カロリンスカ研究所 From: 小川 茂木健一郎とか川島隆太のせいか脳科学が人気のようで100人近い人 が参加していました。 カロリンスカ研究所はノーベル賞の医学生理部門の審査機関のよう です。20周年記念で2人のドクターが一般向けの講演がありました。 カロリンスカ研究所 統合医療の研究者) 認知神経科学の研究者 プレゼンの中で、画面の男が発音する言葉(DA~ か BA~か)目を 閉じて聴いた会場のグループは(BA)目を開けて聴いたグループは (DA)と聞こえた。明確に分かれた。 後での説明では、このテストは視覚系と聴覚系の二つの感覚系の競 争性があるため目を開けて聴いたグループは正しい答えが出せなか ったのとのこと。船酔いも同じ現象で人間には異なる感覚の競争が 常にある。 脳内には未だ分からないことが一杯あるとのことです。 講演終了後の懇談時間に研究者に、人間にしかない言語の発生と脳 のメカニズムの関係は解明されているのかについて質問してみまし た。 ストックホルム大学に研究をしている人がいる。言語を使うとき人 間の脳では他の哺乳類にはない脳内の動きがある。ある特殊な単独 の脳細胞があって人間だけに機能するというのではなく、脳の各分 野の細胞との複雑なシステムが働くことによって言語機能ができて いる。他の哺乳類にはない特別なメカニズムがある。化学反応的な メカニズムである。 詳しい論文や著作はDr. Steven Pinkerのものを調べると良い。 コミュニケーションと脳のメカニズムについては、 ”The Emotional Brain” (Joseph LeDeaux)という本がでている ので参考すると良いと勧めてくれた。(後で調べたら英文・邦訳版と もに入手できるようです。) 講演後のQ/Aのなかで面白そうな部分をメモしました。 Q/Aから 1.賢い脳とは? 1)認知機能があること 2)目的を達成することができる(生存 能力、事前計画、予測ができるなど) 2.大人になってもFlexibility/順応性はあるか?(年齢とともに 柔軟性から安定性に移行する過程のピークに関連して) Never too late. しかし、ある特定の分野では、大人になると順応 性が低くなる。システムが違うこと例えば言語のような能力は10歳 ぐらいを過ぎるとFlexibilityが低くなる。15歳以降になると日本人 の苦手なRとLの区別などは難しくなる。方言も同じ。Creativityの Peakは子供のときにあるようだ。テニス、体操のような能力は7−20 歳が、ピークとなる。文学や歴史のような知識の必要な分野は、年 をとった方が良い。数学の発見なども若い頃のCreativityな考えが 後になって成果をあげることがある。 学校の教育制度は、それを 考えて造られたものではない 3.統合失調症とCreatibityには共に発散的で相関関係がある。 共にドーパミン作用性があるが、視床下のD2密度や皮質においては 負の関係にある。 遺伝子的共通項あるが消極性や社会的秩序機能(現実的かクレージ ーか)の面で違いはある。Creativityな兵隊は困る。 4.CreativityとInteligentの関係は? 睡眠、夢がCreativityを高めることがある。前頭葉分野が関係する 。あらゆる分野での傾向であるが生産性思考はCreativityには良く ない。座ってジーとしている時間が必要。 5.認知機能を高めるには? トレーニングによって向上の余地があるが天才にはならない。皮質 の質の問題である。 6.将棋でコンピュータが女流棋士に勝ったが、ロボットは人間よ り賢いのか? 記憶容量の問題で賢さのためではない。8000−1万回の繰り返し回路 のエネルギーをつかっていた。人間は20W程度のエネルギーしか使 っていないがロボットは2年分のエネルギーを消費していた。準備を やってできているに過ぎない。自分で修正できる能力は無い。準備 できるのも修正できるのも人間である。コンピュータは、アルゴリ ズム、メモリーに依存しているだけだ。 7.酒を飲むのは賢い脳にプラスかマイナスか?詩や音楽などで酒 に酔っての素晴らしい創作があったのでは?(小川) 適度な量なら良いが飲みすぎるのは良くない。早死にする。フラボ ノイドが入っているので多くは良くない。 詩や音楽でCreativityを高めることはある。酒を飲んで作った詩を 醒めてからもう一度読んでみなさい。 8.コンピュータゲームについて 人間は能力にあった仕事をすべきである。集中すること。楽しむこ と。参加すること。ドーパミンが出て脳が最適な状態になるようチ ャレンジすること。自己実現させて成長することが大事である。 9.その他:当日入手したNatureの2010.09(日本語ダイジェスト版) に”音楽が認知機能を向上させる”研究結果(Kraus,N & Chandrasekaran) の報告記事が紹介されていて、”音楽の訓練は、脳の可塑性(神経 ネットワークの配線を変える能力)を通じて、音高、タイミング、 音色への感度を高め、その結果、声の調子から話者の感情を推察し たり、言語を習得したり、ランダムな聴覚刺激の中に規則性を見出 したりする能力が高まる。”との興味ある指摘がありました。 小川 ============================== 小川さん、 Nature Science Cafeと質疑応答のレポートありがとうございました。 こういうのが情報の上手い利用法というのでしょうか。僕は当たら なかったですが、小川さんのおかげでその場に居たのと同じ(か、 数割引の)情報を得ることができました。 じつにありがたいことです。 私は、金曜日15時からの講演会に参加し、18時からのレセプシ ョンにも、鉱山技師H氏とともに参加してまいりました。 講演会では、土曜日に話をされたお二人の先生のお話も聞けました。 お一人は、痛みの心理と病理について、もうお一人は音楽を専門的 に行なうと脳の部分が拡大することについて、ご発表されていまし た。 他にも、拒食症・過食症、ADHDや自閉症(スエ―デンの子どもの5 %くらい)などの講演がカロリンスカの研究者からありました。 理化学研究所と提携しているということで、理化研の方がたくさん みえられておられました。 質問の時間は短かったですが、誰も質問しなかったので2つ質問さ せてもらいました。 1)Q: 今から40年以上前にスエーデンのHydenという学者が、 脳の記憶はRNAに依存しているという発表をしたがどうなっているの か。 たとえば、子どものときに覚えた歌の歌詞を今も覚えているが、こ れはどのように記憶されているのか。 A:Hydenの研究は誰も証明できなかったので、科学にならなかった。 Hyden自身、その後の研究の方向性があやしいほうになった。 記憶に関しては、ネットワークで記憶されているのではないか。( ボソボソといった感じで、明快な回答はなかったと思います) Eric R. Kandelが2000年にノーベル賞受賞講演で話したことが参考 になると思う。 (URLは以下) http://nobelprize.org/nobel_prizes/medicine/laureates/2000/kandel-lecture.pdf (ちなみに、このKandelの講演の中で、Holger Hydenの説も紹介さ れていました。) 2) Q:心理的な痛みと、病気やけがの痛みは、同じものか? A: 社会的な痛みも、病気の痛みも、同じである。 (痛みとは、何なのでしょう。もしかしたら、未経験・未知のこと に対する本能的な警告かもしれません) レセプションでは、鉱山技師H氏と台湾映画以来の再会を祝い、ほ かにいろいろな人たちとおしゃべりをしました。 カロリンスカの年配の研究者に、人間の言語はデジタルであり、送 信が離散的発声によるデジタル、受信が動物と同じアナログ聴覚だ から、エントロピー利得が生まれて、一度聞けばすべて通じるとい う話をしたら、非常に興味を示してくれて、一発で理解してもらい ました。 それが何よりうれしかったです。 得丸公明