3806.文明の結末として



In Conclusion of the Civilization (文明の結末として)

皆様、

ロンドン駐在時代に、取引先に送るファックスはかならず秘書に添
削をしてもらっていました。一番印象に残っているのは、
"in conclusion"という言葉。これは、あまり得意でない相手と、う
だうだ電話で話した後で、決まったことを手短に伝えて確認するフ
ァックスを送るときの、本文の冒頭に使った言葉です。

「要するに(In conclusion,)、これについてはこうしましょう。あ
れはああして、では○月○日に伺います」てな感じでまとめました。
この言葉を思いついた秘書自身、えらく気に入っていました。

In conclusionという言葉を思い出したのは、今日のポスター発表で
、熱心な学生さんが何人か話を聞いてくれ、僕もとってもいい刺激
を受けました。「要するにあなたの結論は」と何人かに聞かれたり
、自分からも、僕の結論はこうですと口にしたのです。

ヒトの言語がデジタルであるとしてだから何なのか?という問いか
けに対して、思いついたことです。


過去数万年のヒトの進化は、ゲノムのレベルではほとんど変わって
おらず、「ことばと文化」(鈴木先生の主著の名前と奇しくも同じで
すが)のレベルでおきていることになります。

これは、先人が一生懸命に獲得した知恵を、後輩あるいは後世の人
間が、結合方式や組み合わせを変えることによって、より創造的な
文化を構築してきたということです。

これが僕の定義では、エピジェネティックな進化なのです。
To create is to recombine.(創造とは再結合である)というのは
、分子生物学者のフランソワ・ジャコブの言葉ですが、遺伝子のエ
ピジェネティックスはゲノムのつなぎ替え、ゲノムの再結合である
とすれば、人類の再結合は言葉と文化の再結合。

ノーベル賞級の発明も、ちょっとした勘違いや間違いが、新しい結
合を生んだということがあります。怪我の功名というのでしょうか
。たとえば、「人類の揺りかごの洞窟を訪問」しようとした僕が、
「最古の現生人類遺跡を訪問」したのも、一種の怪我の功名であり
、言葉の再結合といえます。それができるのが人間のすばらしいと
ころ。

もし、人類の進化が、言葉のエピジェネティックス(再結合)によ
って文化的な進化をとげてきたとしたら、人類は何をしなければな
らないか。この7万年の文化的進化のおさらいではないでしょうか。

南アフリカの洞窟の中で、音声言語のデジタル化(最初は子音しかな
かったと思われます。洞窟の中のような静かな環境であれば、子音
だけでもコミュニケーションできます)に成功した人類が、母音を獲
得して、洞窟の外の雑音の多い環境に出て行って、世界を支配した
歴史を理解し、何か間違ったことがあれば素直に反省して、やり直
すということが必要ではないでしょうか。

つまり、7万年の人類文明の終盤に登場した人間は、人類の文明の歴
史を総括し、これまでに先人達が到達した地平をたしかめて、今もっ
とも必要なことはなにかを考える。文明の最高峰の豊かさを味わった
見返りに、その責任があるのではないかと思うのです。

いかがでしょうか。


得丸公明
==============================
井筒俊彦全集付録 第4 巻、第10巻

皆様

いうまでもなくいわゆる全集や著作集にはさまれてついてくる薄い
「付録」って、短い文章ながらなかなか鋭くて読み応えがあります。

ただ、図書館の本の場合には、ときどき、それが落ちていたり破り
とられていることがあって、目指すものに出会えなかったりします。

井筒俊彦著作集の場合も、全部に目を通したわけではありませんが
、第4巻の付録の牧野信也、村上博子のものは読み応えがありました。

牧野信也さんは、1930年生まれで、東京外国語大学で教えられたあ
と、杏林大学に行かれた、コーランやムスリム社会のご専門家のよ
うです。

その中で、井筒俊彦の「言語学概論」のノートをもとに、出版計画
があるということが書かれていますが、どうなったのでしょう。

第10巻には、佐伯彰一の記事があり、アメリカで鈴木孝夫先生に会
ったときに、井筒先生の神秘思想について熱く語られた思い出が書
いてありました。

いろいろと調べてみたところ、「分節する」を「言葉をもとに世界
を切り分ける」という用法で使っているのは、井筒先生とそのお弟
子さんたちだけのようです。これは「三田方言」とでも考えたほう
がよいのでしょうか。

一部の人たちの間では、ちゃんと意味が伝わっているのだから、そ
れで一向に構わないではないかと、考えることができます。

何か困ることはあるだろうかと、考えてみましたが、そもそも日常
会話では使わない「articulate, articuler, 分節する」という言葉
の意味が世界標準と三田方言と2つあるときに困るとしたら、最大
の問題は、世界の人々も三田の人々も言葉の意味はひとつしかない
と思っているところにあるでしょう。

すなわち、

(1) 方言を使っている人たちが、方言を使っていない人たちの
    考えを正しく理解できない。

(2) 方言を使っている人たちの考えていることを、方言を使っ
    ていない人たちが理解できない。

(3) 方言を使っている人たちの本を読んで、方言によって概念
    形成をする人たちが、世界とコミュニケートできない。


なんでこんなに「分節」にこだわるかというと、アンドレ・マルチ
ネの二重分節論と、鈴木先生の「空の記号」論がどうして出会えな
かったかという問題と関係するからです。

「二重分節」論と「空の記号」論がつながらなかったのは、たまた
ま二人が物理的に接触しなかったためではなく、「分節」という言
葉の意味が双方で違っていたために、同じことを問題視しているこ
とに気づけなかったからではないかと思うのです。

井筒言語学の中心概念である「分節」が、三田方言によって作られ
ていたことと、「言語学概論」の出版計画が実を結ばなかった(?)
ことと関係するのでしょうか。

得丸公明
==============================
CINEMA AFRICA 2010 11月13 日(土)〜25 日(木)
From: tokumaru

皆様

アフリカ映画祭のお知らせです!
アフリカ独立50周年を記念して、盛大な映画祭が東京で催されます

とくまる


CINEMA AFRICA 2010

アフリカ映画32本上映 アフリカから監督8名来日

32 Films and 8 Filmmakers from Africa

日本・南アフリカ交流100周年 / アフリカ諸国独立50周年記念 /
 (社)企業メセナ協議会認定事業
CINEMA AFRICA 2010 11月13日(土)〜25日(木)

2010年はアフリカ大陸初のサッカーワールドカップ開催、アフリカ
大陸の多くの国が独立を果たしてから50年、そして日本・南アフリ
カ共和国交流 100周年。シネマアフリカはこのアフリカにとって節
目となる2010年を記念し、東京・京橋の東京国立近代美術館フィル
ムセンターにてCINEMA AFRICA 2010を開催いたします。この映画祭
は東京国立近代美術館フィルムセンターとの共催、南アフリカ共和
国大使館特別協賛、外務省後援(予定)、(社)企業メセナ協議会
の認定事業です。

今年のシネマアフリカはロンドンアフリカ映画祭、ルワンダ映画祭
と連携、アフリカ映画の制作者のより広いネットワークを構築、質
の高いアフリカ映画を多数上映できることになりました。 6月には
横浜赤レンガ倉庫でのアフリカン・フェスタ会場内、そして横浜ラ
ンドマークホールでCINEMA AFRICA 2010プレ・イベントを開催。11
月の本祭では2週間にわたりアフリカ映画を32本上映、8人の映画監
督・プロデューサーも来日し、アフリカ映画についてのシンポジウ
ムなどを企画しております。

シネマアフリカ2010 開催概要

名称: シネマ・アフリカ2010
目的: アフリカ発の映画を紹介し、日本とアフリカの文化交流を図る
会場: 東京国立近代美術館フィルムセンター [150席] 他
会期: 2010年11月13日(土)〜25日(木) 他
入場料: 1回券 1200円
※上映は入替制となり、1回券で1プログラムご覧いただけます。
 プログラムにより上映本数は異なります。
なお、13日(土)14時からのフォーラムは無料です。

主催: シネマ・アフリカ2010実行委員会
共催: 東京国立近代美術館フィルムセンター、南アフリカ共和国大使館
後援: 外務省(予定)、在日アフリカ外交団


http://www.cinemaafrica.com/?page_id=379


http://www.cinemaafrica.com/

==============================
分節
From: 小川
得丸さん

生物と言語のアナロジーは分析するときに役に立つと思います。
先日。福岡の本を読み返していたら生物の分節(体節)のことがで
ていました。
分節を持つことの有利さとして
1.分節による機能の分担や繰り返し構造になる。
2.繰り返し構造に伴う物質利用の効率化
3.損傷の際に被害を最小にとどめることができる。
4.修復のしやすさ
を挙げています。
 
生物の分節はランダムな突然変異によって生み出されたようですが
、音節も同様にランダムな突然変異によって生まれたものでしょう
か?
 
井筒先生の本は未だ目を通していませんが、ご参考になれば幸いです。
 
小川
==============================
RE: In conclusion of the Civilization ( 文明の最終走者として)
From: 小川
得丸様、皆様
 
出張中に仕事で付き合っているスェーデン人と「言語と脳の関係」
について雑談していたところ面白い意見を聞いたので紹介します。
 
”南アフリカに海岸ができたときに、魚を食した人がタンパク質を
得たために頭が大きくなった。このために脳により活発に働く場所
ができた。この脳の場所から言葉を話すようになった。”
 
という説の本がある。スウェーデン語の本だが面白かったと教えて
くれた。
得丸さんの見つけた洞窟も海岸の近くだったようですね。
 
小川眞一


コラム目次に戻る
トップページに戻る