3736.ゲゼルの国際通貨同盟案



ゲゼルの国際通貨同盟案
From: Eiichi Morino

ケインズの国際清算同盟案はよく知られている。じゃあ、ゲゼル案はどんなもの
なの?

それはInternational Valuta association 頭字を採ってIVAと呼ばれて
います。

非常にシンプルなものですが、ドイツが返済不可能なゴールドマルク建て賠償義
務を負わされ、いずれドイツ産業は復活するとみた投機筋が紙幣マルクを買い持
ちしていたのが、ハーフェンシュタインの通貨拡張がインフレを生み、投機筋が
1923年(の6月だったかな)、最終的に匙をなげ、全面的なマルク売りポジ
ションに殺到して史上希なるハイパーインフレに突入した時代、金本位による苛
烈なインフレとデフレによる景気調節の時代、ありうべき国際経済の受容可能な
シンプルな枠組みの提案といえるものです。

物価水準安定化のための貨幣量管理プラス手形貸付による融資の国際的構想プラ
ス、ケインズ案のバンコールのような独自な国際決済通貨イヴァの創造というと
ころかな。こうした国際的枠組みのなかでの各国内国経済における内国通貨管理
(指数通貨や消滅貨幣など)との関連は後述。

・・・

○ イヴァ加盟国は貨幣単位Ivaを採用する。

[M注記:貨幣呼称、単位を採用するとは、表券主義の伝統にたって代表貨幣がそ
の通貨単位によることを意味する]

○ この新貨幣単位は、たとえばゴールドのようななんらかの物質に依存する静
態的なものではなく、ダイナミックな通貨政策に基づく。つまり、貨幣・金融政
策によって常にその価値が維持されるものだ。

○ Iva採用国は、安定通貨のキホンたるテオフィール・クリステン理論(
絶対通貨本位)を目標とした通貨・金融政策を実行する。

○ この絶対的通貨本位のキホンにあるのは、安定した物価水準であり、
その統計整備を加盟国は同じ手法で行う。

○ この絶対的通貨本位をターゲットとした積極通貨政策は貨幣数量説
を基礎とする。
[M:注記:これを統計的な手法においても発展させたのが、I・フィッシャーの
『貨幣購買力』]

つまり、一般物価水準に狂いが生じた場合は貨幣供給の増減により物価水準の現
状回復を図る。

○ Iva加盟国は内国貨幣制度は個々に固有のものであってよいが、上記の基本原
理を尊重する。

○ この共通基盤によって内国通貨政策が展開せられれば、貿易不均衡やこれに
起因する為替変動を除去しうる。

○ 人為によらざる原因による貿易不均衡はこれを許容する。

○ しかしこの不均衡を除去するために、特殊な国際的本位紙幣をIva
通貨同盟は発行し、加盟国間貿易決済に使用でき、輸出入当事国の貨幣
と同一相場で法定不換紙幣として受容されるものとする。

○ イヴァ本位紙幣はベルンにおかれるイヴァ局によって印刷製造される。

○ イヴァ紙幣の発行高は為替相場管理の目的に充てられる範囲とする。
たとえば内国紙幣流通残の20%。

○ イヴァ局は加盟各国に給付したイヴァ紙幣に相当する為替手形を受け取る。
この手形は、当該国が通貨政策のよろしきをえず、貿易差額の継続的逆調
となりイヴァ紙幣の払底を見るようなとき、プレミアム分を負担することでしか
イヴァ紙幣を入手しえなくなったとき、その日から手形には利子が発生すること
とする。

[M注記:一種の輸入赤字抑制効果ねらいかな]

○ イヴァ紙幣は少額額面で取引に好便なように発行される。その過不足は政府
に把握しやすく通貨政策展開に役立つ。

○ 加盟各国はイヴァ紙幣と自国紙幣を同一相場で流通させる方策を講じること
が自国の利益につながるとして行動するようになる。

○ イヴァ通貨が輸出超過によって流入し続ける加盟国は自国通貨の
流通量を減じ、逆にイヴァ通貨が流出する場合は自国通貨比率を引き上げること
になる。

○ イヴァ通貨の国際的通貨政策が安定通貨による絶対的本位から乖離
するときは加盟各国による原因究明と対策を協調してとる。

○ イヴァ通貨の管理費はイヴァ中央発行所が負担し

○ この管理費は、加盟国のイヴァ紙幣受領高に比例して負担される。

○ イヴァ通貨同盟加盟は欧州諸国にかぎらない。

○ 脱退は、イヴァ通貨受け入れの代わりに差し入れた手形を弁済すれば
いつでも可能。

○ イヴァ通貨同盟の清算はイヴァ局の手形弁済が総て行われ、それに
よって回収したイヴァ紙幣を廃棄するだけである。
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貨幣数量方程式、ゲゼリアンの場合
From: Eiichi Morino
                

思い返すとずいぶん以前のことになりますが、マネタリストの議論が流行ってい
たこともあり、本MLで貨幣数量方程式に関係する議論が盛り上がった記憶があり
ます。まあMLではそう突っ込んだ話も無理なところもあり、それぞれが肩入れす
る経済学説の信念に属するような次元で話は収まるということでしたでしょう
か。

話は、MV=PTの左辺の問題で、通常のように貨幣の流通速度Vを一定とせず、消
滅貨幣の導入によってVが変わるような場合、Mの量が増えてインフレになるのと
どこが違うかということであったように記憶しています。

簡単に言えば、たとえば年率5%のインフレと年率で5%減価する貨幣の仕組み
とはどこが違うの?ということでもあります。

この問題はかなり解答を書くのがやっかいな問題で、90年代にフランスの極左
ケインジアン(笑)のミシェル・エルランに連絡がついたとき、彼がふっかけて
きた問題でもあり、MLで話題が出たときはやれやれと思ったものでした。

しかし昨今、単純素朴なインフレターゲット論や右辺にあたる名目GDP(PT)の
伸びを期待する議論などが跋扈していて、ゲゼリアンはどうなのといわれそうで
す。

MLの顔ぶれも様変わりしているでしょうから、こちらのサイドからみた貨幣数量
方程式をちょっと話題にすることにします。

この貨幣数量説の考えは古くからあり、我が国では三浦梅園にまで見出せます
が、ゲゼリアンの場合は、ゲゼルの同志でバイエルン革命でも行動を共にした数
学者T・クリステンの仕事といえるでしょう。1916年版(初版)の『自然的
経済秩序』には末尾に、生産高や地代、賃金等の分配問題に関するクリステンの
モデルが付録で掲載されているように、かなり両者の考えは共通していることを
予想させます。

当時のゲゼリアンが使っていた数量方程式は、クリステンの手になる下記のよう
なものです。

G・U/W=P

ここでGは貨幣量、Uは貨幣の流通速度、Wは商品供給、Pは物価で、それぞれを表
す独語の頭字を採っています。

誰でも知っていることは貨幣経済、信用経済を持つ市場経済では、価格が決定さ
れるのは需要と供給によるということです。この需要は、その社会にどれだけ貨
幣があるか、つまり貨幣量によって表されます。同時にまた、ゲゼリアンの場合
はマネタリストと違って、U、つまり貨幣の流通速度によっても増減するとしま
す。経験的にUを一定と扱いうるということと、需要の増減因子として貨幣の流
通速度を押さえることは区別されるべきですね。また現金を使わない取引があっ
ても、その契約・履行は代表貨幣をもって実行されますので、G・Uの値を増加さ
せます。

もしPの変動、つまり物価変動があるとするとあらゆる支払契約に影響します。
たとえば100円を1週間後に支払うという約束は、1週間のうちに物価が騰貴
し100円の購買力が落ちれば、その分実質的に減少します。また物価の変動は
景気や失業率、商品在庫の変動をもたらすと考えます。つまり、ゲゼリアンはP
の変動があらゆる経済契約履行の基礎にある貨幣システムに大きな規定的力を有
していると考えました。そこで上記の式は右辺のPを決定する事情を左辺で与
え、左辺から右辺を読む格好になります。

Pの変動は変数Gからも貨幣の流通速度Uからも商品量Wからも起こりえます。

Pの騰貴はインフレ。下落はデフレ。

この変動は安定した経済システムの基礎たる貨幣システムに打撃を与えているこ
とでもあります。それを回避するためには物価の安定をはかる必要があります
が、そのためにはインフレ時の生産増、デフレ時の商品量削減が考えられます
が、前者は常になしうるわけはなく、後者は失業と貧困をもたらすでしょう。

そこで、物価の安定は貨幣サイドから取り組まれねばならない。(この点ではマ
ネタリストと一緒)。GとUをコントロールしなくちゃならない。(この点ではマ
ネタリストと異なる。マネタリストはGの管理だけ)。

そこでこのGとUの管理の基本に何をおくかです。当時は金本位制でしたが、これ
をとらず、多数の商品価格から計算された物価指数を採用する「絶対的通貨本
位」(クリステン)を主張。この考えはF・ソディも導入したし、I・フィッ
シャーが発展させることになる(『安定通貨』)。

長くなるのでこのへんで一区切り。長文ご容赦。
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From: 田中

こんにちは
最近の森野様の投稿、非常に興味深く読ませて頂いております・・・ただ、私の頭で
はなかなか理解が難しく・・・といったところがもどかしいです^^;


>簡単に言えば、たとえば年率5%のインフレと年率で5%減価する貨幣の仕組みと
はどこが違うの?ということでもあります。

以前から疑問に思っていました。
インタゲが可能なら、それで良いのではないのか・・・・と、

MV=PTというのは、完成した式だと思っていましたが、他にも考えうる要素があった
のですね・・・知りませんでした(汗)

また、減価する通貨を流通させる場合でも、自由土地とのセットでないと、本来の意
味をなさないのかなぁ
通貨だけが減価するのであれば、価値のあまり変わらない財、「土地」や「金
(gold)」などを買うことで財の退蔵が可能になってしまう

また、政府通貨を減価通貨で云々・・・という話も巷にはありますが、為替の問題を
どう取り扱うのか・・・・???とか
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From: Eiichi Morino 

> 以前から疑問に思っていました。
> インタゲが可能なら、それで良いのではないのか・・・・と、

最近の勇ましい議論を吠え立てる方々も、ケインズの一般理論、
第21章、物価の理論を勉強なさったはずと思うんですがねえ。

再読してみると興味深いですね。

「欺瞞的な単純さ」(ケインズ)が跋扈していますから。





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