功した。実現に32年もの歳 月を要したのは、クロマグロがデリケートな魚であり、 かつ、生態もよく知られていなかったためだ。実現の鍵 は、クロマグロを徹底して観察したことにある。 稚魚は特に皮膚が弱く、手でつかんだだけで死んでしま い、繊細で、車のヘッドライトや船のエンジン音、水の 濁りですぐパニックに陥り、イケスの網に衝突する。 タイやハマチは平気なのにである。しかし生物には適応 性があると信じてマグロの完全養殖して、2002年6月に成 功した。ニュースは、関係者を驚かせた。これは画期的 な成果であり養殖研究における中核をなす技術となった ことから、以後の継続研究が文部科学省の21世紀COEプロ グラムに採択された。 養殖事業は、大変リスクの高い事業であり、ある一定の 規模を確保すると同時に、技術的課題をクリアにしない と収益が上がる構造にならないから研究への補助金がつ いたようだ。また、将来を見越して、マルハニチロなど 水産大手の企業が参入して、近大の養殖方式で生産を開 始した。 クロマグロ漁業規制が強化されて、天然マグロの幼魚を 捕まえられなくなるのに、間に合ったようである。これ で日本が、世界へのマグロ輸出国になる日が近い。