ワールドカップと人類の誕生 From:得丸公明 皆様、 このところ南アに関するテレビを観ての感想です。 とくまる サッカー・ワールドカップは、人類誕生の地で行なわれるのだ サッカーのワールドカップが南アフリカであるおかげで、毎日南アフリカのこ とがテレビで報道されている。予想通りだが、「治安が悪い」ということもしつ こく報道されている。現地の受け入れ側が「ホテルから一歩でも出ると危険で す」ということの背景には、なるべく面倒なことが起きないで欲しいという願い もある。南アフリカの人々が普通に街中を歩いているのに、どうしてそんなに危 険、危険と騒ぎたてるのだろうか。 テレビの報道することを真に受けてはならないと、つくづく思う。8年前の WSSD(ヨハネスブルグサミット)のときも、同じように治安のことで騒がれてい た。「4歳以上84歳以下の女性は全員強姦されます」と外務官僚がまことしや かに説明会で言っていたが、そんなことは起きなかったし、黒人居住区の生活は すこぶる平穏で、南アフリカの人々はとても友好的だった。 普段はあまりテレビを見ない私でも、南アフリカを扱った番組(たとえば6月6 日夜のNHK総合の「ダーウィン」)を見た。ダーウィンが扱っていたのは、南アフ リカの沖合いに大西洋とインド洋がぶつかる潮目があり、そこで大量に鰯が生ま れてインド洋のほうに移動する、その鰯を水鳥やイルカやサメやオットセイが追 いかけるという科学もの。番組の中で何度も南アフリカの海岸線の地図が出てい たけど、その海岸に人類が生まれた可能性のある、最古の現生人類遺跡があると いうコメントはなかった。 このインド洋に面した海岸線は、今から1億4500万年前に、ゴンドワナランド が分裂したときに生まれたという。もともとは9kmもある厚い砂岩層であったの だが,その砂岩層の中のもろい層(石灰岩など)が、温暖化していた時代に海食に よって穿たれたそうで、インド洋に沿って海抜20mのところに洞窟がある。ここ の中期旧石器時代(今から13万年前から6万年前)や新石器時代(1~2万年前)の人類 遺跡がいくつも点在している。 なぜゴンドワナランドが分裂したのかということは、まだ誰も明らかにしていな い。プレートテクトニクス理論は、もともとプレートが割れていたという説明な ので、分裂の原因は論じていない。マントル対流説やマントルプリューム説は、 地中からマグマがわきあがってくる、まことしやかな図を示して、マントルが大 陸を分裂させたかのような説を展開している。 実はこのマントル対流説の根拠となる考えが、ウェゲナーの「大陸と海洋の起 源」の第四章で紹介されている。 「考慮に値する地質学的事実が存在する。クルースによって記述された南アフリ カの大スケールで稀な『花崗岩溶融物』は、地球の歴史のある時代に、花崗岩の 融点等温線が局所的に地表面のすぐ下まで押し上げられたことを示している。し たがって、この頃には、60ないし100キロメートルの深さの岩石がとけてい たにちがいない。 このことをジョリーは次のように説明している。放射能による熱のために、大 陸ブロックの下で余分の熱がつくられ、温度が上がっていく。やがて融点に達す ると融解がおこり、ブロックが浮き上がる。」(竹内均訳、講談社学術文庫版、 pp108-9) これがマントル対流説の起源である。この大規模な花崗岩溶融物のおかげで、 ヨハネスブルグは高度1500mの高地にあるのだ。 しかしながら、この地に花崗岩溶融物がどうしてあるのかということについて は、別の考え方がある。ここには世界最大・最古・最深の隕石衝突跡であり、ユ ネスコ世界自然遺産のフレデフォートドーム(Vredefort Dome)があるのだ。これ は今から20億年前に、小惑星が地球に衝突して、直径300kmほどの穴が開いたの だという。 そして、最近になって、今から1億4500万年前に別の小惑星が、現在のボツワ ナと南アフリカの国境付近に衝突したことが明らかになったのだ。モロケン (Morokweng, S 26°28' E 23°32', 145.0M ± 0.8)というところだ。 これが花崗岩溶融物を生み出した原因だとすると、マントル対流説そのものが 根拠のないものということになる。地質学という学問は、科学というよりも宗教 に近いのかもしれない。信仰の世界だから、すでにそれを信じている人の既成概 念を改めることはできないだろう。だけど、南アフリカの隕石衝突跡の歴史と、 マントル対流説の由来を比較して、マントル対流説・マントルプリューム説が間 違っているのではないかと思えてくるのは私だけであろうか。 南部アフリカの海岸線が、このモロケンを中心にした半円形をしていることは グーグルアースを見て確かめられる。グーグルの地図にモロケンの緯度経度を入 力すると、モロケンの場所が明らかになる。 そして、ゴンドワナランド分裂の時期が、モロケン衝突の時期と重なることを 考えると、分裂は隕石衝突によって引き起こされたのかもしれないと思う。 そうすると、現生人類が生まれたかもしれない洞窟、最古の現生人類遺跡クラ シーズ河口洞窟も隕石衝突のおかげで生まれたということになる。なんとも壮大 な話ではないか。人類は祝福された動物であったのだと思う。 ワールドカップが、200万年前の原人であるアウストラロピテクスの化石が発 見され、10万年前の最古の現生人類遺跡がある、人類にとって二重の意味で発祥 の地で行なわれているということを、言及するメディアはあるだろうか。ちょっ と見回すと、たくさんのブッシュマンの洞窟壁画もあるのだ。それだって絵にな る素材である。 サッカーの試合よりも、南アフリカが人類誕生の地であることを人類が共通の 知識とできるかどうかに私の興味はある。 (2010.6.8)