3734.小沢氏に問う「日米中正三角形論」の具体像



小沢氏に問う「日米中正三角形論」の具体像 ?
この国を何処へ向かわせたいのか??   佐藤

◆小沢氏の代表選出馬◆
民主党代表選(9月1日告示、14日投開票)に、小沢一郎氏が出馬を
決めた。

菅総理と一騎打ちとなる模様だ。

今後の展望としては、長丁場の選挙戦の間、小沢氏の政治資金問題
については連日の報道で国民世論の批判意識は麻痺して行く一方、
菅政権の円高・景気対策が目に見える形で奏功することは難しく、
小沢氏の勝算が高いかと思われる。

もし、小沢氏が代表に選出された場合、連立工作によって他党の幹
部を総理大臣に担ぐことや、菅総理をそのまま続投させる可能性も
語られているが、何れにせよ小沢氏が実質的な最高権力者となる。

代表選の争点として、内政問題に関しては、マニフェストで謳われ
た子供手当にせよ、農家の戸別所得補償にせよ、地方分権にせよ、
その他の政策にせよ、それらを守るにせよ変えるにせよ、何れも既
に諸外国で行われている政策であり、それとの比較においての得失
とその財源としての特別会計への斬り込み、加えて成長戦略の具体
化が徹底的に議論されるのが生産的だということに尽きる。

問題は外交問題であり、なかんずく日米関係、日中関係である。

小沢氏が勝利した場合、予てから唱えている「日米中正三角形論」
が実行に移されると見られるため、代表選の争点とは成り難いもの
の、筆者はこれについて今一度の点検が最も必要であると考える。

◆米中の動きと日本の戦略◆
日米中関係に関連し、普天間基地移設問題では、前鳩山政権が吹き
飛び、幹事長だった小沢氏が辞任した。

21世紀前半に掛けて、相対的に米国が衰退し、中国が勃興すること
がほぼ確実に予見される。

米国の極東等への安全保障への関与は、ファイナンス要因から縮小
して行かざるを得ないだろう。

この状況の中で、小沢氏は「日米中正三角形論」を唱え、米国は
これを阻止しようとしている。

これらを踏まえ、以下に今後の米中の動きを予測するとともに、対
応する日本の戦略についての若干の私見を示したい。

●中国は、経済成長に応じて規模に見合う覇権を求めて行く。

 米国は覇権を縮小して行くが、G2として出来るだけ有利な状況
で中国と覇権を二分して行くことを求める。

●米国と中国は、上記の覇権移行の条件を巡って鬩ぎ合っている。

 日本は好むと好まざると、何れ米国の庇護の下から離れざるを得
ない。

 その際の日本のスタンスは簡略化すると、(1)中国の覇権に組み込
まれる、(2)自ら覇権を取りに行く、(3)自主防衛を確立し米国寄り
のスタンスを取る、(4) 自主防衛を確立し中国寄りのスタンスを取
る、(5)自主防衛を確立し米中の間で等距離を取る、の5つの選択肢
となる。

●小沢氏の唱える「日米中正三角形論」は、上記の(5)自主・等距離
に当たり、言わば太平洋を舞台とした三国志に於ける「天下三分の
計の現代版」といえる。

しかし、民主化していない中国の行動は将来予測困難である上に、
歴史的に国家間の三角関係は疑心暗鬼を生み安定したものではない。

●日本としては、前述の(1)中国覇権は容認出来ず、(2)独自覇権は
実現性が乏しく、(4)自主・中国寄り及び(5)自主・等距離はリスク
が高いため、現下の現実的な選択肢としては(3)自主・米国寄りが最
適解であると思われる。

 日本が明確に自主防衛化を進めつつも、なお当面は米国寄りのス
タンスを維持するものである。

日本がしっかりした直角を構成した上で、日米を短辺、日中を長辺
とした言わば「日米中直角不等辺三角形論」(三角定規を斜辺を下
にして倒したイメージ)とも言えようか。

◆G2と「正三角形論」◆
2008年11月にCIA等で組織する米国国家情報会議が発表した「世
界潮流2025・変化した世界」や、今年2月に米国防総省が発表した
「4年ごとの国防計画見直し」(QDR)は、中国等の台頭への懸念
を示すとともに、日本等の同盟国への安全保障の負担を求めている。

一方、例えば、実務レベルではあるがキャンベル国務次官補は、今
春の朝日新聞のインタビュー記事の中で、米中日の関係は米国を中
心とした二等辺三角形でなければならないと発言している。

即ち、米国内に、(A)同盟国の力を借りながら中国と対峙するという
のと、(B)中国とより緊密になり同盟国を相対化する、というそれぞ
れを主張する2勢力があり、その間で米国が揺れている。

これに対し、小沢氏は、以前からの持論ではあるが、日本が扇の要
となる「日米中正三角形論(もしくは二等辺三角形論)」を主張す
るばかりか、昨年12月の民主党大訪中団のように大胆な実践に打っ
て出て、米国の神経を逆撫でした。

一連の小沢氏の政治資金問題での現下の苦境は、これらと無関係と
は言えまい。

小沢氏の「日米中正三角形論」は、イメージが明確であり、米国を
中心とした二等辺三角形論への牽制・アンチテーゼとしては意味が
あるが、前述したように非常にリスキーなものである。

(三国志では、蜀と呉は滅び、その後、魏を引き継いだ晋が天下を
統一した。)

前述の「日米中直角不等辺三角形論」は、これに比べ切れ味が悪く
、少なくとも言葉だけではシャープなイメージが湧き難いが、そう
した上でインド・ロシア・アジア諸国・EUとも結び、如何なる状
況の変化にも対応出来るようして置くのが現下に於いては取り得る
唯一の現実的戦略であると筆者は考える。

以前、小沢氏は「日本に駐留するのは第七艦隊だけで十分」と発言
し物議を醸したが、これは「オバマさん、安全保障のファイナンス
大変でしょう、日本が自分の防衛はやりますから、その代わり日本
の主体性を認めてくださいね、どうですか?」という 大リーグ・
ボール級の曲球でありかつ直球であったが、そのプロセスとスケジ
ュールが示されておらず内外に様々な疑心暗鬼を生んだ。

◆大義を四海に敷かん◆
「日米中正三角形論」にしても、「日米中直角不等辺三角形論」に
しても、自主防衛を高める以上、具体的にどの程度の「自主防衛」
を目指すのか、防衛費増加をどうするのか、武器輸出三原則を防御
的兵器については緩和し防衛費負担を圧縮するのか、日米安保をど
うするのか、日米の軍事情報リンクをどうするのか、安全保障基本
法・憲法をどうするのか、核の傘をどうするのかという具体像とス
ケジュール化が必要とされる。

またその三角形は、安全保障とビジネスでは異なる形を用意する必
要があるかもしれない。

「我が英国には永遠の同盟も永遠の敵も存在せず、ただ英国の国益
あるのみ」という19世紀英国の首相パーマストン子爵の言葉がある。

けだし、覇権国家の2世紀前の名言ではある。

しかし、現代の国際情勢は「絶対的な敵も絶対的な味方も存在せず
、相対的な敵と相対的な味方があるのみ」というような複雑な状況
である上、元より日本に権謀術数を用いる能力などないし奏功しな
い。

日本の外交は、「国際的な大義を伴う長期的国益の追求」のコンセ
プトの下、国際世論を味方に付け、主体性をもって臨み、ただブレ
ずに行く以外にない。

筆者の考えは、日本が自主防衛の度合いを強化し、より主体性を高
めることについては、小沢氏の考えと同じであるが、米中を手玉に
取り駆け引きを行うが如き「日米中正三角形論」は、危険なギャン
ブルのように映る。

近い将来のイラン攻撃や北朝鮮暴発、中国の不動産バブル崩壊に続
く動乱等の可能性も噂されている。

小沢氏の「日米中正三角形論」はそれらに備えてのものかもしれな
い。

また、自主防衛を高める以上、中韓の反発は避けられず、それを緩
和する狙いがあるのかも分からない。

しかし、策士策に溺れると言う言葉があるが、非常に危険なゲーム
に国民を巻き込む可能性がある。

小沢氏は、「日米中正三角形論」の具体像を、この国を何処に向か
わせたいのかを国民に対してより明確に語る義務がある。
                    以上

佐藤 鴻全

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