3604.オイルピークと里山エネルギー資源



オイルピークと里山エネルギー資源

           平成22年(2010)4月14日(水)
             「地球に謙虚に運動」代表 仲津 英治

 日本列島も桜前線が北上していますが、また寒さが戻って来ました。
地球温暖化とはやはり気候変動をもたらすようですね。今日はエネルギー
問題で発信させて下さい。

1.石油生産が頭打ち=オイルピーク
 私は、平成14年(2002)に「地球に謙虚に」という本を著す過程で、地球
は有限であるとの認識を持ち、エネルギー資源の将来性を勉強しました。
そして現実にアメリカではハバートという人の予言通り1971年に原油生産
が頭打ちし(米語オイルピーク、英語ピークオイル)、石油輸入国に転じ
たことを知りました。石油100%輸入国日本の将来は如何?と、危機感を
持っていたのです。

 石炭を液化すればよいというような単純な意見に疑問を持っていた私は、
平成20年(2008)3月のびわ湖フォーラム「滋賀の持続可能な社会を考える」
で、講師のもったいない学会会長石井吉徳東大名誉教授から、エネルギー
の質という概念を伺ったのです。EPR=Energy Profit Ratioという数字で表
せる“エネルギーの質”です。具体的には投入エネルギーと得られるエネル
ギーの比で表わされます。眼から鱗が落ちる思いでした。

 石井氏によれば、1940年代アメリカのテキサスで盛んに石油が産出されて
いた頃、その比は1;100であったとのこと。つまり1の投入エネルギーで
100のエネルギー(石油)が獲得できていたのです。開発初期の油田は自噴
する、つまり地下の圧力で石油が吹き出ていたので、人間はそれを汲取る
だけで良かったのです。しかし、大きな油田でも石油の自噴が継続するこ
とはありません。いずれは地下の油田に圧力を掛けて(エネルギーを使って)、
石油を掘り出すことになります。結果今の世界全体の石油のEPRは40を切っ
ているとのこと。また、50億バレル(1バレル=159リットル)以上埋蔵量
がある油田を巨大油田と呼ぶそうですが、1970年以降、巨大油田は発見さ
れていません。

 そして石井会長は、2005年5月に-オイルピークが既に来た、つまり世界
の原油生産は頭打ちしており、しばらく高原状態が続くが、いずれ原油は
減産に至り、中国、インドなどの新興発展国の石油需要がウナギ登りにな
る中、石油価格の大幅上昇は避けられないと強調され、これは地球温暖化
より深刻な事態となると、警告されていました。その後私はもったいない
学会に入会し、色んな情報を頂いています。

 参考 エネルギー資源の質を考える  


 前述の石炭の液化のEPRは0.5〜8.2。カナダに大量にあると言われるオイル
サンド(土砂に原油が混ざっているもの)のEPRはせいぜい1.5で、原油を取り
出した土砂を自然環境に戻す洗浄エネルギーを考えるとエネルギー資源になる
か疑問だと、石井会長は言っています。我家でも実践している太陽光発電装置
のEPRは2だそうで、今後技術開発が進んでこの値が向上することが期待され
ます。

 しかし、石油のように高カロリーで、便利で使いやすいエネルギーはありま
しょうか。現代文明は、石油と電気という2大エネルギー源で成り立って言え
るでしょう。その基礎が揺らぎ始めているのです。

 原油価格は上がって来ています。1973年の第1次石油ショックの前、原油価格
は僅か1バレル4ドルでした。その後乱高下を繰り返し、今は1バレル70〜80ドル
です(80ドルとして1バレル=159■、1ドル=\90として計算すると、¥45/■)。
国際情勢による価格変動が大きいようですが、基本的に価格は需要と供給のバ
ランスで決まりますから、今後中長期的に石油価格は上がることはあっても下
がることはないと覚悟すべきです。

 日本は、エネルギー資源を98%輸入しています。食糧輸入量は9000億トンキロ
(1トンの貨物を1キロ運ぶと1トンキロ)と世界最大で、世界2位の米国、韓国の
3000億トンキロを大きく離しています。これらを成立させてくれているのは石油
です。

 我家では、太陽光発電装置&太陽温水器も設置していますが、給湯、暖房など
に灯油を使っています。2009年には412■、ここ4年間で毎年平均415■の消費量
です。今冬灯油価格は、ガソリンスタンドで\67〜69/■、配達で¥82/■ですが、
何時までこの値段で、そして制限なく買えるであろうかと思うようになりました。
石油輸入量が減れば、配給制になる可能性もあります。
 周りを見ると、緑の多い県です、滋賀県は。この緑は豊かな自然を維持してく
れている原点ですが、エネルギー源にもなりえます。消費者としても真剣に考え
るべき時が来ていると思ったのです。
 
2.里山のエネルギー資源化
 今も各地で二宮金次郎の銅像を見かけますね。彼が背中に背負っているものは
燃料の薪です。江戸時代はエネルギーの高価格時代で生活費の内、燃料費が14%
も占めていたと、何かで読んだ記憶があります。今通常の家庭では数%のオーダ
ーでしょう。二宮金次郎は薪を売っては学資に当てていたのです。薪の産地は、
住まいの近くの里山でした。エネルギーを近場で得ていたのです。農村部では
プロパンガスが供給され始める昭和35年頃まで、燃料源は里山でした。大阪市の
我実家でもお風呂は昭和63年頃まで、薪で沸かせるようにしておりました。
 
 これから、エネルギー不足そして高価格時代を迎えるにあたって、私は、里山
のエネルギー再資源化を提言致します。
 背景としては、もう一度整理しましょう。下記の通りです。
・オイルピークを迎え、エネルギー源として中長期的には最重要である石油が
 減産状態になり、価格上昇が起こりつつあること。
・石油より長持ちすると言われている、天然ガスも石油で運ばれて来ている事。
・農村部に多いプロパンガスは、石油精製過程で生産されている燃料であること。
・後数百年あると言われる石炭の液体化は、大変なエネルギーとコストが掛か
 ること。
・石油を産出するのに投入されるエネルギーが段々大きくならざるを得ず、エ
 ネルギーの質が下がり、価格が上がって行くこと。

 一方、日本は世界一森林面積割合の高い国で国土の3分の2以上を占めています。
そして、森林体積量は50億立米もあり、年々4千万〜8千万立米も成長していると
のことです。太陽の下で成長する草木を活用する範囲内で生きる方向に切り替え
ることが必要でまた、可能かと思います。

 中長期的には里山のエネルギーの活用を真剣に検討すべき段階に来ているので
す。樹木も50年経てば炭酸ガスの収支がバランスしますので、一定樹齢以上の人
工林等は伐採して、若木を植林した方が炭酸ガスを多く吸収してくれます。里山
のエネルギー資源は、炭酸ガスを増やしません。樹木を固めてペレット化します
と、発熱量は薪、木炭より高く、熱効率の良い、またガスのように燃焼量を調整
できる質の高い燃料となるようです。EPRは5程度のようですね。

 私の提言は、次の通りです。
 ・里山周辺に木材活用工場を設け、その中に木質ペレット工場を作る。また
  それを推進する法的制度を整備する。その制度には生態系維持など自然との
  調和など総合的視点を盛り込み、植林と過剰伐採に至らぬ仕組みを義務付け
  する。
 ・木材工場に必要な資金は、民間・個人に出資を募る(定期金利0.1%の時代、
  海外投資などに預貯金が流れています)。
 ・生産される木材は、建築、木工品などに活用する。化石燃料に課税し、その
  収入をもって、木材が高くならないようにする。
 ・生産されるペレットは、石炭発電所などに一定価格で一定期間買い取りを義
  務付ける制度を設け、出資者への配当を保障できるようにする。一般の電力
  価格を少し上げれば回収できます。(もったいない学会天野 治氏のアイデ
  イア)。木質ガスの活用も考えられます。
  ドイツ等にある再生可能エネルギー法の日本版です。
 ・木質ペレットによる熱源は暖房だけでなく、給湯、調理等にも使える装置を
  開発、充実する。
 ・これら木材工場には、地元人の雇用を優先する。
 ・これらの雇用者には、農業も併せ営むよう義務づける。

 参考 木質ペレットの利用のトータルシステム
(もったいない学会EPR部会長天野 治氏)
  

 天野氏によれば、ペレット化の対象になるのは、間伐材、枝材等で、発生木材
の約1割とのことです。また、伐採→輸送→乾燥→ペレット化→輸送→工場、家
庭で消費のシステム作りは日本は全体的に遅れていますが、北海道網走郡美幌町
(びほろ)が一番進んでいるとのことです。

 政治家と行政の役割は制度を設け、推進することです。1400兆円もあると言わ
れる個人預貯金を投資に向かわせる仕組み創りを考えて欲しいものです。これら
投資は景気向上につながり、税収増も期待できます。子供手当、高校無償化など、
入るを図らず、出るばかりを主導する政治は、いずれそれらの恩恵に預かる世代
に将来、税金かインフレか、公共借金の棒引きというような形で負担を強いるこ
とになるでしょう。むしろ、エネルギー・環境産業を興して、育った子供が就職
できる社会を構築する方が、よほど未来に責任を持つ政治家の役割かと思います。

 木質ペレット工場を含む木材工場は、雇用を促進することになる可能性が大で
す。また農業の復興と地産地消にもつながりましょう。発生する灰は肥料に使え
ます。木質ペレットは石油、プロパンガスより当初は高価にならざるを得ません
が、技術開発が進み、一定買取などで大量生産が可能になれば、価格も下がり、
家庭で使えるレベルになると思います。但し、エネルギー高価格時代は覚悟する
必要があります。

 そして里山に人が近づき、入るようになれば、野生動物も減り、彼らによる食害
も少ないバランスの取れた社会が実現できると思います。例として滋賀県では2.6
万頭の鹿が生息し、適正頭数の3倍であるとか。鹿、猿、猪による食害は、相当深
刻な事態となっています(日野町有害鳥獣被害対策協議会)。 

 エネルギー源が減少し、価格が上昇すれば、全てに影響します。教育、福祉、
医療等もエネルギー無くしては、大幅にサービスダウンするしかありません。 
皆様いかかでしょう。
                            以上       

「地球に謙虚に運動」代表


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