3825.新「船中八策」



■新「船中八策」 ?G2米中パワーシフト下、日本の指針?
                                        佐藤
◆龍馬ブームと「船中八策」◆
9月の尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件に続き、先週には北朝鮮によ
る韓国西方沖の延坪島砲撃が起こり、東アジア情勢が緊迫してきた。

これらは、大きくは米国の力が弱まる一方中国が勃興し、米中パワ
ーシフトが起きていることに起因する。

世間では、坂本龍馬ブームや戦国武将ブームが起きているが、これ
らは取り巻く国際情勢の激流の中、日本が方向性を見出せず迷走し
ている事と無縁ではない。

こうした中、龍馬が没年に新国家体制の基本方針として起草したと
される「船中八策」に倣い、現下の状況に於ける新「船中八策」を
構想することは決して無駄ではないだろう。

以下に拙案を示す。

?新「船中八策」?
●「国際的大義を伴う長期的国益の追求」を外交の基本とし、自主
   防衛を確立すべき事。

●当面の状況では米国側につき、中国の拡張主義・北朝鮮の暴発に
  備えるべき事。

●ロシア・韓国とは「休戦」し、インド・ASEANを味方に付け
  るべき事。

●核兵器は、決断後6ヶ月で実用可能なように備えるべき事。

●少なくとも5年間篭城可能な食料・エネルギー政策等を推進すべ
  き事。

●出生率を高めると共に、優秀な移民を受け入れ、自由貿易を進め
  るべき事。

●「ナショナル・ミニマムを伴う自立社会」の理念の下、地方分権
  、社会保障、規制緩和を進めるべき事。

●「官民折半・自己責任」で、新エネルギー、アジアインフラ整備
  等の国家プロジェクトを興すべき事。

◆外交・防衛の指針◆
外交・防衛には柱となる理念が必要である。

それ無くば、事態に対しその場その場でブレまくることとなり、ブ
レれば必ず負ける。

筆者は、「国際的大義を伴う長期的国益の追求」を基本理念とする。

近視眼的でない先を見越した国益を追求する一方、それが周辺諸国
との調和を欠いては持続的ではない。

歴史の中に教訓を見出せば、ヒトラーは両者を欠いて自滅した。

「大義」とは、言わば「正義」をより普遍的にしたものである。

その言葉に危険な面は潜むが、総じて世界の発展と調和を担保する
方向を「大義」とし掲げ外交・防衛に臨む必要がある。

なお、自主防衛の確立は国力からして当然であり、現在の米国に依
存しきった状況は異常である。

少なくとも通常兵器戦では主体的に自国を守れる戦力と体制を、晩
くとも5年のうちに確立する必要がある。

具体的には、空母の保有、憲法改正ないし国家安全保障基本法の制
定等もこれに含まれる。

また、その上で米中パワーシフトの中で、日米同盟の維持強化は必
要である。

イラク戦争等を起こした米国は、決して正義の国ではない。

しかし、外交・防衛とは相対的なものであり、大国との関係では、
比較して国際的大義と国益に適う方、よりマシな方を同盟相手に選
ばなければならない。

中国は永遠の敵ではないが、南沙諸島を狙い、尖閣諸島を狙い、沖
縄を狙う拡張主義の民主化していない現在の中国は仮想敵国である。
(もっとも、少なくとも民主化直後にはナショナリズムがより高ま
ることが考えられる)

北朝鮮については、今回の韓国延坪島砲撃は、金正恩への後継体制
固めが主な狙いであろうが、中国の少なくとも暗黙の了解が在って
のものだろう。

本当に北朝鮮に言うことを聴かせたいなら、体制崩壊 → 難民流
入の懸念は有る程度あるにせよ、基本的には送電等を止めてしまえ
ばよい。

そうすれば、核開発もできない。

中国は、米国が中朝国境に駐留するので、米国が弱るまでは朝鮮半
島の南北統一を行わせたくない。

そして、米国の国力が十分に弱った後、南北を統一させ、一体で柵
封するのがメイン・シナリオだろう。

また、「困ったちゃん」の北朝鮮が無くなったら、自分の「困った
ちゃん度」が国際社会の中でスポットを浴びて浮かび上がるから、
「言うことを聞かないやんちゃな弟」に「ほとほと困り果ててる兄
」を演じているが、京劇の伝統に拠るのか西側マスコミを騙し続け
るその演技力は白眉と言える。

仮想敵国は中国と北朝鮮なのだから、二正面作戦は避けてロシア、
韓国とは領土問題を少なくとも当面は凍結させて、経済・文化関係
等で交流を厚くするのは、クラウゼヴィッツや「孫子」を持ち出す
までも無く戦略の基本である。

インド・ASEANに対しては、遠交近攻や合従連衡の策を持ち出
すまでも無い。

なお、「日本は、3年で核ミサイルを保有する能力が有る」とはよ
く語られることだが、現下の加速化する東アジア情勢をみれば、決
断後6ヶ月程度で実践可能な核ミサイル配備が出来るような核技術
・ロケット技術のシェープアップが必要である。

「核を直ぐ持てるのだけど、NPT(核拡散防止条約)に敬意を表
し、敢えて持たない」というのが、現状では日本のバーゲニングパ
ワー最大化の選択肢だろう。(但し、IAEA:国際原子力機関等
が煩いから、よくよく根回し・説明は必要ではある)

◆内政・貿易政策の指針◆
食料自給率は100%を目指すことが本来だが、備蓄や有事の農地
転用を組み合わせ少なくとも輸入を完全に止められても5年間程度
篭城可能な体制が必要だ。

エネルギー・レアアース等についても、備蓄や太陽光等の新エネル
ギーを組み合わせ同様にすべきである。

輸入を完全に止められる事態は現実的ではないが、その備えをする
ことによって初めて強力な外交カードとなる。

子供手当ては、評判は悪いが出生率を高めるためには必要だろう。

国力の基本は、人口であり、「よく教育された」国民である。

フランス初めEU諸国では、子供手当てで出生率上昇に成功してい
るのだから、彼国と状況、制度、その他保育政策等の奈辺が違うの
か分析して対処すべきだろう。

政府、マスコミにその努力が欠落している。

また、並行して極く優秀な移民はどんどん入れるべきだ。

それに刺激されて日本人も腹を据えて頑張る。

英国等では、移民審査を英語、技能、資格、学歴等で点数制にして
優秀な移民を受け入れている。

「ナショナル・ミニマムを伴う自立社会」の理念の下、地方分権、
社会保障、規制緩和を進めるべき事は、言い換えれば「自立と共生
」である。

自立が主で基本であるが、それで補え切れない部分は公が出て支え
て行く。

これまたEU生まれの「補完性の論理」によれば、個人 → コミ
ュニティー → 地方自治体 → 国家で、努力しても身に余る部
分は上位の枠で支えるという。

かつて太平洋戦争で、米軍はゼロ戦を研究してグラマンをバージョ
ンアップして、航空戦を制した。

昔は兵器の優劣が勝敗を分けたが、今は主に政策の優劣が国の勝敗
を分ける。

猿真似はよろしくないが、よくよく研究して良いものであれば、日
本に合う様なチューニングをして取り入れるべきだろう。

「新重商主義」なる言葉が出来、各国とも国家が後押ししたビジネ
ス合戦が盛んだ。

韓国が昨年末アラブ首長国連邦(UAE)への原発売り込みに成功した
のは記憶に新しい。

(「60年保証付き」については、双方本気かという気はするが)

筆者は、国家プロジェクトは「官民折半・自己責任」で行うことを
主張したい。

かつての第三セクターでの地方自治体と地元企業のコラボレーショ
ンは、どちらも主体性と責任を取らない曖昧さの故に失敗した。

官は金を出すが半分以下に留め、新エネルギー開発やアジアインフ
ラ整備等で大きな計画は出すが、実際のオペレートは半分以上を出
資する民間(シンジケート)が行い、互いに出資額範囲で責任を取
るスキームが役割分担と責任の明確化という点で適当だと考える。

なお、「新エネルギー分野」と「環境分野」は表裏一体であるが、
CO2削減等の環境分野は今後国際社会の中で梯子を外されるリス
クがあり、例えばCO2地中固定化技術への注力は避け、太陽光等
にシフトするような長期的な戦略性・見極めは不可欠である。

以上述べて来たが、幕末には龍馬の「船中八策」や、その基となっ
たと言われる横井小楠の「国是三論」「国是七条」等、国家の新指
針をコンパクトに示す文章が出され、それが明治維新に繋がった。

今後、平成の「船中八策」「国是七条」が多く出され、それらが広
く甲論乙駁され淘汰され、かつ実行されることにより、米中パワー
シフト下での日本の漂流は初めて止まると思われる。
                    以上

佐藤

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