3879.ウイーン;路面電車王国から地下鉄が主役の街



 ウイーン;路面電車王国から地下鉄が主役の街
                         平成23年(2011)1月22日(土)                     
                     「地球に謙虚に運動」代表  仲津 英治

 この報告は、昨年9月の東欧旅行の第2段のものです。ブダペスト、ウイーン、プラハ
の3首都を中心とした観光旅行でしたが、3都市の交通状況に焦点を絞って報告させて頂
きます。今回はブダペストに続いてオーストリアの首都ウィーンです。僅か2泊の滞在で
すから表面的な観察でしかできていませんので、誤解している点があると思われます。
その点はご容赦下さい。

1.	オーストリアの首都ウイーン
1972年頃、西ドイツに留学していた時、何度か訪れている街ですが、学生気分でしかも
人生経験が少ない年頃でありましたから、今回久々に訪ねてみて若干27〜28歳ではモノ
をあまり観ていない、あるいは見えていなかったのだな、とつくづく思いました。それ
でもブダペスト、プラハに比べて近現代的な高層ビルが明らかに多く、ウィーンの街は
変貌を遂げたなという印象を持ちました。若きモーツァルトを描いた映画「アマデウス」
の撮影には中世・近世の街並みを残すプラハが選ばれたとか、なるほどと思いました。
新市街地には高層ビルが立ち並び、当時無かった地下鉄も高架部分も含め、相当整備さ
れていました。

ウイーンの人口は170万人、市域面積は約415平方キロで、同レベルの都市としては、
神戸市(人口153万人 面積552平方■)そして京都市(人口147万人、面積828平方■)
が挙げられましょう。

2.	路面電車 ネットワークを形成

 まず、宿泊先のホテル近くで見掛けた最新式の路面電車です。連接台車がつなぐ連節
部が6か所ありますので7両編成ということになりましょうか。独ジーメンス社製の電車
で老人、障害者に配慮した低床式電車で、軌道は標準軌(1435mm)です。
1872年馬車鉄道が開通し、1897年第1号の路面電車が走っています。1966年には地下
を走行する路面電車が開通するなど、整備が進み、世界最大の路面電車王国であった
とのこと、今は後から整備され始めた地下鉄に都市交通の主役を譲っていますが、今
も1日当たり40万人強の利用客があり、重要な市民の足です。
路面電車を大事にしているなと思ったのは、都心部から少し離れたところで、線路の
両サイドに高さ10センチ幅5センチ程度のコンクリートの敷居を見掛けたときです。
自動車の軌道進入を防いでいるのです。

ウィーン都市交通局のネットワーク図を見ますと、路面電車が都心部のみならず、半
郊外まで整備されていることが判ります。不鮮明なので見づらいですが、宿泊ホテル
近くの停留所の運転ダイヤによりますと、月―金の登校日と休校日そして土曜、日祝
日の4種類もありました。早朝の朝5時台から深夜24時台まで運転時間帯は長く、一番
頻度の多い登校日の昼間の運転間隔は3〜4分でした。ウィーン都市交通局のパンフレ
ットによれば2009年のデータで、路線数は28路線、営業キロは172キロ、停留所数は
1,033か所にも及びます。車両数は775両もあり、高頻度運転を実現しています。一日
40万人の利用客を維持する原点です。

3.	路線バスと自転車道
路線バスも地下鉄と路面電車の補完あるいは連絡線として路線が形成されていました。ブダ
ペストのようなトロリーバスは見掛けませんでしたが、単位輸送力のある連節バスは、結構
見掛けました。前述のパンフレットによれば、全部で500両中、4割が連節バスです。83路
線、641■の営業キロ、3,261か所の停留所数を誇っています。お客様の数は一日当たり
31.4万人もあります。
また道路交通で注目すべきは、自転車道が整備されている点で、駐輪スタンドが要所々に設
けられるなど、以前よりさらに自転車交通重視の政策が市当局により採られているなと感じ
ました。駐輪スタンドまでやって来た若者は、駐輪場に自転車を置いて所用に向かいました。 

4.	地下鉄
 ウイーンは欧州の大都市の中では地下鉄整備が遅れた都市でした。1970年代になってやっと
整備が始まり、都市鉄道を地下化した4号線が第1号の地下鉄です。それ以降5路線が整備され
(U1~U6、但しU5は計画中)、営業キロは69.5■です。今も延伸整備中で、都市交通の主役
を担っています。各路線U1=赤、U2=紫、U3=橙、U4=緑、U5=茶と色分けされ、初めて訪れ
た人でも案内図の路線の色と終着駅の方向を見て行き先を見分けることができ、利用し易い地
下鉄です。軌道は路面電車、オーストリア連邦鉄道と同じ1435■の標準軌で相互乗り入れも
可能なゲージです。現実には電気システム等が違うのでそれぞれ独立系です。
   
 ウイーンでは有り難いことに都心のカールスプラッツ(カール広場)駅にウィーン都市交通
局の案内センター
があり、無料でくれる冊子類の数字と絵で色んなことを知ることができました。ドイツ語系
国家ドイツとオーストリアのサービスレベルの高さを示すものでしょう。本報告で紹介する
データもこの案内センターで戴いたパンフレットの情報がメインです。
 
 地下鉄の車両数は824両、駅数は95を数え、平均駅間距離は766■と短めで利用し易い
距離ですね。利用客数は一日当たり140万人弱と中々のレベルです。都心部の路線網を地
下鉄が形成し、主要駅で連絡する郊外向けの鉄道網は10路線ほどある連邦鉄道のS-バーン
(都市高速鉄道)が担っています。
 両者は、路面電車、バスも含め、5項で述べる共通運賃を形成しており、利用客の利便
を図っています。
 ウイーンの鉄道路線図
http://www.wienerlinien.at/media/files/2008/SVP_Deutsch_3288.pdf

5.	共通運賃制度
 写真9は、VOR=オーストリア東部交通連合(株)のマークで路面電車、バス、地下鉄等の
車体に描かれており、VORの一員を表しています。VORはオーストリア東部地区(ウィーン
都市部も含む)で、共通運賃制度などを導入しています。この制度は、ドイツの都市部で数
十年前から導入されている、公共交通機関の利用促進のための制度とほぼ同様のもので、都
市高速鉄道を運転する連邦鉄道と、地下鉄、路面電車及びバスを運転するウイーン都市交通
局と経営体が異なっていても、あるゾーン内は運賃水準を揃え、同一乗車券で利用可能とす
るものです。ゾーンを超えて利用する場合は一段上の運賃となります。ゾーン内1回乗車券
は1.8ユーロ≒200円です。観光客用には1日券(5.7ユーロ)、2日券等があります。この
共通運賃制度の成果でもありましょうか、ウィーン都市交通局の利用者数は、年々伸びて
いるのです。
 
日本には無い通年定期券もあります。利用客数の内訳は、通年定期が38.3%、学生定期が24.4%、
1ヶ月定期が7.0%、週刊定期が5.6%と定期券客が圧倒的に多く、普通券の人は7.3%にしか
過ぎません。これが都市交通局の安定収入につながっていることでしょう。従業員数は8,132名
を数え、これだけの人々に雇用が提供できている訳です。年々生産性も上がっており、従業員
一人当たりの提供座席キロは2005年から2009年の間に15%近く上がっています。
 ウィイーン都市交通圏の交通機関別利用客割合は1993年から2009年のデータを見ますと、
公共交通機関が29%から35%に上がっているのに対し、マイカー利用者数は40%から32%に
下がっているのです。自転車は3%から6%と倍増しています。残り27〜28%は歩行で、変化は
あまりありません。

6.日本の都市政策の誤策 京都市を例にして
 地球温暖化など環境問題、既に石油生産が頭打ちしていること(オイルピーク)を考えると、
公共交通機関の利用を増やすことは公共政策の要の一つです。ウイーン市の上述データを見て
おりまして、交通事業者のサービス改善と相まって、後述する歩行者地域の設定、都心への自
動車乗り入れ規制など、行政の取り組みの成果かと思えるのです。
 日本における高速道路のETC料金の一律上限制度、無料化政策などは、街に自動車氾濫させ、
石油消費を促し、炭酸ガス排出量を増やし、地球温暖化を加速させる、時代に逆行した歴史に
残る誤策と言えましょう。
 かつて日本の大都市は誤った選択をしました。路面電車の廃止です。ウィーンと似た都市
規模の京都市は、1895(明治28年)日本で最初の路面電車を走らせた都市で、最高時には
約70キロの路線網を持ち、1963(昭和38年)には1日56.4万人もの利用客があったのですが、
1978年全廃してしまいました。

自動車中心の米国社会を政治家と行政が目指したのでしょうか。1968(昭和43年)まで
大阪市民であった私は、路面電車は時代遅れだ、道路交通の邪魔になるといった声を覚え
ています。こうした声にも圧され、日本の大都市は路面電車を次々と廃止して行きました。
京都市には私鉄の京福電鉄が路面電車として残るのみです。
 路面電車に代わる京都市営地下鉄は、2009(平成21年)営業キロ31.2■、一日の利用客
は31.5万人にしか過ぎません。路線バスは大きなネットワークを持っていますが、自動車
交通の波に呑まれています。具体的に書くことは、量が多くなるので控えさせて頂きます。

7.経営状態
 お客様が増えているのですから、ウィーン都市交通局の経営状態は良くなっているはず
ですが、具体的な数字は入手できていません。しかし欧州の公共交通機関の事例からして、
ある程度公費を投入して赤字をカバーしているものと思量します。

8.	歩行者地域における市民と観光客による賑わい
音楽の都、ウィーンは世界中の観光客が訪れており、意味は判りませんが、色んな言葉
が聞こえてきました。独、英、仏、西、伊語などに交じって、かつての東欧の人達も今
や、旅行の自由を得たのでしょう、スラブ系の言葉、そしてアジアから中国、台湾、韓
国等の人達の賑やかな会話が耳に入って来ました。他に服装からしてアラブ系の人、イ
ンド系の人、トルコ系の人々も見掛けました。もちろん色んな方言の交ざった日本語も。
御土産店、商店も賑わっていました。シャッターの降りた店は見えた限り、無かった
ように思います。

そして都心部には大規模な歩行者地域が整備されていました。カール広場付近の道路
を隔てた向こう側が歩行者地域であり、ウイーンの案内地図を良く観察してみますと
歩行者道路は全長5キロ程度はあり、10数本の道路が指定され、多くは広場につなが
っているようです。歩行者地域では観光客のみならず、大勢の買い物客で賑わってい
ました。自動車の都心部乗り入れを規制し、駐車場の容量を制限し、公共交通機関を
整備改善し、そして利用し易い共通運賃制度と言った、ハード・ソフト両面の都市政
策が街に活気をもたらしていると言えましょう。もちろん街の魅力も欠かせません。

ウィーンの中心とも言うべき、シュテファン大聖堂辺りには、ピエロのような芸人の他、
全身を化粧して同じポーズを続ける大道人形芸人の男女が結構いました。その一人が、
5分間は同じ姿勢を保っていたでしょうか。本人もそれで生活の糧を得ているのでしょ
うが、街を散歩する我々に興を添えてくれる存在でしょう。嬉しいことには写真を撮
ってもお金は請求されませんでした。人が人とともに街を作る、そういう印象を持った
ウィーンでした。
またこの後今や無人となっているチェコ国境検問所をノンストップで抜け、プラハに
向かいましたが、自動車でしか行けない大型ショッピング店は見掛けなかったように
思います。恐らく規制されているのでしょう。 
 
組織・人事コンサルテイング会社マーサー(Mercer)が昨年5月に発表した「2010年
世界生活環境ランキング」によれば、世界で一番質の高い生活を送れる都市はウィーン
であるとか。安定性、安全性、公共サービスを重視した指標に基づいています。欧米
の都市が上位を占めており、420都市中、日本の東京都が第40位とのこと。私は、公
共サービスの中で、公共交通のサービスレベルが高く、マイカー無しで都心で生活で
きると言う視点から、ウィーンの一位はなるほどなと、肯定的に理解しています。

最後に石油価格です。
 移動途中で休憩したガソリンスタンド兼売店での石油価格を確認しました。デイーゼル
が一番安くしかも最上段に提示されています。炭酸ガス排出量の少ないデイーゼル車が
推奨され、普及している西欧ならではの表示でしょうか。Benzinがガソリンで1リッター
当たり1.138ユーロ≒130円位で日本と同レベルですね。
2種類あったスーパーガソリンの中身は確認できていません。
  長いお付き合い有難うございました。

第3回最後はプラハです。お楽しみに。

「地球に謙虚に運動」代表


コラム目次に戻る
トップページに戻る