3682.森林エネルギーの可能性と限界



  森林エネルギーの可能性と限界
                    平成22年(2010)7月5日(月)
                  「地球に謙虚に運動」代表 仲津 英治

日本列島は梅雨の最中です。梅雨前線は台湾よりの中国大陸から日本列島を
またぎ、一部太平洋にまで伸びています。そして雨と交互する日差しは緑を
成長させます。

去る4月26日に私は、「オイルピークと里山エネルギー資源」と題して、里
山の近くに木材工場兼木質ペレット工場を建設し、里山の再エネルギー化を
図る提言を致しました。27名の方々から貴重なコメント等を頂きました。
この場を借りて改めてお礼を申し上げます。上記提言は「地球に謙虚に運動」
ホームページの代表発信欄に掲載しております。

皆様から頂いたコメントの中に、「里山エネルギー環境総合的配慮と一定の
ルールの下に開発されないと、里山もすぐに禿山になってしまう」との意見
が複数の方からありました。今日、緑滴る六甲の山々も明治の終わりごろま
で樹木が僅少で白っぽく見えたそうですね。

中世以降の過剰な山地利用が六甲山を荒廃させ、人々は洪水に悩まされてい
たのです。明治35年(1902)に水源保全の観点から始まった植林事業により、
六甲の緑は甦りました。里山の再資源化の際もこの教訓を忘れてはなりません。

私は、この視点から里山のエネルギーを再活用するにしてもどの程度可能な
のか推計してみることにしました。何事も限界を見極めておくことが大切で
す。

日本人は、原油換算で年間一人当たり平均4トンのエネルギーを使っている
とのことです(IEA、世界銀行データ )
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/4020.html。
そして一般家庭では4.35トンの炭酸ガスを排出しています
(温暖化ガスインベントリオフィス2007)。

欧州主要国、日本、韓国のエネルギー消費量は似通っています。
この一人当たり原油換算で4トンというエネルギー消費量は、1973年のオイル
ショックまで日本の高度成長期といわれる時期に、日本だけでなく、米国、
ドイツ、フランスなど多くの国でエネルギー消費量が急拡大した結果です。
我々は高度成長期前の1960年頃のエネルギー消費、年間一人当たり原油換算
で1トン程度の生活に戻る努力をしないと後世には大変なエネルギー不足時代
を遺すことになりましょう。そして今や、中国、インドなど新興国がエネル
ギー多量消費国家に急速に変貌しつつあります。供給量が消費量を上回りつ
つあるのです。

 4トンの原油から得られるエネルギーはどれくらいでしょうか。原油1リッ
トルで9,400キロカロリー(Kcal 以下同じ、成人男子の一日食糧エネルギー
消費量の約4倍)の熱量を発します。原油1kgは1.161リットルですから、1トン
=1,000kgの原油からは、9,400*1,161=1,091万Kcalもの熱量を得ることが
できます。そして原油で4トンともなれば4千万Kcalのエネルギー消費量です。
人口1.27億人を掛けますと、日本全体で年間約5,000兆Kcal以上のエネルギー
消費量となります。この内約半分は石油で賄っているのです。

 この数字は、里山エネルギー資源で賄える規模のものでしょうか。
 日本の森林面積は国土の3分の2(世界平均30%)を占め、森林蓄積量は50
億立米にも達し(林野庁森林資源状況調査2002より推計)、世界トップクラス
の森林王国です。年間成長量は8500万立米、年間伐採量は2200万立米、国産
材自給率は22%(2007)とのことです(NPO法人22世紀やま・もり再生ネット
より)。http://www.22centsaisei.net/renkei/renkei_01.html

 日本の森林は勾配が急峻な山岳地帯に多く、全てを木材、燃料に活用すること
は困難でしょうが、仮に年間成長量8500万立米の内、約半分の4000万立米を燃
料として活用できたとすれば、どれくらいの熱量が得られるか概算してみます。
燃料木材4000万立米→*平均比重0.5t/m3 重量換算→2000万トン→200億Kg
木質ペレット1kg当たりの発熱量は木の種類によって異なりますが、
高めの約5,000Kcal/kgとします。→200*108*5,000→100兆Kcal

 年間5,000兆Kcalのエネルギー消費量に対し、利用可能な森林エネルギーはせい
ぜい100兆Kcalという計算結果になりました。計算間違いであって欲しいと何回
も検算しましたが、日本列島で成長する樹木の半分を切り出し、平地に運び降ろ
してペレットのような燃料に変えることができたにしても高々2%しかエネルギ
ー需要を賄えないという数字となりました。実際は深山幽谷の森林を切り出すこ
とは困難であり、自然破壊にもつながります。せいぜい里山と呼ばれる人家に近
い森林から木材を切り出し、材木、燃料にするしかありませんし、多くの木材は、
まず家屋、木工製品として使う方が、炭酸ガス固定の意味からも大事でしょう。


 この計算結果は、私の「オイルピークと里山エネルギー資源」の提言に対し、
規制をしっかり働かせないと里山を再び禿山にしてしまう可能性が大であるとの
識者の指摘を裏付けるものです。石油が急減し、高騰した場合、瞬間風速を追い
かける経済成長市場主義は、数年で緑をこの国から無くしてしまう位の環境破壊
を生みそうですね。原油4トンは、木材ペレット8トンに相当し、体積にして16立
米、家の周りにペレットを積み上げるような感じですね。

 やはり我々は、石油漬けから脱皮し、省エネ・省資源に徹し、現在の生活の在
り方(文明の在り方)を根本的に変えないと、持続する社会は実現できないよう
です。そして里山は樹木の生長する範囲内でやはり有効利用すべきでしょう。

 今回の参議院議員選挙などでは、エネルギー問題は全く焦点になっていません
が、6年の任期を有する参議院議員を選ぶ選挙です。もっと中長期的視点の論戦
があっても良いと思ったのは私一人だけではありますまい。

「地球に謙虚に運動」代表


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