3746.中国軍拡張と日本の対応



日本で中国の軍事戦略を研究したのは、防衛庁防衛研究所後、杏林
大学教授をした平松茂雄氏が筆頭である。長年、中国の軍事面での
台頭について警告を発していることでも知られる。

東西冷戦終結間際の時期(1988年頃)に、冷戦崩壊後の世界で、中
国が軍事的に台頭することを予感していた数少ない人物であった。

そして、その予測した姿が今、実現化されようとしている。それに
対して、日本政治家の暢気なことが気になる。特に小沢氏の第7艦
隊以外の在日米軍はいらないという主張は現実を無視した主張のよ
うに思える。ここでは、中国の現実をシッカリ見て、今後の日本の
対応策を論じたい。        津田より

0.中国の軍事戦略
1950年からの朝鮮戦争で核使用するぞと米国から脅され、中国
の毛沢東は通常兵器の開発や装備より優先して、1950年代中頃に決
断し、1960年に核開発を始める。

この成果が1965年最初の核実験で、1966年には広島クラスの原子爆
弾を作り、1970年には人工衛星で中距離ミサイルを生産可能とした。
この状況を見た米国は1971年に中国を国連に常任理事国として迎え
ることになる。そして、1972年にはニクソン訪中で米中が友好関係
になる。1980年にICBMが完成し、米西海岸まで飛ばせることができ
た。

この核開発は最初はソ連からの平和利用の核濃縮であったようだ。
それを改良に改良を重ねてできた。このため、世界は当初、プルト
ニウム型の原子爆弾であろうと思ったが、ウラン型の原子爆弾であ
ったことが核実験の残存物を収集して米国は知ったようである。

このことでケ小平は核のバランスが米中ソでできて、均衡が取れた
と見て、1985年から通常兵器の開発に向かうが、1982年の湾岸戦争
を見てハイテク兵器、地上限定戦争用兵器を中心に開発することに
したようである。

このような兵器開発の進行が、軍事ハレードで分かり、1959年では
歩兵中心のハレードであり、1984年では旧型戦車100両が中心であり
、1999年江沢民のハレードでは近代化した軍隊ではあるが、装備の
レベル的には低かった。この時、戦車50両であった。今回の2009年
では戦車38両と少なく、装甲車100両、無人機など非対称戦争に備え
る兵器が中心である。というように相当なレベルに来ていることが
分かる。今後12隻の空母の建設などで、米国の軍備を仰臥すること
になる計画のようだ。

このように60年の長期スパンで見て、中国は国家戦略を見ている。
これと同じように中国は国際的な提携でも長期的な視野で見ている
。中国の友好国はパキスタンとミャンマーであるが、1960年代には
カラコルム山脈の海抜5000Mのタンジュラフ峠を越える中国とパキス
タンを結ぶ道路を完成している。近年、この道路を全天候型にして
いる。まだ、シーレーンということが必要がない時点で中国は、建
設をし始めている。

そして、近年、パキスタンのグワダルに海軍基地を設けて、シーレ
ーンの防衛と、緊急時に道路で石油を運ぶことが出来るようにして
いる。

ミャンマーの軍事政権とは蜜月な関係であり、チャウビーから昆明
までの石油パイプラインを建設開始している。このように国家戦略
の基本は、60年程度の長期に渡る企画が必要である。

このように、軍事とエネルギーの2つが大きな柱であることが中国
の国家戦略を見ていると分かる。

しかも、孫子の兵法を駆使して行うので、世界制覇の意図を気付か
せない間接戦略を取ることに長けている。このため、中国は陸海和
合論を取り、平和的な方法として、意図を隠していた。しかし、近
年、軍事力の整備が確立して、徐々にその意図が見え始めている。

参考資料
3441.(P0056)国家戦略構築の基礎
http://www.asahi-net.or.jp/~vb7y-td/L1/211025.htm

1.中国の国家体制と軍部の構造
 中国の統治機構は、中国共産党独裁で、その下に年1回開催の全
国人民代表者大会(全人代)があり、その下に同じ権限で中央軍事
委員会、国務院、最高人民法院、最高人民検察院がある。

全人代が閉会中は、全人代に代わり常務委員会で決めることになっ
ている。このメンバーが中央政治局の常務委員で9人である。この
常務委員長は呉邦国(太子党)で、胡錦濤(団派)が国家主席、国
家中央軍事委員会主席である。温家宝が序列3位で国務院総理(首相
)である。

このため、戦前の日本と同じで軍事統帥権は国家主席しかなく、内
閣(国務院)の外相が軍部を抑えることが出来ない。この構造がい
ろいろな問題を戦前日本に起こした。外交の2元化が起こり、その
ために国際的な信用を無くすことになる。軍部を抑えることができ
る国家主席が重要なのである。そうしないと、国家主席が戦前の天
皇と同じでお飾りにされてしまう。

しかし、期待も空しく、聞こえるのは、胡錦濤国家主席の軍事把握
がうまく言っていないという噂である。そうすると、どうなるか?
この心配と同じような評論を見つけた。これを見る。

宮家邦彦氏の中国株式会社の研究を引用するが、
中国の軍事力に関する米国防総省の対議会報告に中国人民解放軍の
「新たな歴史的使命」に関する4つの部分である。

●2004年に中国指導部は、「新世紀の新たな段階における人民解放
軍の歴史的使命(原文:新世紀新段階我軍歴史使命)」と題する軍
の基本任務を定めた
●新たな「使命」とは、中国指導部が国際安全保障環境を再評価し
、中国の国家安全保障の定義を拡大する上での調整を行うものであ
り、
●その目的は、共産党統治を強化し、国家発展の戦略的機会と国家
利益を守るための「力による保障」を提供し、中国が世界平和に重
要な役割を果たすことである
●新たな「使命」は、中国の安全保障環境の変化、国家発展の優先
順位、共産党の目的に沿った人民解放軍の任務再編を念頭に置いた
ものであり、
●中国の指導者は、国家発展のために国防力と経済成長との調整を
図るとともに、領土的境界を越えた戦略的利益を確保するため、解
放軍がより大きな役割を果たすよう求めている。

 これだけでは何のことか分かりにくいだろう。もう少し筆者(宮
家)なりの注釈を加えてみたい。

●「国際安全保障環境の再評価」とは、中国の国家利益が既に伝統
的な領土、領海、領空の範囲を超え、海洋、宇宙空間、電磁空間に
まで拡大していることを踏まえたものだ。
●「国家安全保障の定義拡大」とは、人民解放軍が国境だけでなく
、国家利益の境界をも守ること、すなわち、国家安全の利益だけで
なく、国家発展の利益をも守るということだ。
●「党の目的に沿った軍の任務再編」とは、中国内外の困難な状況
の下で、共産党の指導的地位強化のため、人民解放軍がその役割を
拡大するということだ。
●「国防力と経済成長の調整」とは、改革開放政策の下で軍備拡張
よりも経済成長による国家再建を優先したケ小平以来の方針を転換
し、今後は経済成長のため自国の領域を越えた、より大きな役割を
解放軍に認めることだ。

 要するに、中国経済が拡大するにつれ、成長に必要な資源・エネ
ルギーの確保や成長に有利な国際安全保障環境の確立は中国共産党
にとって喫緊の課題となった。(引用終了)

今後は国際的なシーレーンにおいても人民解放軍が政治的(外交的
)影響力を拡大することなったということである。世界的な広がり
を持った軍事活動をするということになったのだ。

日本の昭和史に似たような発想があった。北一輝の「日本改造法案
大綱」(1923年)である。

 「大綱」の中で北一輝は「在郷軍人団ヲモッテ国家改造中ノ秩序
ヲ維持」し、「大日本帝国ノ世界的使命ヲ全ウスル」などと記し、
国家社会主義的な立場から、軍人を中心に、国内変革とアジア解放
を実現する日本の世界史的、文明史的使命について熱く語っている。

北一輝の思想に当時の若い将校は惹かれていった。そして、クーデ
ターが置き、軍部が独走して日本は米国との戦争に向かう。これと
同じ道を中国が歩む可能性を大きく感じている。社会構造が当時の
日本と同じであり、貧農から出てきた血気盛んな若者が軍幹部を構
成しているということである。

2.重税で軍事費を膨張させる中国と、軍事費を削減する米国
 中国はもの凄い重税国家で、
(引用開始)
「今年上半期(1〜6月)の税収は、前年同期比27.6%アップの4兆3349
億元に達した。この勢いが続けば、2010年をトータルすると、税収
は8兆元を超える見込みである」「1元は約13.1円なので、8兆元と言
えば、約105兆円に上る。日本の今年度予算では税収は37.4兆円なの
で、実に日本の2.8倍の税収が見込めるということだ」
(引用終了)

大体、日本と中国のGDPは同じ500兆円であるから、その20%を
税金が取るということになる。日本の税金はGDPの7%である。

米国の軍事費が70兆円であり、中国の軍事費は8兆円程度である
が、1.5倍の軍事費を使っているというので13兆円であり、
日本の国防費4兆円の3倍以上である。

しかし、税収が105兆円もあり、中国は軍事費13兆円でも余裕
がある。空母を10隻程度は持てる計算は正しいのだ。

これに対して、ゲーツ米国防長官は、米軍・国防総省の大幅なリス
トラ案を発表し、国防予算を、今後5年で1千億ドル(約8兆6千
億円)以上削減するとした。この一環として海兵隊の運用の現状や
脅威の多様化を踏まえ、海兵隊の体制を見直すよう、メイバス海軍
長官らに指示した。しかし、このような政策で国防族に評判の悪い
ゲーツ国防長官は11年に辞任することになっている。

しかし、中国の軍備拡張に警鐘を鳴らすのが、米軍当局である。
統合参謀本部議長のマイク・ムレン海軍大将は先月、中国の行動が
「関心の対象」から「懸念の対象」に変化した、述べた。
また、マイヤーズ元米統合参謀本部議長は「「(日米両国は)中国
に『弱い』と思われないような(軍事的)能力を身につけ、相手に
それを理解させなければならない。地域の安定を崩さないためには
力の均衡が必要だ」と語ったが、これは米国軍事力削減分を日本が
肩代わりすることになる。米国より日本が中国に近いので必然的に
そうなる。

中国周辺国家、日本は中国海軍が日本の諸島付近に出現していると
して中国政府に抗議している。オーストラリア国防省は、太平洋に
おける米国の「一極支配」の終えんと、自国の国防への影響につい
て懸念を表明。台湾は、向けられている数千発のミサイルを除去す
るよう中国に要求し続けている。しかし、中国は逆に軍の拡大を行
い、懸念を強めている。

このような背景を考慮して、最近の動向を見たい。

3.最近の動向
中国国防大学の戦略研究所所長を務める楊毅少将は、8月に沖縄、
台湾、フィリピンを結ぶ「第1列島線」に沿った米軍による海上包
囲網を突破する考えを明確にした。

中国は2010年末に航空母艦の建造に着手し、実戦配備は2015年以降
の可能性があると米国防報告にあるとした。元ロシア製ワリヤーグ
で海上演習して、その後に本格的な空母を持つということのようで
ある。そして、2020年までに、複数の空母を保有する見通しだ。

7月には、在沖縄海兵隊のグアム移転は2014年までの移転完了
が困難と米国から通知され、普天間に新型垂直離着陸輸送機MV22
「オスプレイ」を配備することになった。

日本の海上保安庁巡視船と中国漁船が衝突し、船長の逮捕、拘置し
たが、これで中国はガス田交渉を延期した。中国の戴秉国国務委員
(外交担当)は丹羽宇一郎駐中国大使を外務省に緊急に呼び出し、
事態の収束に向けて断固たる姿勢を示した。

また、沖縄本島の西北西約280キロの日本領海で、海洋調査をし
ていた海保の測量船2隻に対し、中国公船「海監51号」が調査中
止を要求した。

このように尖閣列島周辺での日中のせめぎあいが起きている。

4.日本の対応
防衛白書では、中国はわが国の近海などにおいて活動を活発化させ
ている。このような国防政策の不透明性や軍事力の動向は、わが国
を含む地域・国際社会にとっての懸念事項であり、慎重に分析して
いく必要があるとした。

新安防懇報告書では、部隊配置も全国均等でなく、情勢に応じた選
択と集中が必要ということだとして、具体的には、中国海軍が周辺
海域で活発に活動している南西諸島を念頭に、離島への部隊配備も
検討するよう提言している。

このような情勢から、防衛省は、陸上自衛隊の普通科(歩兵)連隊
の一部を、米海兵隊をモデルとする「水陸両用部隊」に改編する検
討を進めている。

そして、中国の軍備増強にアジア・アセアニア諸国が、米国を中心
として一致して中国へ向かおうとしているのに、民主党の小沢一郎
前幹事長は沖縄県に駐留する米海兵隊について、「要らないと思う
」との考えを示した。小沢氏は「米国の戦略も、前線に大兵力を置
く必要がないという判断だ。だから欧州からも引き揚げている」と
強調した。

しかし、欧州はソ連という敵がいなくなり、ロシアは欧州安全機構
メンバーとなり平和が確立できたので米軍は引き上げている。しか
し、この極東には中国・北朝鮮という敵がいるために、この敵とど
う向き合いかを模索している状況である。この状況を小沢さんは理
解していないように感じる。これは日本の将来に大きな禍根を残す
と心配である。

もうすこし、防衛省の軍事官僚という専門家の意見を聞いて、どう
するか検討する必要があると見るが、小沢さんは政治主導というこ
とで、官僚の意見を聞かないという。これは政治的な暴走をしてし
まうことになる。非常に心配である。

しかし、さあ、どうなりますか??
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国務委員、「政治決断」要求=丹羽大使を深夜呼び出し―漁民釈放
へ異例対応・中国
時事通信 9月12日(日)5時41分配信

 【北京時事】中国の戴秉国国務委員(外交担当)は12日午前0時(
日本時間午前1時)、東シナ海の尖閣諸島(中国名・釣魚島)付近で
起きた海上保安庁巡視船と中国漁船の衝突事件で、丹羽宇一郎駐中
国大使を外務省に緊急に呼び出し、「誤った情勢判断をせず、賢明
な政治決断をして、直ちに中国人の漁民と漁船を送還してほしい」
と要求した。中国外務省がウェブサイトで公表し、北京の日本大使
館も認めた。
 この事件で丹羽大使が中国側に呼び出されたのは6日間で4回目。
副首相級の国務委員が大使を深夜に呼び出すのは極めて異例で、漁
民の早期釈放など事態の収束に向けて断固たる姿勢を示した。
 中国外務省は11日未明、対抗措置として9月中旬に予定されていた
東シナ海ガス田問題をめぐる条約交渉の延期を発表。胡錦濤指導部
が菅直人政権に政治決断を求めたことで、日本側も何らかの対応を
迫られそうだ。ただ両国にとって主権が絡み、国内向けに譲歩でき
ない問題だけに日中関係悪化の懸念が高まっている。  
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中国公船が海保測量船に接近、調査中止要求 沖縄沖
2010年9月11日14時42分

 海上保安庁によると、11日午前7時42分ごろ、沖縄本島の西
北西約280キロの海上で、海洋調査をしていた海保の測量船2隻
に対し、中国公船「海監51号」が調査中止を要求した。 

 これに対し、測量船側は「我が国の排他的経済水域における正当
な調査だ」と応答し、調査を継続したという。この中止要求に対し
、日本側は外交ルートを通じて抗議したという。 
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船長拘置に「厳重抗議」、中国、ガス田交渉を延期
2010/09/11(土) 06:25サンケイ 

 【北京共同】中国外務省の姜瑜副報道局長は11日、沖縄県・尖閣
諸島(中国名・釣魚島)周辺で日本の海上保安庁巡視船と中国漁船
が衝突した問題を受け、9月中旬で調整されていた東シナ海ガス田開
発に関する日中両政府の条約締結交渉の延期を決めたと発表した。
中国では船長の逮捕、拘置決定に対する反発が強まっている。
(情報提供:共同通信社)
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海兵隊の新型輸送機配備、日本政府に伝達 米国防総省
2010年9月10日14時52分

 【ワシントン=伊藤宏】米国防総省のモレル報道官は9日、米海
兵隊の新型垂直離着陸輸送機MV22「オスプレイ」について、日
本国内に配備する考えをすでに日本政府に伝えたと明らかにした。
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在沖米海兵隊は不要=小沢氏
時事
 民主党の小沢一郎前幹事長は3日午前のテレビ朝日の番組で、沖
縄県に駐留する米海兵隊について、「要らないと思う」との考えを
示した。小沢氏は「米国の戦略も、前線に大兵力を置く必要がない
という判断だ。だから欧州からも引き揚げている」と強調した。
 小沢氏は2日に行われた日本記者クラブ主催の公開討論会でも、
「できるだけ前線から兵力を引き揚げるということは米国としても
当然だし、私も当然だと思う」と述べている。 
(2010/09/03-11:40)
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防衛白書:10年版(要旨)
◆第2章 諸外国の防衛政策など
 中国は、政治、経済的に大国として着実に成長し続けているため
、軍事に関しても各国が動向に注目する存在となっている。09年
10月の軍事パレードでは、99年と比べて移動式ミサイル、戦闘
車両、航空機などの隊列が増加したほか、早期警戒管制機や無人機
などの先進的な装備品も登場し、軍の機械化および情報化の進展が
内外に示された。

 現在行われている軍事力の近代化は軍の能力を全面的に向上させ
ようとする取り組みであると考えられるが、具体的な将来像は明確
にされていない。中国はわが国の近海などにおいて活動を活発化さ
せている。このような国防政策の不透明性や軍事力の動向は、わが
国を含む地域・国際社会にとっての懸念事項であり、慎重に分析し
ていく必要がある。
毎日新聞 2010年9月11日 東京朝刊
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新安防懇報告書 政治の場で慎重に議論を

政府の有識者懇談会である「新たな時代の安全保障と防衛力に関す
る懇談会」(新安防懇、座長・佐藤茂雄京阪電鉄最高経営責任者)
が、菅直人首相に報告書を提出した。報告書は、政府が防衛力整備
の基本方針を示す新「防衛計画の大綱」を策定するうえで、たたき
台となる。

 今回の報告書は多くの点で、従来の安全保障政策の抜本的転換を
迫っている。

 まず目を引くのは、長年にわたって防衛力の基本的な考え方だっ
た「基盤的防衛力構想」の放棄を求めていることである。基盤的構
想は、冷戦時代のソ連による本土侵攻などを想定し、地域での力の
空白をつくらないよう必要最小限の防衛力を保持するという考え方
だ。

 報告書は「(現在では)本格的な武力侵攻は想定されない」とし
て同構想を「過去のもの」と断じ、情勢の変化を踏まえて多様な事
態に対処する「動的抑止力」の整備が重要だとしている。部隊配置
も全国均等でなく、情勢に応じた選択と集中が必要ということだ。
具体的には、中国海軍が周辺海域で活発に活動している南西諸島を
念頭に、離島への部隊配備も検討するよう提言している。

 さらに、報告書は、日本の平和外交の根幹をなす非核三原則や武
器輸出三原則にも触れている。

 兵器の輸出を事実上禁止している武器輸出三原則では、原則の厳
格な適用のせいで防衛産業が国際共同開発に参加できず、技術革新
に取り残されつつあると指摘し、見直しを求めている。

 しかし、安全保障は防衛力だけでは達成できない。非核三原則も
武器輸出三原則も、平和国家のソフトパワーとして、日本の安全に
大きく貢献してきたこともまた事実である。日本が軍事的な脅威と
ならないと宣言していることが、周辺国との緊張回避にどれだけ役
立っているか、そこを軽視してはならない。

 また、離島など国境周辺での軍備増強は、相手国と局地的な軍備
競争を招きやすい。かえって緊張のレベルを上げてしまわぬよう、
複眼的な検討が必要だ。

 ここからは政治の出番である。民主党政権は年末に向け、政権獲
得後初となる防衛大綱策定を始める。民主党の安保政策は必ずしも
はっきりしていないが、平和国家の基本線を外さずに、政治の責任
で多角的な議論を進めてほしい。 
=2010/08/31付 西日本新聞朝刊=
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陸自、歩兵連隊の「海兵隊化」検討 離島防衛の強化狙う
2010年8月31日3時1分

 防衛省が、陸上自衛隊の普通科(歩兵)連隊の一部を、米海兵隊
をモデルとする「水陸両用部隊」に改編する検討を進めていること
がわかった。中国の急速な軍事力近代化などを背景に、九州や南西
諸島の離島防衛を強化する狙い。年末に策定される新たな防衛計画
の大綱でも、離島防衛強化を打ち出す方針だ。 

 九州・南西諸島の離島は自衛隊配備の空白地帯になっている。陸
自西部方面隊(総監部・熊本市)が管轄する長崎・対馬から沖縄・
与那国島まで南北1200キロ、東西900キロの区域には、
約2500の離島がある。このうち陸自部隊が常駐しているのは沖
縄本島(第15旅団)と対馬(対馬警備隊)だけ。残りは離島防衛
を専門的に担う西部方面普通科連隊(西普連、長崎県佐世保市)が
カバーしている。 

 対馬と与那国島の直線距離は青森県と熊本県の距離に相当する。
西部方面隊に勤務経験がある陸自幹部は「これだけ広い管内を西普
連だけでカバーするのは、現実には厳しい」と語る。 

 陸自が「水陸両用部隊」への改編を検討しているのは、九州南部
を担当する第8師団(熊本市)の一部や、第15旅団の中の普通科
連隊。陸上での有事対応や災害派遣といった通常任務に加え、占拠
された離島に海から近づいて上陸・奪回したり、後続部隊のための
陣地を確保したりする機能をもたせる考えだ。 

 モデルは米海兵隊。陸自は2006年1月から、米カリフォルニ
ア州の演習場に、西普連や第8師団、現在の第15旅団などから部
隊を派遣。ゴムボートを使って海岸に上陸したり銃を背負って泳い
だりといった離島防衛を想定した共同訓練を、米海兵隊と続けてき
た。 
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『中国国防費12.8兆円』 米 年次報告書
2010年8月17日 東京新聞夕刊
 【ワシントン=岩田仲弘】
 中国政府は二〇一〇年度の国防費を約七百八十六億ドル(約六兆
七千億円)としているものの、〇九年度の実際の国防関連費は千五
百億ドル(約十二兆八千億円)以上になったと推計。軍拡の透明化
に「適度な改善」は見られるものの「依然不明確な部分が多く、誤
解を生む可能性が増す」と一層の透明性向上を求めた。
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中国、2010年末に空母建造に着手の可能性…米国防総省
2010/08/17(火) 10:42サーチナ 

  米国防総省は16日に発表した年次報告書の「中華人民共和国の
軍事と安全保障の展開」で、中国は2010年末に航空母艦の建造に着
手する可能性があるとの見方を示した。

  実戦配備されるのは2015年以降と考えられる。中国は、2020年
までに、複数の空母を保有する見通しだ。

  中国は、航空母艦を発着する固定翼機の操縦士50人を養成する
ことを決めたとみられる。当初は陸上をベースにした訓練を4年間行
い、次に訓練の主体を海上に移す。ウクライナから購入した旧ソ連
の大型空母「ワリヤーク」を利用する。同船は大連で改修作業を行
っている。(編集担当:如月隼人)
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「中朝に見合う防衛力を」 元米統合参謀本部議長と会見
2010年8月17日1時8分

 来日中のマイヤーズ元米統合参謀本部議長は16日、東京都内で
朝日新聞のインタビューに応じた。日米両国は、中国や北朝鮮の軍
事力増強に見合った形で能力を向上させる必要があり、それを怠れ
ば「抑止力が減衰する」と述べた。 

 マイヤーズ氏は「中国が脅威だと言っているわけではない」と断
ったうえで、「中国は軍事大国への歩みを始めた」と指摘。「(日
米両国は)中国に『弱い』と思われないような(軍事的)能力を身
につけ、相手にそれを理解させなければならない。地域の安定を崩
さないためには力の均衡が必要だ」と語った。 
(編集委員・加藤洋一)  
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海兵隊体制見直し指示=上陸戦限界、中国意識も−米国防長官

 【ワシントン時事】ゲーツ米国防長官は12日、カリフォルニア
州で演説し、海兵隊の運用の現状や脅威の多様化を踏まえ、海兵隊
の体制を見直すよう、メイバス海軍長官らに指示したことを明らか
にした。将来の在沖縄海兵隊の体制にも影響を与える可能性がある。
 ゲーツ長官は見直しの理由として、海上から敵地に上陸する伝統
的な海兵隊の作戦が、対艦ミサイルの拡散により通用しなくなる恐
れがあることや、海兵隊の展開地域がアフガニスタンやイラクなど
内陸部に拡大、部隊も肥大化していることを挙げた。
 同長官は新型対艦ミサイルを警戒するために、海兵隊員を乗せた
艦船は上陸する海岸から最大100キロ以上離れた地点まで後退し
なければならない可能性も指摘した。
 国防総省はここ数年、イラク、アフガン戦争で海兵隊の規模を
17万5000人から20万人に増員したが、ゲーツ長官は海兵隊
の人員削減も示唆した。(2010/08/13-16:53
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米国務長官と太平洋軍中枢部が対中姿勢を硬化─試される行動 
8月12日 マイケル・オースリン WSJ

【ホノルル】米国は南シナ海の領土問題に関与する、とのクリント
ン国務長官の発言の分析にアジアウォッチャーはこの数週間、忙殺
された。長官の対中姿勢の硬化を歓迎しているのは軍のエリートで
、とりわけ太平洋で前方展開している関係者が多い。

これがオバマ政権の対中政策の根源的な変化を示しているかどうか
は疑問だ。米太平洋軍はこの数年間、中国の不透明な軍事力増強が
米国と同盟国に及ぼす脅威よりも、中国との「対話」についてより
多くの見解を表明していた。しかし、今は違う。ロバート・ウィラ
ード太平洋軍司令官は今年行われた議会証言で、中国の「衰えない
」軍事力増強について指摘し、「(太平洋での)われわれの行動の
自由と衝突するよう計画されている」ようだ、と結論付けた。

 統合参謀本部議長のマイク・ムレン海軍大将は先月、中国の行動
が「関心の対象」から「懸念の対象」に変化した、述べた。パトリ
ック・ウォルシュ海軍太平洋艦隊司令官は、中国の領土権の主張は
、南シナ海の重要な貿易航路を「リスク」にさらしている、と話し
た。太平洋軍の見解には歴代大統領の姿勢が概ね反映している。

 筆者が先週話を聞いた太平洋軍に配属されている当局者と民間従
業員の多くが、この見方に同意している。こうした前方に展開する
関係者はホノルルとワシントンの上役に対し、「いかなる海域をも
中国に渡すことがないよう」行動によって発言をバックアップする
よう期待している。前方の当局者は、南シナ海での中国の領土権の
主張を引き合いに出した。中国はフィリピンとベトナムに所属する
島を不法に占拠し、インドネシアやベトナムの沖合いで漁船と小衝
突を起こしてる、と。

 米当局者の最近の厳しい発言は、少なくとも太平洋における米国
の同盟国には有益だ。これらの多くが中国の興隆とこの地域への米
国の関与について懸念している。日本は中国海軍が日本の諸島付近
に出現しているとして中国政府に抗議している。オーストラリア国
防省は、太平洋における米国の「一極支配」の終えんと、自国の国
防への影響について懸念を表明。台湾は、向けられている数千発の
ミサイルを除去するよう中国に要求し続けている。

 オバマ政権にとっての次のステップは、言葉と行動を合致させる
ことだ。太平洋軍と東南アジア諸国は、米政府のレトリックが行動
を伴わない可能性を懸念している。米国は年間350回の港湾訪問を実
施し、様々な国との数多くの合同海上訓練を主催し、先月にはイン
ドネシアと軍事協定を復活させたが、これらは事後的な反応に過ぎ
ないとして、懸念する声が上がっている。こうした声の背後に、ゲ
ーツ国防長官による予算削減の動きや、今後四半世紀にわたる米潜
水艦と水上艦の就役数減少を予想させる造船トレンドがある。

 米国は同盟国に対する伝統的なハブ・アンド・スポーク・アプロ
ーチを再考することで、こうした懸念を軽減することが可能だ。米
国と地域における最も緊密なパートナーである日本、韓国、オース
トラリアとの3カ国、および4カ国協議の開催を一層強く推し進める
必要がある。協議はミサイル防衛や対潜水艦戦、海上パトロールと
いった中核的な安全問題に焦点を当てるべきだろう。同時に米政府
は戦略地政学上、重要な地点に位置するインドネシア、ベトナム、
マレーシアなどと戦略的な結びつきを強化する必要がある。

 クリントン長官の発言は対中政策のみならず、安定性を維持し、
安全を追求し、さらにアジア太平洋地域により民主的な将来をもた
らす米国の責任に対する政策の新リアリズムを提唱しているのかも
知れない。長官の発言は良いきっかけだ。この発言に命を吹き込む
ことが、次の課題だ。
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米軍・国防総省の大リストラ案 5年で8兆円以上削減
2010年8月10日14時1分

 【ワシントン=村山祐介】ゲーツ米国防長官は9日、米軍変革の
ための計画立案などにあたってきた「統合戦力軍」を廃止すること
などを柱にした米軍・国防総省の大幅なリストラ案を発表した。ア
フガニスタン増派などで膨張が続く国防予算を、今後5年で1千億
ドル(約8兆6千億円)以上削減するための具体策として打ち出し
た。 

 アフガニスタンとイラクで二つの戦争を続ける米国の国防費はこ
の10年で倍増し、2011会計年度(10年10月〜11年9月
)の当初予算では7千億ドル(約60兆円)を超え、米国史上最悪
の財政赤字の大きな要因とされている。 
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中国軍、第1列島線突破を断言 海上摩擦増加も
 【北京共同】中国国防大学の戦略研究所所長を務める楊毅少将は
7日までに、中国メディアに対し「中国の海洋進出は必然で、どん
な包囲網も海軍の歩みを阻止できない」と述べ、沖縄、台湾、フィ
リピンを結ぶ「第1列島線」に沿った米軍による海上包囲網を突破
する考えを明確にした。

 第1列島線について軍の内部文書では最近「国益拡張にとり最大
の障害」と反発が強まっているが、軍幹部が公言するのは珍しい。
沖縄近海の東シナ海や太平洋で今後、海上摩擦が頻発しそうだ。
2010/08/07 19:33 【共同通信
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沖縄海兵隊グアム移転、2014年断念 米が最終報告書
2010年7月28日15時0分

 【ワシントン=伊藤宏、村山祐介】米国防総省は28日付で、在
沖縄海兵隊のグアム移転に伴う基地拡張工事をめぐる環境影響評価
の最終報告書を公表した。工事による急激な人口増加を抑えるため
、日米両政府が合意している2014年までの移転完了が困難であ
ることを公式に認め、事実上断念。報告書は、移転完了期限を
2017年に遅らせれば、人口増加を抑制できるとしている。 
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中国軍事費は公表の1・5倍 軍幹部、初めて認める
 中国人民解放軍の幹部が昨年秋にまとめた内部報告書で、中国の
10年度の「軍事費」は、公表の「国防費」5321億元(約6兆
9千億円)の約1・5倍に上る7880億元(約10兆2千億円)
と明記していることが分かった。中国筋が8日、明らかにした。
また報告書は「軍事費」が10年後にほぼ倍増、20年後には3倍
増となると予測している。

 同筋によると、この報告書は「軍の後方勤務」に関する内容で、
まとめたのは国防大学教官を務める幹部。「軍事費」の規模につい
て「国内総生産(GDP)の約2・5%」としているが、中国の表
向きの「国防費」は近年「GDPの1・4%程度」(全国人民代表
大会の李肇星スポークスマン)で推移している。(共同)

2010/07/08 10:24 【共同通信】
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中国建国60年 日米MD突破可能 ミサイル戦略、進化明らか 
2009/10/02 産経新聞 東京朝刊 

 【ワシントン=山本秀也】北京で1日に行われた国慶節の軍事パ
レードについて、米国の軍事専門家らは、米全土への核攻撃が可能
な移動式大陸間弾道ミサイル「東風31A」の公開など、中国のミ
サイル戦略が新たな段階を迎えたことに注目している。在日米軍基
地を含む日本、インドといった中国の周辺に対しても、ミサイル防
衛(MD)網を突破する「攻撃手段の多様化」が進展していること
が明らかになった。 

 今回登場した弾道・巡航ミサイルは5種類。台湾を狙う短距離型
(東風11Aなど2種)のほか、中距離弾道ミサイル「東風21C
」と対地巡航ミサイル「長剣10」が、東風31Aとともに「ミサ
イル戦略の柱」として米国で関心を集めた。 

 「東風31A」は、10年前の軍事パレードに現れた同型の射程
を延長するなど、大幅な改良を加えたものだ。米東海岸までを狙う
中国の核ミサイルは、1984年に公開された「東風5」に続くも
のだが、核戦力の主体は、固定サイロから発射される旧型から移動
式へと移行。中国はさらに射程圏の広い「東風41」の開発を急い
でいる。 

 「東風21C」は、もともと日印への抑止力として開発された中
距離弾道ミサイルの改良型だ。米国のミサイル専門家リチャード・
フィッシャー氏によれば通常弾頭を使った多弾頭型になっており、
「日米が共同開発するMDシステムの突破が狙いだ」という。巡航
ミサイルによる迎撃も困難だ。 

 「東風21」シリーズでは「D型」が開発中だが、これは米海軍
の空母など航行中の艦艇を撃破する初の「対艦弾道ミサイル」
(ASBM)とみられている。 

 地上の戦略目標を狙う弾道ミサイルを水上艦攻撃に転用する中国
の構想は一見、奇抜だ。しかし、米海軍出身で元国防総省日本部長
のポール・ジアラ氏は、(1)きわめて短時間で目標に到達(2)
終端段階で精密誘導される弾頭の迎撃は困難−として、この新兵器
を米軍を中国に近づけさせない「接近拒否戦略」の柱とみる。 

 中国のミサイル戦力について、ジアラ氏は、「米中の軍事構図は
、台湾問題をはさんで向き合った状況から、米中の直接対峙(たい
じ)へと転換しつつある」と、状況の変化を指摘。異なる射程や多
弾頭化など、多様な選択肢を備えた中国が、攻撃目標の距離や形態
を問わない「全方位的な作戦能力」を目指しているとして、日米同
盟が中国の軍事的な脅威に正面から対処する枠組みを持たないこと
に強い懸念を示した。
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2010年09月10日
日本の帝国陸海軍と人民解放軍の類似点その新たなる使命とは
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/4418
宮家邦彦 〜中国株式会社の研究〜その75  2010.09.10

 前々回のコラムでは、中国の軍事力に関する米国防総省の対議会
報告の注目点について書いた。
その際、字数の都合でご紹介できなかったのが人民解放軍の「新た
な歴史的使命」に関する部分である。
今回は米国も注目するこの重要な概念について、詳しくご説明しよう。

米国防総省が注目する新概念

 事前記者ブリーフでは国防総省幹部が今年の報告書の「4つの新機
軸」の筆頭に挙げていたが、なぜか内外主要メディアは報じていない。

 その概要は以下の通りだ。

●2004年に中国指導部は、「新世紀の新たな段階における人民解放
軍の歴史的使命(原文:新世紀新段階我軍歴史使命)」と題する軍
の基本任務を定めた
●新たな「使命」とは、中国指導部が国際安全保障環境を再評価し
、中国の国家安全保障の定義を拡大する上での調整を行うものであ
り、
●その目的は、共産党統治を強化し、国家発展の戦略的機会と国家
利益を守るための「力による保障」を提供し、中国が世界平和に重
要な役割を果たすことである
●新たな「使命」は、中国の安全保障環境の変化、国家発展の優先
順位、共産党の目的に沿った人民解放軍の任務再編を念頭に置いた
ものであり、
●中国の指導者は、国家発展のために国防力と経済成長との調整を
図るとともに、領土的境界を越えた戦略的利益を確保するため、解
放軍がより大きな役割を果たすよう求めている

領土を越えて役割を拡大する解放軍

 これだけでは何のことか分かりにくいだろう。もう少し筆者なり
の注釈を加えてみたい。

●「国際安全保障環境の再評価」とは、中国の国家利益が既に伝統
的な領土、領海、領空の範囲を超え、海洋、宇宙空間、電磁空間に
まで拡大していることを踏まえたものだ。
●「国家安全保障の定義拡大」とは、人民解放軍が国境だけでなく
、国家利益の境界をも守ること、すなわち、国家安全の利益だけで
なく、国家発展の利益をも守るということだ。
●「党の目的に沿った軍の任務再編」とは、中国内外の困難な状況
の下で、共産党の指導的地位強化のため、人民解放軍がその役割を
拡大するということだ。
●「国防力と経済成長の調整」とは、改革開放政策の下で軍備拡張
よりも経済成長による国家再建を優先したケ小平以来の方針を転換
し、今後は経済成長のため自国の領域を越えた、より大きな役割を
解放軍に認めることだ。

 要するに、人民解放軍は2004年に、本格的な軍備拡張を通じて共
産党や国家の利益を拡大する役割を担うことを正当化する「新たな
歴史的任務」につき胡錦濤政権から「お墨付き」を得たということ
である。

 中国経済が拡大するにつれ、成長に必要な資源・エネルギーの確
保や成長に有利な国際安全保障環境の確立は中国共産党にとって喫
緊の課題となった。今後はこの分野でも人民解放軍が政治的影響力
を拡大することは間違いないだろう。

 ちなみに、従来米国防総省の対議会報告書は、人民解放軍の「物
理的能力」に焦点を当てた記述が多かったのだが、今回はNSCからの
指示もあり、意図的に報告書の書き方を変えていると聞いた。

 オバマ政権上層部が中国の「戦略概念の変化」の重要性に注目し
始めたとすれば、実に結構なことである。日本の偉い人々の一部に
は、「米国が注目しない限り、注目しない」という、とんでもない
悪癖があるからだ。

海軍で実践される「新たな歴史的使命」

 「新たな歴史的使命」は人民解放軍海軍が既に具体化している。
2009年4月21日、呉勝利・人民解放軍海軍司令官は、新世紀の新たな
段階における海軍の「歴史的使命」として「和諧海洋(調和する海
洋)」なる新たな海洋秩序を追求すると述べている。

 呉司令官によれば、「和諧海洋」とは開放的、実務的、平和的、
発展的、協力的な概念だそうだ。

 しかし、「和諧海洋」が「歴史的使命」の一部であるとすれば、
それは人民解放軍海軍が、従来の領海の範囲を超え、中国の国益を
守るため、その活動範囲を拡大することにほかならない。

 どうやら、この「新たな歴史的使命」に基づく「和諧海洋」なる
概念は、近年人民解放軍が唱える「第1、第2列島線」や米国防総省
が「アンチ・アクセス」「アクセス拒否」戦略と呼ぶ最近の中国海
軍の様々な動きの理論的根拠になっているようにも思える。

 人民解放軍はただ闇雲に軍事費を増やし装備を近代化しているの
ではない。むしろ、中長期的国益の観点から、しっかりとした理論
武装を行ったうえで、具体的目的を念頭に必要な軍備増強を粛々と
進めていると見るべきだ。

 実に立派なアプローチであり、日本も見習うべき点が多いと思う
が、残念ながら、中国海軍の唱えるこの「和諧海洋」が米国の求め
る「海洋の自由」と調和することは恐らくないだろう。

旧日本軍との類似点?

 以上、長々と人民解放軍の「新たな歴史的使命」について述べた
のには理由がある。日本の昭和史にもこれと似たような発想があっ
たことを、ふと思い出したからだ。

 北一輝の「日本改造法案大綱」(1923年)などはその典型例であ
る。
 「大綱」の中で北一輝は「在郷軍人団ヲモッテ国家改造中ノ秩序
ヲ維持」し、「大日本帝国ノ世界的使命ヲ全ウスル」などと記し、
国家社会主義的な立場から、軍人を中心に、国内変革とアジア解放
を実現する日本の世界史的、文明史的使命について熱く語っている。

 なぜ当時の若い将校は北一輝の思想に惹かれていったのか。

 1920年代、世界は軍縮ムードに包まれていた。日本でも帝国陸海
軍の将校・下士官10万人以上がリストラされた。当時軍人は「税金
泥棒」と罵られ、朝晩の通勤では背広を着用し、軍隊の存在意義そ
のものが問われていたという。

 巷では政治不信が高まり、街には失業者が溢れていた。しかも、
米国は対日強硬姿勢を一層強めていた。

 このような中で、日本国内、特に軍内部で政治に目覚めた青年将
校による「変革運動」が生まれていったことはご承知の通りだ。

 一方、中国では、1980年代以降の改革開放時代に人民解放軍兵士
の待遇が悪化した。経済自由化が貧富の差を生み、高度成長は格差
拡大と腐敗蔓延をもたらした。

 最近の中国における「金権主義」はおよそ共産主義の理念とは相
容れない。

 しかも、日米は今も「中国封じ込め」政策を止めようとしない。
中国内外のこうした諸矛盾を解決するには、今こそ軍人が役割を果
たさなければならない。貧しい農家から人民解放軍に入隊した生真
面目な若手将校たちの多くがこう思い悩んだとしても不思議はなか
ろう。

歴史は繰り返すのか

 あくまで仮説ではあるが、当時の日本軍人と現在の人民解放軍将
校は「自己目的の喪失」という、よく似た厳しい境遇にあったので
はないか。

 だからこそ、軍隊の存在意義を正当化する「新たな歴史的使命」
が必要とされた(もしくは作り出された)のではないのか。

 当時の帝国陸海軍と現在の人民解放軍では歴史的背景が異なる、
歴史を弄ぶのもいい加減にしろ、とのお叱りは甘んじて受けよう。
それでも筆者には、社会主義、軍隊、歴史的使命というキーワード
が揃うこと自体、「偶然」とは思えないのである。

 北一輝の思想は、天皇親政の下で国家改造を目指し、列国との対
決を志向した、いわゆる「皇道派」に受け継がれた。
その「皇道派」は2.26事件以降衰退し、代わって「統制派」が実権
を握る。その後の昭和史について説明は不要だろう。

 今の人民解放軍内部に昔の日本の「皇道派」や「統制派」のよう
な極端なグループが存在するとは思いたくないが、正直なところ、
実態はよく分からない。万一、似たようなグループが存在するとす
れば、空恐ろしいことである。

 個人的には、今回ご紹介した帝国陸海軍と人民解放軍の「歴史的
使命」の比較など、「的外れ」であることを心から願っている。
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同じGDP規模なのに税収は中国が日本の2.8倍
2010.08.23 Monday 政治・経済 インターネットで読み解く
 今年、GDPで中国が日本を抜き去ることになる話は前々から言われ
てきたことで、当たり前すぎて今更コメントすることもありません
。しかし、関連するネット記事を眺めているうちに驚くべきデータ
に行き当たりました。経済発展著しい中国はもの凄い重税国家だっ
たのです。「『重税国家ランキング世界2位』中国を揺らす『税金論
争』」(北京のランダム・ウォーカー)に書かれた数字は是非とも
メモしておきたいと感じました。 

 「今年上半期(1〜6月)の税収は、前年同期比27.6%アップの4兆3349
億元に達した。この勢いが続けば、2010年をトータルすると、税収
は8兆元を超える見込みである」「1元は約13.1円なので、8兆元と言
えば、約105兆円に上る。日本の今年度予算では税収は37.4兆円なの
で、実に日本の2.8倍の税収が見込めるということだ」 

 これは息をのむ数字です。リーマンショックで大規模な財政出動
をする余裕はここに用意されていたのでしょうか。また、物価水準
が格段に安いので、これだけ搾り取っても国民は生活できるという
ことでしょうか。さらに恐るべきことが後段に書かれています。 

 「米中の税制度を比較研究している中国人学者が、このほど"告発
"したことだが、税金を徴収するためのコスト(主に税務署職員の人
件費)が、アメリカは税収の0.6%に過ぎないが、中国は、最大8%にも
達するという」「昨年の税収のうち、日本円にして5兆5000億円もの
大金が、税務署職員のポケットに消えているのである。まさに"官僚
大国"の正体見たりである」 


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