3764.チャイナウォッチと言語



チャイナウォッチと言語
From: 小川

皆様


丁度、この中国の仕事に以前従事していた関係者が近くにいて話題
にしていたところなのでご参考までに。

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20100924-OYT1T00154.htm

この仕事は2国間だけの取り決めだけではなく戦後処理に関する国際
条約で批准され調査することが決まっており中国のために残留され
た化学兵器の処理をどうしたらよいか処理方法を調査するために派
遣された技術者たちです。
今回の拘束は政治的な謀略意図あるいは軍のはねかえりによるもの
ではないかと憶測します。

それにしても、このような事態でも前の首相なら、友愛のためにま
た謝罪したのでしょうか。尖閣衝突事件問題は今度の内閣はどうす
るのか今後の外交姿勢の試金石として見逃せないところです。


閑話休題、、、、、

尖閣衝突問題や韓国と台湾のナショナリズムと共に、前回のタカの
会で質問したかった内容などを再考してみました。長いですがご興
味あるかたどうぞ。


1.二重の恣意性によって空の記号、無意味、無関係の音声が言葉
として意味を持つようになるのか、バラバラのもの、構造的非写像
の音声が如何にして収束していくのか?沢山のものがいかにシンク
ロしてある一定のまとまった概念、シニフィエを形成していくのか
?について疑問に思うところでした。

私が今読んでいる”自然はなぜシンクロするのか”(スティーブン
・ストロガノフ著)で複雑系の理論を数式を使わずに”バラバラに
光っていたホタルが次第に一斉に同時に光るようになるしくみや、
オーケストラ会場の拍手が共鳴していく仕組み(アメリカでは共鳴
すること少ないが東欧では同時拍手するようになる不思議)、魚や
鳥が群れをなして(何かの合図・信号で)一斉に向きを変える自然
現象にある一定の共通した仕組みがあることなどを説明しています
。同様に

言語においても同じ環境で育った者同士が何かシンクロする暗号の
ようなものがあるのではないかと思います。


2.鈴木先生の本の中では、この空の記号が意味を持つようになる
要因として社会的黙契をあげられていますが、社会的黙契の説明と
して”ある集団同士の間で誰言うことなくいつとは知れずに、その
ようになって、だからといって個人的にその決まりを破ることも変
えることも簡単にはできない社会的慣習の一種なのである。P10
”とあります。黙契とは、民族、人種、国によって異なるシステム
なのか、類似するものなのか不明のところです。

3.空の記号の「空」の意味については、未だ正確に捉えらえない
ところですが、単に空っぽといることだけでなく、何かエネルギー
が満ちてきた最終現象でもあるようです。
偶々会の当日神保町で買い求めた「零の発見」(吉田洋一著、岩波
新書)でゼロの起源について調べてみました。歴史的にはエジプト
、アラビア、ギリシャにはなかった概念でインドから生まれた概念
で位取り法から生まれた数字だったようです。十進法が発達したの
はヒトの指が10本しかなかったところから発達したとの説が強いよ
うですが、使用していた算盤で1,2,3、4、・・・・9までの
あと2桁にして10を表現したときに現れたのが0の起源だったよう
です。何もないことの概念よりも新しい桁のはじまりであったわけ
です。
もう少し分りやすい例では時刻は60進法で表していますが、11時59
分59秒・・・の直後が0時になります。満ち足りた直後の現象でも
あるわけです。
数字は順序を表す機能と量を表す機能がありますが、ゼロは自然数
1,2、3、・・・の前の数値という感覚があると同時に量的には
0にどんな大きな数値をかけても0になってしまう特別な数字でも
あります。すごくパワフルな数字なのです。トランプでいえばジョ
ーカーのような特別扱いの数字なのです。
また、卑近な例では日本では地上階を一階として2階以上を数えま
すが、欧米では2階を1st FloorとしてGround Floorが零階的な扱
いであり数の使い方は、画一ではありません。

こんな「空」の意味を考えながら、本を読み返すと”人間の言語記
号とその中身、対象との関係が恣意性を持つためには、時間的にま
ず主のいない空の目標としての内容がゼロの音声が先に用意されて
いなければならない。P85”と記述されておりその深淵さに敬服
しました。

4.私は素読の学習効果について質問しました。ダラダラと意味が
理解できない文を子供が音読することに学習効果があるのか?社会
的黙契がない限りいつまでたっても意味は子供には理解できません
。内田先生から”イントネーションや音韻の抑揚が後年になって学
習に役に立つのではないか。”とのコメントをいただいたような気
がしますが語学学習の難解なところでもあろうかと思います。
私は、言語の習得は音読の言葉の中の一部の意味を先生が説明して
少しずつ音声と意味と対応させることが出来て行くようになる。虫
食いの状態がだんだん少なくなって単語の前後のコンテクストから
も理解できていくようになる学習ではないかと思います。毎日一語
ずつでも先生が音の記号に対する意味の説明をしたから少しずつ意
味が分かるようになって有益であったのではないかと思います。

英語のヒアリングマラソンとかいう学習法があるようですが、高価
なテープを何回繰り返しても分からないところは、分らない。初出
の単語は辞書を調べるまで意味は不明である。スペルを見て知って
いる単語でも音では識別していない単語もある。ただ、今までワラ
と聞こえていた単語が何かの説明でwaterだったことを知って少し理
解が進むという程度ではないか。虫食いの状態が意味も合わせて何
度も繰り返しきくことで虫食いが減るものではないのか学習効果に
疑問を持つものです。音声と意味の解説がなければ空の記号はいつ
までたっても理解できない空の状態ではないかと思う。

5.空の記号の度合いを言語間で比較できるとすれば日本語は、よ
り「空」であるのではないか?
同書の指示語の章で日本語の「ひと」を指す言葉が多岐にわたり”
日本語には相手依存の相対的自己規定の傾向がきわめて広く見られ
る。P144”と記載されています。これは、日本人は同質性が高
く社会的黙契が良く出来ているため「空の記号」が意味を持ちやす
くなる現象のあらわれではないかと思います。

使用する立場や関係で同じ記号が違った使い方をする現象は、より
空であると言えます。

5.さて、これら日本語の性格と同様に日本人がより相手依存の相
対的自己規定の傾向が強いことに心配します。
繊細で感受性が鋭いともいえますが日本語は外国語の干渉を受けや
すい言葉であり、日本人は国民であるとも言えます。

長い島国の中で外からの影響を受けにくかった時代は良かったので
すが、強烈なパワーをもつ外国の言葉に正面から衝突しては撥ねか
えされ圧しつぶされてします。
最近の英語の社内公用語問題については、次回議論されるようなの
でここでは述べません。言葉のみならずいろいろな分野で、日本が
外国のパワーに負けてしまう脆弱な相手依存的傾向に危惧します。
顔の良く似た中国、韓国など隣国の強烈な主張に対し謝罪という対
応方法しか考えない戦後60年の他者依存型外交には、限界がある
のではないかと思います。毎回の謝罪は 日本人に”生まれてきて
すみません。”という太宰の原罪意識につながる戦後日本のイロニ
ーでしょうか・

6.変な事例ですが、和食の食事の時に、キムチのような強烈な漬
物を提供されると私は拒否します。強すぎて元来の和食の繊細な味
が消えてしまうからである。私はキムチそのものは、嫌いではない
。焼肉料理などでは、旨いと思う。しかし、日本食にはキムチのよ
うな強烈な味は合わないのである。
中華のゴマ油の強いザーサイは、もう少し抵抗が少ないがやはり、
好まない。しかし、中華料理は好きである。洋食では漬物の位置づ
けであるチーズなどは、更に和食には不向きである。しかし、洋食
も大好きである。それぞれの料理自体を独立して見ると素晴らしい
とおもうが、融和させることは難しい。友愛外交などは理想的に考
えるほど簡単なものではないのである。日本人の片思いに過ぎない。


これら食事に見らえる如く、脆弱な繊細な日本語は、相手依存的傾
向が強いだけに、パワフルな外国語に一気呵成に破壊されていくの
ではないかと危惧します。
隣国との領土問題はどこの国にもある永遠の課題でもある。日本人
としては骨太のしたたかな外交戦略と毅然たる姿勢を望むものです。

小川
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
国拘束の4人、「フジタ」関係者か
 尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件の報復なのか――。


 日本人4人が中国当局に取り調べを受けたとの一報が入った23
日夜。身柄を拘束されたのは、遺棄化学兵器処理事業に携わる中堅
ゼネコン「フジタ」(東京)の社員との情報もあり、同事業関係者
は「日中関係の改善を願い、戦争の負の遺産を清算しようと進めて
きた事業なのに」と衝撃を受けている。

 フジタの現地法人の上海事務所のスタッフは、「日本人社員が4
人拘束されたと聞いている。情報収集を急いでいるが、詳しいこと
はわかっていない」と話した。

 同事業は、旧日本軍が中国各地に遺棄した化学兵器を発掘・回収
し、無毒化する事業で、1997年発効の化学兵器禁止条約に基づ
き、日本政府が費用を全額負担して行うことになった。毒ガス弾の
数は、最も多い吉林省ハルバ嶺で30万〜40万発と推定されてい
る。2012年4月までに処理しなければならないとされているが
、実現は困難になっている。総事業費は数千億円に達する見込み。

(2010年9月24日07時56分  読売新聞)

==============================
Re: チャイナウォッチと言語
From:得丸公明

小川さん、皆様、

−1−
結局、中国人船長を釈放したようですが、どうせなら仙石さんが北京に飛んで
いって、「フジタの社員は日中の友好のための仕事をしていたのだ。それを拉致
するとはなんだ。今すぐ解放したまえ。そしたら、すぐに電話して船長も日本の
超法規的に解放しよう」というくらいのパフォーマンスをしてもよかったのでは
ないかと思ったりしました。「わしゃ知らん」的な無責任さを装ってもなんだか
しらけます。

尖閣の資源開発のための露払い的な中国の今回の仕掛けは、まったく見境ないで
すね。中国の「ならずもの」性を感じる一方で、物質的欲望のパンドラの箱を開
けてしまって、環境・資源などの面で、かなり追い詰められているのではないか
と思ってしまいます。

中国が資本主義化して、現代文明の豊かさを追い求めたことは、人類史を100年
縮めたと言われるかもしれませんね。まあ、おかげでタカの会が活況を呈してい
るともいえるので、開き直って現代文明の「大絶叫マシーン」を楽しむしかない。

あとこれは来週の例会ネタですが、台湾の人たちがこの事態をどのように見てい
るのか、興味あります。台湾人だったら今回のような中国の振る舞いに対して、
どう対応するでしょうか。

−2−
「空の記号」についてのご質問に答えるだけの知識はないですが、アナログとデ
ジタルの違いという点から、思いついたことを。

参考になるかどうかわかりませんが(ことばは情報であり、情報が意味をもつの
は、それを意味へと復元できる回路があるときだけですので)


・アナログ通信というのは、感情を音声化したり、身振りや手振り、おしっこや
臭い、狼煙などがあたる。

・「空の記号」を用いるのがデジタル通信ですが、「空の記号」とは、離散・有
限な一組の記号のことで、電気通信では電位の違いで表現される01のビット、遺
伝子メカニズムでは、AGUC(アデニン、グアニン、ウラシル、シトシン)という
4つの核酸、ヒトの言語では音節がその記号だといえます。

・「空の」というのは、意味から隔離・解放されているということと、いくらで
も複製が自由にできるというところがあります。純粋な表現型 (phenotype)です。

・その代わりに、意味(遺伝子型=genotype, 記憶)へと変換する際に、かならず
情報源符号化・復号化の手続きが必要です。ここに「社会的黙契」が作用するの
かもしれません。

・「情報」は、まさにこの空の記号でつくられたメッセージであり、必然的に情
報を意味へと変換する「回路」が必要とされます。
犬のおしっこや、狼煙は、情報ではないと考えてよいと思います。(情報理論は
そのあたりをきちんと議論していませんが)

・オノマトペは、空の記号を、現実の物理的な形態や音響に即して構成した単語
であり、現実との親和性をもつ。

得丸公明


コラム目次に戻る
トップページに戻る