3645.CASフリージング・チルド・システム



カンブリア宮殿でCASが紹介されていた。スーパーのオーケース
トアや大丸や松坂屋などが、このCASを用いた新鮮グルメを出し
ている。このCASを開発したのが、アビー社長の大和田哲男であ
り、彼を「FORBS」で、Mr.Freezとして紹介されている。しかし、
15年前に開発したが、日本では長く認められなった。

そして、世界20カ国以上に特許を持ち、アメリカ、メキシコ、ブ
ラジル、ドイツ、フランス、タイ、ロシアだけでなく、アフリカな
どからも引く手あまたになっている。世界中何処にでも、旬の食材
を年間を通して届けることが出来るわけで、世界中の流通を変革す
る発明かも知れないのだ。

CASとは、「細胞が生きている」。CASフリージング・チルド・シス
テムのことで、従来の『冷凍』システムとは異なる磁気を駆使して
急速冷凍する理論から開発された全く新しい『凍結』技術なのだ。

従来の冷凍食品で指摘されていた、チルド食品と比較しておいしく
ない、食感が悪くなる、冷凍臭が気になる、退色して自然の素材の
美しさが失われる、また添加物を使用せざるを得ないなどの問題が
解決している。CASは、食の世界の常識を変えていく可能性がある。

「CAS」の語源は、Cells Alive System (細胞が生きている)という
意味。凍結しても細胞が破壊されず、解凍後に鮮度が生き生きとよ
みがえることから名づけましたようだ。CASでは、磁気を使って
、食品の中の水の分子を振動させながら凍らすので、水の分子が結
合しないでそのまま凍る為、回りの組織を壊さない。

このCASで鮮度を落とすことなく5年以上もの保存も可能だとい
う。さらにこの冷凍技術は臓器保存などの医学の分野にも応用され
、大学などで研究が進められている。

このCASで凍らせれば、生き物の臓器も冷凍保存できるようにな
る。番組の中では、猿から卵巣を取り出し、CASで冷凍し、何日
か経過した後、その卵巣を、元の猿に戻したところ、生殖器として
正常に機能したらしい。

今まで離島などの流通ハンデを抱えた地方では、農業・漁業などの
産物が、鮮度を保ったまま都市に流通せず、第一次産業が疲弊して
いた。しかし、大和田はCAS冷凍技術を地方へ持ち込み、全国へ
の流通販路を開拓してきた。

島根県の隠岐島では獲れたての生ガキや白イカを凍結するCAS工
場を設立して、すでに東京のすしチェーンへの流通をスタートさせ
た。町には職場ができたことで活気が蘇り、さらには町を出た若者
も戻り始め、Uターン・Iターン者が、人口の1割以上に達したと
いう。日本の田舎を変えるテクノロジーである。

実は大和田 哲男社長は開発に関してはズブの素人だったのだ。

1966年、父の経営していた大和田製作所に就職し、営業と開発の部
門を立ち上げた。当時は高度成長期の真っ只中で、飲食店が増え、
厨房機器も作れば売れる時代だったが、大和田さんは違和感を感じ
た。

だが高卒ゆえ、技術に関しては素人のため、職人にかじりつきイロ
ハを学び、その頃から厨房機器の中でも冷凍機に目を向けた。

そして1975年、試行錯誤の末、ケーキ用急速冷凍機を開発した。当
時、生クリームを冷凍させるのは不可能、とされていたことを解消
した。

これがお菓子の本場フランスへも輸出され、世界の食品業界が大和
田さんの発明を絶賛したが、あるフランス料理の三ツ星シェフが大
和田さんにこういう。「この冷凍機は肉や魚には全然ダメですね。
解凍したらドリップが出てうま味が失われます。」

そこで大和田さんは過冷却という現象に目をつけた。水は静かに冷
やしていくと氷点下でも凍りません。これに振動などの衝撃を加え
ると瞬時に凍ってしまう。この現象を人工的に作ることが出来れば
理想の冷凍機が出来ると考えたでした。

磁力を使った極弱いエネルギーで水の分子を振動させながら過冷却
の状態を作ると、水の分子は集まらずにそれぞれの場所で凍り、細
胞膜を壊すことはないことに注目して、実験したが何度も失敗を重
ねた。

そして、1995年、細胞を活かしたまま冷凍する“CAS急速冷凍機”の
開発に成功したのです。

素人から始まった男が、世界最高の冷凍技術を生み出した瞬間でし
た。

「開発は学問的な裏づけを知らずに、かえって素人がやるほうが、
ワイドにモノを見れるのではないか、と思います。」と謙虚に語る
大和田さんは世界の絶賛と尊敬からミスターフリーズ(Mr. Freeze)
と呼ばれるのです。

このCASに見えるのは、「必要は発明の母」と言われるが、実は
発明が莫大な需要を生み出すのだと村上龍は編集後記でいっている。


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