3740.台湾で感じた日本浪漫派のイロニイの結実



台湾で感じた日本浪漫派のイロニイの結実
From: tokumaru

皆様、

蔡さんが話題にされた台南の「鎮安宮 飛虎将軍廟」について、
いろいろと考えておりましたが、これこそが保田與重郎のいったイ
ロニイの正体ではないかと思うようになりました。

靖国神社にお参りして、「君が代」と「海ゆかば」を歌ってきまし
た。台南で祝詞として使われているのなら、靖国神社でもきっと英
霊たちに喜んでもらえると思ったからです。

そのときに考えたのですが、天皇陛下は人間宣言して神から堕ちて
、靖国神社にも参拝しなくなった。

一方で英霊たちは靖国で祀られるのみならず、アジアの街で本物の
神として地元から慕われている。

これこそがイロニイではないでしょうか。

保田の言おうとしたイロニイとは何か。戦時中にあっては、お上や
軍部の言っていることがきれいごとであるかもしれない(本当は嘘
だらけかもしれない)けれども、おまえたちは言葉通りに美しく生
きなさいということだったのでは。

そしてそれは戦争が終わったときに、天皇を神の座から引きずりお
ろし、兵士たちを神へと格上げした。

もしかすると天皇陛下が靖国神社に参拝しなくなったのは、英霊た
ちから、人間になったあなたはもうここに来なくてよいと言われた
からかもしれません。我々はあなたに魂を鎮めてもらう必要のない
本当の神であるから、一般の国民の敬意だけで十分ですと言われた
のでは?

こういった視点から、保田與重郎のイロニイを読みなおしてみると
どうなるか。興味深いです。

得丸公明

台南の町を守りし飛虎将軍神なりたまい廟に祀らる

海ゆかば神なりたまへ朝な夕な民の祈りを受け止めたまえ

礼拝のために流れる君が代に合わせ何度も国歌を歌う


台南で神なりたまう英霊の写真を抱いて靖国参る

靖国の英霊死後も我が国を堅く守るを君しらざるや

「君が代」の君は帝にあらずして神なりたまう英霊なりき

英霊が喜ぶならば奉らん高らかに「海ゆかば」を歌う

靖国で歌えば御霊よろこびて鳩は飛び交い風鈴は鳴る

一介の兵士の御霊祀られてすめらぎ人に戻るイロニイ

海ゆきて神なりたまふ英霊は人に堕ちたるすめらぎ俟つや

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From: "松本輝夫

皆さん

僕にとっては、台湾・台湾人・台湾文化に関する無知が決定的に思
い知らされたことが、最大の収穫であり、今後韓国・朝鮮半島とい
つも並置しながら、日本のありよう含めて世界を眺めていく眼差し
が得られたかもしれないのが、とても有難いことだと思っています。
これまでは琉球までは視野においていたつもりでしたが、沖縄と台
湾は風土的には近接していても歴史も言語も文化も民族構成も(縄
文まで遡れば同一かもしれませんが)全くの異文化であることもよ
くわかりました。

そして何といっても印象に残ったのは、ということは今後の切実な
テーマとして残ったのは親日なんてレベルをはるかに超えた過激な
までの愛日ぶり(だからこそ今の日本、日本人への深い失望と怒り
を含んだ)であり、これはまさにとりあえずは得丸さんが書いてい
たようにイロニーとしか表現しようがないものと感受してきた次第
です。

これは別に超インテリである蔡さんのみに感じたことではなく、
台南でガイドを務めてくれた陳さんからも街をあるいているときに
すれ違う人々の表情からも感じることができたことです。

ちなみに花園空港で買ってきた台湾語人気歌謡のCDを流してみたら、
なんと四分の一くらいが日本の歌(お座敷小唄、月がとっても青い
から、南国土佐をあとにして等々一昔前のヒット曲)というのにも
驚くとともに、これは韓国ではけっしてありえないことだなと
感じ入ることでもあります。

鈴木孝夫先生の本をプレゼントした際、
本のタイトル(「日本語教のすすめ」「日本人はなぜ日本を愛せないのか」)
をみただけで涙が出ると言い放った蔡さんのラディカルな愛日ぶり(その底に
渦巻く現代日本への憤激)と
得丸さんが朝早くに車を飛ばして参拝してきたという
鎮安堂に祀られて台湾の人々から神として遇されている杉浦少尉とを重ね合わながら
この厳しゅくにしてイロニカルな事実に慄くことから
台湾学習を始めなければ、と思っているところでもあります。

で、ひとつ質問ですが、
たとえば、マカオでポルトガル人が神さまになって祀られていたり
香港で英国人がそうなっているケースはあるのでしょうか?
単なる外国人墓地に、ということではなく、
まことの神として尊崇を集め、祀られているケースです。
同じく海に近い漢民族としてマソ(漢字がうまく出てこないのでゴメンなさい)信仰は
おそらく共有しているはずですが、どうなのでしょうか?
誰か詳しい人がいたら教えてください。

この一点だけとっても研究テーマになりうることだとも思いますが
ともあれ、台湾は韓国に劣らず興味深い地域だとの認識を得られたのが
今回合宿の最大の富でした。

蔡さんから、あと三週間もすれば、船便で
かつての日本統治時代の清水公学校(小学校)の「総合教育読本」が
届くはず。
得丸さんとは、これが届いたら、ぜひ一度
忘年会になるかもしれませんが、テキストにしようね
と話しています。
おそらくは我々がいかに日本についても無知であるかを
思い知らされる機会となることでしょうが。


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