3571.インド洋をめぐる地政学



3月12日にロバート・カプラン氏の講演会を聞きに行った。その
報告である。       Fより

アジア、特に中国とインドの軍が飛躍的に近代化して、インド海軍
は世界第3位の軍事力になるし、中国は世界第2位の軍事大国になっ
ている。日本の軍事費もGDPの1%であるが、123隻の艦艇を
持ち、英国の艦艇はここ20年で42隻から29隻に減少したこと
を考えると、軍事能力は大きい。このようにアジアの軍事力は増大
している。

経済能力が向上して、それに伴い軍事能力も増大しているのが分か
り、先端技術を軍近代化にどんどん採用している。このようなこと
で、軍事大国は欧州からアジアにシフトしている。欧州諸国では、
軍人も公務員と見なしているが、中国などアジアは軍人に対して尊
敬の念がある。ここも違うところである。

米海軍は今までは大西洋と太平洋の2洋に展開していたが、今後は
太平洋とインド洋に展開する方向でシフトしている。ロシアも味方
になり大西洋には、大きな脅威が無くなっている。

このため、環ユーラシア大陸の海の重要性が増してくる。この海と
はアフリカから日本海までの海である。このため、インド洋に米軍
はフォーカスすることになる。

インド洋はイスラム教の弧でもある。このインド洋では昔からアラ
ブ商人が行き来していた。また、中国人がアフリカまで行っている。
これができたのはモンスーン風で6ケ月毎に変化するためで、帆船
はそれを利用していた。

砂漠のアラブ人と海の商人のアラブ人では性格が違う。剣でイスラ
ム教を広げたというが、商人の力でイスラム教を広げた方が大きい。
このため、アジア全域に貿易していたことでイスラム教は広まった。
商人は自由で開放的であり、イスラム教の性格もアラビアとアジア
では大きく違う。

そのインド洋で新興国である中国とインドは10億人という巨大な
国で、ライバルとして拮抗することになる。中国は南方展開しイン
ドは水平展開する。中国海軍は西太平洋に広がり、南方に展開し、
インド洋に向かうことになる。

中国はインド洋沿岸諸国であるビルマ、スリランカ、パキスタンの
港湾に投資している。軍事基地をインド洋に作る布石であるようだ。
中国・鄭和の道は現代の石油やLNGのシーレーンである。このた
め、インド洋は中国の勢力圏にしようとしていることと、中国のパ
ワーは平和的でもあるという微妙なものである。

インドは水平的な拡大をしている。1895年英国のインド総督カ
ーソンのイランからビルマまでの拡大戦略をインドは取り始めてい
る。このため、当時英国はカルカッタ(コルタカ)に拠点を置いた。

このようにインドと中国は勢力圏構想でオーバーラップしている。
中国はグワダルに海軍基地を設けているし、モザンビークにも海軍
基地を作っている。インドは圏内のモンロー・ドクトリンを取り、
インド洋での権力の確立を目指す。

インド軍はパキスタン、ネパール、バングラデシュなどの破綻しそ
うな国家周辺に張り付いている。これに対して中国は中央アジアも
平穏であり、ロシアとの関係も平穏である。後背地が平穏であるの
で、余裕が出来、海に乗り出してきた。

しかし、中国海軍は日本、台湾、韓国などの米軍に阻まれて、フラ
ストレーションが大きい。このため、最新技術を駆使して米海軍を
抑止しようとする。そして、バランスを取る。それと、中国軍は、
まだ大きな海全体を支配できない。このため、米海軍にシーレーン
防衛を依存することになる。

シーレーンのボトルネックはマラッカ海峡であり、中国は複数の代
替案を検討している。ミャンマーの港からパイプラインを建設する
ことや、マレーシアの地峡に運河を作ることでバンガル湾と西太平
洋を繋げることになる。

スリランカの重要性が増している。地政学上でも重要なポイントで
ある。欧州諸国の支援停止で中国が単独で支援した。この支援で
T55戦車、AK57など大量の武器を供与したことで、タミール
族との戦争に勝利した。この見返りとしてスリランカ南部ハンバン
トタに港湾施設を建設している。

スパイクマンは非民主国がユーラシア大陸を支配することに懸念を
表明していた。これを同じ構図が出現している。このため、平和的
・暗示的な日米豪韓のカウンター対中国のバランスが出来つつある。

多極的な世界、グレートパワーがない世界は不安定になる。米軍の
艦艇は600隻から350隻になり、オバマ政権では250隻に減
少する。軍事力は欧米からアジアにシフトしている。
米海軍の能力が削減したことで、環ユーラシア大陸への支配を目指
さない軍事力となっている。

救済の軍事化が進行している。津波や台風など巨大災害が世界で頻
発している。この救済に空母は大きな力を発揮する。
もう1つ、北朝鮮の崩壊へ向けての準備をしていくことである。人
道的な支援が必要であり、米軍が介入する必要になる。

質問.日印米豪は戦略的な協定を必要としているのではないか?
答.多くの国で中国が最大貿易相手国となり、暗示的な協定にする
  必要がある。インドネシアの軍人と話したら、中国へのヘッジ
  として米軍に来てほしいと言われた。インドも非同盟諸国であ
  り、米国との関係に気を使っている。原子力協定などで垣間見
  える。

質問.アフガン戦争をどう中国は見ているのか?
答.アフガン戦争を中国は了解している。パキスタンの安定が中国
  とっても重要であり、その意味では共同的である。

質問.米政府の中では地政学はどう使われているのか?
答.米政府はいろいろなことの検討が必要で、地政学を使っていな
  い、根付いていない。

質問.中国のロビー活動はどうか?
答.中国に対する政策は米政府は歴代で統一的である。今後もそう
  なるので、影響力は限られる。

質問.インドと中国の正常化が進んでいるがそれはどうしてか?
答.国境正常化交渉は、競争激化の裏返しである。中国がインド洋
  に出てくると、インドは東シナ海に出てくる。貿易関係は大きい。

質問.米海軍基地のディアゴガルシアはどうなるのか?
答.2016年まで英国から借用している。おそらく、その後も借
  用出来ると見ている。アフガン戦争に大きな力を発揮している。
  ここから、爆撃機が発進している。もう1つがスリランカの中
  国軍監視ができる。インドは非同盟であり、米国に基地を貸さ
  ない。インドとは暗示的な同盟しか出来ない。

質問.中国の意図はなにか?
答.中国には戦略がないかできていない。このため、動機が変化す
  る。余裕・能力があるので行っている。手探りで進んでいる。
  やっていることは島国と友好関係を築くことと、その国で港湾
  施設を建設することである。

質問.(中国大使館員)スリランカでの中国が行っていることに間
  違た印象を与える危険がある。
答.軍事基地ではない。アクセスを担保することであろう。
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ロバート・カプラン(Robert D. Kaplan、1952年6月23日-)は、ア
メリカ合衆国のジャーナリスト。『アトランティック・マンスリー
』記者。

ニューヨークのユダヤ系の家庭に生まれる。1973年、コネチカット
大学卒業。バーモント州の地方紙『ラトランド・ヘラルド』記者を
経た後、チュニジア、イスラエル、東ヨーロッパ、中東、ポルトガ
ル、ギリシャなど世界各地を渡り歩き、1980年代に入り、イラン・
イラク戦争やアフガニスタン戦争、アフリカの飢餓などを取材し、
次第にフリーランスの国際ジャーナリストとしての地位を築いてい
く。またバルカン地域を題材にした『バルカンの亡霊たち』や、人
口増加・都市化などによる途上国地域の統治の弱体化や先進諸国へ
の安全保障上の脅威を描いた『アナーキーの到来』は、冷戦終焉後
の秩序変動期に会った世界の混沌を描写し、当時のアメリカの外交
政策的な関心と共鳴し、幅広い読者を獲得した。
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(Fのコメント)
p0066有料版、3512.地政学から見た将来と同じことをカ
プラン氏の講演は述べている。このコラムを見てください。


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