3603.資本の波に洗われる予感



資本の波に洗われる予感
From: Eiichi Morino

こんにちは

歴史は繰り返すが、正確に繰り返すわけではないとは言いますが、
それは類似した現象を繰り返すことでもあるでしょう。

第一次大戦後のドイツのハイパーインフレをもたらしたマルクの売
り浴びせはすごいものでした。そうした市場の動きを誘った当時の
社民政権とライヒスバンクのハーフェンシュタインの姿勢と似たも
のをただ今の政府と中銀に感じとってしまうとしたら不幸なこと。

先般、ある席で、ソブリン・リスクをテーマ化した金融市場の次を
話題にする機会がありました。最近の欧米メディアによる日本国債
をPIIGSの次のテーマにしようとの意図を感じさせられる報道を見て
いると、昨年来、これからは日本国債で一儲けを仕込み終わってい
るとの投機筋のきな臭い噂もさもありなんと思わされるでしょう。

9割以上は内債であると強がっても、貯蓄率が落ちる一方では、こ
れからは内国的にファイナンスすることも難しくなるでしょう。
国内経済がこんなていたらくでは、それでも貯蓄は投資先のなさが
原因で自動的に国債購入に向かうでしようが、いつまでも続くもの
ではないでしょう。

ギリシャ危機であきらかなように、国家債務の増加率に対するGDPの
増加率(国家債務の限界生産性)の割合が、債務飽和のゼロレベル
を下回っている状態では(ギリシャの09年成長率、マイナス
2.0%、10年予測マイナス0.3%)、ユーロ圏諸国による融
資5%はまさに懲罰的、ギリシャ国債の利回りは6%台にまで跳ね
上がり、ようやくファイナンス先を見つけるという状態では、ユー
ロの危機は再燃するでしょう。

ギリシャの社会主義政権は、皮肉なことに構造政策の押しつけで民
営化、政府支出カットの新自由主義政策をとらざるを得ず、増税は
アングラ経済の比率を高め、政府はいっそう困難な状況に追い込ま
れるでしょう。

もうどの国も国家債務を増加させても、金利を負担して余りある経
済の成長を手に入れることはできない状況。

しかし我が国は、郵貯の限度額を引き上げ、カネを官が吸い上げる
構造をつくるようだ。ますます民間には資金は出回らない。中銀が
資金供給を増やしても貨幣乗数値は低迷したまま。金融機関におけ
る貸出、営業預金の回転率はおどろくほど低い。官は国債しか向か
う先がないようにしているからよいだろうが、民間経済は上向かな
い。クラウディングアウトかな。

しかし需給ギャップを言うことで、イージーマネーを正当化する。
供給サイドの設備過剰・人員過剰の分析もせずに、Mの量を増やせば
イノベーションが牽引する経済発展が起こるかのようなのんきな議
論が跋扈する。

こうしたのんきさは、こんにちの国際化した金融経済のなかでは
かならずターゲットにされる。

それでなくても、カネ余りの資源高。日本はインフレに油を注ぐの
かとの議論も欧米からくるようになった。

問題は、需要サイドでは過剰設備が更新され新規の投資需要を誘い
出す貨幣回転率の上昇につながる政策が必要なのだが、インフレ主
義者が跋扈する。

インフレが現金稼得に依存する勤労階級にもっとも打撃を与え、資
産保有者に褒美を出す現実を無視して、あたかもインフレ策しかリ
フレ策が課題とする現実への対処がないかのごとく議論する。

我が国が荒々しい投機という資本の波に洗われる予感のなか、マイ
ナス金利と貨幣購買力の安定をはかり、新たな投資誘因を生み出す
方向が必要と思いますね。

Eiichi Morino 
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Diaspora Grecque
2月中旬頃のギリシャの言い分である。国家債務でみても対外債務
でみても特段ギリシャが狙われなければならない理由にはならない。
しかし、投機筋のテーマとなってしまう。ギリシャ国債のドイツ国
債との利回り格差が人目を引くようになったころから、いけなかっ
たか。

必要な方は翻訳ソフトでも使ってお目通しを。

http://diaspora-grecque.com/modules/altern8news/print.php?storyid=2017

ユーロ成立のころ、マリオ・セッカレチアさんが、非最適通貨圏に
おける経済政策の諸問題を扱った論文を送ってきていたが、あらた
めて読み返すと、じつに予言的な研究になっていたなと思う。

機会をみて書庫にアップするつもり。

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B.リエター氏と会食の機会がありました
以下はリエター氏の話についての簡単なメモです。

* 現在の文明は工業化社会の考え方が基本にある。
* 例えば、
* フランスでは英国と対抗するべくナポレオンが義務教育の基礎を作った。
  その基本は以下のような国民を育てること:
   (1) 言われたことをやる。
   (2) 時間通りにやる。
   (3) 国家を誇りに思う。
   これにより農民が工場労働者に転換された。
# ちなみに転換期にある現在の米軍の教育は以下に移りつつあるそうです。
# (1) 創造的であれ。言われたことをするな。
# (2) いつやるかは関係ない。
# (3) 権威を盲信するな。
* 医療制度は、その維持のために、病気だが生きている人々を大量に生み出している。

* 文明に押し寄せる4つの波
   * 人口の高齢化
   * 気候変動、生物多様性の危機など
   * 情報技術の革新
   * 不安定になる通貨システム

* ビスマルクが65歳以上が受け取れる年金制度を作ったとき、
   人々の平均寿命は48歳だった。

* 経済の崩壊は、そのときにもっとも経済が発展している国で起こる。
   * 1990年代には日本で起きた。
* それは、経済の仕組み自体に問題があることを示している。

* どのような複雑なネットワークシステムも、以下のふたつのトレードオフの 
中にある。
   (1) 効率性
   (2) 復元力
* これらは、多様性と相互接続性の関数として現れる。
* 多様で相互接続の度合いが高いシステムは効率的ではないが、弾性があり復 
 元力に富む。
* 効率性を追求するシステムは、外部からの小さなきっかけで崩壊する。
* 復元力を追求するシステムは、内部のオーパヘッドのために停止する。
* 適度に多様であり相互接続されてきた生態系は、効率性と復元力のバランス 
 の中で生き残ってきた。

* ちなみにこの方程式は5次元のグラフになるが、
  リエター氏はそれをうまく視覚化したいと考えている (現在は2次元に押し 
 込めている)。
# というわけで gnuplot 等を使って視覚化のお手伝いをするかも知れません。

* 基本的にリエター氏は複雑システムの上のような性質を通貨システムに適用し、
   単一の通貨システムでなく多様な通貨システムを利用していくべきだと主張 
 している。
* そのため補完通貨と命名している。

* 通貨の多様性の卑近な例としてはマイレージシステムなどがある。
* これらの「忠心通貨(顧客を引き留めるための通貨)」の問題点は、
   それが馬鹿馬鹿しい領域だけに適用されていることにある。

* ナポレオン3世のころ、教育のための資源に比較して、
   教育を求めるこどもたちの数が多かった。
* そこで、1冊の教科書を5人の児童で共有させ、互いに教え合わせた。
* すると、
   (1) 高速に学びが進んだ。
   (2) 学ぶことが楽しくなってどんどん学んだ。
   (3) 権威を尊敬しなくなった。
* このことを応用した教育通貨を考えている (ポイントにより学びをゲーム化する)。

* Business-to-Business 通貨として、Commercial Credit Circuits (C3) 通貨がある。
   * 手形を保険にかける。
   * 保険がかけられた手形は支払いの手段として流通可能になる。
   * 受け取った企業は、(利息を負担しなければならないが)換金してもよいし、
     (利息を負担せずに)他への支払い手段として使ってもよい。
* ウルグアイとブラジルで使われている。
* ウルグアイでは税金の支払いに利用できる。

* 通貨が通用するという幻想を維持されているのは、
   最終的には税金の支払いに使わなければならないからである。

* 「持続可能な滋賀社会ビジョン」では、C3のような通貨の他、
   環境通貨「琵琶」というものが提案されている。
   * 市民は年間「100琵琶」を自治体に支払わなければならない。
     * この値は政策によりその年度ごとに決められる。
   * 「琵琶」は、環境によいことをしたときに、あらかじめ決められた額、入 
 手できる。
  * 例えば琵琶湖で外来種の魚を釣ったら何琵琶もらえる、
     去年より使用電力が減った月は何琵琶もらえる、等。
   * 市民は琵琶の取引をしてもよい。
   * 従って、誰がやるかに依らず、計画した分の環境貢献が市民により行われ 
   ることになる。
# 誰もがお金で「琵琶」を買うことを考えたら失敗しますが…。

* 中央銀行は何かを改善するためにあるのではなく、
   現行のシステムを維持・強化するためにあるのだと知らされた翌日、
   リエター氏は中央銀行を辞めた。

* お金のシステムは階層化された盲点により守られている。
* 「アカデミックなキャリアを追求したければ、お金のシステムには触るな」と
   MIT の教授に言われた。
* でもリエター氏は、水のことを知らない魚よりもトビウオでありたい。

* リエター氏は、エネルギー問題については文明に押し寄せる波のひとつだと 
 考えていて、
   それが根本にある問題だとは考えていない。

* 様々な通貨のプラットフォームとしての支払いシステムを
   オープンソースで作るプロジェクトとして Metacurrency がある。
   http://www.metacurrency.org/
# サーバが不要でセキュアなオープンソースシステムは自分も作っている 
(i-WAT のこと)
# と言ったら、一緒にやってみてくれと言われましたが、
# パッと見、Metacurrency はサーバが分散した口座管理システムのように見えます。
# 通貨のプラットフォームのあり方を彼らと議論することは重要と思います。

-Kenji



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