一切警句問答経疏 缶中楽器 コラムNo.3509『一切警句問答経』を時事に即して注釈します。 >「世尊、挑戦国は独裁政治で国をまとめて富国に努めてはいかがで >しょう。」 >「一切警句菩薩よ、貿易を捨てて富国はない。強固な独裁は人の交 >流さえ認め得ないのだ。どうして貿易を増やせるだろう。交易のな >い所へは投資もないのだ。」 >「独裁政治の下で経済のみを開放してみてはいかがでしょう、仏よ。」 >「交易は思想も運んでしまうのだ。一切警句菩薩よ。独裁国家の政 >府が自由主義や民主主義、反政府思想と共存できるであろうか。」 >「弾圧して解決できるのではありませんか、仏よ。」 >「経済を開放するというのは外国からの投資を求めるからだ。弾圧 >ばかりで国内情勢を不穏にするのには限界がある。政治的自由を制 >限するのが精精だ。軍隊の治安出動や警察力の活用は矛盾の解決に >はならない。人身掌握が要件なのだ、一切警句菩薩よ。」 >「世尊、どうやって政治意識の高まりに独裁国家の政府が対抗しう >るのですか。」 >「拝金主義である。一切警句菩薩よ。外国から投資を呼び込み、国 >内を開発して富を分配するのだ。すると地方の利権が中央から保護 >される。地位も権力も搾取も分配できるのだ。資産家も事業家も役 >人も労働者も政治体制に逆らうより利権を漁るか私腹を肥やすか賄 >賂を貰うか不法な収入で稼ぐか、ともかく金に目が眩んで体制批判 >どころではなくなるのだ。」 >「搾取は誰からするのですか、仏よ。」 >「少数民族からだ。一切警句菩薩よ。土地を奪い、入植を進める。 >逆に国民の負担となる危険な施設などは補償金で言いくるめて押し >付ける。」 >「世尊、ひどい話ではありませんか。そのやり方に限界は来ないの >ですか。」 >「限界は来る。一切警句菩薩よ。外国を侵略するか、内戦で没落す >るか。いずれにしても矛盾は破局に至るものなのだ。」 経に「交易は思想も運んでしまうのだ。」とあるのは、中国でのこと なのである。よくよく考えるてみるべきである。一つはインターネッ ト威力であり、二つは中国人観光客が外国で増えていることであり、 三つはオリンピック・万博と外国人を招き入れている事であり、四つ はビジネスでの外国人との交流である。 特にビジネスでは相手の商慣習、文化、時事批評を知ろうとするだ ろう。優秀な中国人なら優秀なだけに、自国を誇りに思う中国人なら 誇りが高いだけに、共産主義という失敗作をなぜ中国人が手放せない のか、マルクスなどという外国人の思想家がなぜ中国の偉人でなけれ ばならないのか、複数政党制も大統領制も中国人には無理なのか? 疑問はいくらでも沸いてくるはずである。 経に「限界は来る。」とあるのは経済の原理によるのである。 為替の変動を固定しようとすると貨幣供給と利子のコントロールが 政策の選択肢になる。ところが外国との間での資金移動が拡大し、自 由も増していくとなると、貨幣供給の増減だけが中国政府のやれるこ とになる。 もし中国政府が通貨危機を断固避けるのであれば、貨幣供給増減の 政策的限界を資金移動の規制で補うしかない。しかしこれは経済開放 政策と矛盾する。海外の利子と自国の利子の差はリアルタイムでの資 金移動を導くが、貨幣供給の対応はタイムラグも量的過剰過不足もあ るだろう。外国政府・企業との軋轢、マーケットの混乱も考えると巨 大なリスクが中国には内在することになる(中国固有の問題ではない。 通貨をユーロに統一したEUで既にこのリスクが大暴れしている。EU解 体と、中国崩壊・連邦制への移行はどちらが先になるのであろうか。)。 人民元レートの変動を中国政府が抑えようとすればするほど資金移動 規制が朝令暮改になる。為替操作国といううよりは規制操作国になる。 つられてビジネス関連の法令も運用は人治国家になる。中国は既に「 反日無罪」という政治思想的人治に蝕まれているが、経済政策的にも 人治となり法治国家としてはメルトダウンしていく。 >「先送りする方法はないのでしょうか、仏よ。」 >「ある。一切警句菩薩よ。」 >「お聞かせ下さい、仏よ。」 >「別の独裁国家の問題で民主国家群と協力するのだ、一切警句菩薩 >よ。会議を開催して討議すれば国際協調を演出できる。問題の解決 >は真の目的ではないから譲歩はあまり必要ない。しかし民主国家群 >も協力を求める以上内政干渉は控える。投資にも応じるだろう。」 >「世尊、必要な資金を国家は投資家からではなく増税によって賄う >のはいかがでしょう。」 >「一切警句菩薩よ。それでは政権は支持を失ってしまうのだ。」 >「しかし国民の幸福が目的なら健全な判断ではありませんか、仏よ。」 >「政権の目的は国民の幸福ではないのだ、一切警句菩薩よ。」 >「では政権の目的は何なのですか、仏よ。」 >「政権の目的は政権なのだ。一切警句菩薩よ。」 > 世尊は厳かに立ち上がられると「余はもう立ち去らねばならぬ。 >」と一切警句菩薩にお告げになった。一切警句菩薩は世尊に礼をな >して立ち去る。 > その時一切警句菩薩は『すべての警句を反芻できる』陀羅尼を得 >たり。 経に「先送りする方法」とあるのは中国共産党の延命策なのである。 一党独裁への脅威は民衆の蜂起であるから暴動に対しては警察力・軍 隊力をもって治安維持に当たらねばならない。人治国家では私兵化・ 地方軍閥化が進むから体制の改革などは軽々しく出来ず中央政府の拠 り所は二つに絞られる。外国との軍事的緊張で国内をまとめるか、生 活の向上で不満を抑えるか、である。しかしながら「景気循環」と言 われるように、民衆の不満を満たす「生活の向上」が続くことはあり えないことである。残る一手は対外緊張であるが戦争は経済開放路線 と矛盾する。そこで「先送りする方法」が必要になる。 反日デモに身を隠した民衆の権力批判、ノーベル賞を巡る反中国宣 伝戦、尖閣で緊張を作ったものの(日米同盟の抑止力により)武力行使 出来ない現実、次の覇権国として警戒される割には狭い制海権。怯え ずにはいられないインフレ、バブル崩壊の予感・・・。妙手は何か? 経に「別の独裁国家の問題で民主国家群と協力するのだ」とあるのは 北朝鮮による韓国・延坪島砲撃事件のことなのである。この事件は絶 妙な時期に起きたことに注意しなければならない。為替操作国認定の 問題であれ、ノーベル賞など人権問題であれ、レアメタル禁輸であれ 、対中国警戒論であれ、当事件が世界の耳目を驚かせ反中国思考を一 時緩めることに成功した。事件前北朝鮮指導者が視察していることか らしても当事件は北朝鮮指導部の意思によるものであり、中国指導部 も了解していた疑いがある。 現に中国の動きは鈍い。中国は北朝鮮労働者を低賃金で国内で使役す ることにより低価格商品輸出を狙っており北朝鮮孤立は好都合である。 砲撃事件や核問題で周辺国が「会議」で何をどう話そうが根底にある 合意は朝鮮半島分断である。北朝鮮が孤立化すれば中国は北朝鮮を「 中華人民共和国北朝鮮自治区」化し搾取する。これが中国の「核心的 利益」である。