3588.大国政治の復活とリベラル民主主義の将来



英語表題「The Return of History」であるロバート・ケーガンの
講演会を聞いてきた。   Fより

この英語表題と日本語表題の違いを解く鍵が、フランシス福山の「
歴史の終焉」であり、その福山が言った歴史が終焉していないとい
う意味で、「歴史の復活」という英語表題になったようだ。

大国間での競争とイデオロギー論争が、歴史上ではいつの時代も起
こっている。世界観が違う大国同士は違う政治をすることになり、
世界の動向は、この大国の政治によりどうなるかが決まり、どのよ
うに秩序が保たれるのかが決まる。

この大国間の競争が今なくなっていると認識されているが、これと
同じような時代が歴史的にあった。20世紀始めで1910年から
第一次大戦前までである。

大国間の紛争が去ったとチャーチルまで言っていた。仏独を中心と
した欧州での大戦が30年間も無くなり、通信が発展して世界の距
離が短縮された。知識人の間では国際紛争は無くなり、グローバル
経済になったと評論されていた。

しかし、この後に人類史上、最悪な第一次大戦になるのである。グ
ローバル経済は、戦争を無くすというのは知識人の錯覚であった。

フランシス福山の「歴史の終焉」も同じで冷戦の終焉を受けて、大
国間競争は無くなったとした。
冷戦後のコンセンサスとして、1.大国間の競争がなくなり、2.
地政学から地経学へというように、国の力は経済にシフトしたとし
た。そして、グローバル経済になったと。

この当時、大国は米国一国になり、ソ連も潰れ、中国は天安門事件
で孤立化していた。まだ、この時代は中国も軍事大国ではなかった
し、経済もテイクオフしていなかった。日本もバブル崩壊後であり
経済的なスランプ状態であった。

ということで、米国としては楽観的になり、大国間競争は無くなっ
たと福山は書いたのである。世界はそれぞれ関係を持ち、大国間の
経済も関係が深くなるので紛争がそれで抑えられるとした。世界で
の心配は、テロ活動など非国家組織での活動になった。

ロシアは民主化されたが混乱に陥り、中国もいづれ民主化されると
いう認識ができた。経済面が成長し近代化されると民主化するとし
た。これは、中間層が豊かになると民主化の要求がでてくるという
ことである。このため、大国間の競争はなくなるとなった。

しかし、18世紀を見ると、大国間の競争は各所にあった。ロシア
、中国、インド、日本、米国、欧州などである。

しかし、現在はどうなったかというと、ロシアは経済的な見方だけ
ではない政治をしている。パンのみの政治ではない。

プライドや怒り、野心など人間が持っている感情を持って大国の政
治をしている。特に新興国家はこの感情的な政治が多い。

ロシアの政治は1990年の世界からの屈辱を晴らし、ロシアのプ
ライドを取り戻すことであり、それがプーチンがロシアを大国にす
る動機である。このため、ナショナリズム的な政治になる。

中国も19世紀後半から今まで屈辱を受けたと思っている。この屈
辱を晴らし、19世紀以前の世界の大国に復帰するという。

インドも数世紀の間、屈辱を受けてきた。この地域での大国を目指
すとしている。そして、この中国とインドは勢力圏がぶつかってい
る。このため、大国が競争することになる。

それがグルシアでの地域紛争になったし、台中海峡での紛争になる。

大国間の戦い・競争は起きている。共通の利益、貿易関係はある。
しかし、これだけでは安全とは言えない。

気候変動問題でも、先進諸国はインド・中国に対して経済的な成長
の制限を設ける圧力と捕らえて、抵抗している。イランの核不拡散
問題でもロシアと中国は抵抗している。

専制国家が民主国家群から圧力を受けていると捉えている。ロシア
と中国は専制国家の方が力があり、良いと考えている。ロシアは
1990年の民主化は悲惨であったと思っている。

経済成長で成功したとロシアと中国は認識し、また国民は生活水準
が上昇した。経済的な自由で、政治的には不自由という体制を多く
の国民が受け入れている。プーチンは明確にロシアの民主化は国を
弱くし、専制は国を強くすると言っている。

このような中で中ロも民主化にいつかなるという希望はダメである。
専制主義が相当長期につづき、強く生き残ることになる。

このような中ロの大国が中小国に影響することになる。ファシズム
が戦前、力があり、戦後共産主義のモデルがよいとなり、多くの国
が共産主義になった様にである。

このため、中国の専制主義モデルが良いとなると、真似して増加す
ることになる。

そして、2つの専制主義国家(中国、ロシア)はオレンジ民主革命
を問題視する。ロシアの封じ込めとみなし、CIAや西側の資金が
入ったと騒ぐことになる。

ベネズエラはイラン、ロシア、中国と結び、専制国家は集まって、
自国の安全を保持しようとする。専制主義大国は専制国家を民主国
家から守ることになる。

このように専制国家と民主国家の対立が起きている。しかし、見逃
されている。このため、民主国家はこのままでよいという安心感を
持ってはいけない。民主国家は連帯を強めることが必要である。
それが弱い民主国家を支えることになる。

冷戦以後弱まっている同盟関係を強めることが重要であり、地政学
を復活させること、これは取りも直さず「歴史の復活」である。

米国を中心としてはバランスオブパワーを復活させて、専制国との
間で力の均衡を再度構築することである。

Q(中山先生):ケーガンさんの最近のコラムを読んだが、オバマ
  政権の評価が揺れているように感じるがどうでしょうか?
A:オバマ政権に外交観がないと思っている。アメリカの「国益」
  は選挙の前と後でも同じである。現実は変化していない。

Q(中山先生):米国の米中関係が日本との同盟関係を弱めている
  ように感じるがどうですか?
A:世界の対するアプローチが冷戦的な物から脱却る方向であり、
  大国間の関係を重要視している。このため、中国との関係を強化
  した。新政権間の基地関係は同盟関係をリセットした。

Q(奥山):ケーガン先生はネオコンと呼ばれているが、それにつ
      いてどう思うか?
A:そのラベルを拒否している。自分の外交政策は伝統的な物であ
  る。よって私の考え方は新しいという意味の「ネオ」でもないし
  、「コンサヴァティヴ」という保守ではなく「リベラル」なのだ。
  民主主義が根幹であり、パワーが必要であると見る。

Q(奥山):ケーガン先生の家庭は父上が知識人で弟も安全保障の
      知識人、その奥さんも有名な評論家などで知的なある
      が、家庭内ではどんな話をしているのですか?
A:ベースボールの話だけ

Q:中国の専制主義は過去30年で徐々に努力して弱まっていると
  見るがどうか?
A:40年前と今では、中国は前進している。しかし、野党を認め
  ないとか、言論の自由を押さえているなど、第4世代のリーダにな
  ったら、民主化すると言っていたが、現在民主化を押さえ込んで
  いる。反乱分子に対しても厳しく、前の政権より後戻りしている。

Q(インド人):民主国家でも政治家を信用しないことがあるが?
A:国民が政治家を信用しないのは昔から。では他の政治的な制度
  にするかというと、民主政治以外にはできない。

Q:専制国家の拡大で、米国は影響力をなくすのか?
A:レトリックが勝っている。中国の経済の影響力は大きくなる。
  民主党は韓国などとのFTAを進めない。軍事力+軍事同盟を推
  進することが重要である。周辺国家は中国のコントロールを受け
  たいと思っていない。このため、米国の軍事プレゼンスを望んで
  いる。

Q:インドの役割はどうですか?
A:インドは民主国家であるが、ミャンマーを支持している。イン
 ドのアイデンティティが非同盟にするこか民主大国にするのか揺
 れている。インドやブラジルの経済発展は有利になり、中国の経
 済発展は不利になると見る。

Q(高畑):米国は内向きになっていると見るがどうか?
A:孤立主義ではなく国際主義になっている。内向きではない。
 911は政治的に影響している。脅威があると米国民は感じてい
 る。このため、ロン・ポールなど孤立主義者は1%しか得ること
 ができない。

Q(中国大使館員):学者としての立場から意見したい。ケーガン
 先生の民主国家対専制国家という考えは世界を見る時に白黒とい
 うブッシュ政権の外交と同じように感じる。世界はもう少し、複
 雑である。
A:世界は複雑であるが、単純化して言っているだけ。この考えは
 リアリズムの考えである。専制と民主ではリーダの考えが違う。
 経済論理だけで政治を見るのは間違えであり、いろいろな側面か
 ら決まるのである。

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ロバート・ケーガン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ロバート・ケーガン(Robert Kagan、1958年9月26日-)は、アメリ
カ合衆国の政治評論家。ネオコンの代表的論者。

 略歴・人物
アテネ生まれ。イェール大学卒業後、ハーヴァード大学ケネディス
クールで修士号、アメリカン大学で博士号取得。アメリカ国務省米
州局勤務を経て、カーネギー国際平和財団研究員を務める。また保
守系シンクタンクのアメリカ新世紀プロジェクトの共同発起人。

2002年に『ポリシー・レビュー』誌に発表した論文「力と弱さ」の
中で、冷戦後の世界において軍事力を重視するアメリカ人と、それ
をほとんど考慮しようとしないヨーロッパ人の世界観が「火星人と
金星人」ほど異なってしまっていると論じ、もはやアメリカはヨー
ロッパに何事も期待していないと米欧関係の変化を結論したことで
、政治的にも大きな議論を巻き起こし、ネオコンの論客として一躍
脚光を浴びることとなった。2008年のアメリカ大統領選挙では共和
党大統領候補であるジョン・マケインの外交政策顧問を務めた。

父はイェール大学名誉教授、古代ギリシア史研究者のドナルド・ケ
ーガン。
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【笹川平和財団主催講演会のご案内】
“The Return of History”
- 大国政治の復活とリベラル民主主義の将来-('10.3.30開催)
笹川平和財団では、カーネギー平和財団上席研究員を務めるロバー
ト・ケーガン(Robert Kagan)氏をお迎えし、標記の演題で講演会を
開催いたします。ケーガン氏の著書『ネオコンの論理―アメリカ新
保守主義の世界戦略(邦訳)』は世界で多くの議論を巻き起こしま
した。また、先のアメリカ大統領選挙においては、マケイン共和党
大統領候補のブレーンとして活躍されました。

同氏は、現代の国際秩序は冷戦終結時の多くの予測と異なり、19世
紀や20世紀前半を彷彿とさせる大国間の地政学的な競争と乖離に彩
られていると論じます。それゆえ、ロシアや中国の成長によってリ
ベラル民主主義が守勢に立たされているなかで、大国政治の復活を
認識し、民主主義諸国が結束することが必要であると説いています。

新興国の台頭が世界経済において注目されている一方で、大国間で
の競争はユーラシア大陸にとどまらず、インド洋や北極海、アフリ
カへと広がり、新たな次元に入っています。国際秩序の将来はいか
なるものであるのか、日米関係が果たす役割はどこにあるのか、ケ
ーガン氏から広い見地でお話しいただく予定です。多くの皆様のご
参加をお待ちしております。


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